21、タナトス現る
前回から随分経っての投稿になってしまいました。しかも中途半端に短いですが、読んで下さると嬉しいです。
何者かの手によって殺害されたタナトスから、小瓶には到底入らない量の創造の粉が発生し、辺りに吹きすさぶ。素となった『ウッダー』の肉体すらも、創造の粉に変換された、ということだろうか。
それは砂嵐のごとく周囲を覆う。
──だがそれも少しの間。
突如、粉の嵐が一瞬にして吹き飛ばされた。そこはもはやタナトスがいた面影すらない。タナトスがいた事実を表すのは、折れた木々の様相と、めくれあがった地面くらいのものだろう。
だが、一つ明らかに変わった部分がある。
まさにタナトスが倒れていた場所。そこに、タナトスを殺害した『何者』かが立っていた。
その何者かは、一歩で六、七十メートルの距離を跳躍し、星とカノンのいる場所の少し前方に着地した。
それはウッダーぐらいの歳の──二十歳ぐらいの──男だった。
赤い髪を逆立て、前側が開いた漆黒のマントを羽織っている。
それは、今さっき消滅したタナトス──ウッダーが言っていた、彼に創造の粉を渡した人物の様相に一致する。
「っ!?」
星はその男の威圧感に、思わず息を飲んだ。
そしてカノンは──、
「!? ぁ、あぁぁぁ……」
その場に力なく膝を着いた。そして、信じられないものでも見るような顔で男を見て──怯えていた。
男はそんなカノンを見つつ、怪訝な表情で口を開く。
「お前は……。ああ! あの時の娘か!」
──あの時。それは、カノンにとって忌まわしく、悲しい出来事が起こった日のこと。
そして、彼女が燃え盛る村に戻った時、槍を手に立っていた男。それが今二人の前に悠々と立つ、この男だった。
彼は、余裕の表れか、ポケットに手を突っ込みながら話し出す。
「まさか、ちょうど大賢者が現れるとは思ってもいなかったので退散させてもらったがな」
星はただ、この男を睨み付けることしかできない。戦って勝てるような相手ではないのは、彼自身が一番よく分かっている筈だ。
カノンは、震える指を必死に動かして剣を抜こうとするが、いつもの彼女らしくもなく、それすらもままならない。彼女にとって『あの出来事』はとても悲しく、怖かった。その原因の男がこうしていきなり現れたのだ。いくら強いカノンでも、一人の人間だ。震えおののくな、という方が無理な話であろう。
「まあ、殺そうと思えばいつでも殺せたのだがな」
男は、興味をなくしたようにカノンから視線を星に向けた。
「で、お前は? この娘と共にいるということは、ただの人間ではないよなぁ?」
「俺は、彼女の、カノンの仲間だっ!」
男の眼光に臆していない、と言えば嘘になるが、虚勢でもいい、今は自分がカノンを守る番だ。
「ほぉ、そうか」
男はただそれだけ言う。その目は、星を称えているようにも見えるし、侮蔑しているようにも見える。だが、その目は確実に狂気を帯びていた。
「俺はタナトス。さっき死んだ『タナトス』の本物だ」
いきなり名乗りだす男――タナトス。
「奴には、『タナトス』という名を世に広めてもらいたくてね。この世界の新しい王になる俺の名を」
そこで星は、一つの疑問を持った。
(この世界の新しい王? それじゃあ、世界は滅ぶんじゃなくて、コイツがウェリアル全体を統治するってことか? だったら、世界を滅ぼそうとする奴が他にいるってことか?)
「ここには、木こりを殺しに来ただけだったが……ちょうどいい、お前らも殺してやろう」
タナトスが言う。
激しい動揺からか、とても戦えそうにないカノン。そして、そもそもの実力が低い星。だが、
「俺が相手になってやる!」
無謀に決まっているが、星の口からはそんな言葉が出ていた。直ぐに頭が、『逃げろ』と警鐘を鳴らす。死ぬ。あんな奴に勝てる筈ない。しかし、
「今度は、俺がカノンを守る番だ」
そして、カノンに向かって笑い掛ける。それは苦し紛れの笑みだと、誰でも分かるだろう。
今までの敵は、全てカノンに任せっきりだった。彼も何かしようとはしたが、できなかった。当たり前と言えば当たり前だが、女の子が戦っている後ろで怯えながら突っ立っている男子、というのも情けない。
だから、カノンが戦えない今は自分が戦うしかない。例え勝てる見込みがなくても。
「いい度胸だ、とでも言っておこうか」
余裕綽々のタナトス。
「星君っ、やめて! 死んじゃうわ!」
カノンは必死の形相で星に向かって叫ぶ。その声を背に、星はタナトスへと駆ける。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
今回は、カノンの故郷で槍を持って突っ立っていた怪しい人、タナトスが登場しました。そのタナトスに向かって突っ込む星。彼は一体どうなってしまうのか!?
それでは