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18、雷光の剣姫

 現在の時刻は、四時三分。星とカノンが部屋を飛び出してから五分と経っていなかった。

 その短時間でゴーレムは崩壊し、ダレッタにはいつもの活気が戻る、筈だった。

 しかし。

 遥か上空に浮遊する男が現れ、不敵な笑みを浮かべるのだった。

「まずは名乗っておくか。俺様はタナトス。この世界を破滅に導く者だ」

 タナトスと名乗る男はただ一点を見て言う。

 カノンだ。

『破滅』という単語に恐れおののく民衆を背に、カノン、そして星は男の方を睨むように見ていた。

「フフフハハハハハッ! いい目だ。殺しがいがあるというものだな」

 狂喜に満ちた目で二人、いやカノンを見返すタナトス。最初から星など見ていないということか。

「だが、俺様自らが手を下すまでもあるまい」

 と言って懐から何かの瓶を取り出した。そこに入っているのは黒い粉。

「っ!? それは……っ」

「そうだっ! これは創造の粉。全てのモンスターの源だ!」

 愉悦に浸ったように叫ぶタナトス。そのまま続ける。

「そしてこれは応用も効く。例えば、俺様のこの翼。部分的に物質を『創造』することさえできるのだ。更にっ! 創造の粉は造り出されるものが粉の量に比例する。つまり、多量の粉を使えばそれだけ強力なモノを造り出せるということだっ!」

 わざわざ創造の粉の説明を狂ったようにするタナトス。それは余裕の表れか、それともただの馬鹿か。おそらく前者と後者の両方だろう。

「俺様が何を言いたいか分かるか?」

 いちいちニヤニヤしながらカノンに尋ねる。彼女は黙ったままだ。

「ふん、まあいいだろう。教えてやる。俺様はこの粉を大量に使ってある生き物を造り出し、この町を破壊する。どうだ! フフハハハハハハハハハハハッ!」

 狂った笑いと共に小瓶いっぱいに入っている量の半分程の粉をばらまき、何かを口にする。

 すると、空中に漂う黒い粉が何かを形作っていく。

 次第にハッキリと、ある生き物を形作った黒い粉は、もはや元がそれだとは誰も気づかないであろう。

 ある生き物。

 全長は三十メートル程もあり、各パーツはその大きさに見合うだけのモノだ。

 鞭のようにしなる尻尾。鋼のような硬質な爪。強靭な手足。獲物を一瞬で噛み殺してしまうであろう、鋭い牙。空を覆う巨大な翼は、羽ばたくだけで強風を発生させる。身体全体には漆黒の鱗がびっしりと生え、明けの空との対比がその不気味さを増している。

「どうだっ! これぞ究極のモンスター、ドラゴンだ!」

「グオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 タナトスの叫びに呼応するように雄叫びをあげる漆黒のドラゴン。

 そしてタナトスは一切の躊躇もなくドラゴンに命令する。

「さあっ! この町を焼き尽くせ!」

 それを聞いた民衆および一般人は、死の恐怖から我先にと逃げ出す。それこそゴーレムの比ではない。何せ、今造り出された漆黒のドラゴンは、ただでさえ巨大だったゴーレムの何倍にも値する。

 なので民衆の慌てようも可笑しくはない。だが、単体で天災に匹敵するであろうドラゴンはそれらの人々を嘲笑うかのようにおぞましい雄叫びをあげる。

「グオオオオオオオッ!」

 それを皮切りに、漆黒のドラゴンは不気味な姿態を下に向け、高空から猛然と突っ込んできた。そして上空十メートル程の位置で急停止すると、首を目一杯後ろに曲げて、深呼吸よろしく多分に空気を吸い込んだ。

 次にはもう大きく口を開け、黒い――霧、或るいは炎とも呼べそうなものを吐き出した。

 それと同時、いや、少し早く。

 顔面蒼白だが必至に恐怖に耐えている星を横目に、カノンは跳んだ。その身体全体に何か光る輝きを纏って。

 そして、ダレッタの人々を抹殺すべく迫りくる黒炎に向かい、光纏いし剣を振るった。

「はあああああああぁぁぁぁっ!」

 すると、斬った軌跡を辿るように光の筋が浮かび上がる。その、バチバチと音を立てる光は黒炎を切り裂き、辺りに吹き散らせ、消し飛ばした。

「なっ!? 何だとっ!?」

 目を見開いて驚きを露わにするタナトス。次に焦りの表情を見せながら叫びだした。

「くっ。や、やれっ! ドラゴンっ! あの女を殺せっ!」

 漆黒のドラゴンは、グオオオオッ、と啼くと、カノンに向かってその場から大木のような尻尾を叩きつけた。素が粉とは思えない速さ、力強さだ。

 しかしカノンは一瞬でドラゴンの上へと跳び、地を砕く前の尻尾を根本から斬り落とした。その間僅か一秒にも満たない。

 斬り落とされた尻尾は創造の粉に戻り、どこかに飛んでいった。

「グギャオオオオアアアアアアアアアアッッッッ!」

 と悲鳴にも似た叫びをあげるドラゴン。

「…………」

 カノンはエメラルド色の瞳を漆黒のドラゴン、そしてタナトスに向け、立っている。身体と剣に光を纏って。

 ドラゴンは、怒りに任せてカノンへと凄い勢いで突っ込んだ。ただ噛み殺すために。

 しかしカノンは動かない。

 そしてドラゴンの鋭い牙がカノンに達す……いや、達しない。

 その直前にドラゴンの身体をあちこちから輝く光が貫いたからだ。

「あれは……雷っ!?」

 星が叫ぶ。

 そう。ドラゴンの身体をことごとく貫いた光、そしてカノンがその身に纏う光の正体は、雷、或るいは雷光だ。

 ドラゴンが消滅する。吹き荒れる創造の粉の中、タナトスは呻き声をあげる。

「きっ、貴様! あの剣捌き、速さ、雷……まさか、『雷光の剣姫』か!?」

 その口調からは、始めのような余裕、侮蔑が全く感じられない。

 カノンはその言葉を無視し、逆に質問する。もはや場を支配しているのはタナトスなどではなかった。

「あなたの目的は何? 創造の粉の正体は?」

「きっ、貴様ごときに教えるかっ!」

 虚勢を張るタナトス。実際に弱ければいいのだが……。

「そ、そうだ。ここで雷光の剣姫を殺しておけば、俺様の名もあがる」

 いくら虚勢を張っているからと言って、実際にそこまで弱い筈がない。現に初めは余裕綽々な態度だった。それが崩れたのは紛れもなくカノンを──カノンの強さを──目の当たりにしてからだ。

「私怨はないが……いや、そんなことは関係ないか。もともと皆殺しにするつもりだったんだ。殺してやるよぉっ! 雷光の剣姫っ!」

 タナトスは相変わらず狂ったように叫ぶ。そして、何を思ったか持っている小瓶の中身――創造の粉――全てを一気に飲み干した。

「グ、オ、アァァァ……グワアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!」

 悲鳴をあげつつ、タナトスの身体は素が人間だとは思えないぐらいの変貌を遂げてゆく。

 筋肉は膨張し服を破り、獣のような毛が身体中を覆う。蝙蝠のような翼は更に広がり、片翼で五メートル程になる。歯は鋭く尖り、頭からは二本に角が生えている。まさに怪物と呼ぶに相応しい。

「力が満ちていくぞ……フハハハッ、ハ、ハハ、フフフハハハハハハハハハハハハハハ! 早速っ! 殺してやるっ!」

 喋り終える前にカノンの後ろに現れる。高空から。

 そのまま太い腕でカノンに殴りかかる。

「速――」

 星が言い終わる前に巨大な拳がカノンに届き――

 彼女は後ろを向いたまま、それを片手で受け止めた。顔色一つ変えずに。

「なっ!?」

 と言って素早く後ずさるタナトス。そして上空に逃げようとした。が、飛ぶことはできなかった。

 辺りには黒い粉が舞っている。それは翼の残骸。素。

 タナトスが後ずさっている間に、カノンが斬り落としたのだ。ついでに角も根本から斬られている。

「グッ、き、貴様ァァァァァァァァァァ!」

 怒り、再び常人には見えないレベルで拳を振るうタナトス。だがもうそこにはカノンの姿はなかった。刹那の間にタナトスの背後に移動したのだ。

「これで終わりよ」

 終わりの宣告。

 そしてカノンは、タナトスの首筋に剣の柄尻を軽く当てる。

「は?」

 と呆然したのもつかの間。

 強力なスタンガンのように、超高圧電流がタナトスの全身を駆け巡る。

「グワワワワワワワワワワワワワワワワワワ」

 堪らず気絶する。同時に身体中から粉が吹き荒れ、素の青年の姿に戻る。


 こうして、本来は非常に強力であろう敵タナトスは、カノンの圧倒的な力によって呆気なく倒されたのであった。

雷光の剣姫、と書いて『らいこうのけんひ』と読みます。『けんひめ』じゃないですよ


今回の話はなかなか無理があったかなぁ、って感じです。タナトスの噛ませ犬っぷりが半端ない……。

それでは

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