16、少年と少女
携帯電話とパソコンの両方で執筆したので、変な改行等あると思いますが、これ以降スルーして頂ければ幸いです。
何か話すということもせず市に向かって歩く星とカノン。
互いにちら見しては目が合い、逸らす、という動作を繰り返す。
市に着くと、とりあえず食料を売っている店に行き、旅路に備えて少し多めに携帯用簡易食料を買っておく。
再び宿に戻ろうとすると、星が意を決したように口を開いた。
「他にも何か見に行かないか? いや、行きたいんだ。カノンと」
それにカノンは面食らったような表情を浮かべたが、直ぐに微笑んで言った。
「うん!」
そして、二人の間に流れる空気が和やかなものになった。二人共この雰囲気を望んでいたので、喜んで和やかムードを歓迎する。
星は日本にいた頃、女子とはあまり縁がなかった。無論年頃の少年故、全く女子に興味がなかった訳ではない。
友達との何気ない会話ではよく女の子についての話題が出て、その度に赤くなりながら聞いていた。
ゲームの主人公で性別を選べるものは、時々は女性を選んだ。
しかし何と言っても現実の女性との交流があまりなかった。故に、星にとって最も側にいるのが長い女性──家族や親戚を除く──、それがカノンなのである。
それはさておき、二人は食料品店の他にも色々な店を見て回った。
花屋、本屋などの普通の店から、ダレッタならではの石像店、旅人御用達の道具屋などの店を見て回るのに一時間程掛け、星はとある店を見つけた。
カノンに「ちょっと待っててくれ」と言ってその店の方に駆けていった。
彼は少し店を眺めていたが、直ぐに何かを買って戻ってきた。
「ごめん、待たせた」
「ううん、気にしないで。ところで、何を買ったの?」
「カノン、手を出してくれないか」
直接的には答えず、どこか遠回しとも言える返答をする。
「?」と思いながらも利き手である右手を星の方に差し出すカノン。
今二人がいる場所はアーケード内では珍しく、ちょうど死角となり、他の人からは見えない。
少し遠くに相変わらずのアーケード内の喧騒を聞きながら、今さっき買ったものを取り出した。
指輪。
星はその、天使か何かの羽を象った指輪を、そっとカノンの右手、その中指に嵌めた。
カノンの顔を窺う星。彼とて女の子にプレゼントを贈るのは初めてだ。緊張の波が身体中を駆け巡る。
「これ……私に?」
「ああ。嫌だったか?」
不安気に尋ねる星。
「嬉しい……ありがとう、星君」
肩を小刻みに震わせながらお礼を述べるカノン。その目には涙が浮かんでいた。
「人からプレゼントをもらうのなんて、本当に久しぶりで……」
星はそんなカノンを温かな眼差しで見つめつつも、彼女の境遇を思い出し、胸が傷んだ。
(この娘は自分の故郷を焼かれ、そこに住む人達を殺された。そして、ずっとその悲劇を背負って生きてきたんだ)
虚偽の同情は逆に相手を傷つける。なので星は当たり障りのないように配慮しながらカノンに尋ねた。
「最後にプレゼントをもらったのって、もしかして……」
「たぶん星君が思ってる通り。ディオネにもらったの。この剣を」
そう言って腰に差す自身の剣を指し示す。
少なくない傷が長く使っていることを示すが、十分に手入れされているのでまだまだ綺麗な鞘に収められているのは、刀身の長さが一メートル程で、片手でも両手でも扱えそうな両刃剣だ。種類としてはロングソードの部類に入る。特徴をと言われれば、やはり柄に嵌まった宝石だろう。以前訪れた草原のような美しい黄緑色に、閃く雷のような黄色が混ざった、透き通るような宝石だ。カノンが持つことで更にその美しさを増している。
おそらく彼女は、この剣を手に幾多のモンスターを斬ってきたのだろう。
「剣を振っている時は何も考えなくてよかった。だから私は全てを失った当時、ひたすらに剣術を身につけていったわ」
何も考えずに剣を振るい続ける。そうすればやり場のない悲しみを忘れられる。
「でも、ディオネに教わった。そんなことでは強くなれない、って」
理不尽で辛くて悲しい現実から逃げてばかりでは到底強くなることはできない。一流の剣士というのは、相手を気迫で倒せるくらい、そして相手の気迫にやられないくらい強い心を持ち合わせているものだ。それは時として剣それ自体の腕さえも凌駕する。
「そして悲しみを乗り越え、心身共に強くなったのか」
皮肉や嘲笑を一切含まない、心からの尊敬を込めて星が言った。
こんな世界のことなど全く考えたこともなく、のんびりと平和に暮らしてきた星は、カノンの強さを超えることは到底できない、そう思った。
「そんなことないわよ。ディオネには全然敵わないし」
謙遜気味に言うカノン。だが、比べる対象がウェリアルで三人しかいない大賢者の一人である時点で彼女の実力の高さがうかがい知れる。
そして一転、誰もが思わず振り返ってしまいそうな至高の微笑みを見せる。
「本当にありがとう。大事にするね」
あえて返事はしなかった。
その代わりにカノンに負けないくらいの笑みを返す。それで十分だった。
そして二人はダレッタ宿舎へと戻った。
◇
カウンターに立つお節介なおばさんに部屋の鍵を受け取り、食堂に行って夕食を済ませる。そして次に大浴場でそれぞれ身体を洗い流し、部屋に戻る。髪を乾かしがてら、星がゲームについて語り、カノンが表情豊かにそれを聞いていた。
そしてその時はやってきた。
「じゃあ……もうそろそろ、寝るか?」
「え、ええ。そう、ね。ほとんど歩きっぱなしで疲れてるだろうし」
ベッドは一つ。選択肢は三つ。
二人で一緒にベッドで寝る。
どちらかがベッドで寝て、どちらかが床で寝る。
二人共床で寝る。
最初の選択肢、つまり一緒に寝ると決まっていた筈だったのだが、やはり思春期の男女が一緒に寝るのは恥ずかしい。
先に星が布団に入る。
(こんなイベント滅多に経験できないんだ。ましてやカノンみたいな可愛い娘となんて)
そして彼は決する。
「じゃあ、カノンさえ良ければ、入ってくれ」
「う、うん」
恥ずかしそうに頷くカノン。そして星がいる布団に入った。
元はと言えば二人が一緒に寝ることになったのはカノンの意見だ。言った本人が渋っていては意味がない──訳ではないが、基本真面目な彼女だ。言ったことはやろう、と考えたのだろう。
いや、それは間違いかもしれない。
なぜなら彼女は自分から共に寝ることを望んだのだ。幾らかの羞恥心はあっても、嫌な筈はないだろう。
ところで、星はベッド上の布団に入ったら、入った側に顔を向け、横になった。カノンは入ったのとは反対側──彼女は星と同じ側から入った──、つまり星と向かい合うように顔を向け、横になった。
寝るために電気を消したこの部屋でも、ここまで密着すれば相手の顔が窺える。
(ヤバい。女の子特有の良い匂いが……)
なので、カノンの良い匂いも間近で感じられる訳で。
「お、お休み、カノン」
必死に興奮を抑え、就寝の挨拶をする。
「お休みなさい、星君」
カノンもそれに返す形で挨拶をする。平然に言っているようだが、その実は八割の嬉しさと二割の羞恥心が混ざったような感じだった。
久方ぶりの大切な人の温もりだから……。
なんだかんだで二人共直ぐに眠りに就いた。
長い時間歩きっぱなしだったことで想像以上に疲れていたのだろう。
ダレッタ宿舎の一室で、星とカノンは幸せそうな顔で眠っていたのだった。
私は思いました。
「この物語、タイトルにインパクトなくね」
と。
ということでいつかタイトルが変わるかもしれません。
それでは。