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13、消失と焼失、そして

 剣の腕を上げるには、地道な特訓が大事である。

 防御。

 あらゆる方向からの攻撃を文字通り防御する訓練だ。続けていくうちに防いだ衝撃で腕が痛くなる。まずこれを三時間。

 回避。

 縦横斜めあらゆる方向からの攻撃を、防御せずに避ける。最小限の動きで避けるのが望ましい。これは足腰にくる。防御の次に少し休んでこれを三時間。

 計六時間プラス休憩数十分で、辺りはもうすっかり暗くなっていた。

 だが、雲一つない空に点々と瞬く星々と月光の輝きで、暗さの中にも仄かな明るさを見出だすことができるのも趣があって良い。

 月の頃はさらなり、といったところであろうか。

「ふう~」

 ばたっ、と星が草原に仰向けに倒れ込む。

 彼は日本に(地球に)いた頃はゲームばかりしていたので、運動をする機会があまりなかった。それこそ体育の度に筋肉痛になるぐらいに。

「はい、どうぞ」

 とカノンがウィーク村でもらったフルーツジュースを差し出す。そして仰向けの星の隣に腰かけた。逆の手には自分のもある。

「ん、サンキュ」

 そう言ってありがたくジュースをもらうと、疲れきった身体を起こして座る。

ほしが綺麗だね……」

 カノンが空を見上げながらしみじみと言う。

「ああ……」

 せいも日本の都会では到底見られないような満天の星空に見入っている。

 他に誰もいない草原で、

二人はフルーツジュース片手にしばらく星空を眺めていた。いつしかお互いの手と手が重なり合っていたことにも気づかずに。

日本あっちの人達は心配してるだろうな……」

 星が誰にともなく呟いた。それを聞いていたカノンが尋ねる。

「あっちの人達?」

「家族や友達とか。カノンも家族に心配されたりしないか。旅してて」

 するとカノンは少し俯いて、静かに言った。

「私の家族や友達は、9年前に死んだわ」

「っ!?」

 隣で星が息を呑む。そして、悪いことを聞いてしまったことを謝る。

「ごめん……」

「ううん、気にしないで」

 それを期に嫌な沈黙が流れる。カノンは俯いたままで、星は掛ける言葉がみつからないといった風にカノンを見ている。

 長い一分が過ぎ、カノンは星にしおらしく言った。

「この際に、私が旅をしてる理由わけを話しておくわ」

 星は真剣な眼差しで、大きく頷いた。これは適当に聞き流していいような話じゃない。おそらくウェリアルの滅亡に大きく関係するのではないかというぐらいの、しかしそれ以上に、カノンの過去を知ることができる話だから。

 大きく深呼吸をするカノン。

 そして、自身の過去を語り始めた。



「私は、この大陸のずっと東にある大陸の、小さな村で生まれたの。四歳ぐらいから同じ年頃の子達と村中や、時には村の外にも出て、毎日のように遊んでた」

 懐かしそうに語るカノンの顔は、でもどこか寂しそうでもあった。

「でも、九年前、私が七歳の頃にそれは起こった」

 カノンは、怒り、憎しみ、そして悲しさの入り交じった顔をする。星はそんなカノンを見たことがなかった。

 ──そして話は続く。

「その日は今日みたいにとても天気が良くて、お出かけ日和だった。だから、父と母に頼まれて少し遠い町におつかいに行っていたの。そして夕方になって村に戻ったら──」

 星にはその先がわかるような気がした。地獄のような光景を……。

「村人が死んでいた」

 思わず息を呑む星。

 考えてはいた。しかし実際に両耳にその言葉が入ってくると、事の重さや重大さを嫌でも理解することになる。死というのはとても重く辛いものなのだ。

「私は幼いながらに我が目を疑ったわ。朝までいつもみたいに活気づいていた村が燃えていて、心臓を一突きされた死体がそこら中に転がってて。しばらく立っていたら、燃えている村の奥から一人の男が歩いてきた。私は怖くて一歩も動けなかったわ」

 死とは程遠い平和な国に暮らしていただけに、星にはその凄惨な光景を想像することなどできなかった。いや、したくなかった。

 そういうシーンが出てくるゲームは星もプレイしたことがある。

 しかし、あくまで画面の中の映像である。現実リアルの生々しさは到底わかり得ない。

 なおもカノンは語り続ける。

「全身返り血で赤く染まったその男は、手に持った槍で私の心臓を刺そうとしてきた。私はただ目をぎゅっと瞑ってた。だけどその槍が私を刺すことはなかった。恐る恐る目を開けるとその男はもういなくて、その代わりに一人の女性が立っていた。彼女は私に手を伸ばしてきた。それを両手で握り返して……。とても温かい手だった」

「その女性っていうのは?」

「彼女の名前はディオネ。大賢者にして、私をここまで育ててくれた人……」

 星には当然の疑問が浮かぶ。

「大賢者って、アグライアだけじゃないのか?」

「うん。ウェリアルには三人の大賢者、アグライア、ディオネ、クレイオーがいるの」

「三人の大賢者、か……」

 一応納得して頷く星。カノンは少々本筋からずれた話を戻すようにコホンと咳払いする。

「話は戻って、私は形の残った死体を埋めて、その後はディオネに付いていった。彼女はアグライアの予言があった後、各地を旅してモンスターを倒したりしてたみたい」

「それでちょうどその時カノンの故郷の村に来たってことか」

「ええ。それで1年前まで一緒に旅をして、今は別々に」

「なんでわざわざ別々に旅してんだ?」

「彼女はちょっと変わってる人だから」

 と苦笑しながら言うカノン。

 天才は変わっている人が多いというが、ディオネというのは一体どんな人なんだろうか。星は俄然興味が湧いてきた。

 だが、最後にもっとも聞いておくべきことがある。

「カノンが旅をしてる理由わけっていうのはやっぱり……」

「殺された村人達の復讐っていうのもあるけど、今は他にやるべきことがあるわ」

 星は、一番の目的が復讐だと思っていたので少し目を見開く。それ以上にやるべきこととは──。

「あれは五年前くらいだったかな。ディオネがいつになく真剣な顔で言ったの。やがてやってくる救世主と共にこの世界を救いなさい、って」

「そう、だったのか。でも、俺なんかがいてもただの足手まといじゃないか?」

「いえ、君は立派な救世主よ。それに、足手まといだなんてことは絶対ない」

 なぜカノンそこまで言いきれるのか星にはわからなかったが、素直に嬉しかった。

 と、カノンが立ち上がる。

「夜ご飯にしましょ。私が用意するから、少し待っててね」

 なんだかんだで、自分の故郷の人達が殺されて辛くない筈がないのだ。後ろを向いて立つカノンの頬にはうっすらと涙が伝っている、星にはそう見えた。



 結局星はカノンの作った料理を再び食べた。それは決して美味くはなかったけど、星には満足だった。

「ごちそうさま」

 二人の距離がちょっと縮まった日だった。

なんとか更新です。ディオネはそのうち出てきます。

それでは

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