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11、カノンの実力

 ウィーク村を発った二人は、遥か北にあるリフレルム山を目指して進んでいた。

 とりあえず最初の目標地点は決まっている。

 ダレッタというそれなりに大きい町だ。ウィーク村で村長に近隣の町や村についても尋ねていたのである。

 ダレッタまでは、行商人が歩いて三日程で着くらしい。特に大きい荷物もない二人ならば、二日もあれば着くだろう。

 ──道中何も起こらなければ、だが。

 そんなこんなで、彼らは二時間程歩き続けている。

 星がポケットから携帯電話を取り出して、時刻を確認した。

「十一時三十分、か」

 現在歩いているのは、広大な草原である。その草原の中央には大きくて太い木が、葉を青々と繁らせ立っている。

「あそこで少し休みましょうか」

 カノンがその堂々たる大木を遠目に眺めながら言う。

 星は異論無く同意した。

「ああ。もう昼だしな」  

 また少し歩くと、改めて木の大きさを二人は実感した。

 幅は大人が十人は立って並べそうな程で、高さは優に三十メートルは超すのではないか、という程もある。

 更に近づくと二人は木よりも、あるものに目を奪われた。

「あれは……人?」

 それはフード付きのマントで体を上から下まですっぽりと覆い、更に木の方を向いていたのでその正体は不明だった。

 二人はとりあえずそちらに向かい、星が尋ねるように声を掛けた。

「あの、何してるんですか?」

 するとその人物がゆっくりとこちらを向いた。そしてフードを脱ぎ、顔を露にした。

 縦長の顔に、万人を射抜くかのような威圧的な切れ長の双眸。マントの中にまで届いている白銀の髪。まさに前方にそびえる大木のように威風堂々とした、齢三十程の男だ。

「……救世主とやらか」

「っ!? 何で知ってるんだ」

 突然の男からの台詞に驚く星。

「ちょうどいい。お前の実力、見せてもらおうか」

 謎の男が低い声で告げた。そして、マントの中から剣を取り出して左手に持ち、腕をだらりと下げて星の方を向いた。

「あんた、何を言って……!?」

 星の言葉もろくに聞かず、男は剣を持ち、歩いて来た。それだけで草原の空気が変わる。

 星の前まで来た男は、容赦なく左手に持つ剣を振りかざす。

 ゴウッ、と空気を裂くような音と共に星の首筋に鋭利な刃が迫る。

 と、星の首に迫っていた刃が、首筋からほんの数ミリの所で止まった。

 目を大きく見開いたまま嫌な汗を垂らし、全く動けなくなる星。彼に向かって謎の男は、心底失望したように、もともと切れ長の目を更に細くして告げた。

「その程度なのか、救世主よ」

 星は何も返すことができない。謎の男は再び低い声で告げる。但し、今度は星に向かってではない。

「娘。お前は何故私を止めなかった。実力は確実にこいつより上と見るが」

 彼はカノンの力を感じ取っていた。星を切りつけようとした時も彼女に少なからず意識を集中させていたが、隙がまるでなかった。

「あなたからは殺気が感じられなかった」

 カノンはさらっと告げた。男は満足気に笑うと、

左手に持っている剣をカノンに向けた。

「娘よ、私と一戦交えぬか?」

 カノンは少し考えた後言った。

「……わかったわ。だけど、終わったら直ぐにここから立ち去って」

「いいだろう。では、いくぞ!!」

 男は左手の剣を後ろに構え、右足を前に出し、勢いよく突貫してきた。

 カノンは自然体で、男の剣はもちろん手や足の動きもしっかりと確認する。腰には依然として抜かれていない剣が鞘に納められている。

 ──そして、俊足でカノンのもとまで迫った男は、目にも留まらぬ速さで剣を薙ぐ。

 それをカノンはしゃがんで避け、右手で自身の剣の柄を握る。そして、カウンターの抜刀切りを放った。

「はっ!!」

 その速度、まさに雷光の如し。

「ぐっ!?」

 男は大振りの一撃を外したままの無理な体勢で後ろに全力で跳ぶ。

 結果、なんとかカノンの抜刀切りを避けた。

 しかし、雷光の如き一閃を見事に避けた男の瞬発力は流石である。

 二人はほぼ同時に剣を振るう。それらは互いにぶつかると、金属の小気味よい音を広大な草原に響かせた。

 敵の攻撃を或いは避け、

或いは受け流し、刹那の間に反撃し、高速の攻防が繰り広げられる。

 五分が経った。

 依然として打ち合っていた謎の男とカノンだったが、男がカノンの一瞬の隙を突いて、剣を両手で持ち頭上に掲げると、勢いよく振り降ろす。

「終わりだ」

 体格の違いからして二人の力の差は歴然だ。カノンが咄嗟に防いだところで、力負けするだろう。

 だから、男は自分の勝ちを確信した。

 断頭台のような男の剣がカノンに迫る!! 

 彼女は男の剣を迎え撃つように剣を構えた。

 そして男の剣はカノンの剣に当たり──折れた。

「何っ!?」

 男は信じられないものでも見るかのように自身の折れた剣を見て、次にカノンに視線を移す。

「一体、何が起きたのだ!?」

 それにカノンは、息一つ乱れていない顔で、涼しげに言った。

「あなたの剣の、同じ場所を攻撃し続けたの」

 それを聞いて男は理解した。つまりは、あの速度、衝撃でまったく同じ場所を攻撃し続ければ、いずれ耐久度は落ち、折れる。それが彼の場合は大技を仕掛けた時、というわけだ。

 高速の剣撃の攻防を繰り広げながらある一点のみを集中攻撃。それは並みの人間にできる筈がない。謎の男も十分常人離れした身体能力だが、カノンはそれをも超えていた。

 始めはあっけにとられていた男も、次第にすっきりしたような清々しい顔になっていった。

「まさか私が敗れるとはな」

「敗れるとはな、って、あなた絶対に半分も実力出してなかったでしょ」

「……それはお互い様だ」

 男は、鋭い眼を半ば隠すようにフードを目深にかぶった。そして、カノンへと話し掛けた。

「私は、ファイ・オミクロン。娘、お前の名は何という?」

「カノン・ミシュリ」

 互いに名乗り合うと、謎の男改めファイ・オミクロンは、少し離れた場所でこっちを見ながら立っている星に言った。

「……救世主よ、強くなれ」

 それを最後にファイはどこへともなく去っていった。

 星はカノンの方へと歩いていき、隣に立つ。

「あいつは一体、なんだったんだ?」

「わからない。だけど、またいつか合間見えるときが来る。そんな予感がする……」

 しばらく草原に静寂が訪れた。それを打ち破ったのは、星だ。

「……あいつに殺されそうになって、改めて自分の未熟さに気づいた」

「星君……」

「だから、俺はあいつに負けないくらい強くなりたい」

 星の目は本気だ。揺るがない意志の炎がその瞳に灯っているかのように。

 カノンも星の意志を汲み取り、同様に真剣な表情で返答する。

「わかった。星君、君に私の剣の全てを教えるわ」

 星はあからさまに嬉しそうな表情をする。

「ありがとう」

 草原には澄んだ風が穏やかに吹き、太陽が燦々と降り注いでいた。

少し遅れましたが、なんとか更新です。

謎の男、ファイ・オミクロンの登場です。適当に名前を付けたわけではありません。


話は変わりますが、この小説、前話を更新してちょっとしたら、5000PVを超えていました。これもこの小説を読んでくださっている皆様のおかげです。

次回こそは1週間以内に更新できれば、と思います。それでは


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