表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/55

10、いざ行かん リフレルム山

 目が覚める。

 星は眠気の抜けていない頭で朧気に夢の内容を反芻する。

(…………やけにはっきりした夢だったな)

 まるで、夢であって夢でないような……。

「あ、起きた?」

 カノンの声が聞こえた。

 寝ぼけ眼を擦って周囲を見てみると、驚いたことに自身がいるベッドの直ぐ横にカノンが立っていた。

 それだけで起きてから停滞していた眠気がある程度引いた。

「おはよう、星君」

 カノンは屈託のない笑顔で朝の挨拶をする。それに星は若干慌てたように返す。

「お、おはよう」

 カノンは既に、浴衣から鎧のような服に着替えていた。腰には剣を帯びている。村を発つ準備は整っているようだ。

「洗面所ってどこにあるかわかる? 顔を洗いたいんだけど」

 昨日は部屋に来て直ぐに──カノンの着替えを少し見てしまったが──布団に入った星は、部屋に洗面所があるのかわからない。

 日本ではホテルや旅館に洗面所があるのは誰かに聞くまでもなく当たり前だが、世界が世界だ、洗面所がないこともあるだろう。

一階したに水道があるよ」

「わかった。ありがとう」

 礼を言って靴を履き、部屋を出ようとすると、カノンも共についてきた。

「どうせだから、顔を洗ったらそのまま食堂に行かない?」

「そうだな、そうしよう」

 彼女の提案に特に意見もなく星は賛成する。朝だからなのかそれほど食欲がない星だが、朝食が大切なことくらいわかる。

 二人は部屋を出た。カノンが鍵を締める。しっかりと締まったことを確認して、二階最奥の部屋を後にした。


 水道で顔を洗い、だいぶ眠気が吹き飛んだ星、そして付き添いのカノンは、こぢんまりとした食堂で朝食を食べている。  メニューは、ロールパン、スイカ、ローストビーフ、野菜のスープ、フルーツジュースだ。

「うん、美味い」

 野菜のスープを口にして、率直な感想を述べる星。

「バランスも良くて、栄養も十分摂れそうね」

 カノンも感想を、少し声を大にして言う。台所で隠れて話を聞いていた料理人に気づいていたからだ。

 しかし、故に旅のこともむやみには話せない。なので、二人は食事に集中した。


 朝食を終えた二人は、ごちそうさま、と言い残して食堂を後にする。

 歯を磨いて部屋に戻ると、星は即行でベッドにダイブした。

「ふふっ。食べて直ぐ寝ると、牛になるわよー」  

 冗談めかしてカノンが言う。星は笑いながらベッドに座り直した。そして、表情を一変、真剣に彩る。カノンも自身のベッドに座り、星へと耳を傾けた。

「大事な話があるんだ。実は……」

 短い、しかしとても印象深い夢の内容を星は語った。

 それにカノンは驚き、目を見開いた。そして、心から尊敬するような声で告げた。

「……さすが大賢者アグライア。夢にまで干渉できるだなんて」

 それに星は、自身の考えを述べる。

「干渉した、ってことはやっぱり、俺が見た夢はアグライアが意図的に見せたものなのか?」

「うん。魔法を使って星君の夢を再構築したんだと思う」

「魔法、か……」

 星はその言葉が気になった。

 魔法といえば、RPGなんかでは欠かせない要素の一つだ。敵を攻撃したり、味方を回復・強化したりと、汎用性もあって、パーティに一人は魔法使いがいると助かったものだ。

「魔法は、五千年ぐらい前には皆が使っていたらしいけど、時代が進むにつれてどんどん衰退していって、今では使える人はごくわずか。その存在を知らない人も少なくないわ」

 カノンが、魔法の歴史の大まかな流れを説明した。

「じゃあ、魔法の使用法っていうのは?」

「短いものから長いものまで、呪文を唱えれば、魔力のある人なら使えると思う」

 それを聞いて星は新たな疑問をもった。

「アグライアは俺に、危なくなったら剣を振りエクレンドと唱えろ、と言った。ってことは、俺には魔力がある、のか?」

「うん、あるはず。なかったらアグライアもそんなこと言わないだろうし」

 そこで魔法の話題はとりあえず終わった。瞼を閉じて何か深く考えだした星に薄く微笑みかけ、カノンは部屋を一人、後にした。


 五分程で戻ってきたカノンは、両手にマグカップを持っている。それを一つ、星に差し出した。

「コーヒーを淹れてきたわ」

「あるのか!? コーヒー」

 と反応した星は、ふと思い出す。

(あれ、前にもこんなことなかったか……?)

 なんて思いつつも、ありがとう、と言って淹れたてのホットコーヒーを受け取る。

 星は少しコーヒーを飲むと、ちょうどよい苦さに満足気な表情をする。

 故郷とは違う国、世界に行くと人は自国の食べ物が恋しくなる。しかしここウェリアルでは、星の故郷──日本で食べていたものが数多く出てきた。

 ほろ苦さの余韻を味わっていると、カノンがタイミングを図ったように話し掛けてきた。

「夢の中でアグライアは、リフレルム山に来て、って言ったんだよね?」

 星はマグカップを置いて、深く頷く。

「ああ。確かにそう言った」

 それを確かめたカノンは、顔を可愛らしくしかめて困ったような表情をした。

「それにしても、リフレルム山、か……」

「そのリフレルム山がどうかしたのか? そこにアグライアがいるんだろ?」

 ウェリアルについては全くと言っていいほど知識がない星は、ウェリアルの話題になると必然的に疑問符が多くなる。

 カノンも特に何も言わずに答えた。

「リフレルム山は、ここからずっと北の方にある険しい山よ」

「ずっと北って、どれくらい?」

「この大陸の、海を隔てて北側にある大陸の更に北端。単純に歩いたとして考えても、三ヶ月は掛かるわ」

「三ヶ月も!?」

 驚きを隠せずに、褐色の双貌を大きく見開く星。

 単純に歩いたとして考えて三ヶ月、ということは、途中でモンスターに遭遇したり街によったりしたら必然的にそれ以上掛かる。

 世界を救うための第一歩──アグライアのもとへ行くことから困難極まりない。或いは、これは試練なのか……。

 と、星は微笑を交えて声高らかに言い放つ。

「だけど、三ヶ月間ただリフレルム山を目指して進むだけじゃない。その間にできることだってある筈だ」

 それにカノンは一瞬目を見開いたが、直ぐに星に同意するように首肯し笑いかけた。そして、恐竜モンスター討伐の時に思ったことを改めて口にする。

「星君。君はやっぱり、救世主なんだね」

 星はまじまじとそんなことを言われて恥ずかしさが込み上げてきた。しかし同時に、同じくらいの嬉しさも感じていたのだった。


     ◇


 リフレルム山へと行くことになった星とカノンは早速、もはやウィーク村ではなくストロング村と呼んだ方がいいのでは?

と言えそうなウィーク村を発とうとしていた。

 救世主である以上迅速に行動するに越したことはない。

 木製の門まで行くと、大勢の村人がいた。村長が代表して話し掛けてきた。

「もう行ってしまわれるのですか? もっとゆっくりしていってもいいのですぞ」

 カノンが申し訳なさそうに答える。

「ごめんなさい。私達にはやるべきことがあるんです」

 村長はやはり残念そうな顔をしたが、それも直ぐに消えた。

「この世界を救うために何かしてくださるのですな。それならわしらは、笑ってあなたがたを見送るだけですじゃ」

 村人達も皆、二人を見守っている。

 星が村長が問うた。

「盗賊はどうするのですか?」

「官史に引き渡しますかのう。今までは他のことで忙しいと言って相手にされなかったのじゃが、捕らえたのならばこちらにも目を向けてくれるであろう故」

「そうですか」

 そうした会話を少しして、最後に村長が言った。

「せめてもの礼に、何か欲しいものがあったら言ってくだされ」

 星とカノンは一瞬顔を合わせ、頷いた。

「剣を一振りと、服と食料を少しください」

「それだけでいいのですか?」

 それに二人は、はい、と答える。

 直ぐに村人がそれらを持ってきた。

「「ありがとう」」

「なんの。では、後達者で」

 そうして二人はウィーク村を後にした。

 目指すはアグライアのいるリフレルム山。

 道中には一体何が待ち受けているのだろうか。

これでウィーク村編は一応終わりです。次話は未定ですが、また一週間後くらいの投稿になりそうです。それでは

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ