完璧な令嬢を演じていたら「可愛げがない」と婚約破棄されましたが、追放先の北の辺境で漆黒の凄腕騎士に溺愛されています〜今さら戻れと言われても、新しい家族と幸せなのでお断りします〜
「君との婚約は、今日限りで破棄させてもらう!」
無数のシャンデリアが眩い光を放つ大広間に、
その冷酷な宣告が響き渡った。
深紅の絨毯が敷き詰められたその場所は、
一族の美しさと気高さを競い合う、年に一度の盛大な夜会であった。
選ばれた者しか足を踏み入れることのできないこの神聖な場で、
私は多くの視線を一身に浴びながら、
ただ静かに目の前の青年を見つめ返していた。
彼は、黄金に輝く見事な髪と、太陽のように明るい瞳を持つ、
王家直系の素晴らしい青年だった。
活発で力強く、誰からも愛される天性の魅力を持っていた。
私たち二人の婚約は、互いの優れた血統を掛け合わせ、
さらに完璧な後継者を残すために、
双方の育ての親たちが幼い頃から決めていた絶対の誓約だった。
私は彼にふさわしい伴侶となるべく、
血のにじむような努力を重ねてきた。
豪奢な銀糸のような私の髪は、
専属の侍女たちによって毎日何時間もかけて丁寧に梳かれ、
常に完璧な美しさを保っていた。
歩く姿勢、気品ある振る舞い、
感情を安易に表に出さない冷静さ。
すべては、由緒正しき我が家の誇りを守り、
彼と共に頂点に立つためだった。
しかし今、彼の腕の中には、
私とは正反対の存在がすっぽりと収まっている。
ふわふわとした飴色の髪を持ち、小柄で愛らしく、
少しの物音でも怯えたように震える可憐な令嬢。
彼女は新興の家系から突然現れ、
その愛嬌と無邪気さで、あっという間に彼の心を奪ってしまった。
「お前のような冷酷で可愛げのない女など、私の隣にはふさわしくない!
私は彼女のような、純粋で愛らしい者を生涯の伴侶に選ぶ!」
周囲を取り囲む名門貴族たちのざわめきが大きくなる。
哀れみ、嘲笑、そして好奇の視線。
彼らは私がどう反論するのかを待っていた。
家紋の刻まれた宝石入りの豪奢なチョーカーが、
私の喉元をひどく締め付けているように感じた。
彼女が私の食事に泥を入れたこと。
私が大切にしていた遊び道具をボロボロに噛みちぎったこと。
そして、私が彼女を突き飛ばしたと嘘をつき、
彼の前で泣き真似をしたこと。
すべてを暴露し、彼女の陰湿な本性を暴くことは簡単だった。
しかし、私は一切の弁明をしなかった。
言い訳など、誇り高き我が血統への侮辱でしかない。
彼がその程度の嘘も見抜けず、
ただ愛嬌だけに絆されて私を捨てるというのなら、
もはや私からすがりつく理由など欠片もなかった。
「……承知いたしました。その婚約破棄、謹んでお受けいたします」
私は背筋をピンと伸ばし、優雅な足取りで踵を返した。
一度も振り返ることなく、ざわめく夜会の会場から去っていく私の背中には、
一切の迷いも未練もなかった。
しかし、現実は残酷だった。
王家との神聖な繋がりを失った私を、
育ての親たちは決して許さなかった。
「我が一族の顔に泥を塗った欠陥品」と罵られ、
私は住み慣れた豪奢な館から追放されることになった。
冷たい鉄格子のはめられた護送用の馬車に乗せられ、
私は遠く離れた北の辺境の地へと送られた。
ガタガタと揺れる暗い荷台の中で、私は初めて静かに涙を流した。
どれだけ完璧に振る舞おうと、結局私は愛されなかった。
無邪気に喉を鳴らし、甘えることのできる者だけが愛されるのだ。
私のこれまでの努力は、いったい何だったのだろうか。
暗闇の中で、私の心は冷たく凍てついていった。
数日間の過酷な旅の末、
私を乗せた馬車が到着したのは、深い森に囲まれた巨大な城館だった。
隣国の有力者が治めるその領地は、
厳しい寒さと荒々しい自然に包まれていた。
重い扉が開き、長旅で疲れ果て、
泥だらけになった私が引きずり出される。
そこへ、静かで威圧的な足音が近づいてきた。
見上げると、そこには漆黒の髪と、
鋭く光る黄金の瞳を持つ大柄な騎士が立っていた。
無骨で、全身から歴戦の強者のような恐ろしい覇気を放っている。
その威圧感に、私は思わず身をすくませた。
しかし、私を見下ろす彼の瞳は、驚くほど優しく、そして温かかった。
「……よく来たな、美しい人よ。ひどく傷ついているではないか」
彼は大きな手で私を優しく撫で、そのまま力強く抱き寄せた。
「君が理不尽な理由で捨てられたことは聞いている。
あんな愚か者たちのことはもう忘れなさい。
これからは、私が君を一生守り抜こう」
その日から、私の新しい生活が始まった。
北の城館での日々は、王都の煌びやかな生活とは全く違うものだったが、
私の心は不思議なほど穏やかだった。
彼は決して私に完璧な振る舞いを強要しなかった。
泥だらけになって森を駆け回ることも、
暖かい暖炉の前で無防備に眠ることも、
すべてを許し、愛おしそうに見つめてくれた。
彼の不器用だが真っ直ぐな愛情に触れるたび、凍りついていた私の心は溶け、
いつしか私は、彼のためだけに美しくありたいと願うようになっていた。
朝靄の中、広大な庭園を二人で肩を並べて歩く時間は、
何にも代えがたい私の宝物になった。
季節が巡り、私たちは正式に生涯の伴侶となる誓いを交わした。
風の便りによれば、私を捨てたあの金髪の青年は、
あの後ひどい目に遭ったらしい。
彼が選んだ可憐な令嬢は、実はとんでもなく凶暴な気性であり、
王宮の調度品を破壊し尽くし、
周囲の者たちに噛み付いては大怪我を負わせるという事件を次々と起こしたそうだ。
結果として彼女は幽閉され、青年もまた人を見る目がなかったとして、
王宮内での信頼を完全に失墜したという。
しかし、今の私にとって、遠い異国の昔話などどうでもいいことだった。
柔らかな日差しが差し込む部屋の中、
私はふかふかの絨毯の上に横たわり、幸せに満ちたため息をついた。
隣では、愛する漆黒の彼が優しく私の顔を舐めている。
私は今、彼との間に生まれた三匹の可愛い子犬たちに囲まれながら、
パタパタと嬉しそうに尻尾を振った。




