羊でも愛してくれますか?〜氷の騎士様の中には溺愛が詰まっていました〜
また書いてしまいました…変な溺愛物(笑)
読んで頂いた方の何かに刺さりますように。
よろしくお願いします。
わたくしはメリッサ・バロウ侯爵令嬢ですわ。今日は婚約者のクリストファー・ジャグラン侯爵令息との月一回の交流日ですの。まだ三回目ですけれど。
クリストファー様は近衛騎士団に所属されている騎士ですのよ。クリストファー様は氷の騎士と言われる程、表情を崩されない方ですわ。とても麗しいお顔でして、護衛対象の第一王子殿下と並ばれると、それはもうもう、お二人共お美しくて…眼福ですわ。
わたくしは…美人に入るとは思いますが、殿下やクリストファー様と比べると普通ですわね…。
今日も、バロウ家の屋敷でお茶会ですの。薔薇が見頃なので庭園にある四阿でお茶を頂いておりますわ。
今日もクリストファー様は麗しくていらして、それを近くで眺める事が出来るわたくしは幸せ者なんでしょうね…。
クリストファー様は、わたくしと居ても表情を崩された事はありませんのよ。お茶会だと言うのに、会話もほぼありませんわ。
わたくしが話し掛けると『ああ』とか『そうですね』など、お返事は下さいますけれど。
でも、クリストファー様からお話下さる事は殆どありませんから、わたくしが話さなければ、ずっと沈黙ですわ。
そして、時間になれば直ぐ帰られてしまいますの。わたくし、嫌われているのでしょうか?
家同士の結び付きの為の政略結婚ですもの仕方がないですわ。もしかしたら、クリストファー様には想う方がいらっしゃるのかも知れませんわねえ…。
勿論わたくしは、クリストファー様をお慕い申し上げておりますわよ。でも、彼の方はわたくしの事なんて、その辺の石ころ程度の認識なのでしょうね。
悲しいですが、結婚後は真に愛する方を愛妾としてお迎えされて、わたくしはお飾りの妻として一生過ごすのでしょう。
今日もお時間の様ですわ。
「メリッサ嬢、時間なのでこれで失礼する。ではまた来月」
「はい、ありがとうございます。お待ちしておりますわ」
「では」
そうおっしゃって、クリストファー様は帰られました。
「また来月…」
交流日に来て下さるだけでも感謝しなくては。わたくしに笑いかけて欲しいなんて贅沢な望みですわね。
でも、これが一生続くなんて悲しすぎますわ…。婚約解消したい所ですが無理でしょうねえ。
ーーー ◇ ー ◇ ー ◇ ーーー
「おはよう、メリッサ様。どうしたの?暗い顔して。あ、昨日はいつもの交流日だった?」
「ええ…」
彼女は、カレン・マーシャス伯爵令嬢ですわ。学園で、わたくしのお友達をして下さってますの。とても、フランクに話かけてくれますのよ。
「お茶会はいつも通り?」
「ええ、会話はほぼ無く、時間になったら直ぐ帰られましたわ」
「ジャグラン卿はメリッサ様の事が嫌いなのかもね。婚約破棄したら?」
彼女は率直に意見を述べてくださいますけど、実はわたくし、とても傷付いておりますの。事実だとしても。
「そうかも知れませんわね。でも政略結婚ですから婚約の解消は難しいですわ」
「メリッサ様可哀想。話なら、いつでも聞くから何でも言ってね」
「ありがとうございます」
始業のチャイムが鳴りましたわ。一限目がはじまりますわね。
「じゃあまた昼休みにね」
カレン様は教室にもどられましたわ。この学園では成績順にクラス分けされていますの。わたくしはAクラスですが、カレン様はお勉強が苦手でいらっしゃる様でCクラスですわ。
お昼は食堂でカレン様と食事を取りますの。今日はカレン様は手作りのお菓子を差し入れて下さいましたわ。とても珍しいお菓子でしたのよ。確か『わらびもち』と、おっしゃってましたわね。
東邦の国のお菓子だとか。今まで食べた事の無いお味でしたけれど、美味しゅうございましたわ。
明日はわたくしが、お菓子をご用意しなくては。何が良いでしょうねえ。『わらびもち』に負けないくらい珍しいお菓子があると良いのですが。
ーーー ◇ ー ◇ ー ◇ ーーー
午後の授業も終り、屋敷に帰りましたわ。侍女のアンナに明日持って行くお菓子を相談しなくては。
でも何だか、とても眠いですわ。少し眠ってからアンナに相談しましょう…。
…はっ!随分、眠ってしまったみたいですわ、起きなくては。
……あら?どうしたのでしょう私?。回りの景色が低いですわ。自分の体も小さくなっているみたいですの
ベッドから下りてトコトコと部屋の中を歩いてみましたわ。
テーブルってこんなに高かったのかしら?
姿見に自分を写してみると、真っ白で小さな羊が一頭、覗き込んでいるではありませんか。
あら私、羊になってしまいましたのね。どうしましょう?
落ち着いて考えてみましょう。
変な物は…食べていませんわね。『わらびもち』を変な物と言ってはカレン様に失礼ですし。今日は学園に行って帰って来ただけ。それだけで別段、変わった事も無く、いつも通りでしたわね。
考えても分からないので、とり合えず誰か来てくれるまで待つことにしましょう。
ドアがノックされたけれど、私の言葉って通じるのかしら?とり合えず答えてみますわね。
「メエェ〜」
(はい)
あら、やっぱりメエェ〜しか喋れないみたいですわ。
返事が無いので侍女が心配をして入って来てしまいましたわ。
「失礼します、お嬢様。お返事が無いのですがどうかされましたか?」
アンナだわ。話しても通じるかしら?
「メエェ〜、メエメエェメエェ」
(アンナ、わたくしよメリッサよ)
やっぱり、メエェ〜しか喋れませんわ〜!
「あら?どうしてこんな所に羊が。…でも、ちょっと可愛いかも」
「メエェ〜、メエメエェメエ。メエェメエェ〜」
(アンナ〜、わたくしなの。メリッサなのよ〜)
「可愛い…じゃなくて、お嬢様!どこですか?お嬢様!」
「メエェ〜」
(ここですって〜)
「お嬢様がお部屋のどこにもいらっしゃらないわ。今日はお出掛けのご予定は無かったはずよ。これは旦那様にお知らせした方がいいかも」
アンナは部屋を出ていってしまいましたわ。お父様の所に向かったのね。…アンナに言葉が通じませんでしたわ…。どうしたら良いのでしょう…。
バタバタと足音がして何だか騒がしいですわ。
「メリッサ!」
「メエェ〜!」
(お父様!)
「何だ、この羊は?」
「旦那様、お嬢様のお部屋に、お嬢様の姿はなくて羊がいるんです」
嫌ですわお父様。まじまじと見ないで下さいまし。
「メリッサ…」
「え?お嬢様がどこに?」
「アンナ、分からんのか。この愛らしい羊こそメリッサだ!」
「ええっ!」
「メエェ〜〜」
(お父様〜〜)
「メリッサ、この姿はどうしたんだ?」
「メエェ、メエェメエェメエェェ。メエェメエェ〜。メエェメエェェメエ〜ェ」
(わたくしにも何が何だか、分からないんですの。学園から帰りましたら眠くて、眠って起きたらこうでしたの)
「帰って来て眠くなった?起きたらその姿だったと?」
「メエェ〜、メエェメエェェメエ?」
(お父様、わたくしの言葉が分かるの?)
「当たり前じゃないか。可愛い娘の言葉が分からない親がいる筈ないだろう?」
「メエェ〜!」
(お父様〜!)
「メリッサ!」
お父様がひしっと、わたくしを抱きしめて下さいましたわ。
「アンナ。至急、宮廷魔道師を呼んで来てくれ」
「かしこまりました、旦那様」
「あら、あなた。メリッサの部屋でどうしましたの?」
あ、お母様だわ。
「ルビアナ、見ておくれ。この可愛いメリッサを」
「この羊がメリッサ?…あら、本当だわ」
「メエェ〜」
(お母様〜)
「あなた、わたくしにもメリッサを抱かせて下さいませ」
「落とすんじゃないぞ」
「大丈夫ですわ。でもメリッサはどうしてこんな姿に?」
「本人も分からんらしい。学園から帰って来たら睡魔が襲い、目覚めたらこの姿だったそうだ」
「そうなの?メリッサ」
「メエェメエェ」
(そうなんですの)
「この姿も可愛いですけれど、このままでは色々と困るわね。特に婚約者の彼とかね?」
「ああ。だから今、宮廷魔道師を呼びにやらせている」
「クリストファー様に、こんな可愛いメリッサを見せたらどうなるかしら?」
「止めてくれ。それでなくとも普段、奴の暴走を止めるのに苦労しているんだ」
暴走?クリストファー様が?何の事?
お母様に撫でられて気持ち良いですわ。眠ってしまいそう…。
「あらあら、メリッサ眠いの?赤ちゃんに戻ったみたいで可愛いわ」
ん?何だか物凄い足音がしますわ。誰かしら?
「いかん!奴だ!メリッサを隠すんだルビアナ!」
「もう手遅れじゃないかしら?」
「メリッサ!!!!」
あら、クリストファー様ですわ。御髪が乱れて素敵。と、言いますか、こんなに慌てているクリストファー様を見るのは初めてですわ。
「メリッサ嬢…こんな姿に…」
お母様に抱かれている、わたくしの前に立つクリストファー様は、表情を崩されて氷の騎士様では無いですわ。焦ったお顔をしてどうしたのかしら?
「ルビアナ様、メリッサ嬢をお渡し下さい」
「あら?どうして?」
「メリッサ嬢の婚約者は私です。私がメリッサ嬢を抱いているのが正しいでしょう」
ぬな!…淑女らしからぬ心の声が出てしまいましたわ。わたくしを抱く?クリストファー様が?ありえない。何が起こっているの?
「クリストファー、婚約者でもメリッサは渡せないぞ。そもそも、どうしてメリッサが羊になった事を知っている?」
「アンナから聞きました。メリッサ嬢が羊になってしまったので魔道師を呼びに来たのだと」
「アンナめ、口が軽すぎる。減給だ!」
「メエェ〜、メエメエメエェ〜ェ」
(お父様、減給は止めて下さいませ)
「しかしだな。主家の情報を簡単に漏らすなど許されんぞ」
「メエェ〜、メエェ」
(お父様、お願い)
「…仕方ない。可愛いメリッサの頼みだ。今回だけだぞ」
「メエメエェ、メエェ〜!」
(ありがとう、お父様!)
「はあぁ…可愛い…メリッサ」
は?今、クリストファー様なんとおっしゃいまして?
「ルビアナ様、メリッサ嬢を早く私に」
「あなた、どうします?」
「駄目に決まってるだろう!」
「侯爵閣下、メリッサ嬢を渡して下さらないとおっしゃるのでしたら、あの件をルビアナ様に言いますよ?」
「なっ、卑怯だぞ!クリストファー」
「今は非常事態なんです。この可愛いメリッサ嬢を手にしないと私は…。ですから侯爵、メリッサ嬢をお渡し下さい。さあ!」
「ぐぬぬぬ…仕方ない。ルビアナ、メリッサを渡してやれ」
「良いんですの?それから、あなた?あの件ってなんですの?後でじっくり聞かせて頂きましょうか?」
お母様、笑ってますけど怖いですわ。
「うぐっ…結局バラされてる様なものじゃないか…。クリストファー許すまじ」
お父様、あの件って何なのかしら?気になりますわ。それより…。
お、お母様!本当にクリストファー様に私を渡すんですの〜!!
「はい、クリストファー様。メリッサを大切にして下さいましね」
「はい、勿論です。離しません」
あう、あう、どうしましょう。クリストファー様の腕の中ですわ〜尊死しそうですわあ。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ…メリッサ可愛い…頬擦りしていい?」
わたくし、全力で首を振って拒否しましたわ。無駄でしたけど…。
「クリストファー、それくらいにしろ。メリッサが死んでしまう」
「駄目です。目一杯、愛でさせて頂きます」
「クリストファー様、程々にね?」
「はい…」
あら、クリストファー様はお母様の言う事は聞くんですのね〜。
「メリッサ嬢は私が完璧にお世話いたします。お任せ下さい」
「…それが一番心配なんだが…」
「メエェ〜ェ、メエメエェ〜メエ」
(お父様、助けて下さいまし)
「おや、メリッサ嬢。私の腕の中から抜け出そうなんて、いけない子だね」
ああ…なんでしょう…クリストファー様の笑みを見られて嬉しいんですけど、彼の背後に真っ黒い何かが見えますわ〜。
わたくしがクリストファー様に抱っこされて、頬擦りされて撫でられて、恥ずかしさでぐったりした頃にアンナが戻ってきましたわ。あの黒いローブの方が魔道師様ですのね。
「旦那様、宮廷魔道師様をお連れしました」
「おお、アンナ。待ちかねたぞ。さあ魔道師殿、娘を見てやって下され」
「はい、侯爵閣下。お嬢様はこの羊ですね」
クリストファー様に抱っこされて頬擦りまでされ、撫で回され続けて瀕死の羊ですわ、わたくし。
『鑑定!』
魔道師様が呪文を唱えましたわ。これで何か分かると良いのですけれど。
わたくしの回りを光の粒がふよふよと漂ってますわ。魔法を見るのは初めてですけれど綺麗ですのね。
「鑑定結果が出ました。侯爵閣下、これは魔女の秘薬を飲まされたと思われます」
「ま、魔女の秘薬だと。また厄介なものを…。魔道師殿、解毒は出来るのか?」
「魔女の秘薬は特別な物です。私ではおそらく無理でしょう。確実なのは薬を作った魔女に解毒してもらう事ですが」
「魔女か…国王陛下なら魔女をご存知かもしれん。急ぎ登城する。魔道師殿、陛下の元まで同行頂けるか?」
「かしこまりましてございます。その前に一点、お嬢様に確認したい事がございます。今日召し上がった物で、いつもと違った物はございませんか?」
「メエェ〜メエ、メエメエェメエ〜メエェ〜メエメエェ〜ェ」
(今日食べたのは、学園の食堂のお料理とお友達の手作りのお菓子だけよ)
「魔道師殿、娘は学園の食事と友人手作りの菓子を食べたそうだ」
「学園の食堂は、異物が混入されない様に魔道具で検査をしますから、怪しいとすれば友人の手作りの菓子でしょう」
「メエェ、メエェ〜ェメエェ〜メエメエェメエェ」
(そんな、まさかカレン様がそんな事するわけないわ)
「カレン?あの伯爵令嬢か」
あら?クリストファー様は私の言葉が分かるのね?どう言う基準で分かる人と分からない人がいるのかしら?
「クリストファー、そのカレンとか言う令嬢を知っているのか?」
「はい侯爵閣下。学園でメリッサ嬢に付きまとっているマーシャス伯爵令嬢です。あの娘は何度もメリッサ嬢が可哀想だから、私との婚約を破棄しろと促してきました。挙句、我がジャグラン侯爵家には婚約の申し込みを何度も送って来て、私にはメリッサ嬢がいるからと断ってもしつこくて」
「伯爵令嬢風情が侯爵家の婚約に嘴を挟むなど言語道断!潰してやる」
お父様のお怒りが凄いわ…。でも、カレン様がそんな事をしていたなんて…。わたくし、騙されていたのかしら…。
「ルビアナ、メリッサを頼む。陛下にお会いして来る」
「分かりましたわ。あなた、お願いね」
「メエェ〜ェ、メエェメエ〜」
(お父様、お願いしますね)
「クリストファー様、メリッサを頼んでもよろしくて?私もやる事が出来ましたの。勿論、侍女のアンナは置いておきますわよ」
「ルビアナ様、私の命に代えましてもメリッサ嬢をお護りします」
「お願いね」
お母様が出ていかれてしまったわ…。
「大丈夫か?メリッサ嬢」
「メエ〜ェメエェメエェ〜メエェ〜メエ」
(少し大丈夫じゃないかも知れません)
「侯爵閣下に任せておけば大丈夫だ」
「メエェメエェ〜、メエェメエ〜メエェ、メエェ〜メエ…」
(今日はクリストファー様、優しいんですね、いつもは…)
「ごめん。素っ気ない態度なのは分かってた。侯爵閣下に釘を刺されていたんだ。私が君を愛しすぎているから不埒な真似をしない様にと。君といると触れたくなる。だから、それを隠すためにあんな態度だった。ごめん」
「メエェ〜メエ?メエェ〜ェ?」
(愛してる?わたくしを?)
「勿論。愛してるメリッサ」
どうしましょう、クリストファー様のお顔が近づいてきますわ〜!くっ、唇がわたくしの顔に…。
「コホン、クリストファー様そこまでです」
「アンナ居たんだ。忘れてた」
「それ以上は駄目です」
「少しくらい…」
「奥様に報告しますよ」
「分かったよ。抱きしめるだけで我慢する」
「メエェ〜メエメエメエェ〜メエ?」
(わたくし達は政略結婚なのでは?)
「違うよ。私が君を好きになったから、婚約を申し込んだんだ」
「メエェ!」
(嘘!)
「嘘じゃない。君は忘れてるかも知れないけれど、私達は子供の頃に出会ってるんだ。私は子供の頃から感情の起伏が乏しくて、世界は色が無かった。そんな時、王宮で怪我をした小さな動物の手当をする君を見た瞬間、世界が鮮やかに色づいたんだ」
「メエメエェ…」
(覚えてませんわ…)
「良いんだ。それから君が気になって、これが恋だと気づくまで時間は掛からなかったよ。そんな私を見て父が君に婚約を申し込もうと言ってくれたんだ」
「メエェ〜、メエメエェ〜メエ?」
(それでは、わたくし達は両想い?)
「!メリッサ、それって君も私を好きだって事?」
「メエェ、メエェ〜メエェメエ〜ェ」
(はい、わたくしもお慕いしておりますわ)
はっ恥ずかしいですわ〜。
「ありがとう、メリッサ。絶対幸せにするから結婚しよう」
「メエェ!」
(はい!)
今までの時間を取り戻すように二人で沢山お話をしましたの。クリストファー様が優しくて、わたくし羊になって良かったですわ。
ーーー ◇ ー ◇ ー ◇ ーーー
お父様は翌朝になって戻ってらしたわ。陛下は魔女様を御存知で住処を教えて下さったそう。
魔女様は西の森に住んでいるそうですの。王宮の奥深くに西の森に繋がる転移陣があるそうで、それを使わせて頂くのですわ。
そして今、わたくし達は魔女様の住処に向かって西の森を歩いておりますの。お父様は魔女様の所に行くのは、クリストファー様と二人でと、おっしゃってましたが何か意味があるのかしら?
わたくしはクリストファー様に抱っこされて、ぽかぽかですわ。クリストファー様があの日から甘くて甘くて、わたくし溶けてしまいそう。
「メエェ、メエェ〜ェメエメエェ〜ェメエ?」
(もし、わたくしが羊から戻らなかったらどうします?)
「良いよ、そのままの君で。羊でも愛してる」
「メエェメエ〜メエェ〜ェメエ〜」
(わたくしも愛しておりますわ〜)
森に入ると不思議な事に、わたくし達を招き入れる様に木々が避けてくれますの。謎ですわ。
やがて、一件の小さな小屋に着きましたの。ここが魔女様の住処なんでしょうか?
「魔女殿、ご在宅か?私はベルナー王国の騎士クリストファー・ジャグラン。魔女殿にお目通り願いたい」
しばらくすると扉が開いて、老女が出て来られましたわ。
「ワシが西の森の魔女リズじゃよ。要件は分かっておる。中に入りな」
リズ様に促され中に入りましたの。魔女様のお家なんて初めてで、ドキドキですわ。
「お前さん達、ワシの作った秘薬で迷惑を被ったようだね。済まないね、ワシの見通しが甘かったようだ」
「では魔女殿、解毒薬を作って頂けるので?」
「もうあるよ。秘薬を作ったら必ず解毒薬も作っておくものなんじゃよ。これが解毒薬じゃが、飲む前に騎士殿に最後の仕上げをして貰わねばならんよ」
「何をすれば?」
「簡単じゃよ。解毒薬にあんたの彼女への思いを込めてくれりゃいい」
薬瓶を手にしたクリストファー様は瓶を握りしめ目を閉じられましたわ。すると、薬瓶が淡い光を一瞬光らせて沈黙しましたの。
「完成じゃね。さあ彼女さんに飲ませておやり」
「ほら、メリッサ。口を開けて」
恥ずかしいけれどクリストファー様に口をあ〜ん、しましたわ。
口に入って来た薬は甘くて甘くて。ほんのりクリストファー様の匂いがしましたわ。いつも彼からシトラスの香りがしますのよ。
わたくしはゆっくりと羊から人間に戻りましたわ。
「あ…わたくし戻りましたの?」
「良かった。メリッサ」
クリストファー様に抱きしめられて、興奮して倒れそうですわ〜。
「ありがとうございます、魔女様」
「いやいや、あの秘薬でここまで効果が出るとは、余程あの娘はあんたを憎んでいたんだろうね。秘薬は人の思いを最後に込めて完成するものだからね」
「わたくし、カレン様に恨まれていましたのね…」
「メリッサ、気にする事はない。逆恨みだ。君が私と婚約していたからだろう」
「そうなんですが…」
最後にもう一度、魔女様にお礼を言い西の森を出ましたわ。
ーーー ◇ ー ◇ ー ◇ ーーー
姿が戻ったわたくしは翌日、学園に行きましたの。カレン様と決着をつける為ですわ。
「おはようございます、カレン様」
「なっ、なんで人間のままなわけ?魔女の秘薬が効かなかったっていうの?」
「いいえ、良く効きましてよ。でも、クリストファー様のお陰で人間に戻れましたの」
「そんな筈無いわ!クリストファー様があんたを愛してたりしない限り!」
「愛して下さっていたのですよ」
「嘘だ!嘘だ!嘘だ!あんたが汚い手を使ってクリストファー様の婚約者になったくせに!愛されてる筈が無いわ」
そんな風に思われていましたのね、わたくし。お友達だと思っておりましたのに。
わたくしの肩に温かい手が乗せられましたの。クリストファー様が来て下さったわ。
「私はメリッサを愛している」
「嘘よ!クリストファー様が愛しているのは私よ!」
「カレン嬢、どうしてそんな妄言を吐けるのか。正気を疑うね」
もう、クリストファー様ってば、これ見よがしに、わたくしに口付けを落としますのよ髪に頬に瞼に。
カレン様、お顔が真っ青ですわ。
「カレン・マーシャス伯爵令嬢、貴様には魔女の秘薬悪用につき捕縛命令が出ている。大人しくするんだな」
「嘘よ、嘘よ、嘘よ……クリストファー様に愛されているのは私よ…これは夢よ夢なんだわ…」
何かをブツブツ呟きながらカレン様は、クリストファー様と一緒に来ていた騎士たちに大人しく連行されて行きましたわ。
「彼女には重い処罰が下されるだろう」
「…ええ」
さようなら、カレン様。
ーーー ◇ ー ◇ ー ◇ ーーー
あれから、カレン様は戒律の厳しい修道院に入ることになりましたわ。生涯出てくる事は叶わないでしょう。
マーシャス伯爵家は、伯爵自身は積極的にこの件には関わっていなかったものの、知っていて止めなかったと言う事で男爵に降爵になりましたの。
後、お母様が裏で色々と画策してまして、マーシャス男爵家は没落一歩手前ですわ。お母様を怒らせるのは止めましょう。
それから、お父様のあれとは毛生え薬をこっそり使っていると言うことでしたわ。剥げたお父様も可愛らしいと思いますの。お母様も気にしないっておっしゃってましたのに。
クリストファー様曰く、男心は複雑なんですって。
クリストファー様がわたくしに素っ気なかった原因は自分にあったと、お父様が謝ってくださいましたわ。
それから、お父様がクリストファー様に課していた、わたくしへの接触自重命令も無くなりましたの。わたくし達の想いが通じ合っているなら野暮だろうと。
そして、月一回だった交流日は五日に一度になりましたのよ。
クリストファー様に交流日が増えて、お仕事は大丈夫ですの?と聞いてみましたら、満面の笑みで『大丈夫』と返されましたわ。あまり深く聞かない方が良いのでしょうね…。
もう、わたくし達のお茶会に会話が無いなんて事はありませんわ。クリストファー様は終始、愛を囁いて下さいますの。ちゃんと、わたくしも返しておりますわよ。
『魔女の秘薬で、もう一度羊になってクリストファー様に抱っこされるのもいいですわね?』と申しましたら、クリストファー様ったら本当に魔女の秘薬を買って参りましたの。
今、秘薬を飲んで羊ですわ〜。
クリストファー様に抱っこされて、偶に羊になるのも良いかな…と思う、わたくしなのでした。
Fin
最後まで読んで頂きありがとうございます。
メリッサ嬢の羊言葉は何となく雰囲気で読んで頂けたら嬉しいです。メエェ〜。
ちなみにメリッサ嬢の愛称はメリー。
メリーさんの羊からピンと来ました(笑)




