第4話 力にも種類がある
『喰らえ、トリプルフレイムショット!!』
タクマが放ってくる火の玉を、私は1つずつ確実に交わしていく。火の玉は飛ぶのに時間が掛るのか、横に走り抜ければ簡単に回避できた。しかし数が多すぎて私は回避に精一杯だった。
「クソ、っ……近づけない……!!」
「おっさん遅すぎ!!喰らえ、アイスジャベリン!!」
そのまま氷の氷柱が飛んでくる。私は剣でそれを砕いてやり過ごしたが、破片が民家に飛んでいってしまう。
――ドッッ、ガシャァァァン!!
交差点に一番近い商店の壁が崩れていく。中にまだ人がいたのか、悲鳴が聞こえてくる。
「ぎゃあああああ!? 助けて、家が、家が崩れる!!」
「お母さん! どこ!? 助けて、っ……!!」
私はその声を聞いて、回避をやめた。建物がない通路を背にしてタクマの攻撃を全て受け止めている。
しかし、タクマは追撃の手を緩めない。次は広範囲を焼き払う魔法を選択した。
『フッ……終わりだよ伯爵殿、ワイド・バースト!!』
タクマがそう言うと炎の壁が現れて、私に襲ってくる。これはもう避けられないなと分かってしまったので、私は最後の掛けに出た。
「喰らえ、っ……はああっ!!」
私は持っていた剣に魔力を込めて鋭さを高めた。それをタクマに向かって思いっきり投擲した。剣が炎の壁を貫いて彼に向かっているのが確認できた。だが、私に出来るのはここまでのようだ。
「ぐ、あああああッ!!」
私はその炎に大きく吹き飛ばされて戦闘不能になってしまった。最後に見えた光景は、投擲した剣が彼を貫くことが出来なかった姿だった。
『……ふぅ、オートシールド。やれやれ、こんなのSSSスキルを使う必要もなかったな。全く……』
投擲した剣は、無惨にもカランと音を立て地面に落ちていく。私はその光景を地面に這いつくばりながら見ることしか出来ない。
『じゃあ……オレが勝ったし、クリスティーナちゃんは貰っていくね』
「クソ、っ……ガハ、ッ……」
鎧が溶けて熱い。体に鉄が入り込んでくる感触がする。それでも私は娘を救うために立ち上がろうと地面に手を付ける。
「ぐっ……待て、っ……」
『はあ、いつまでも往生際が悪いなぁ……じゃあもういいよね?はいフレイム__』
『待て、!!野蛮人!!』
奴が私に火の玉を打とうとしてきたその時、クリスティーナの声がした。彼女は私が投げた剣を握ってそれをタクマに向けている。剣先は震え、とても戦えるようには見えない。
『え、クリスティーナちゃん!?待ってよ……!!オレはクリスティーナが好きだから__』
『黙れ!!お父様は……お前なんかには負けない、っ!!』
タクマは一歩足を進めると、クリスティーナは一歩足を引く。そして威勢のいい声を上げ彼に反抗している。
『……そうだ。伯爵様はお前なんかには負けない!!』
『クリスティーナ様を離せ! この人殺し!』
彼女に釣られてなのか、崩れた建物の側から民衆の声が聞こえる。そしてその声は辺り一帯にまで広がった。全ての憎しみが、タクマ一人に向けられている。
民衆はタクマに石を投げ、水を掛ける。それらはオートシールドとやらに弾かれているが、それを延々と繰り返していると、ついに彼の心が折れたような言葉が聞こえた。
『何だよ……異世界転生したらハーレム出来るって言ったくせに……ふざけんなよ、っ!!クソが、っ!!』
タクマは最後にそう言って街の中にフレイムショットを乱発した。建物が崩れ、燃え崩れていく。
『ふざけんなよ!!ブス女!!肉便器!!』
タクマは汚い言葉をクリスティーナに浴びせながら魔法を放ち暴れている。
『うわああ……!!に、にげろ、っ……!!』
『もうやめて!!このままじゃ……!!』
タクマは八つ当たりのように魔法を撃ち続けた後、煙の中に消えて何処かへ行ってしまった。残されたのは、破壊された街とボロボロのクリスティーナ、そして死にかけの私だけだった。
『あ、っ……お父様!!しっかりして下さい……!!』
「う、っ……ぁ……っ、」
『お父様!!』
最後にクリスティーナを守れて良かったと思いながら、私は静かに目を閉じた。
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「……………ん、あ゛っ……痛い……ここは?」
私は目が覚めると医務室の寝台の上にいた。侍女達が忙しなく私を看護しているのが目に入る。
『あ、伯爵様!!目覚めたのですね……そこの貴方、すぐにお嬢様に報告を!!』
侍女の一人が部屋を出ていった。どうやらクリスティーナには大きな怪我はないらしい。
「ぐっ……な、なあ……あの魔道士は……」
『はい、あの魔道士はもう城下町からは出ていったようです、あの女共も一緒に。ですが……』
侍女は下を向いて声を小さくしている。恐らくもう街の被害状況が整理できているのだろう。
「民衆の被害は……?」
『10数人の怪我人がいます……その、最初に商店が壊れたと言ってきた家の婦人は、もう……』
瓦礫に飲まれたか、あの炎で焼かれたか。とにかく助からなかったようだ。
「……弔いの準備をしてくれ、その婦人は……一番の被害者だ」
『承知しました、後で伝えておきます。それよりもまずは伯爵様の治療を……』
私は侍女に寝かされてまた治療を受ける。火傷痕が最初よりも大きくなっていて皮膚も爛れている。これは正常な皮膚に戻ることは無さそうだ。
『……っ、お父様!!』
治療中の部屋にクリスティーナが入ってきた。相当傷心していたようで、すぐに私の所に寄ってきて私の手を取り泣き出してしまった。
『お父様、っ……お父様、っ……』
「私は……大丈夫だ。君は何処もケガしていないかい?」
『はい……私は、っ……大事ありません……』
「それは、よかった……」
その言葉を聞いて、私は体の力が抜けてしまい寝台に倒れ込んだ。体の緊張が抜けてようやく心が落ち着き始めている。このまま休む前に、クリスティーナに言葉を残しておこう。
「クリスティーナ……最後の時の……民衆達の声、覚えているな……」
『はい、お父様……』
私達が勝利したのは、民衆が我々に答えてくれたからだ。
「私達は……あの魔法には叶わなかったが……あの男には、勝利したと言えるだろう……」
「ゲホッ、……というか、勝手に逃げていっただけだが……」
情けなく敗北したのを認めるしかないが、そのまま続ける。
「クリスティーナ、お前も……私のように民衆の信頼を損なわぬように……尽力せよ……」
『はい、っ……お父様に恥じぬよう、私も全力を尽くします……!!』
彼女の素晴らしい宣言を聞いて、私は心安らかに体を休めることにした。
終わりです。あざした。




