僕の婚約破棄イベント、推し活にハイジャックされました。
僕の名前はスカイ・C・ヴァレンティア。ここ、ブラックバニア王国の第九王子だ。
そして――僕には他の誰とも違う秘密がある。
(……この世界、『婚約破棄ざまぁ系ラノベ』の世界だって気づいてる)
何で気づいたかは知らない。ある朝目覚めた瞬間、脳内に作者の意図が流れ込んできた。「お前は浮気男の王子として断罪される役です!」と。
つまり僕の役割はこうだ。
① 夜会で婚約者に婚約破棄を宣言
② なんやかんやあって悪役令嬢(婚約者)にざまぁされる
③ 僕は没落して終了。読者はざまぁと嘲笑い、感想欄は僕を罵るコメントであふれる
……いや、誰が好き好んでそんなハードを超えたルナティックな人生を受け入れるか。
(でも物語の強制力ってやつが働いて抗えないんだよなぁ……)
抗おうとした事は何度もあるが、その度に不思議な力が働いて「断罪ルート」に入ってしまう。気づけば、僕はツインテピンク髪の男爵令嬢であるアリスと関係をもってしまっていた。
「はぁ……とりあえず、処刑前に婚約者レベッカ嬢の顔でも見に行くか。……浮気しちまった事自体は事実だし、せめて断罪前に土下座出来るならしたい」
* * *
コンコン、と控室の扉を叩く。
「レベッカ嬢、いるかー?」
彼女は僕の婚約者であり、幼馴染でもあるレベッカ・シューティングスター。
部屋に入った僕に振り返ったレベッカは――ゆっくりと、目のハイライトを消した。
「……来たんだね、スカイ」
(おい、なんんかすでに精神状態が終わってるんだが!?)
「浮気相手のアリスのところにでも行ってると思ってた……ふふ」
「いやいやいや、この世界観でそんな低音ボイス聞いたことないんだけど!? もっとこう……悪役令嬢って「身の程を知りなさい、愚か者!」みたいなツンツンしたムーブじゃないの!?」
レベッカは静かに微笑んだ。背後に黒いオーラが揺らめく。
「……スカイが誰と浮気してもいいの。必ず私のところに帰ってくるって知ってるから。正室は私だから。絶対に。そう、正室は私。あの子は第二夫人……」
(重ッ!! 悪役令嬢じゃなくてヤンデレ令嬢じゃん!!)
「ねぇスカイ。今日、婚約破棄するんでしょ?」
「何で分かるの!?」
「女の勘」
「勘すげぇな?!」
「でもね、だーめ。婚約破棄なんて許さない。絶対に正室は私。正室は私。正室は私…………」
(あ、これ……シナリオ通りに進むやつじゃなくて刺されるルートでは……?)
嫌な汗をかきつつ、僕は夜会の時間を迎えた。
***
無駄に巨大なシャンデリアが輝くパーティー会場。もう……材木くらいしか資源が無い貧乏国家の癖に見栄だけは張るんだから……そんなのだから民衆から税金の無駄使いって叩かれるんだぞ。
(ま……脚本通りに婚約破棄を宣言して、もう、さっさと物語を終わらせよう……それで僕は読者から嘲笑われて人生終了。来世に期待しよう)
深呼吸し、僕はレベッカに向き直る。
「レベッカ・シューティングスター嬢。僕は――君との婚約を――」
「スカイ王子ーーッ!!!」
夜会会場の扉が爆音と共に開き、ピンク髪ツインテールの男爵令嬢アリスが突進してきた。……おい待て、今扉爆発しなかったか? 特殊部隊の突入シーンみたいな感じの音したぞ。
「殿下!! 婚約破棄なんか絶対に許さないよ!!」
「……え?」
「……あ、浮気相手のアリスじゃん……」
レベッカの声も低温である。空気が凍る。
だがアリスは叫ぶ。
「婚約破棄なんかしたらぁぁぁぁぁぁ! 私の推し活がぁぁぁぁぁぁ! 出来なくなるじゃないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「推し活!?」
「そう! 私はあなた達カップルを推してるの! レベッカは正室! スカイは推しカプの旦那様なの!! 私が殿下と関係をもったのも、あなた達を! 第二夫人として! 最も近い位置で眺める為の布石!!」
「理由そこ!? 僕と関係持った理由がそれ!?」
アリスは涙目でわめく。
「スカイとレベッカは幸せになるの! くっつかなきゃいけないの! 破局なんて絶対させない!!」
「私も困る……破局なんてされたら泣いて暴れる! ここでAK-47を乱射する!!」
おもむろにドレスのスカートの中から、特徴的なバナナマガジンのアサルトライフルを取り出すレベッカ。いや、そのドレスどういう構造になってるの?!
「その時は私も乱射するよ。AK-47を!!」
いつの間にかアリスも手にはアサルトライフルを手にしていた。いや、どういうことなの?!
「AK-47!? 婚約破棄ものに出てきてはいけない単語ワースト1位だよ?!」
「「護身用です」」
「貴族令嬢の護身用にしては物騒すぎる!?」
「「しかもフルオートで乱射する!!」」
「フルオートで?!」
会場も「えぇ……」とざわつき始める。いや、まじで初めて見たよ、AK-47が出てくる婚約破棄もの。
「スカイ、婚約破棄なんてしないよね?」
レベッカがすっと寄ってきて、僕の胸倉を掴む。手にはAK-47。怖い!
「そうだよ! スカイの意思なんて不要だよ!」
アリスは僕をがっちりと羽交い絞めにした。
「僕の意思不要なの!?」
息のあったコンビネーションで二人に両面を固められ、僕は身動きできなくなった。さながらガンダ〇Xに出てくる双子のラスボスの様な見事な連携。……お前らほんとは仲良いだろ?!
「ほら、スカイ。逃げないよね?」
その言葉と同時に――
レベッカが僕の顔を引き寄せ、そのまま強引に唇を重ねた。
「――!?」
会場騒然。
「推しカプ成立です!!!!!」
アリスは大拍手。
(……待って)
(この物語……)
(婚約破棄ざまぁじゃなくて、もしかしてギャグ短編!?)
「当然でしょ?」
とレベッカ。
「この世界は『推し活男爵令嬢が王子と悪役令嬢をくっつける話』だよ!」
とアリスが胸を張る。
「そんなジャンル聞いたことないんだけど?!」
* * *
こうして僕は――本来なら断罪されるはずの夜に、なぜか婚約破棄を回避し、正室とキスし、推し活男爵令嬢(浮気相手兼将来の第二夫人)に祝われるという謎すぎるハッピーエンドを迎えた。
なおアリスは第二夫人として、勝手に僕たちの人生に付いてくるらしい。恐らく一生ついてくる。なんだこいつ……(困惑)。
――完――
元ネタはギャ〇マンガ日〇です☆
読了、お疲れさまでした。これにて、本作は完結です。
よろしければ、ページ下から評価していただけると嬉しいです。作者が喜びます。
コメント、ブックマーク、誤字脱字報告もよろしくお願いいたします。




