ハンドレッド編その6・尋問
Side 森住 龍一
=夜・日本橋付近のビルの一室=
大阪日本橋のビルの一室。
その最上階。
ガーディアンズの隠れ家の一つ。
そこにワケも分らず連れ込まれた森住 龍一。
身体の調子はとてもいい。
ベッドに拘束されている以外は特に不満点はない。
眼前には谷村 亮太郎がいた。
おかっぱ頭で飄々とした態度でナヨナヨシテいて、何を考えているのか分からない。
それでも漫画に出て来る正義の味方のように言うべき事は言う。
そんな奴だった。
「ベッドに拘束させてもらった。スマホも没収だ」
「お前―—俺を助けたのか?」
「ああ。流石に目覚めが悪くなると思ってね」
「そうか——」
お互い憎み合っていた間柄だ。
分かっていた事だった。
中学時代までは憎んでいたしやり返してやろうと思っていた。
ハンドレッドでそこそこの地位に上り詰めたら大人数で復讐してやろうとも思った。
だが今はもうそんな気持ちは起きなかった。
「俺は——ハンドレッドから逃げた。最初はお前の名声を利用して、上手く行ってた。だけど気が付いたら抜け出せないところまで来ちまった」
「まあ、そんなところだと思ったよ」
「俺はどうなる?」
「ハンドレッドを潰すのは既定路線だ。その辺は心配しなくてもいい。まあ内容が内容だから、リーダーの赤霧 キョウヤに全ての罪を擦り付けて被害者ムーブをかませば大した罪にもならないだろう」
「そうか……」
「複雑な心境だけどハンドレッドの知ってる事は洗いざらい全部喋って貰うぞ。」
「やっぱそうなるか」
「まあお前を処分しようとしたグループに恩義を感じてるならそれでもいい」
「え?」
そう言って亮太郎は手錠を外した。
「松村 サトシって覚えてるか?」
「あ、ああ……全裸にされてハチの巣にされたって……」
「アイツの葬式に行ったよ」
「え? でもお前、アイツの事嫌いだったろ?」
「ああ、嫌いだったよ」
亮太郎は言葉を続ける。
「死んでまで人様に、親にまで迷惑かけて、どうしようもない奴だった。実際、あいつのせいで松村の両親は家庭崩壊して、両親もアイツがやらかしたせいで死にかけたのを見て来た」
「そうか……」
「松村の両親とかもそうだったが、君の母親とも親しくてな。何度か君の事で相談された事はあるよ」
「何て言ってた?」
「どうしてあんな風に育ってしまったのか自分でも分からない。もう勉強しなくてもいいから、せめて人様に迷惑を掛けず真面目に生きて欲しい——色々と限界だったんだよ君の親も」
「……」
森住 龍一は思い出す。
自分の母親のこと。
何度も何度も叱られた。
最近は言葉を交わす事もない。
何も言わなくなって清々したと思っていたが。
急に母親が愛おしくなって、怖くなった。
「……俺は」
亮太郎は無言で席を外した。
☆
Side 谷村 亮太郎
=社内廊下=
亮太郎は一人考える。
松村 サトシは全裸で全身ハチの巣にされるような人間だったのだろうかと。
もうなってしまったものは仕方ない。
実際、松村 サトシはとんでもない悪だった。
一度助けたとしても、何時かは似たような末路にはなっていただろうとは思う。
だけど本音では、心の奥底で自分は松村 サトシを助けたかったのではないかとも思ってしまう。
(やっぱ変わってしまったのかな、自分は)
自嘲する亮太郎。
「おい、あの——」
森住 龍一がドアから出て来た。
言葉が上手く切り出せないでいるが迷ってる様子はなかった。
「俺は、もうハンドレッドとは縁を切る」
と言って続けて言葉を切り出した。
「あいつらは人を人だと思っちゃいねえ。頭のネジが何本も飛んでるイカれ集団だ」
「リーダーの赤霧 キョウマが言うには、関西でこれ以上上にのし上がるには大阪日本橋を地獄に変える必要があるって聞いた」
「それは本当か?」
この期に及んで嘘は言わないとは思うが念のため確認を取る。
「酒飲んで、ドラッグ決めてハイになってた時に皆口々に言ってた。それに本当かどうかは分からないが自衛隊を名乗ってる連中がそんな事言ってた」
「自衛隊?」
「本当に自衛隊かどうか分からないが、昔のアクション映画に出て来そうな厳つい装備に身を包んでいた。ハンドレッドで出た死体の処理とか任されていた」
「死体の処理ね」
「分かるだろ? ハンドレッドもヤバいが、つるんでる連中もヤバいんだ」
亮太郎が以前の事件で潰したフューチャーテックやハウンド警備会社の残党か、まだそう言うどす黒い闇の組織が蠢いているのか。
現段階では判別がつかない。
「こっちからも質問だ。ハンドレッドは派手に動いているみたいだが心当たりはあるか?」
そう言いながら亮太郎はスマホの画面を通して琴乃市のショッピングモールで起きた事件を見せる。
特に部下の怪人を吸収して始末した所を見た時は、目に見えてショックを受けた様子だった。
「さっきも言ったが、ハンドレッドは日本橋を地獄に変えようとしている。あのカード——デビルズカードって言うらしい。あれを使って拳銃や麻薬の代わりに高値で売り捌いてこの国を牛耳るつもりらしい」
森住を巨大な龍に変えたあのカードを大量にばら撒いて悪事を行う。
まるで特撮物のテンプレートのような状況だ。
「あのカードでこの国をね」
確かにやりようによっては可能だろうが、そのためには性能を世間に知らしめるデモンストレーションや実績が必要だ。
今迄以上に派手に暴れるつもりなのだろうと予測する。
「俺が知っているのは本当にこれぐらいだぞ?」
「色々と疑問点はあるが、いいだろう。後は好きにしろ」
亮太郎は素っ気ない態度で森住を解放した。
当然監視はつくだろうが。
「なあ、お前戦うつもりなのか?」
「その通りだけど?」
「分かってるのか? ガキのケンカじゃねえ。この国を敵に回すかもしれないんだぞ?」
「どの道敵の標的には僕やシノブも入ってるんだろう? なら潰される前に潰すしかない」
フューチャーテック事件や少女A事件もそうだった。
今回もそう言う事件だったと言うことだ。
「お前も大概イカれてるな」
「まあな」
と、返して行動を開始する。
北川 舞と連絡を取って互いの段取りを確認するか迷う。
そんな時に探知スキルが引っかかる。
亮太郎は舌打ちした。
同時にスマホのアラームが作動。
ビル内で警報が鳴り響く。
「どうやらこの場所を気づかれたみたいだ」
「この場所って―—俺を殺しに!?」
「それもあるかもしれないけどね」
とにかくビル内でじっとしてるワケにもいかない。
爆発が起き、建物が揺れ、幼い子供の様にビビり散らす森住。
相手のやり口は正直イカれている。
このままだとビルもろとも吹き飛ばされかねない。
亮太郎はビルの外へと脱出する事を決断する。




