ハンドレッド編序章その3・たこ焼き屋への襲撃者。
時間は少し遡り――
Side 工藤 怜治
茶色い髪で長い背丈にしっかりした体格。
誰もが「スポーツをすれば世界を目指せる惜しい逸材」と言われる程の身体能力を持つ高校生、工藤 怜治。
そんな彼は休日の日本橋に繰り出していた。
=昼・大阪日本橋・オタロードにあるたこ焼き屋=
相変わらず人で賑わうオタロード。
もう少し時間が経過したらこの通りもコンカフェの呼び込みだらけになるだろう。
工藤 怜治はオタロード内にあるたこ焼き屋に顔を出していた。
ソースの濃い匂いが充満した、ちょっと狭苦しい憩いの場。
メイド喫茶ストレンジは、メイド喫茶なので顔を出しにくいという人はたこ焼き屋に足を運び、色々と日本橋絡みのアレコレについて情報交換をするらしい。
「聞いた? デビルズカードの話?」
「聞いた聞いた。前々からあったらしいけど、一気に流行りだしてるみたいだね」
「拳銃じゃなくてカードだからね。それも人を化け物に変えるような。法的にどう取り締まればいいのやら」
「国があんなザマじゃ、法整備が整う頃には大勢死人が出るよ」
「野生の熊をどうするかでも決断出来ないのに、人間相手にどうこう判断できるわけじゃないよ」
「辛辣だね」
今もっともホットな話題はデビルズカード。
特撮世界から抜け出してきたかのような悪魔のカードだ。
そのカードを使えば誰でも超人のようになれるが、理性を失っていき、怪物その物になってしまう。
それを分かっていながら世の中の悪党どもは好き放題にしようしている。
(胸糞悪い話だ)
工藤 怜治はどう足掻いても不良だ。
例え正当防衛だろうが、相手がどうしようもない屑であろうが、自分自身の事をそう思っている。
「怖い顔すなや怜治」
「藤波さん……」
オレンジ味がある逆立った髪の毛に赤いバンダナを巻いている。
顔立ちは鋭い瞳で姉御肌、野性味が感じる、どちらかと言うと女性受けしそうな顔だ。
服装はカジュアルかつラフで首回りや肩回り、へそ回りを露出したオープンショルダーの白いキャミソールに黒のホットパンツで、グラマラスな肉体をアピールしている。
名前は藤波 リカ、このたこ焼き屋で働いており、何でも屋の仲介とかもしている。
「リカでええ、言うとるやろうが。まあええわ。まさか生身同士で路上で殴り合う時代が懐かしくなるとは思わんかったわ」
「藤波さん……じゃなくて、リカも知ってるんですか? デビルズカード?」
「知っとるよ。チームから身を引いたけど、今でも仲間は大切に思っとる。だからあの二人――シノブと亮太郎には足向けて寝られへんのやけどな」
と言う。
彼女も色々とあったのだろう。
たこ焼き屋で働く前は名の通ったケンカ屋だったが、ある人物の死がキッカケで今に落ち着いたと聞いている。
「それでどうするん? 相手は警察でも歯が立つがどうか分らんような奴やで? ガキのケンカやすまへんよ?」
「そう言われても、向こうから襲い掛かって来る以上はどうにかしないとダメだろう。一方的にやられて死ねって言うのも間違いだろうし」
「まあなぁ……やられたらやり返すのは短絡的ではあるけど、そうせなあかん時もあるからなぁ。誰も彼もがお利口さんやったら警察の仕事も楽やろうに」
気楽に今時関西人でも使わないようなコテコテな漫画の関西弁で喋る藤波 リカ。
何だか辛そうな顔でたこ焼きを焼いていた。
「フューチャーテックや少女A事件の時もそうやったけど、どうしてこうダメな人間に限って権力とか財力とか持ってまうんかな」
「……ああ」
工藤 怜治は少女A事件に関り、この国の腐り具合と言う奴を見てしまった。
自らの自己保身や権力のためなら街一つを焼き払うような連中が権力を握っている有様。
最近勉強し直しているが、日本の法律と言う奴は権力者の暴走を防ぐために権力を分散させているのではなかったのか。
(結局のところ、人間が統治する限りどうしてもそう言う風になっちまうんのかな)
今の日本より酷い国は数多く存在し、十年後の未来よりも今日の飯しか考えられない国は存在する事は怜治も知っている。
だけど日本を良くしていこう、悪い所を直していこうと言う行為は誰にでも権利はある筈だ。
「シノブと亮太郎って凄いんですね」
「まあな。何でか仮装して戦ってるけど、あいつらの戦っているステージはウチらとは全然違う。子供のケンカとは違う、正真正銘の殺し合いの世界に身を置いとるわ」
リカは言葉を続ける。
「ウチも考えたんよ。自分の仲間をそう言う世界に巻き込むんちゃうんかって。何時か、取り返しのつかんような、今のハンドレッドみたいになるんちゃうかって思って」
彼女は苦悩の一端を明かす。
「それが正解やったかどうかは分らんけどな」
リカは作り笑いを浮かべる。
「おい!! 工藤はいるか!?」
ここでチンピラの野太い声が響いた。
怜治は舌打ちした。
最近は収まっていたが、時折こうして自分を倒して名を挙げようと言う連中が出て来る。
素手でのタイマンは珍しい。
大抵は武器で多人数。
目の前の輩もそう言う連中で背後に何人も控えている。
(話し合いで済む雰囲気じゃねえな)
などと思いつつ代金を置いて店から出ようとする。
この店の入り口は一つ。
狭いし今更裏口からコッソリと出れる感じでもない。
警察に任せてもいいが、怜治の野性的な直感が警察来ただけで引っ込みそうもない感覚が訴えていた。
相手の様子はヤバい薬でも決めてるのか興奮気味の様子だった。
穏便に済む事はまずない。
「分かったから場所を変えるぞ」
そう言って強引に戦う場所を変えようとする。
せめて店や客は巻き込みたくはなかった。
「俺に指図すんな!!」
「ッ!!」
構わず手に持ったバットを振り下ろす。
店の客を庇う様に、怜治は身を挺して攻撃を受け止める。
「テメェを袋にしたら、その後は藤崎や谷村だ!!」
調子づいた男は何度も何度もバットを振るう。
笑い声を上げるチンピラ達。
怜治は片手で、左腕で受け止めた。
「あぇ!?」
「場所を移すぞ。ここじゃいい迷惑だ」
「ッ!?」
バットを握力だけで握り潰し、上下に吹き飛ぶ。
そして大ぶりな力任せの893キックをかまして吹き飛ばした。
「やっぱりアレを使うしかないか!!」
「おおっ!!」
そう言って黒く禍々しいカードを取り出す。
何らかの人体改造をしているのか、それともそう言う仕様なのかカードを体内に装填。
怪人に変貌した。
「デビルズカードか!?」
怜治は怪人とやり合うのはこれが初めてではない。
宇宙犯罪組織のジャマルの戦闘員や怪人と戦った事がある。
変な空間に戦う場所が移って、巨大化されるまでは優勢。
わりと本気で、殺す気で殴ったりしてたが丁度良いぐらいだった。
その時の相手はゴリラ型で口から火とか吹いてた。
(今回はエビとワニか?)
エビとワニ。
無理矢理人型にしているせいかアンバランスな感じになっている所もある。
宇宙犯罪組織ジャマルの怪人は昭和寄りのデザインだが、此方は大分平成寄りのある程度スタイリッシュな外観をしたフォルムになっている。
他の連中も頭部だけが変異——黒いマスクの上に赤いアイマスクを付けたような外観になっていた。
「俺は特撮ヒーローじゃねえんだぞ」
そう言って怜治はエビの怪人に殴りかかった。




