魔王討伐談義
Side 藤崎 シノブ
=琴乃学園・教室=
おかっぱ頭の黒髪の少年、谷村 亮太郎は意気消沈していた。
先日、洗脳したフリをして周囲に多大な迷惑を掛けて、それで謝罪行脚して流石に疲れたのか机に突っ伏している。
黒髪ツインテールでスレンダーな女の子、綾瀬 リリが傍で「大丈夫か~?」と心配そうに声を掛けていた。
「あの人でもああなる時あるのね」
長い黒髪で規格外の爆乳の背のある出る作品のジャンルを間違えているような美女、黒川 さとみも不思議そうな顔をしていた。
「最低でも北川さんとか先生にも怒られたっぽいしな、あと少女Aとジェイミーさんとか」
「でも亮太郎の言う事も分るわ。確かにやり方はアレだったけどさ」
「まあな……」
このまま戦い続けると言う事は間違いなく宇宙人との戦いに首を突っ込むと言う事だ。
色々と後回しになっていた異世界での装備の修復作業に着手した方がいいかもしれないが、修復には異世界ユグドの素材が大量に必要になる。
今は学生のご身分と言うのもあるし、腕利きの魔法職人の手も借りなければならない。
☆
=昼休み・屋上=
場所は変わり、屋上。
そこでシノブはさとみと二人きり。
綺麗に掃除が行き届いたベンチに二人並んで座り、弁当を食べていた。
シノブも食べてる物も、さとみが食べている物もさとみが用意した物だ。
本人はこう言うベタな恋愛ラブコメにも憧れていたらしい。
「話題変わるけどさ、シノブってまあ異世界行って魔王討伐したんだよね?」
「うん、楽な旅路じゃなかったけどね」
「でまあ、仮によ? 仮にまた異世界に召喚されてさ、魔王討伐して来いって言われたらどうする?」
「また唐突だな」
「ちょっとクラスでそう言う話題になってさ」
世の中はヒーローブームだが、教室はどちらかと言うとネクプラバトルブームだ。
その火付け役の二人に関しても色々と話題が上がる。
そうした中で、実は異世界帰りの勇者説とか転生者説とか色々な話題が出て来る。
宇宙人が侵略したり、魔法使いのヒーローもいる世の中。
そして日本政府は異世界絡みの騒動で自衛隊に反乱を起こされていると言う世の中。
異世界帰りの勇者設定を信じ始める土壌は出来上がりつつあった。
「まあ、状況によるな。身に一つで異世界で飛ばされたら出来る事は限られてるしな。正直自分が経験した異世界転移はイージーモードだったと思う」
「イージーモード?」
「戦いは過酷だったけど基礎的な文明レベルとかは想像以上に高かったからな。それに言葉も通じたし」
「異世界ユグドって飛行戦艦とかロボットとかある系の世界とかじゃないわよね?」
「流石にそこまではない。そもそもそんな技術遭ったらサウラスや裏切った賢者ヘリオスが即刻潰してるよ」
「今なんかサラリと重大な情報でたわよ? 裏切った賢者ヘリオスってなに?」
さらりと投下した衝撃の真実にさとみは興味を惹かれた。
辛そうな表情をして、その時の事を思い出すかのようにシノブは言った。
「サウラスと同じ思想の賢者がいたんだ——異世界に来たばかりの俺や谷村さんを色々と手助けしてくれてさ。だけどサウラスの内通者で……世界観がまるで違う機動兵器作ってたけど、どうにか倒せた。今にして思えば急ぎ過ぎて、抱え込み過ぎたんだ」
「そんな人が——」
裏切り者とは言うが深い関係だったのだろうか。
その時の状況を思い出すかのようにシノブは言う。
「シリアスな空気身に纏ってて申し訳ないんだけど、サウラスの思想って何なの?」
「世界平和の実現」
「へっ? 世界平和?」
サウラスは魔王だった筈だ。
そして異世界ユグドに置いて世界的な脅威だった筈。
その理想が世界平和を実現するとはどう言う事だろうか。
メタ的に言えば、今風の設定の魔王とも言えるが。
「ああ。だから谷村さんも、俺も、サウラスの理想に共感していた部分はあった。だけどサウラスの理想って、人類や文明を一定レベルに間引きして永遠に存続させるって方法だったんだ」
「それって―—」
まさかの真実にさとみは絶句する。
WEB小説とかの話ではない。
シノブが本当に経験した異世界での話だ。
「そんなのキリがないじゃない!? 永遠に生きて永遠に人類を大量に殺し続けるなんて——」
「それをサウラスは本気でやったんだよ」
「狂気ね。どうかしてる」
「そう。どうかしてるよ」
そう言ってシノブは空を見上げる。
「どの道、いつかまた異世界ユグドに戻るつもりだよ。無茶な帰還の仕方したから、どうしても帳尻合わせで暫く帰れないんだけどね」
「それってどう言う——」
「女神様の力を動員して、異世界に戻るだけでなく、異世界に転移前の時間軸に戻してもらったんだ。そこまでしてもらう必要はないかなと思ったけど、さとみを救えたし、地球も救えたし、結果的にこの判断は正しかったと思う」
「そ、そう」
顔を赤らめて顔を反らすさとみ。
だが確かにシノブが言うようにそうしなければさとみは須藤 勇也達の餌食になっただろう。
もしかしてメイド喫茶の人達とか、闇乃 影司とかに助けてもらえたかも知れないが、それはIFの話でしかない。
「メイド喫茶の店主がどうして僕達の冒険を知っていたか、疑問点はあるけど——まあ未来予知とかそう言う類の魔法でも使ったりして覗き見たんじゃないかな?」
「便利ね、魔法」
強引な推理だが強ち間違いでもないかとさとみは思う。
「だけどやっぱり無茶な期間方法だったと俺は思う。時間軸に干渉するって、もうタイムマシンとかの領域だからな」
と言うがさとみはふと疑問に思う事はあった。
「結構な期間、異世界を旅したっぽいけど外見あんま変わってなかったわよね? まあ体育の授業で鍛えられた体は判明したみたいだけど」
「異世界でレベル上げると寿命が増えたり、若返ったりするらしい。だから異常に若作りの人が多い。それに魔法が万能すぎて地球の怖い病気はある程度強引に治せるからな……」
それを聞いてさとみは瞬時に頭を下げた。
「異世界に是非連れて行って鍛えてください!」
「決断早っ!?」
さとみの決断にシノブはちょっと引いた。
「でもどの道今すぐは無理だぞ? 強引に帰還したせいで通路に乱れが生じて帰るに帰れないんだよ」
「それにサウラスとヘリオスが地球からの援軍を呼べないように細工してたらしいから、異世界から助っ人を呼ぶとか出来ないんだ。逆に異世界を旅している時、他の世界から助っ人を呼ぶ事も出来なかった」
「成程―—そう言う事情があったのね」
「仮に地球から助っ人呼ぶ事が出来たとしてもサウラスが本気モードになって即刻潰しに来てた恐れがあるから結果的には良かったけど」
「じゃあどうしてシノブや亮太郎は異世界に——って、もしかして裏切った賢者が関わっていたの?」
ある疑問が湧いたが答えは先に提示されていた事にも気づく。
「正解だ。二人とも未来予知してそうなる様に仕向けていたんだと思う」
「それじゃまるで自分達が倒される事前提に物事進めて——もしかして」
ある考えがさとみの中で思い浮かんだ。
「ああ、その通りだ。サウラスもヘリオスも―—確かめたかったんだと思う。それに疲れてたのかもな——今となっちゃ分かんねえけど、最終決戦を引き起こして、玉座の間で俺達と戦ったのが答えなんだろうな」
「何か凄い話聞いちゃったわね……」
「何かごめんね? やっぱ誰かに聞いて欲しい気持ちもあったみたいでさ」
「うんうん、いいのよ。正直明かしてくれて嬉しかったかな~なんて」
さとみは顔を真っ赤にして気持ちを誤魔化すように変なテンションで口走る。
「そうそう。話を戻そう。異世界に飛ばされたらどうするかの話よ」
慌ててさとみは話の軌道修正をした。
「結局のところ、異世界の状況によるってのが答えだと思う」
「むやみやたらに手を差し伸べて助けるってのも問題と思うけど、その助けを躊躇って人の犠牲を許容するってのも間違いだと思う」
「そう——何か軽い気持ちで尋ねたけど、倫理とか道徳の授業みたいになってるわね」
「ごめん。ついな——」
「うんうん。事情を知ってて気軽に尋ねた私が悪かったわ」
シノブの旅は楽しいだけの旅では無かったのはさとみも何となく感じていた。
だけど色々あって、シノブの本気の戦いを見たり、決断を見たり、自分も戦ったりして少し理解できるようになった。
それでも全体の10分の1かそれ以下なのだろうとも、さとみは思う。
「ありがとうな。色々と気を遣ってくれて」
「うん」
「話の結論は、結局のところ出たとこ勝負なのかなと思うよ」
話していてシノブは異世界の冒険を思い出す。
辛い事も沢山あった。
だが楽しいと思える事も沢山あった。
野郎同士でつるんでバカやったり、女に迫られてドギマギしたり、亮太郎とケンカしたりもあった。
異世界ユグドに戻った時、自分はあの世界にどう言う風に恩を返せるのだろうか。
そもそもそれは余計なお世話だろうか。
分からない事だらけだが、また仲間達に会いたいとは思っていた。




