最強の敵は谷村 亮太郎 その2(完)
Side 藤崎 シノブ
=I市駅前広場=
そこでは既にガーディアンズの面々が隊員を配置していた。
長い黒髪、大人びた顔立ちで胸も大きくスタイルが良い美女、北川 舞と二人になる。
「上の方から指示が飛んだ時は耳を疑ったよ。まさか洗脳されるとは―—」
「ええ——」
舞の表情は険しい。
相手が相手だ。
頭の中で幾つも最悪の想定をしているのだろう。
「周辺は色々と理由をつけて封鎖した。話の通りならガーディアンズどころか、地球の人間であるのならば全員谷村 亮太郎には勝てないだろう」
「ええ。ですが俺達はまだ生きています。そして谷村さんと戦った妹さんやエンジェリアも生きていました。希望はあります」
「それに懸けるしかないか——」
「一番友好的なのは遠距離からの飽和攻撃でしょうか。最悪核兵器すら凌いでくる可能性すらあります」
「分かった。だがそれは最終手段だ。それよりも本当で一人でいいんだな?」
北川 舞は最終確認をした。
「はい。僕意外で彼に勝てる可能性があるのは闇乃 影司か、彼と互角以上に渡り合える大宮 優さんって人ぐらいですかね? とにかく戦闘能力が桁違いです」
「……そうか。ガールフレンドに言葉は掛けなくていいのか?」
黒川 さとみの事だ。
シノブは首を横に振る。
「それも考えましたが、あまりパニックを広げるつもりもありませんから」
「勝つつもりでいるのか?」
「そうしないと世界は救えないのなら」
そう言ってシノブは亮太郎がいる異空間の入り口へと向かった。
本当ならば全身鎧のガチガチの装備で身を固めるつもりだったが、本来使っていた装備の殆どはサウラスとの決戦で大破したり機能を失ったままだ。
心許ないがやるしかない。
☆
=異空間内=
薄暗いドロドロとした空間。
見渡す限りの荒野。
そこに谷村 亮太郎らしき存在がいた。
逆への字型の頭部。
ツインアイ。
赤いマント型バインダー。
ロボットアニメ、ガンネクファイターズのGマスターにソックリな外観だ。
身に纏う威圧感、そして鋭く冷徹な殺気。
魔王サウラスに匹敵するかそれ以上か。
「!!」
アイテムボックスから光り輝く聖剣、シャイニングブレードを取り出し背中を守るように刀身でガード。
相手の拳が突き刺さった。
一瞬で距離を詰めて、背後を取った。
大地が揺れ、大気が振動する。
スグに亮太郎は姿を消し、分身を作って周囲を高速移動。
魔法による質量を持った残像。
それが次々と襲い掛かって来る。
真正面、左、右、背後、正面——銃弾の数倍以上は軽く超えている速度だ。
「ツッ!!」
そして分身諸共大爆発が起きる。
空中で静止していた亮太郎が光線技で自分の分身諸共吹き飛ばしてきたのだ。
軽くキノコ雲が起きた。
周囲は煙に包まれるが——
『ッ!?』
亮太郎の背後からシノブが斬りかかる。
手には紫色の雷光を身に纏う脇差サイズの刀剣、紫電が握られていた。
それを右手で、禍々しい紫色のオーラを纏いながら受け止める。
瞬時にシノブはサイコキネシスで吹き飛ばす。
吹き飛ぶ亮太郎。
地面に激突する寸前で姿を消す。
「マズイ!?」
亮太郎はシノブより高い位置の空の上にいた。
凄まじい速さで亮太郎はシノブの周囲にサッカーボールサイズの光弾による包囲陣が形成していく。
「クッ!!」
全方位同時にシノブの方へエネルギー弾が飛び込んでいく。
回避不能の攻撃。
眩い大爆発が起きたが——
「でやぁああああああああああ!!」
『ッ!?』
シノブはテレポートの魔法で瞬間移動して亮太郎に脇差サイズの日本刀、紫電で斬りかかった。
亮太郎は——大爆発を起こした。
「クソッ——ダミーか」
咄嗟に逃れたが少し爆風を受けたシノブ。
先程攻撃したのは谷村 亮太郎の姿をしたエネルギー爆弾だ。
戦いはシノブが押され気味ではあるが全体を通して見ればまだ勝敗は分からない。
それに勝機もあった。
☆
Side 谷村 雪穂
「無理してコッソリ中に入ったけど、なんつー戦いしてるのよ……少年誌の漫画じゃないんだから……」
水色髪になり、フリフリとした露出がるドレス姿に変身して両者の戦いを眺める雪穂。
大気が荒れ狂い、大地が揺れ、地形が崩壊していく。
戦いの次元が自分達が経験して来た物とは次元が違う。
下手に介入したら逆にシノブのピンチを招く。
変身していてもこうして遠くから眺めるのもやっとだ。
「どうすんだ雪穂!? 戦いのレベルが違い過ぎるぜ!?」
アクアが呼び掛けるが雪穂はと言うと、
「とは言っても今更引っ込みがつかないし、この戦い見届けてやるんだから」
と、最後までエンジェリアとして戦いを見届ける気満々だ。
☆
Side 北川 舞
=I市駅前広場=
「化け物だとは思っていたが互いに想像以上の化け物だったな……」
何とか異空間内の様子をモニター内で眺める。
戦いの余波か、異空間へと繋がる亀裂が広がり続けていた。
揺れが起き続けている。
モニターの映像も断続的で何台もドローンを突っ込ませて情報を把握しているが、分るのは藤崎 シノブとロボットみたいな姿になった谷村 亮太郎が前人未到の全開バトルをしていると言う事だ。
それも超スローモーションにしてやっと何してるのかボンヤリと分るレベルで。
ガーディアンズの職員は皆絶句している。
舞も思考放棄したくなった。
(このレベルの人間がこの世界にまだ存在していて、異世界の戦いのレベルもこのレベルだと言うのか——)
少なくともこのレベル——闇乃 影司と大宮 優はこのレベルだそうだ。
そして彼達が戦った異世界人の戦闘レベルも想像以上だろう。
今日本が関わっている異世界のレベルはこのレベルではないのが幸いか。
でなければとっくの昔に日本は異世界人の手で陥落している。
(うん?)
戦いの様子が変だ。
目に見えて段々と勢いが無くなって来ていた。
☆
Side 藤崎 シノブ
=異空間内=
何度も何度もぶつかり合った。
今は互いに敵同士。
ぶつかり合う度に前へ、より前へ進んでいくような。
そんな気持ちになった。
だが、そんな楽しい時間も終わりだ。
それに今回の一件の真相も何となく分かった。
だけど今は、シノブはあえて言わなかった。
「お帰りなさい、谷村さん」
卵の殻が割れるかのように漆黒のロボットの体が割れて、元の谷村 亮太郎の姿に戻った。
亮太郎の力に闇の力が耐え切れず崩壊したのだ。
周囲を見渡すと空間に穴が開いてI市の光景が見える。
大地はまるで戦争でも起きたかのように穴だらけだ。
「ああ、ごめんね。シノブ君」
泣いている亮太郎にシノブは一礼した。
そして空間が消滅していく。
元のI市に戻った。
ガーディアンズの面々は戸惑いを隠せない表情だった。
元の姿に戻った谷村 雪穂は亮太郎に近づいて一発ぶん殴った。
手首を捻ったのかその場に倒れ込んで右手首を頭の上にあげてプルプルと震わせていた。
「異世界での事とか、洗いざらい全部説明してもらうからねバカ兄貴!!」
「分かったよ。雪穂」
「ふん——」
顔を赤らめ、素っ気ない態度を取った。
☆
=夜・I市の病院の屋上=
時間を置いて、藤崎 シノブは真実を確かめるために病院の屋上へ谷村 亮太郎を呼び出した。
人払いの結界や探知スキルなどを使用し、周囲の安全は確保してある。
「谷村さん。あの戦い、演技だったんでしょ?」
「あ~やっぱバレてた?」
「バレバレですよ」
と、シノブは苦笑いした。
「場の流れもあったけどね」
今回の一件はダーク・セイバーズを利用した谷村 亮太郎の芝居だったのだ。
場の流れと言う単語も真実だろう。
意識を乗っ取られたのは本当かもしれないし、もしかすると洗脳に抗っていたのかもしれない。
だがそれは確かめようのない事だ。
「やっぱり妹さんに試練を与えるつもりだったんですね」
亮太郎は渋い顔をして「まあね」と返した。
「エンジェリアとして戦うと言う事は本人の意思に関わらず、ジャマルや恐怖の大王絡みの、さらに僕達にとっても想定外の事件にも巻き込まれて、騒動の中心に踏み込んでいくと言う事だ」
複雑な気持ちなのか、亮太郎は辛そうな顔をしていた。
「それにこの先、僕達もパワーアップする必要があると思ったのもある」
「…………」
シノブは考えて、慎重に言葉を選んだ。
「まあ、異世界での仲間達に平和な生活で腕が落ちたとか思われたくありませんし、丁度良かったかもしれませんね、今回の事件」
「ありがとう」
「でもちょっとムカついたし、色々と言いたい事もありますし——本音を言うと俺も谷村さんの妹さんに習って殴ろうと思いましたけど」
「?」
「天川さんやジェイミーさん、綾瀬さんには真実話しておきますね」
「そっ、それは——」
谷村 亮太郎の周りにいる女性達。
現役アイドル、女子レスラー、クラスメイト。
その三人にだけ今回の事件の真実を告げる。
それが亮太郎に一番ダメージを与えられる方法だとシノブは思った。
「後は妹さんとか愛坂先生とかにも話しておきましょうか?」
付け加えるように亮太郎の妹や担任の名前も告げた。
「……っ、君の判断に任せる」
苦虫を噛み潰したように、覚悟を決めて返事をした。
☆
後日、谷村 亮太郎は妹の雪穂を含めてI市にいるエンジェリア達に特訓を施す姿が確認出来た。
過度なパワーアップは行わず、基礎的なトレーニングから始めつもりらしい。
それと北川 舞や妹、エンジェリアの面々に頭を下げて真実を話したそうだ。
エンジェリアの面々からは許されたが、北川 舞からは「頃合い見てこき使ってやる」と脅されたようだ。
あと学校の担任、愛坂 メグミにも事情を話して怒られたらしい。
そう言えばと宇宙刑事リリアとレッカ達は今頃何をしているのか、宇宙で何かあったのかな? と弟子入りの話を思い出しつつシノブもまた鍛錬に励むのであった。




