谷村 亮太郎、修羅場の危機?
Side 天川 マリネ
天川 マリネ。
茶髪の髪の毛。
垢抜けて大人びている整った顔立ち。
抜群のプロポーションにスタイル。
ある種の女の子理想像。
人気アイドルTwinkleのセンター。
現在は休業中だが学業にレッスンに恋に大忙し。
最近大事件が起きて、中学時代のクラスメイトの谷村 亮太郎と芸能事務所公認の仲になった。
異世界帰りの勇者らしく、他にも女がいるらしい。
更にクラスメイトの黒髪のツインテールの小柄な女の子、綾瀬 リリ―—彼女も谷村 亮太郎を狙っているらしい―—からある情報を得た。
=昼・メイド喫茶ストレンジにて=
メイド喫茶ストレンジ。
オカマのメイドのワンさんは再び席を外して旅に出たらしい。
アルバイトしていた殺し屋の宇藤 タツヤは前回の大事件の後処理で忙しくてアルバイトにはいなかった。
そんなメイド喫茶ストレンジ。
通常席で二人は話し合っていた。
マリネは垢抜けた黒系のカジュアルなファッション、リリはピンクのフリフリした地雷系衣装に身を固めていた。
議題は亮太郎の女子プロレス趣味についてだ。
「まだ女子プロレス通ってたんだ」
「みたいだよ?」
亮太郎は明るく人懐っこく、トークセンスも良くてクラスメイトの名前は「社会人の基本」として全員覚えているタイプだ。
またかなり重度なオタクであることも周知されている。
今はオタクだからと言って負の感情は向けられない難い世の中なので特に何とも思われていない。
最近は頼れる人間として同じクラスの藤崎 シノブともども頼られるようになっている。
「女子プロレスと言っても最近は性的とかどうとか煩いらしいし、衣装もレオタード型じゃなくて、カッコいい系が主流らしいわよ?」
と、ここでマリネは女子プロレスについて語る。
仕事か何かで調べたのだろうか。
「ジェイミー・ゴードンとかスターマスクみたいなのもいるけどね」
「まあね……」
二人を例に出す。
学生部門の女子プロレス。
学生女子プロレスでプロレスしている二人で人気選手であり、実力も高い。
レオタード型で胸の谷間丸出し。
特にスターマスクの方はとんでもないレベルの爆乳なのでそれ目当ての男性ファンは多いらしい。
「他にも女子格闘技とかの試合とかにも見に行ったりしているらしいぞ」
「女子格闘技の方もカワイイ子多いみたいだしね―—まあそっちも後々問い詰めるとして、ともかく会場に行って亮太郎を抑えるわよ」
と、マリネは決断した。
「会場で抑える意味あるの?」
「亮太郎は口が上手いからね。それに新たなライバルの出現も予測できるわ。と言うかそれ目当てに足運んでる可能性もあるし」
「考え過ぎだろと言いたいとこだけどねえ」
マリネの想像を否定し辛い。
何しろマリネは休業中とは言え、アイドルであり、事務所公認の仲にまでなったのだ。何かの拍子に女子プロレスの選手とそう言う仲になると言うのは十分にあり得る。
☆
=翌日・大阪府内の学生女子プロレス会場・ロビー=
学生女子プロレス会場。
まるで名の売れたアイドルの会場のような大きさだ。
ロビーには会場入りする前の観客で溢れている。
そこに亮太郎はいた。
本気で異世界の力を使って潜り込んではいないらしい。
もしもそうなら素人の自分達二人に発見できる筈がなかった。
「で? どうする? 何時話しかける?」
地雷系ファッションの綾瀬 リリが尋ねる。
周囲は思ったよりも普通。
男性客や女性客、自分達と同い年ぐらいの女の子の姿も大勢見かける。
市民権を得ているらしい。
「うーん。ちょっと試合見てからにしましょうか? ちょっと試合どんななのか興味あるし」
「ネット配信の分とか見たけど、言う程やらしい感じはしなかったぞ? スターマスクみたいな体つきがセクシー過ぎる選手は仕方ないけど。強さも重要だけど試合と観客を盛り上げるのが重要みたい」
「そうなのよね~でも生で見ないと分からない事ってあるから。最近マナーがどうとか言われてるけど、映画は映画館で見ないと分からない事もあるのよ」
「あ~言わんとしている事は分かるかも」
そこでふとリリはある事を思い出した。
「そう言えば亮太郎は映画とか一人で行くタイプだし、誘うのとかどうよ?」
「うん、そうね―—あれ? 私達何しに来たんだっけ?」
何か本筋から脱線しているのを感じてマリネはリリに尋ねる。
「ほら、私達と言う女がいるから他の女にうつつ抜かす様な真似をしてんじゃないって言いに来たんだ」
「そうだった。でもあいつ、ギャルゲーとか普通にやるタイプだし。何ならそう言う同人誌とかも持ってるだろうし――」
「現役アイドルがそれでいいのか?」
SNS全盛の今のご時世、現役アイドルはもっと厳格じゃないと務まらない印象だったがマリネを見てると違うのではないかと、自信の認識を疑い始めるリリ。
自分も大概だがオタク向けチューンがされた聖女ではないかとも思う。
これがオタクに優しいアイドルかと。
「今の時代、ヒロインがやらしいゲームしたりとかそう言う知識とか持ってたりしても受け入れられるもんよ? 何なら最近プレイしたソシャゲのヤバイ奴とかも」
「ああ、もういいです」
想像以上にヤバイ女だったらしいマリネに引くリリ。
そう言うリリも地雷系ファッションしたり、見ようによっては男をとっかえひっかえしていると言われても仕方のない恋愛歴している。
これ以上話すと、何か亮太郎に問い詰める云々以前の話になってきた。
☆
=学生女子プロレス・試合会場=
派手な入場。
煽りV。
実況。
試合。
盛り上がる観客に熱気を帯びる会場。
市民権を得たスポーツらしい。
選手もカッコイイ系からセクシー系。
試合運びも様々だ。
マリネは選手たちの体つきとか見て「あの子達、必死に練習して来たんだろうな」と思った。
「で? 君達女子プロレスに興味あったの?」
と、亮太郎が付けて来た女二人に話しかけて来た。
ある意味勇者である。
「いや、最初はこう言うやらしいのが好きなのかなって思って―—だけど選手達、真剣に打ち込んでるんだねっと思って」
と、顔を赤らめて何故か言い訳をするマリネ。
本来の目的を忘れている。
「本当はちょっと嫉妬して、何か言ってやろうかと思ったんだけどね、亮太郎の事だからそれをダシにして別れ話でも切り出すのかなとか、怖くなったのもある」
マリネのセリフを聞いてリリも「あ~そう言う流れもあるか」と同意した。
「でもまあHな店に通っているってワケでもないし……こう言うの好きな理由とかある?」
「逆に聞くけど君はどうしてアイドルが好きなのか説明できる? 元からそう言う女の子が好きだったって言うのもあるね」
マリネの問いに自分の好みを暴露で返す亮太郎。
「でもまあ、好きなのと本気で付き合うのはまた別問題だと思うよ? 好みとか、考え方が嚙み合わないんだよね。戦うのが好きだったり、男は女に尽くせばいいとか、趣味が合わなかったりとか、その人と一生を添い遂げる事を考えたらねえ?」
「ソレ亮太郎の経験談でしょ」
マリネは苦笑した。
リリは「噂に聞く、異世界での話?」と、此方も苦笑い。
「うん? どうして綾瀬さんが……」
ここで亮太郎はその事を疑問に思った。
「私が話したの」
マリネが明かし、亮太郎は「むやみやたらに、人の秘密を明かすもんじゃないよ」と手で顔を抑えた。
亮太郎としては自分の趣味について黙っていた負い目も感じたので、今回は大目に見る事にした。
「で? どの子のファン? 通い詰めてるんだから気になるこの一人や二人はいるんでしょ?」
ここでマリネは話題を変えた。
「ジェイミー・ゴードンとか。関東の方だと緑谷 千歳とか」
緑谷 千歳は二人も知っている。
黒髪のボブカットで元気そうな女の子だ。
胸も大きく、体も鍛えられていてる正統派の女子プロレスラーだ。
モデルの仕事とか宣伝活動も最近やり始めている。
ジェイミー・ゴードンは有名人と言うか、先の日本橋で起きた二度の大事件でも暴れていた女子プロレスラーだ。
日本橋で外国人は珍しくないが、180cmの整った顔立ちでアニメショップとかに出入りしている体格もよく、胸も大きくて、いざとなれば星条旗柄の胸の谷間とか鍛えられた腹筋丸出しのレオタードで暴れる人は嫌でも有名になる。
ネット上ではガーディアンズ、スターアライアンスのドラフト会議入りしてるとか言われている。
「そう言えば大事件終わった後の打ち上げ会にもジェイミーさん参加していたわね」
思い出したかのように言う。
ジェイミーの容姿は目立つ。
存在感もアイドルの自分と負けてはいない。
それでいて明るく人懐っこい人柄だ。
「そもそも、亮太郎もジェイミーさんも日本橋の人間だし、何かしらの理由で接点あってもおかしくないよな」
「あ~確かに」
リリにそう補足されて、亮太郎とジェイミーに接点があったとしても何らおかしい事はないと分かった。
「そう言えばそのジェイミーさんは? 今回の試合に出てないみたいだけど?」
ふとその事にマリネは気が付いた。
ジェイミーは超人気の花形選手だ。
欠場させる事はまずない。
「オヤ? ここで何してるのカナ~?」
ニット帽にサングラス。
髪の毛を後頭部でシニヨンにした大柄な金髪女性が現れた。
性別は女だろう。そして外国人。
顔立ちと胸の大きな膨らみを見れば分かる。
背丈は高く、体付もシッカリしていた。
「何やってんですか? ジェイミーさん?」
亮太郎は真っ先に正体を看破した。
「私ジェイミーじゃないヨ? ただの通りすがりの女子プロレスラーAダヨ?」
「不審者に見えるからそのキャラ辞めといた方が……て言うかジェイミーさん、やっぱ謹慎食らったんですね」
と、亮太郎は言った。
「ソウダヨ~まあ、あんだけ派手に暴れて特別扱いはナシってコトネ。相棒のスターマスクも同じダヨ」
との事だった。
事件を引き起こしたマリネと亮太郎は何とも言えない気分になる。
「で、その二人が亮太郎の彼女? ヤルネ~」
と、ジェイミーはニヤニヤしながら亮太郎を軽く肘で小突いた。
そう言われてリリとマリネの二人は何とも言えない気持ちになる。
「最近のラノベはハーレムエンド多いし、私も立候補しちゃおうカナ~?」
悪ノリしたかのようにジェイミーが爆弾発言した。
女子二人は「えっ!?」となったが、いの一番に亮太郎が反応した。
「確かに女子プロレスラーの選手としては好きですけどね、真剣に付き合うとなると―—って言うか何でハーレム前提? そう言うの嫌いだと思うんですけど普通?」
動揺しつつ正論をぶつける亮太郎。
ジェイミーの方は笑っていた。
「まあまあ、ちょっとシッカリ話し合おうヨ。ネクプラバトルで語り合った仲じゃナイ」
ここで新たな真実が発覚する。
「ネクプラバトルってどう言う事?」
マリネが首を傾げながら反応した。
「それはダネ、天川サン。亮太郎はネクプラバトルの凄腕プレイヤーナノ。ワタシもネクプラバトルやってるヨ?」
「そう言えば亮太郎ってネクプラバトルやってるって聞いてたけど。そんな凄いプレイヤーだったの?」
綾瀬 リリは半信半疑だった。
だが亮太郎の凄いところ―—主に戦闘機の操縦だが―—は前の大事件で見たばかり。凄腕プレイヤーと言われて不思議と納得は出来る。
ネクプラバトル。
ガンネクスのプラモデルのバトル。
此方も市民権を得た競技の一つであり、世界規模でもある。
「中学の頃からプレイしてたみたいだけど、まだやってたんだね」
思い出したようにマリネは尋ねた。
「プレイ頻度は減ってるけどね」
「じゃあさ、今度一緒にプレイしようよ。お願い」
目を輝かせてマリネは頼み込む。
リリも「私も興味あるんだぞ」と便乗する。
「モテモテネ、亮太郎」
からかうジェイミー。
亮太郎は「本当に何しに来たんだこの二人は―—」と乾いた笑いをした。




