天川 マリネ編その8・ライブ
Side 谷村 亮太郎
=夜・大阪日本橋の事務所=
「いや~大事になったわね。街全体が熱気に包まれてる感あるわね」
などと余裕をかましながら天川 マリネはソファーで寛いでいた。
少女Aとしてルール無用の大乱闘ライブをかます中心人物になるとはとても思えなかった。
「準備はいいの?」
「大丈夫、これでも私はアイドル。こう言う逆境には強いのよ?」
「冗談抜きで銃弾飛んできたり、爆弾投げ込まれたり、毒ガス散布とかもありえる洒落にならない状況だからね?」
「リアルタイムで網膜にモニターとして状況映し出して貰ってる。あと万が一の場合に備えて、軍艦のミサイルでも貫けない魔力式バリアとか持たされてるから」
「……正直、この街の科学技術と魔法技術を侮っていたよ」
自分達も何でもありな所はあるが、この街も何でもアリだ。
もう笑うしかない。
「他にも色々と仕掛けはあるみたい。あと、メイド喫茶の店主から伝言があって―—この程度乗り切れないようならこの先やっていけないでしょ、だって」
「言わんとしている事は分かるけど……」
この街は恐怖の大王が封じ込められている街で宇宙犯罪組織に狙われている街だ。
遅かれ早かれこの街の住民は決断を重大な迫られる。
この程度の試練を乗り越えられないならそれまでと言う考えもあるのだろう。
半分近くはその場のノリと勢いとかもありそうだが。
「心配症なとこあんのね、亮太郎」
「何かあっても人一人が取れる責任なんて奴は微々たるものだしね。心配にもなるさ」
「うん」
「だから絶対成功させよう。このライブ」
「うん」
アマネは尋ねた。
「亮太郎」
「なんだい?」
「ずっと、ずっと前からさ、辛いこととか、責任とかさ、耐えて来たんだよね?」
「そうしないといけなかったからね」
「どう言おうかどうか迷ったけど、そんな亮太郎に報いられるようなライブに出来たらって思う」
天川 マリネはニコッと笑みを浮かべて亮太郎に抱き着き押し倒した。
☆
Side 天川 マリネ
=夜・オタロード周辺=
熱気が凄い。
何時ものライブとは違うゲリラライフ。
少女A名義。
ただ自分のライブを見に来たわけじゃない。
亮太郎やマリネを助けるために来た人だっている。
何時ものライブとは違う使命感。
文字通り、大勢の人間が破滅するかどうかのライブ。
そう言う悪い人間からすれば自分は死神か魔女に見えるのだろう。
(歌う!! 皆のために!! 自分のために!! 亮太郎のために!!)
敵は四方八方から迫っている。
駅前方面の西側、通天閣方面の南側、千日前道具筋がある商店街の北側、大きな4車線道路があるでんでんタウンの西側。
網膜に映し出されるデーター上ではマリネは敵に包囲されていた。
アイドルとは言え、小娘一人。
自分一人を捕らえるのか、殺すのか、そのためだけによくこれだけの兵隊を集めたものだと思う。
だけど亮太郎や皆を信じる。
それだけじゃない。
何も出来ない無力な自分。
哀れにも汚い大人の餌食になった、名を残せなかった大勢のアイドル達。
その怒りもある。
そんな気持ちも引っくるめて少女Aはぶっつけ本番で歌う。
ミュージック、演出。
ドローンや魔法技術をフル活用したライブ。
闇乃 影司が頑張ってくれているらしい。
谷村 亮太郎も何処かで見ている。
だから頑張れる、歌える。
☆
Side 権藤 セイト
=大阪日本橋=
変態親父一行は自分達の私兵や子飼いの警備会社の兵隊などに囲まれつつも日本橋に移動した。広々としたリムジンに居座り、黒塗りのいかつい防弾車両に囲まれながらだ。
「ハウンド警備会社、聞いた事はあるな」
「ええ。使える集団です。フューチャーテックやジャマルの一件で浮いた予算を得てさらに強化されています」
ハウンド警備会社。
警備会社と名乗っているが、実態は裏社会専門の傭兵会社である。
勿論存在事態が違法だ。
そこに自分達の手勢やチンピラ、不良達を咥えてかなりの大規模となった。
アイドルと何でも屋の少年と仲間達、出しゃばって来るであろう日本橋勢力を叩き潰すのは無理だとしても大ダメージは与えられる。
今の時代、屑の代わりは幾らでもいる。
心など痛まない。
そうして弱ったところを服従するなり、何なり契約に持ち込めばいい。
上手くいけば厄介な日本橋陣営を味方に引き込む事が出来る。
(しかしゲリラライブだと? 何を考えてるのやら)
自分達が目的とした天川 マリネとその仲間がゲリラライブを強行したと言う。
世の中は残酷だ。
歌では何も変わらない。
これは絶対自分達が勝つゲームだ。
そう言うゲームに飽きていた権藤達はワザワザ危険を冒して、現地に赴き、歌姫が絶望に染まるところを見て見たくなったのだ。
こちらが必ず勝つゲーム。
こう言う催しも悪くない。
SNSがやかましいが、SNSは適当に話題を供給して半月もすれば他の話題で忘れるだろう。SNSは脅威ではあるが、対策をすれば怖くはない。
どいつもこいつも口先だけで行動は起こさない、行動を起こしても子供お遊戯みたいに礼儀正しい。
適当にデモなど何だの起こしてガス抜きでもすれば世間はそれで納得する。
世の中の半分の日本国民は政治家は誰がなっても同じと言う選挙に行かない愚民で、闇金や脱税した政治家を辞めさせる力もないのだ。
ストレス発散のためにデモは多少大目にみればいいのだ。
「しかし人が多いですな」
「腐っても関空と直通しているオタク街と言ったところでしょうか?」
リムジンの座席に座る権藤と同じ人種が不思議そうに言う。
道行く人々の数が多い。
もう夜だと言うのに。
警察も混乱状態で、とにかく道を封鎖していた。
(何だ? 我々の車両が通されていく?)
ただ不自然にも、自分達の息が掛かった連中が通されていく。
余程自信があるのか。
罠だろうか。
(まあいい。日本橋勢力を潰して、須藤のコネクションを掌握すれば次の支配者は私だ)
そうすればガーディアンズの偽善者や関西の退魔師協会の日和見ども、財団の夢想家ども、大国の連中も手が出せなくなる。
裏の世界は何でもかんでも遺憾ですと言えばいいだけの楽な仕事ではない。
そのために日本橋にいる不穏分子ともども今日のライブを潰させてもらう。
その時——爆発音、轟音が響いた。
「ッ!? 何事だ!?」
権藤は慌てて運転席の運転手に言う。
「せ、戦車が!? 戦車がいます!?」
「なにっ!? 自衛隊の連中か!?」
そう思って慌てて状況を確認したら。
眼前にいたのは角ばって大きい第2次世界大戦の戦車だった。
☆
=でんでんタウン・四車線道路=
ティガー戦車。
第二次大戦中にナチスドイツが作り出した戦車。
欠点は多々あるが、第2次世界大戦を象徴する戦車と言えば必ず候補に挙げられる戦車だ。
そのティガー戦車も開発されてから半世紀を超えた。
現代戦ではもはや、大砲がついた動く鉄の重い棺桶でしかない。
そんなティガーが大阪日本橋の4車線道路の上。
重量でアスファルトの道路上にキャタピラ痕を作ることもなく、とあるアニメ仕様のブラウンカラーにとある架空の女学園の校章デカールが貼られている。
それが車両に警告無しで先制攻撃を行った。
街中に展開した広域探知、鑑定魔法で敵味方の識別は済んでいる。その情報をデジタル化して日本橋側の味方陣営に共有。
こう言う時、魔法は便利だ。
砲弾も非殺傷性のご都合主義砲弾。
外観は第2次世界大戦の戦車だが、重量は無限動力で宇宙空間も行ける、バリア搭載で装甲もレールガンやビーム兵器を防げるレベルで頑丈。慣性制御システムも搭載。
もはや戦車の形をした昭和のスーパーロボットである。 バリバリ外宇宙の技術で作られた超高性能戦車だ。
日本橋や日本橋に負けず劣らずの魔境の大阪府I市の宇宙人の皆様が搭乗している。
総じて体型は幼稚園か小学校低学年並、地球の第二次大戦時の戦車は広く感じていた。
宇宙にも物好きが大勢いて、とあるアニメの影響で第2次大戦の戦車で戦かう競技をマジでやったりしてるのだ。
「このティガー戦車は、我々アニマ宇宙連合の科学力を結集したスペシャル仕様なのだ。地球の兵器など一捻りなのだ」
などと言って、児童向けアニメに出て来そうな子グマやアヒル、サメなどが手際よく砲弾を装填。
敵の車両を破壊していく。
誓って殺しはしていません。
☆
Side 宇藤 タツヤ
=オタロード北側、道具屋筋方面=
オタロード北側・道具屋筋方面。
そこでは激しい乱闘が起きていた。
急遽集められたチンピラやアウトロー連中が殴り倒されていく。
全員ご丁寧に凶器を持参しているが、優先的に無力化される。
「もうっ、悪い子達ね。これは念入りに成敗しないと」
ツインテールに髭、筋肉モリモリマッチョマンで大胸筋や上腕二頭筋、腹筋にぶっとい太ももを晒したミニスカメイドが次々とチンピラやアウトローを襲っていく。
もうこれ死んでんじゃねえのか? 生きてても後遺症残るだろと思うぐらいに吹き飛んでいく。
平時の日本橋でやったら過剰防衛で捕まりそうだ。
「少し疲れたわ。栄養補給しないと」
「や、やめ―—うわぁあああああああああああああああああああああああああ!?」
断末魔が響いた。
栄養補給で真っ白なミイラに限りなく近い状態になった不良。
唇に大きな口紅の跡がついている。
周りの不良、チンピラ達が「ヒィッ!?」とドン引きしていた。
「もう、ダメよワンちゃんったら。そんな手当たり次第にキスしちゃぁ」
都市迷彩の軍服姿のスキンヘッドのオカマのドリアンがやってくる。
ワンの行為を咎めるが、彼も相手のタマタマを叩き潰すなど、容赦のない残虐行為をしていた。
「あら、ごめんなさい。でもこの子達、悪い子だからこれぐらいお仕置きしないと改心しないわよ」
「うーん、それもそうね」
ワンのその一言でドリアンは納得したようだ。
再びワンは得物を狙う。
「少々時間が掛かるからね。拘束魔法(物理)を使わせてもらうわ」
「ヒッ!?」
「ギャッ!?」
「お、お前何を!?」
ワンに体を突かれた男達は金縛りにでもあったかのようにその場から1mmたりとも動けなくなった。
ワンが使うマジカルコマンドーの技の一つ、拘束魔法である。
相手の体内に気を送り込んで行動を束縛する初歩的な魔法だ。
魔法と言えば魔法なんや(白目
拘束された不良達を次々と成敗(意味深)、マジカルコマンドーの技の一つ、目覚めのキスを行う。
これを行われた人間は最悪廃人になる。
避けられたとしても半年ぐらいは後遺症に苦しむ事になる。
昔、イギリスの魔法学園舞台の小説でこう言う化け物いたよね。
(俺、一歩間違えればこの人達相手してたんだよな)
などと宇藤は思いながら殴り倒す。
魔法の非殺傷の銃も用意してあったが、相手はチンピラばかり。
たまにその筋の人間が混ざるぐらい。
ここは素手で行くのが作法と言う物だろう。
建物周辺のスナイパー対策やドローン対策なども上手く機能している。
大阪日本橋バスターズの面々は建物の配置だけでなく、日本橋の街の各店舗のコンディションも把握している。
今も工作部隊らしき人間の排除報告があった。
☆
Side 藤波 リカ
=夕日橋筋・方面=
オタロード南側、すぐ傍。
別の町に切り替わったかのように静かな雰囲気が漂っている地区。
そこでも激しい戦いが繰り広げられていた。
相手もヤケになったのか完全装備の兵士だけでなく、パワードスーツ兵器、パワーローダーまで投入を始めていた。
相手も戦車を投入しているのなら自分達もと言う論法である。
全高4m程。
セミアームスレイブ方式。
人型と四脚型とがある。
動力は戦車用のディーゼルエンジンを元に、仕立て直した物だ。
「ハーイ♪ ごめんなさいネ♪」
『んな馬鹿な!?』
そんなパワーローダーもアメリカンな金髪女子プロレスラーの弾道ミサイルのようなドロップキック一発で蹴り砕かれる。
ジェイミー・ゴードン。
長い金髪の女性。
大人びて整った感じの顔立ちが性格は陽気で明るく人当たりもいい。
背丈は180cm。
星条旗のデザインが描かれ、大きな胸の谷間や鍛え抜かれたシックスパックのレオタードを身に纏い、女性とは思えない上腕二頭筋や太ももを晒している。
先のジャマル事件で宇宙犯罪組織の怪人相手にプロレスをやった女性だ。
何を血迷ったのか、巨大ロボ相手にしてついにプロレスまでやり始めた。
日本のお祭り系クロスオーバー作品のプロレスラーは、相手がゾンビだろうが通常兵器が効かない化け物だろうが魔王だろうが平然とプロレスで倒しきる。
何なら小型のロボット相手にプロレスをかます。
『まさかアイツ!? スター・アライアンスの!?』
『ヒーローの一人だっていうのか!?』
などと困惑する敵陣営。
裏の仕事をやるに辺り、一定の訓練は詰んでる。
何なら退魔師とかも想定している。
だがこんな、アイドルを拉致って、消えても良さそうなオタク街を派手に焼き払うだけの簡単な仕事に出て来るとは思わなかった。
『もう、ジェイミーさん!! 幾らプロレスの宣伝だからってやり過ぎです!!』
顔の上半分を覆う青いプロレスマスクを纏ったピンク髪のとんでもない爆乳の女性——胸の大きな谷間えへそ丸出し、豊かな下半身のラインや太腿が見えるレオタード衣装だった。センスがぶっ飛んでてもう裸より恥ずかしいんじゃないかと言う衣装だ。ジェイミーの相棒でタッグパートナーのスターマスク。
彼女の付き添いとして、ジェイミー同様に暴れていた。
今は4mのパワーローダーを持ち上げてジャイアントスイングをかましている最中だ。
「工藤も大概かと思ったけど、ああ言うの他にもおるんやな~」
藤波 リカも手短な奴を殴り倒しながら言う。
この場にいた日本橋バスターズの面々も思わず手が止まっていた。
特殊な宇宙線でも浴びたか、薬物でも打ったか、科学実験の産物なのか。
ともかく女子プロレスラーがあんな化け物揃いなら今頃女子プロレスラーが国防担ってるだろう。
☆
Side 藤崎 シノブ
=西部・駅周辺=
空港直通している大きな駅周辺。
人が賑わうエリアだ。
そこでシノブ達は戦っていた。
と言っても相手は雑魚だかチンピラだか分からない。
そんな連中ばっか。
自分が手を下さなくても工藤 怜治に一撃で沈められている。
(谷村さん大丈夫かな?)
谷村は三段変形する戦闘機に乗ってこの街に迫りくる特型のパワーローダーを迎撃すると言う大任を任されている。
全高8m。
バリア機能と空中浮遊。
更には光学兵器を持つ裏の技術の結晶体のような兵器だ。
ただコストがとんでもなく高くて纏まった数の確保が困難である。
逆を言うと、コレを投入してくると言うことはそれだけ相手が追い詰められている証拠でもある。
(っと、来た来た!!)
シノブの索敵系スキルに引っかかった。
東側方向から街に侵入してくる。
数は五機。
数分もすれば街に到着する。
勝負は一瞬のウチに決まるだろう。
「その前に新手を何とかしないと」
ついにエグイ技術を投入して作られた改造人間や戦闘員まで投入されて来た。
戦闘員は数は100体。
指揮官である改造人間、平成初期辺りのスタイリッシュな感じのデザインの奴。恐らくフューチャーテックの地下に居た連中と同じタイプ。
それが5体だ。
相手もヤケクソになって戦力の逐次投入の愚を犯してでも、この戦況を挽回しようとしているのかもしれない。
「これがこの世界での俺の役目か」
「で? あんた誰?」
どっかの並行世界を彷徨う自称破壊者みたいな事を言っている、ルックスが良い茶髪で片目隠しの線が細い美少年。
生身でチンピラなどを相手にしていた。
「通りすがりのライドセイバーだ」
そう言って彼は変身。
マゼンタで幾何学的な模様の、バーコードのような個性的な外観の戦士。
胸に描かれたZのマーク。
平成ライドセイバー10番目、ライドセイバーゼットだ。
「うそぉ!? ええっ!?」
まさか本当に何処ぞの並行世界のライドセイバーと言うオチ?
藤崎 シノブは困惑した。
鑑定魔法でも間違いなくライドセイバーZであるらしい。
名前は渡井 ソウジ。
こことは違う並行世界の学生さんだそうだ。




