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天川 マリネ編その6・金城 マサト

 Side 金城 マサト


 金髪の軽薄で赤いシャツを適度に気崩した、女慣れした感じのおじさん。

 それが金城 マサトだ。

 見かけた女に適当に甘い夢を見せて、適当に肩書きを与えて金のあるエロ親父どもに売り飛ばす。

 芸能事務所スターズに潜り込んだのも、裏の取引先から持ち掛けられたビジネスだ。

 所詮アイドル業界は人気商売。

 スターズも素直に枕営業でもすればいい物を、あの手この手で妨害する。

 だからスターズを悪者に仕立て上げ、金城は正義の告発者を演じてまた人気のる適当な芸能事務所に潜り込んで食い潰せばいい。


 そう考えていた矢先、ある動画が金城 マサトに届いた。

 顔見知りの警備員だ。

 情報を売っている奴の一人で、まるで何かに取り付かれたかのように真相を暴露していく。何かヤバイ薬でも打たれたのだろうか。

 社長も、マネージャーも、会社の役員のスマホにも送られている様子だった。

 

 だから金城 マサトは会議室から抜け出し、駐車場に走って高級車に乗り込んだ。

 汗を大量に流し、何処へ雲隠れするか考えた。


「クソッ!? クソッ!? どうしてこんな事に!?」


 今の時代、あの動画が社外に漏れるのは時間の問題だ。

 そもそもにして情報管理が甘いから自分が好き放題出来たわけだ。


 それに――コソコソ嗅ぎ回る正義の味方気取りの連中の末路を見て来たから分かる。

 楽に殺してくれるならまだいい。

 だが、現実はもっと悲惨だ。

 殺してくれた方がまだマシな目に遭うかもしれない。

 だが現実に殺される側になってみると分かる。

 死の恐怖で何も考えられない。

 パニック状態に陥っていた。

 

(海外かどっかに高飛びでもするしかねえ!?)


 様々なプランが浮かんでは消える。

 だが何をするにしても、雲隠れするにしても生きていくためには金が必要だ。

その金を取りに行くために家へと車を走らせた。



 Side 天川 マリネ


 =夜・会社の外にて=


 つくづく亮太郎はとんでもない奴だ。

 逆に頼りになり過ぎて怖いぐらいだが、逆にそれがいいとも思ってもしまう。

 コミックのヒーローのような刺激的で危険でヤバイ奴。

 でも何だかんだで自分の言う事は聞き入れてくれる。

 ネットで暴露するのではなく、会社内の人間のみに暴露して欲しいと頼んだのはアマネだ。

 

(依頼者がそう言うならね。よくよく考えてみれば浅はかだったかな?)


 と言う感じで承諾してくれた。

 ふと派手な高級車が猛スピードで駐車場の方から出ていくのが見えた。

 たぶん金城の車だろう。

 人を2、3人平気で轢き飛ばしそうな荒っぽい運転だ。

 まるで何かに追われているようだ。


 亮太郎の予測通りなら、裏社会の権力に命を狙われる立場になっている筈だ。

 これで少しは被害に遭った子達の恨みを果たせただろうかとも思う。


「これでよしと」


「何してるの?」


 横でスマホを弄って亮太郎は何やら仕事をしていた。


「先回りして金城 マサトの預金口座から金を全部引き下ろした。これでアイツは高飛びも雲隠れも出来ない」


「うわ~凄いえげつない」


 一体どんな手段を使ったのか。

 妄想の類ではなく、既にそうなっているのだろう。


「頼りになる仲間に頼んでね。事情を話したらメチャクチャ乗り気でね。金城の住所にも既に手配済みさ。後は依頼主とか雇用主を全部話させる感じかな?」


「その後はどうするの?」


「改心するような奴じゃないだろうし、魔法で二度と悪さ出来ない様にして刑務所に放り込むかな?」


 作り笑いをする亮太郎。

 正直今の自分はどうかしていると思う。

 やっぱり何か過激な事は以前よりも受け付けなくなっているところがある。

 甘くなったのか、弱くなったのか――亮太郎は悩んでしまう。 


「さて、僕は僕で動こう。ちょっと銀行に行って金城 マサトの口座を叩く」


「お~出来るのそんなこと?」


 容赦ない手だ。  

 だが金城 マサトのやって来た事を考えればまだまだ優しすぎるぐらいだ。

 だからって殺すのはどうかと思うが、安易に過激な手段に訴えるよりかはまだ納得できる。

 最善手とすら思えた。


「あの殺し屋さんがくれたリストに口座番号が入っていた。それ分かればパワープレイでどうかなる」


 と、何故か亮太郎は苦笑していた。

 犯罪行為に後ろめたさを抱いているのも若干あるが、安易に異世界の魔法に頼ったパワープレイに頼ってる自分に(何だかなぁ~)と思ったからである。 



 Side 金城 マサト


 =金城 マサトの自宅周辺=


 金城は慌てて車から自宅に入り込む。

 周囲に人気は少ない。

 周囲は金持ちだらけで最近は外国人が増えて来た住宅街だ。

 日本は自分は国民に貧乏だから、不況だからと言いながら海外に支援しまくって、その支援した金を懐に着服する手口を使ってるから、日本にいる外国人は高学歴の日本人よりも豊かな生活をしている。

 そう言う現実を実感させるような住宅街だ。

 

 金城 マサトは特にそんな事を気にせず、ただえげつない犯罪に手を染めて、汚い金でこの世の王様になった気分で生活していた。

 金も女も思うがまま。

 たった数時間前まではそれが現実だった。

 

「え? あ?」


 そして玄関を開き、真正面から現れたのは拳銃を持ってサングラスを掛けた黒いスーツ姿の男達だった。

  

「まっ待て!? 金なら—―」


 そして金城 トクドは銃弾に倒れた。



 Side 藤崎 シノブ


 黒髪の少年、藤崎 シノブ。

 谷村 亮太郎と一緒に異世界ユグドを駆け回り、魔王を討伐した異世界帰りの勇者の片割れである。


 シノブは金城の自宅でそれっぽい殺し屋に化けて自宅で待ち構えていた。

 傍にいる白髪白肌の童話に出て来そうな絶世の美少女のような美少年、シノブと同じ背格好の闇乃 影司にスキンヘッドでサングラス、大柄で黒いスーツ姿の男、宇藤 タツヤもいる。


 金城 マサトが見たのは魔法の幻である。

 銃で撃たれて死んだ幻覚を見た筈だ。

  

「泡吹いて失神してやがる。股も濡れてるな……漏らしてるなこいつ……」


 シノブの思惑通り金城 マサトは恐怖を味わって気を失ったらしい。


「さて、噂のオカルトパワーで手早く情報を引き取ってくれるか? それと此奴のスマホのロックを解除してくれれば何か美味しい飯でも奢ってやる」


 などと宇藤は二人の少年に得意げに語った。


「いいんですか?」


 と、シノブは遠慮がちに聞いてくる。


「なあに。前金は貰っている。俺が指定したマネーロンダリング用の口座にコイツの有り金は全部送金してもらったからな」


「谷村さんも太っ腹ですね」 


 などとシノブは返した。

 フューチャーテック事件の時、サカキ高校に乗り込む前に使った手口で有り金全部送金したのだろう。

 傍にはシノブもいたのでよく分かる。


「ロックは僕が外しておくよ」

 

 宇藤から金城のスマホを受け取り、影司が手慣れた手つきでロックを外した。

 闇乃 影司は宇宙人の無人機相手にハッキングを仕掛けられるぐらいには電子機器に強い。

 単純な戦闘力でもアメコミのスーパーヒーローを複数人単位で敵に回せて、軍隊数十個師団とか超えている。

 それでいて見掛けはか弱い正統派ヒロインのような容姿である種完璧だ。


 もっとも容姿に関しては本人的に色々と気にしているらしいとシノブは聞いている。だけど今の容姿を続けていると言う事は本人も気に入っているのだろうと思った。


「宇藤さんは今回の事件の黒幕とか知らないんですか?」


「会社のネットワークを総動員して調べたが、用心深い野郎みたいでな……それに不確かな情報を与えたくなかったって言うのもある」


 宇藤 タツヤも殺し屋家業を続けていて、彼なりに情報の取扱いに関して慎重なのだとシノブは考えた。

 この辺り亮太郎に通ずる者がある。

 本人は自分の事を、実は脳筋パワープレイヤー、インテリ気取ったSTR、バスターゴリラと卑下していたが……今にして思うと彼も一人の人間、一人の人間にあれこれ無意識化で背負わせ過ぎた自分にも責任があるように感じた。

 

「どうした?」


 様子の変化を察したのか宇藤に尋ねられる。


「ちょっと昔の谷村さん思い出して……正直自分の事に手一杯で、それを言い訳にして、無理させたんだなと思って」


「そう聞くと年頃の少年らしいところあるんだな」


 と、どこか安心したように返した。


「スマホから情報のコピーは終わったよ」


 ここで影司が作業終了を報せた。


「早いな。大金積んででも、もっと早く頼れば良かった」


「殺し屋の依頼とかは引き受けない様にしてるからね。今回は特別だよ」


 と、影司に返されたが「それもそうだな」と宇藤は納得した様子だった。


「顧客主だけど、政治家に弁護士、裁判長とかも混じってる。他の芸能事務所の社長とかもいるよ」


 影司はちょっと興奮気味に伝えて来た。


「本当に権力とか金にある奴に限って、どうしてそんな悪事に走るんだか」


 それを聞いてシノブは世の中に嘆いた。


「ただ単にそう言う奴が悪目立ちしているだけだ。そう言う奴に限って権力だの金だのあるから法で裁く事が出来ず、殺し屋になっちまう奴もいるんだがな」


 などと宇藤は声のトーンを落として自嘲気味に語る。

 殺し屋は殺し屋なりに、それに至る経緯があったんだろうと二人は思う。

 影司も非人道的な人体実験やその協力者達を皆殺しにして、口封じのために民間人を大量虐殺者した自衛隊を殺していたり、シノブも異世界で勇者として、多くの人間の人生を狂わせてきた。

  

 ――僕と君には救った世界を確かめなきゃいけない。自分が救った世界を確かめるまで、その責任から逃れてはいけない。


 ふとシノブの脳裏に亮太郎が最終決戦前に言った言葉が蘇る。

 元々は戦隊特撮物の台詞らしいが、それでも自分に突き刺さる台詞だった。


 シノブは異世界も、地球の危機も救った。

だがそれでも世の中はどうしようもない悲劇に塗れている。いっそ、ウェブ小説で流行りの主人公達みたいにそう言う世の中だと割り切れる性格だったらどれだけ良かっただろうか。

これをスーパーマン症候群だとでも言うのか。

 

「まあでも、今回みたいに色々あってバカ騒ぎするのも悪くないと思ったり」


二人の心中を察したのか影司は言った。


「バカ騒ぎか。まあ流石に宇宙人とやり合うのは限度があるがな」


と、笑う宇藤。

あの事件の時、宇藤は宇藤なりに、必死になって戦っていた。

まさか殺し屋が人を守るために宇宙人と戦う事になるとは想定外にも程がある。

 だがまあ、何だかんだで丸く収まって悪くはない時間だった。


「決めた。この一件、俺も最後まで付き合うよ」


そしてシノブは最後まで付き合う事を決めた。

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