天川 マリネ編その4・依頼
Side 谷村 亮太郎
=メイド喫茶ストレンジのある雑居ビル3階=
メイド喫茶ストレンジのある雑居ビル3階。
そこに谷村 亮太郎の事務所がある。
見掛けは完全にただのオタク部屋だ。
プラモやおもちゃが飾られ、ソファーに大型のテレビに最新鋭のゲーム機が置かれている。ネクプラバトルシステムも持ち込まれていた。
風呂もキッチンもトイレも完備。
それでいて格安である。
メイド喫茶側すれば世界最高峰の戦力と繋がりがもてるのだ。それを考えれば格安で事務所を貸し出すのは費用対効果は抜群である。
核兵器を所持するよりも使い勝手がよくて抜群に安上がりだ。
そこで谷村 亮太郎と天川 マリネと男女二人きり。
ロクデナシ揃いの日本のブンヤどもが見れば大スクープ待ったなしと報じるだろう。
そんな事など知った事かと言わんばかりにマリネは「へえ~こんな事務所持ってるんだ。すごーい」などと子供のようにはしゃいでいた。
ちなみに毒島 リンカはオタロードで起こした不良との騒ぎを出来うるかぎり無かったことにするため、席を外している。
「流石ネットで影の英雄とか言われてるだけあるわね」
「影の英雄ね……」
ネット界隈でフューチャーテック事件や宇宙人事件で活躍した藤崎 シノブと谷村 亮太郎。
メイド喫茶ストレンジや国際的警察機関、ガーディアンズなどの情報操作で「無かった事」にされてるが、SNSが普及した総監視社会では完全な情報封鎖は出来ず、暗い話題が連日のように報じられる日本のネット社会では影の英雄やそれに値するヒーローがいると言われるようになった。
その影の英雄の正体が藤崎 シノブや谷村 亮太郎説があり、二人もその事は把握していた。
「実際間近で見て確信したわ。ライドセイバーに変装して宇宙人と戦ってたのも亮太郎なんでしょ?」
「それはだね~」
「大丈夫よ。言いふらすような真似はしないから」
「は、はあ」
「しかし中学時代から何か飛びぬけていたところあったけど、まさか世界的なヒーローになってたなんてね……」
などと顔を赤らめて照れくさそうにするアマネ。
本当にどうしちゃったんだろうと亮太郎は困惑する。
「ああ、そうそう。依頼の話ね」
「依頼? アイドル活動休業に絡む話かい?」
「まあそんなところよ。ストーカーとか、Hな事を強要してくるような事の被害よ」
「つまりそれをどうにかして欲しいと? こう言うのは影司君が強いんだけど—―異世界の力頼みで頑張ってみようか」
マリネは「おー」とパチパチ拍手する。
「具体的にはどう言う被害に遭ったの?」
「そうね—―スケジュールとか住居とか筒抜けだったり、アプリでのやり取りとかも全部……」
「日本は情報管理は杜撰だからね。それに今は警察や自衛官も犯罪に手を染める時代だし、スマホの契約会社とか事務所の警備会社とかも疑った方もいいよ」
そう言われてマリネは「あっ」となる。
「でも、そんな事ありえるの?」
「ありえちゃうんだよなこれが……それに人を追跡する装置も昔と比べて格段に進歩しているし、住所も割れてるなら変装しても自宅からここまでつけられてる可能性も――」
顔が見る見るうちに青くなっていくマリネ。
亮太郎は「ごめん、言い過ぎた」と慌てて態度を改める。
ついつい藤崎 シノブとやり取りする感覚で話してしまったのだ。
天川 マリネは裏の住民ではなく、表の世界に生きるアイドル。
まだ十代半ばの少女なのだ。
その辺気を付けて話さなければならないと思った。
そこでピンポーンとチャイムが鳴り響いた。
亮太郎は玄関に出ると大柄でスキンヘッド、サングラスの男、宇藤 タツヤが現れた。
まるで丸太のように右肩には男を抱えていた。
「そこの嬢ちゃんの客人だ。少し締め上げたらお前達に用があるんだとさ」
そう言って乱雑に抱えていた男を床へ放り投げた。
「誰この人?」
「さ、さあ? 私も知らないけど—―」
亮太郎が確認の意味でマリネに尋ねるが知らない様子だ。
取り合えず鑑定魔法でも掛けてみようと思ったところだった。
「軽めの闇バイトに登録している奴だ。名前は北島 ジュンイチ。嬢ちゃんの会社に警備員として勤めているらしい」
「えっ!?」
先程話した亮太郎のもしがが現実となった。
「この短時間でよく調べたね?」
「会社は化け物級二人と殺し合いたくないから、その可能性を潰すために色々と調べてたんだと」
宇藤 タツヤが務めている殺し屋会社、アサシンズギルドは藤崎 シノブや谷村 亮太郎との対決を避けるために、敵対しない範囲で、誰でも分かる範囲で交友関係を調べていた。
これは会社としても危険作業だったらしい。
大阪日本橋と言う街全てを敵に回すか、世界的な警察機構を敵に回す恐れがあるからだ。
その中で中学時代の同級生、天川 マリネが引っかかった。
そして天川 マリネの周囲も調べた。
そうして裏社会と関係のある人間の何人かがリストアップされ、宇藤 タツヤに渡されたのだ。
「しかし最近のスマホって便利だな? 画像認証ソフトと連動させればそいつが誰なのか分かって、会社の集めた情報の中からリストアップされるって言う仕組みだ」
亮太郎と同じく、スマホが普及する前の時代を知っている感じの口ぶりだ。
「まあ御陰でスムーズに進んだんだか……」
「ただの警備会社の人間にアイドルの綿密なスケジュールを把握できるとは思えないけど。他に協力者がいるんじゃ?」
亮太郎は宇藤にその点を指摘した。
「察しがいいな」
「ここから先の情報は値段は必要? マネーロンダリングが済んでない大金ならあるけど?」
「フューチャーテック事件の時に会社や須藤一族から捲き上げた金か……ちゃっかり隠し財産とかも何もかも巻き上げたって話は本当らしいな」
それプラス、サカキ高校が犯罪で得た金とかも混じってる。
亮太郎のアイテムボックスに燻っていた。
「さあ? それはどうだろう?」
「ただの高校生がマネーロンダリングが済んでない大金を持ち歩いているワケないだろ」
「ははは。何のことやら」
などとブラック丸出しな会話をしている。
それを聞いて現役アイドルの天川 マリネはと言うと。
「凄いね亮太郎。何か海外ドラマの世界みたい」
などと目をキラキラさせて、本物のテレビのヒーローに出会った子供の様に顔を輝かせている。
「さっきまで顔を青くしていたのは何だったんだい?」
「お嬢ちゃん、ただのアイドルだと思ったけど中々に感性ぶっ飛んでるな」
などと二人は言い合う。
「失礼な。これでも私、シ〇ィーハンターとかヨルムン〇ンドとかブラックラ〇ーンとかゴル〇13も読んでるんだぞ。ラノベはフル〇タとか、〇多〇骨ラーメンズとか……いや、ラーメンズの方はラノベじゃないんだっけ?」
「えらく漫画のチョイスが偏ったアイドルだな」
宇藤は苦笑いし、亮太郎も「最近の子は漫画もあんま見ないと思ってたんだけどね」と返す。
「今はスマホで何でも見れる時代だからね。ガンネクスもプラモとか作ってるよ」
などと笑みで返した。
「さてと、話が逸れたけど—―この男、気絶してる?」
「まあな。眠らせておいた。しばらくすりゃ目を覚ますが……どうする? 知り合いに預けて尋問させるか?」
「ラーメンズの小説で見た。拷問師とかいるの?」
などと現役アイドルのマリネは嬉しそうに問いかける。
その様子を見て亮太郎は「本当にさっきまで顔を青くさせていたのは何だったんだい?」と困惑気味だった。
「いや、ここまでくれば毒を食らわば皿までよって思って……もしもアイドル辞めるようになったら亮太郎のお嫁さんになろうかな?」
「やったな坊主。現役アイドルから求婚されたぞ」
笑いを堪えながら宇藤 タツヤは賛辞を贈る。
「嬉しいと思うよりも新手の美人局か何かかと警戒するんだけど。大丈夫? ちょっと精神落ち着かせようか?」
亮太郎は本気で困惑していた。
もういっそ魔王と再戦でもした方がマシかもしれない。
「え~だけど、今迄出会った男の中で結婚したいと思えて、なおかつ将来絶対幸せにしてくれそうな人が亮太郎しかいないんだけど……もしかして異世界で彼女作ったとか? 今ウェブ小説の主人公とかでよくあるハーレムエンド?」
「言ってる事が黒川さんとかと一緒なんだけど」
黒川 さとみ。
黒いロングヘアーのクール系、ダウナー系を演じていたスタイル抜群の超爆乳美女。正直何でモデル雑誌とかにお声が掛からないのか不思議なぐらいの容姿をしている。
その実態はメイド喫茶ストレンジのアルバイトでメイドのコスプレ衣装を着ている上に特撮マニアで戦隊ピンクに憧れている女の子だ。
それでいて藤崎 シノブの彼女状態である。
その上、WEB小説のアレコレや、昨今のなろう系主人公にありがちなハーレムエンドに理解を示しているらしい。
見ようによっては聖女である。
「まあ今はその話は置いといて……この人からどうやって口を割らせるかよね?」
と、話を戻すマリネ。
「スマホの履歴を探った方が早い気もするけどね」
「それもそうね」
既に宇藤がスマホを取り出していた。
「指紋タッチ式か、顔の認証か……」
そう言って宇藤は男からスマホを取り出し、男の指をスマホの画面に当てる。
どうやら指紋認証式だったようだ。
裏社会の人間の割にはセキリティが甘い奴だ。
「どれどれ……中身はと……」
そう言って宇藤はスマホを得意げに動かした。




