天川 マリネ編その3・早速の一騒動
Side 谷村 亮太郎
=大阪日本橋・オタロード=
夏の暑さが抜けきってないオタロード。
そこで亮太郎は嘗てのクラスメイトで休業中のアイドル、天川 マリネと再会した。
現在、不良達に絡まれている最中だが。
「なんだこいつ? 嬢ちゃんの知り合い?」
「こいつどっかで見たことあるような……」
不良側も谷村 亮太郎の事を思い出そうとしていた。
と言うのも谷村 亮太郎も藤崎 シノブと負けず劣らずの、ネットの有名人で、プロの格闘家の解説動画まであるぐらいだ。
更に言えば大阪府内の不良界の目の上のたんこぶであり、上にのし上がるためならどんな手段を使ってでも制裁しなければならない相手なのだ。
「思い出した。こいつ十万円の懸賞金掛けられた谷村ですよ」
「やっす!?」
思わず亮太郎は吹き出してしまった。
たかが十万円で人生を棒に振るとか、致命的に頭が悪く、とんでもない親不孝者だ。
そう言うクラスメイトの末路を見た後だからより強く思ってしまう。
「こいつボコれば十万円か……」
「おい、こいつを連れて……」
などと勝手に話を進める不良の面々たち。
何だかんだと彼方此方から不良のメンバーが集まって来て数十人単位にまで膨れ上がる。
やがて—―
「オタロードでチンピラの集会はご遠慮くださいませ」
紫髪のツインテール。
胸大きめでスタイルもいい、黒いミニスカで白いファッションエプロンに身を包んだ、銃火器を手に持つメイドが現れた。
名前は毒島 リンカ。
メイド喫茶ストレンジのメイドである。
今日はオタロードで呼び込みをしていたようだ。
撃たれた弾丸は非殺傷性のスタン弾かそれ相応の威力の銃弾だ。
今日は独特の形状の近未来的なデザインのPー90。
一時期ラノベ界隈の影響でピンクのPー90が流行ったことがある。
撃たれた人間は激痛のあまり、熱いアスファルトの地面の上でピクピクと痙攣している。
「何時もの通り、ケツ持ちは私達がしますんでお好きなように暴れて下さい」
と、毒島 リンカは一礼して次々とPー90から銃弾を発射する。
それに合わせて亮太郎も手早く片付けるように動く。
「なんだこいつら!?」
「ヒッ!?」
突然の事で不良の連中は何も出来ずに倒されていく。
銃で撃たれ、亮太郎に目にも止まらないスピードかつ最小限の動作、最小限の破壊力で意識を刈り取られていく。
どちらかと言えば毒島 リンカの先生攻撃の暴挙に目が行くが、格闘技に精通するプロが見れば亮太郎の動きの異常さに目が行くだろう。
亮太郎の動きは殺人拳であり、効率的に多人数の人間の意識を一撃で刈り取る事が出来る拳だ。
さらに人間のまばたきして目が閉じた瞬間に機関銃の球を掴み取る程のスピードと精密さとパワーで攻撃を加えるため、常人でなくてもプロボクサーでも回避不可能な打撃を自然体で放っている。
これでも亮太郎は手加減している方で、更に上の段階になると魔法付与や隠蔽、隠密スキルを併用し、さらに自分の気配を完全に殺すために心臓の音とか脈の音とかも消して殴り始める。
と言うかその気になれば軽く小突いただけで人間の顔面など大砲で吹き飛ばされたように爆発四散する。
ただの不良が何人集まっても、狭い世界のお山の大将揃いの連中である。
1分もしない内に全ての不良が地面に倒れ伏していた。
ピクピクと体を痙攣させているのは銃弾で撃たれた不良で、痙攣もしておらず、その場で意識を失っているのは亮太郎にやられた不良だ。
「動画で前以て見てたけど、ちょっと見ない間にとんでもなく強くなってない?」
「異世界で鍛えました」
冗談のつもりで亮太郎は本当のことを言う。
どうせ信じないだろうとタカを括っていた。
「アニメとか漫画で流行りの奴よね? 宇宙人とか魔法使いとかヒーローとかいる世の中だし……」
(あ、やべ。選択肢間違えた)
今は宇宙人やヒーローがいる世の中だ。
異世界の実在も半信半疑ながら世間に知られつつある。
と言うか魔法使いの動画配信者やヒーローまでいるのだ。
そんな世の中で超人的なアクション披露して、異世界で鍛えたと言えば信じる人間は少なからず出てくるだろう。
遺伝子構造を変化させるクモに噛まれたとか、スーパーパワーを得る特殊な薬品使ったとかでも信じられそうだ。
今回ばかりは亮太郎も迂闊だった。
ともかく騒ぎがこれ以上大きくなる前に離れなければと思い、最近開業した事務所へと足を運ぶことにした。
☆
Side 宇藤 タツヤ
=メイド喫茶ストレンジにて=
大柄でスキンヘッドにサングラス。
見た目からして堅気には見えない裏社会の男、宇藤 タツヤ。
宇藤 タツヤは、ちょっと前まで殺し屋だった。
だがフューチャーテック事件で藤崎 シノブと谷村 亮太郎、相手が日本政府の闇だろうが、宇宙人相手だろうが誰彼構わず戦いを挑む本物のバケモンだったとは知らずに銃を向け、情報をあるだけ全て手際よく引き抜かれて、失敗した責任で殺されるかと思ったが、シノブと亮太郎の二人が所属している殺し屋会社のお偉方が一目置いて—―その会社の判断は結果的に正しかったが――タツヤは二人と会社のフィクサー、調整役を任された。
そんな宇藤 タツヤは現在、メイド喫茶ストレンジの店員になった。
執事服を着せられ、何か本職の殺し屋だかボディガードっぽいと評判だった。
何かドギツイオカマの店員がいたりして本当にここメイド喫茶なのか? メイド喫茶として何かが致命的に終わってないか? などと思ったりもした。
窓も防弾。テーブルやカウンターも防弾仕様。いざとなればロケットランチャーで攻め込んできたテロリストにも対応できる。
何を想定しているのだろうかこのメイド喫茶は。
こうして宇藤 タツヤがメイド喫茶で働いているのはただ単純にこのメイド喫茶は殺し屋会社よりも遥かに政治的影響力を持ち、そんなメイド喫茶と藤崎 シノブと谷村 亮太郎の二人が懇意であるからだ。
仲良くしといて損は無いと言うことである。
「で? 何のようだ?」
黒髪で眼鏡の背はあり、ホッソリとした優男。
会社務めの営業マンとかに見えなくもない。
自分を超人高校生二人のフィクサーに任命した男だ。
「フィクサーとしての仕事の話です。谷村 亮太郎の近辺を出来うる限りリアルタイムで把握しておきたいんです」
「何だ? チンピラとの潰し合いに巻き込まれたくないだけなら話は簡単だ。変な欲を出さずに静観しておけばいい」
と、簡単に言う。
日本橋のオタロードで起きた騒動は既に宇藤も把握済みだ。
「それだけで済まなさそうなんですよね……」
「成程。どっかのバカが、哀れにも死神にケンカを売って破滅するのか」
どこのバカだか知らないが、相手は死神だ。
Gの13のスナイパーに匹敵するか超えている恐れすらあり、アメコミの超大作ヒーロー映画のヒーローチームにスタメン入りしそうな奴だ。
実はもうスカウトされてるかもしれない。
野球で言うなら出鱈目な年棒のメジャーリーガー級の逸材だ。(ちなみに二刀流で有名なあの選手は日本円換算で年棒100億越えらしい)
どちらにしろ、相手の命運は決まったようなものだ。
ホワイトハウスに拳銃片手に乱射しつつ、真正面から突撃するぐらいに無謀すぎる。
「話が早くて助かります。あの少年は我々の想像を遥かに超える怪物でした。勝ったところで予想される被害が大きすぎます。だから上手く付き合っていきたいと言うのが本音ですね」
「それで俺の出番か。この店に話は通してから早速仕事に取り掛かる」
と言って宇藤 タツヤは準備に入った。




