天川 マリネ編その1:谷村 亮太郎・中学時代
Side 谷村 亮太郎
魔王サウラスを倒し、異世界ユグドを救った勇者の一人、谷村 亮太郎。
そんな谷村 亮太郎が異世界に向かう夏休み明けの学校の――さらに昔の中学時代。
まだI市に住んでおらず、黒鳥町の黒鳥中学校に通っていた頃。
この頃の黒鳥中学校は超少子高齢化の波を受けて教育方針を手探りで探っていた。
だがどんな馬鹿でも通える公立の中学校では限界がある。
公立の中学校と言うのは周辺の小学校から悪童をも掻き集めてしまう弊害があり、中学校の不良と言うのは人生の最盛期で一番勢いがある頃だ。
そんな黒鳥中学校の不良グループは3組程に分かれていて、ガチの不良グループ、勉強は出来て手口は悪辣なインテリ不良グループ、不良にも普通にも生きられない中途半端な奴。
他にも正義と言う棍棒を振りかざして、いじめっ子になっていると言う厄介な奴もいるが、概ねこの3組に分かれている。
ガチの不良グループは一歩間違えればテレビやネットの有名人になるような連中だ。
インテリ不良グループは優等生の皮を被った、教師にも生徒にも受けがよく、悪事を働く不良に負けないぐらいにタチが悪い連中である。ウェブ小説とかに出て来るエグイいじめとかを影でやる素質を持つタイプ。
不良にも不通にも生きられない連中と言うのはいわゆる不良予備軍、不良二軍連中で、不良と共通しているのは弱い奴には強気になるが、強い奴には下手に出る。
総じてどいつもこいつもカッコ悪い連中が一つの学び舎、一つの学年に毎年集結するのだ。
そんなだから学校は荒れる。
だから学校社会を理解している親は金を払ってでも子供を私立にいかせるのだ。
谷村 亮太郎はそのパターンではなかった。
今の時代、姉と妹と三人を育てるのは財政的にキツイのもあるのだろう。
もしくはただ単純に亮太郎がバカだったか。
漫画やラノベ、アニメとかでよくある人の可能性うんたらかんたらを都合よく解釈して適当にダラダラと生きていたのかもしれない。
そんな亮太郎の人生は十四歳を境に変わる。
並行世界の知識、経験、能力までもが共有され始めたのだ。
人生何度目かになる中学生活の再スタート。
どうしてこうなったかは分からない。
並行世界の自分がプレラーティ博士みたいに並行世界だか何かの研究をしすぎたせいで並行世界の自分自身に影響が出たのか、それとも闇乃 影司や倉崎 稜の影響か、会った事もない超常的な存在か何かか。
もう考えても仕方ないことなので、開き直りエンジョイする事にした。
全ての記憶や経験を共有しているわけでなく、断片的な物ではある。
だが型月的な心象風景の具現化的なアレとか使えたり、異世界ユグドの魔法を一部使えたので、特に問題なく亮太郎は中学を過ごせた。
と言うのも亮太郎は人並な正義感が災いして、不良達から目を付けられていたポジションで、不完全ではあるが覚醒に伴い、悪を一掃する――とまではいかないが、自分の通せる筋は通して生きて行こうと思った。
そうして中学はクリーン化していき、亮太郎は中学で恐れられる存在となり、そうした中で出会ったのがまだ駆け出しアイドルの天川 マリネだ。
=2年前・黒鳥中学校・人気のない廊下=
やや癖っけのある茶髪で大人びた雰囲気、スタイルもよく、垢抜けていて男子女子ともに人気のあるカリスマ美少女で、とても中学生とは思えない。(いい意味で)
ファッションも力を入れているらしく、実際その手の雑誌の表紙撮影を何度も経験しているらしい。
正直どうして公立の中学校に通っているのか分からないような少女だが、卒業後はその手の活動に理解がある高校に推薦入学を勝ち取っているらしい。
「で? どうしてそんな人生勝ち組真っ只中の女の子が僕なんかに目をつけるのかね?」
と愚痴る亮太郎。
ここは学校でも人気の少ない場所。
そこで二人はよく密会していた。
「だって、周りの男は私のアイドルの肩書きに惹かれてるところあるから。それに女女子も私を利用してアイドルデビュー? とか考えているみたい」
「今の時代、アイドルデビューしてもよっぽどじゃないかぎりグループアイドル勢や海外勢に圧されて落ち目になると思うけどね」
日本のアイドル業界は四十人以上のアイドルを複数運営してチーム内外で競い合わせたり、後はお隣の国とかの海外勢が幅を利かせている。
年末の歌唱テレビ番組も海外勢をプッシュしていた。
日本で活躍しているアイドルよりもバーチャルアイドルとかの方が勢いがある印象だった。
「亮太郎って思ってる事はハッキリと言うタイプよね。アイドルの大半が枕営業とかしてるとか思ってそう」
「そこまではしてないけど、別にあったとしても驚きはしないかな? 何なら声優業界でも広がってそうだし」
声優業界でも枕営業は存在する。
今はもうない、とあるPCのソシャゲのセリフだが「男は女と寝たいんじゃない、肩書きと寝たいんだ」と言うのは的を得た発現かもしれない。
「その声優業界もAIの発達でどんどん仕事が奪われると思うけどね」
近年のAIの発展は凄まじい。
それに、日本の漫画、アニメ産業を疎ましく思う連中は多い。
そう言う連中は日本の人気声優をAI化して仕事を奪うぐらいは平然とやる。
それは声優業界に限った話ではなく、アイドル業界もAIアイドルに取って代わられるかもしれない。
「アナタの言う通りなんだろうけど、やっぱ憧れるのよね。歌って踊って、輝いて……声優やると反感持たれそうだけど、特撮ヒロインとかもやってもいいかな?」
などと照れくさそうに夢を語るマリネ。
亮太郎の趣味とかもバレてるらしい。
「あとネクプラアイドルとかもいいかもね」
「ネクプラアイドルね。あれも競争率高いよ?」
ロボットアニメシリーズ、ガンネクスのプラモ、ネクプラ。
そのネクプラを使ったバトル、ネクプラバトルは世界的に行われている。(イメージしにくくければ動画サイトとかでガンダ〇ビル〇ファイ〇ーズを検索してくれればいい。あれと一緒だ)
競技人口が多いため、ネクプラアイドルの需要も増えつつある。
谷村 亮太郎もネクプラバトルのオンラインで魔王キャラと化して暴れ回っている。一部界隈だが企業AIだとか、チート使っているとかボロカスのように言われていた。
後の異世界勇者、この世界でも勇者になるのかどうかは不明だが藤崎 シノブのネクプラも見かけたが深く関わらなかった。
異世界での地獄を味わう前ぐらいは平和に過ごさせてやりたい。
「ふふふ、やっぱ亮太郎っておかしい」
「まあ同年代の子と比べればね」
「実はWEB小説で流行りの人生二週目だったり?」
「それはどうかな?」(最低でも三週ぐらいはしてるんだよな……)
などとマリネは何がおかしいのか笑っていた。
「学校の男子は全員子供っぽすぎてダメかなと思ったけど、亮太郎は違うわ。アイドルの道に興味ない?」
「ない。今は勉強頑張って一段落してから将来考えるわ」
「ハッキリと言うのね」
他所の国はどうかは知らないが、何だかんだで学歴社会だ。
そして人生と言うのは学校の勉強だけでなく、人生の勉強もしなくてはならない。
まあその前に異世界で死ぬかもしれないが。
「まあ、中学を卒業したらもう会う事もないだろうしね。ここでの出来事も夢だと思って忘れるさ」
「亮太郎って急にシリアスになるよね……何か死にに行くみたいにさ」
「そうみえる?」
「見えるから言ってるのよ。まるで何かとんでもない宿命とか運命とか……何かそう言うのを背負ってるみたい」
と、不安そうな顔を向けるマリネ。
「考え過ぎだと思うよ」
「悔しい」
「うん?」
「私、無力だ。でも亮太郎が何時もやっているように誰かを助けられるような、そんな人になりたい」
真剣に、ちょっと泣き出しそうな感じになってマリネは亮太郎に訴える。
「過大評価がすぎるよそれは」
「だからまた会いましょう?」
「ははは、まあ楽しみにしておくよ」




