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アニマルパニック

 Side 藤崎 シノブ


 輸送中の熊一頭と虎二頭が交通事故か何かで脱走したらしい。

 警察は総動員して対処に当たってるとか。

 これで誰か死んだら、誰が責任を取るのだろうかと、シノブは他人事のように考えて体育の時間を過ごす。

 

 不良五十人を殴り倒し、宇宙人とも戦った疑惑に、定期的に武器を持った不良や強盗犯を取り押さえるなどをしているせいか、体育教師からは恐れられている気がする。


 武術系の部活の人達からも、元特殊部隊とか元傭兵とか、絶対どっかの国のエージェントとか色々言われるようになった。

 その実態は異世界帰りの勇者である。


 武術系の志が高い人間からは弟子入りを志願されたり、合宿や集中稽古の誘いまで受けた。

 ボクシング部の人間は根性があって、毎度汗だくになって限界を迎えながらもスパーをして欲しいと頼まれるようになった。

 

 50m級の巨大ロボの顔面に蹴りを入れたり、剣一つで挑んだりする、超人的身体能力を持つ藤崎 シノブは、体育時間中は別人のように力を抑えている。

 その気になれば年俸100億越えのメジャーリーガーにもなれるが、それをやると裏の勢力とかが煩いのでやらない。

 

「うん?」


 気配探知に反応。

 遠くで何か騒がしくなっている。

 ちょっと軽めに探ってみると、熊と虎2匹が接近中らしい。


 その周りを警察官が取り囲み、マスコミがカメラを向けているようだ。

 警察官の武装は銃ではなく、盾だけだ。


 今の時代は、人間の命よりも人を襲う熊の命が大事であり、人を守るために熊を撃ったら例え正式な手順を踏んでも熊の撃った人間が逮捕されるらしい。

 当然、警察も熊を撃てない。

 そもそも日本の警察が使う銃では頭部に当たっても射殺できるかどうか怪しい。

  

 熊や虎2匹は順調に此方へ接近している。

 このままだと、あと数分もしない内にこの学園にやって来るだろう。

 奇跡的に逃れる可能性はある。

 だが、死人や怪我人が出てからでは遅い。

 

ふとここで放送が入る。


『現在、琴乃学園に熊と虎二匹が接近中です。校内に侵入の恐れがあるため、無闇に移動せずに生徒達は現在授業を受けている教室、施設で待機をお願いします


谷村 亮太郎。

 黒髪のオカッパ頭、不思議な雰囲気を身に纏うもう一人の異世界帰りの勇者。

 気配探知などのサーチ系はシノブよりも上だ。事前に状況を察知して独自に動いたと見て間違いない。

 後で教師に大目玉を食らうかもしれないが、的確な判断だとシノブは思う。


 グラウンドにいた生徒達もざわめき始め、体育教師もどうしていいか分からない様子だ。

 教師と言っても一人の人間で、対応できる範囲に限度がある。

 熊や虎が学校に来た時のマニュアルなど存在しない。

 それ以前に、今は昔より治安が悪化しているのに結果ありきの不審者対策訓練をしているだけの学校に対処しろと言うのも酷な話だ。


 そうこうしているウチに正門を乗り越えて、見張り番をしていた女性教師が腰を抜かしてその場にへたり込む。

 黒髪のロングヘアーで色白の肌で胸が大きい、美人のネクプラバトル部の顧問の美女、渡井 ミチル先生だ。


 熊と虎2匹が女性教師に近寄って来る。

 シノブは一旦姿を消し、子供達の永遠のヒーロー、赤目の双眼に二本の触角、暗い緑色の仮面に赤いマフラー、黒のライダースーツ、プロテクター、ブーツにグローブ、腰の白くて中央に赤い風車が回るバックルベルト、元祖ライドセイバー第一号に変身して教師と猛獣の間に割って入った。

 

 相手は熊と虎二匹である。

 素手の人間では敵わない。

 武器を持っていたとしても危ない。

 銃を持っていても距離を間違えればやられる。

 

 とある猟師によれば、熊との戦いは特殊部隊とやり合うような物らしいが、それは決して誇張の類ではなく、熊は軽車両に体当たりして凹ます程のパワーと頑丈さを持つ。

 パンチ力はヘビー級ボクサーの2倍相当。そのパワーで腕の爪で引き裂いてくる。

 脚力は個体差もあるが、世界陸上選手並みの速度は出せる。 

 猟銃で撃たれても急所に当たらなければ2、3発程度は余裕。

 一番いいいのは重機関銃かロケット砲の複数人掛かりで仕留める方法だ。


 虎の身体能力も油断できない。

 軽くネットで検索したことがあるが、10mを超える幅を飛ぶ能力と高速道路を走る乗用車並みのスピードを出す。

 此方も銃を持った人間でも殺されるかも知れない相手だ。


 シノブは異世界帰りの勇者。

 素手でこの程度の生物なら倒されるが色々と状況が不味い。

 相手は三体で敵意を隠そうともしない。

 警察などに追い掛け回されてストレスが溜まっているのだろう。

 一斉に襲い掛かられても大丈夫だが、後ろの教師が狙われる可能性がある。

 抱えて逃げる事も考えたが、同時にそれは他の生徒を危険に晒す恐れもあった。

  

(この手で行くか―—)


 漫画とかだとカッコよく徒手空拳で戦う場面だろうが、人の命が掛かった現実の実戦なのだ。

 ここは大人しく催眠魔法を使った。

 見る見るうちに眠りこけていて―—その時、門を乗り越えて背後から警官が空中に向けてる。


『よせっ!?』


 空中に向けて発砲。

 此方を助けるためにやった勇気ある行動のつもりだろうが、折角事態が鎮静化しようとしていたのに、眠りそうになっていた熊と虎二匹が起き上がった。

 同時に咆哮して警官の方に疾走していく。

 警察官は銃を乱射。

 何発か動物に着弾。

 動物は興奮状態になって警官に襲い掛かる。


『やれやれ。事態が悪い方に転がっていってるね』


 谷村 亮太郎。

 元祖ライドセイバー2号の姿をしていた。

 彼は虎二匹や熊の攻撃を一人で捌く。

 後ろにいる警官は地面に倒れ込み、怯えていた。

 

『ここだ!!』


 そして虎二匹の時間差の襲撃を殴り、蹴りで迎撃。虎は亮太郎の一撃でその場に倒れ込んだ。

 残すは熊が一頭。

 血を流し、興奮状態の熊。

 今度はシノブの方に向かった。


『どおりゃぁっ!!』

 

 飛び掛かったクマを柔道技の要領で投げ飛ばした。

 アスファルトの地面にヒビが入る勢いだ。

 熊はその場で痙攣して倒れ込む。

 口から血を流している。


『さてと、このまま放置するのも何だし、最低限の治療はしておくよ』


 亮太郎はある程度の後味の悪さを感じているのか、治療をしている。

 サイコキネシスの魔法で銃弾を摘出し、回復魔法を掛けるだけの処置だ。


『俺も手伝います』


 シノブも同様の手順でクマの治療を行う。

 偽善だの何だの言われそうだが、ネットの意見に一々耳を貸して流されるような人間に勇者など務まらない。

 手際よく応急処置を行い、取り合えず虎と熊をどうするかで悩んだ。


「災難だったな」


 そこで現れたのは―—国際的警察機構、ガーディアンズのエージェント。

 日本人形、昔の日本のお姫様の様な印象を持つ、長い黒髪で背もあり、胸もあるグラマラスな十代の大人びた美女。

 北川 舞だ。

 琴乃学園の女学生の制服姿である。

 藤崎 シノブと谷村 亮太郎と、ガーディアンズの窓口としての活動の一環として琴乃学園に通っているらしい。

 傍には完全武装の兵士が身を固めていた。お叱りを受けた後なのか、若干気まずそうである。


「後の処理は私達に任せて学校に戻れ。悪いようにはせん」


 との事だった。



 =放課後・琴乃学園近所のファミレス=

  

 放課後の近所のファミレス。

 このファミレスは先日、拳銃を持った強盗が押し入ったばかり。

 そして今回は熊と虎二匹の大騒動だ。

 今も警察の巡回がしつこいぐらいに行われている。

 

 今回の事件はニュースに流れることは無く、ネットでも話題にはならなかった。

 もしもネットやニュースで話題になったら、あの無謀な勇気を発揮した警官は職を辞すことになっただろう。それはそれで後味が悪いので、こうなって良かったとシノブは思う。 


 学校も早めに終わった。

ライドセイバーに変身して事態の収拾に当たっていたおかげか、学校側からお咎めなし。


 テーブルを挟んで席の前にはクラスメイトの二人がいる。

 太くて四角く分厚い眼鏡で赤いバンダナの尾田 サトシ。

 ちびっこい少年の守宮 イッペイ。


「アレだけの大騒動にも関わらず、話題になりませんな」


 と、尾田 サトシはスマホを弄りながら言う。


「ライドセイバーも現れて、完全武装の兵士が現れて、何やら大きな権力が動いた気配がするであります」


 守宮 イッペイもスマホで今回の事件を探っているのだろうか。

 そんな疑問を口にする。


「まあ、でも。皆無事で良かったよ。うんうん」


 シノブは苦笑いしながら言う。

 警官のせいで危うく死人が出ていたかもしれないと思うと、笑えない。

 ちなみに今回のファミレスは北川 舞が謝礼の一環として支払いはタダにしてくれるそうだ。

 

と言っても、危うく人が死ぬ事態だったのだ。

はいそうですかと喜べない。

それにテストの前でもある。

異世界救った勇者とは言え、今は学生。

ハメ外してどんちゃん騒ぎするのも間違いだろう。


(まあ、今は大人しくファミレスに避難した方がいいか)


そして探知魔法に引っ掛かた内容が内容だ。

念のため、節度を持ってレストランで過ごす。


「おっ、また熊がこの近辺で出没したようですぞ」


「またでありますか? 大阪は都会だと思ってたのでありますが」


 などと二人がやり取りしているウチにどんどん熊がファミレスに急接近して来た。

 

「伏せろ!?」

 

 やがて、熊がファミレスの窓ガラスをぶち破って店内に侵入。

 大騒ぎになり、店内にいた客を助けるために咄嗟の判断でシノブが熊を一撃で無力化した。

 右ストレート。

 熊の側頭部に一撃、ワンパンで巨体の猛獣がファミレスの床に沈む。白目を向きながらピクピクと痙攣して口から泡を吹いていた。



 =その後=


藤崎 シノブは熊を殺してはないが、熊殺しとしてニュースで話題になって、ネットのトレンドを攫う。

二度に渡る警察の大失態にガーディアンズも庇いきれなかったのか、琴乃市の警察は謝罪会見を開く事態になった。


シノブは形式的に厳重注意され、琴乃警官の署長クラスが出向いて頭を下げられて、後に証書を授与するから受け取ってほしいとのことだった。

ネットではシノブは賞賛され、警察の対応に苦情が殺到するが、シノブでもそれはどうしようも出来なかった。


学園内外ではしばらく熊殺しの異名で通ることになり、弟子入り志願者が増えてシノブ目当ての襲撃者が目に見えて少なくなった。

逆に写真撮影を求められる機会が増えたと言う。

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