恐怖のデビルベアー団
この地球には数多くの侵略者が潜んでいる。
特に大阪府I市はそうだ。(本編の登場キャラ、異世界帰りの勇者、谷村 亮太郎が住んでいる街)
ダーク・スターズ、ダーク・セイバー、アークゾネス。
などの悪の組織が潜んでいる。
対して正義側はスターレンジャーや宇宙戦士デュース、エンジェリアなどが対応し、戦いは均衡状態を形成していた。
そんな街に新たな悪の組織が誕生しようとしていた。
☆
=平日の昼・I市内のファミレスにて=
I市内のファミレス。
平日なのだがそこそこ人が入ってる人気のあるファミレス。
テーブル1スペースを借りて、灰色の二本角の兜を身に着け、グレーの鎧と漆黒のマントを羽織った茶色い子熊のヌイグルミみたいな二頭身の生物がいた。
背丈は幼稚園の子供ぐらいだろうか。
彼はデビルベアー団の総帥、子ぐま大使である。
遠い宇宙の彼方から地球に侵略しに来たのだ。
その手始めとしてI市に乗り込み、怪人軍団を産み出していた。
眼前にはピエロ怪人とモアイ怪人がいた。
背丈は高いが、二体とも昭和の特撮物に出て来そうな個性的な外観だ。
組織所属怪人のためか、腹部にはデビルベアー団のかわいいエンブレムがついたバックルベルトを捲いている。
ファミレスの店員や周囲の客はもう何かを悟ってしまったのように暖かい目線でこの3人(3匹?)を見守っていた。
「やれんのかお前らなのだ?」
子ぐま大使はピエロ怪人とモアイ怪人に尋ねる。
眼をキリッとさせて、ピエロ怪人とモアイ怪人を睨みつけた。
大切なI市での侵略活動。
ヘタすれば悪の組織とヒーロー達に袋叩きにされる自殺行為とも言える行為。
失敗は許されない。
「大丈夫です!! この日のために腕立てや上体起こし、スクワット100回に、10kmのランニングをしました!!」
ピエロ怪人はこれまでの努力を語る。
「俺もピエロ怪人を見習って、肉屋の固い冷凍された肉を素手で叩いたり、卵を生で飲んだり、ランニングして減量しました!!」
モアイ怪人も努力を語る。
その二人の努力を聞いて子ぐま大使は「分かったのだ。対決を許可する」とGOサインを出した。
「お待たせしました♪」
昨今ファミレスに導入されているロボットウェイトレスがメニューを運んで来る。
モアイ怪人が運ばれて来た料理をテーブルに並べた。
3人ともカレーだった。
「「「いただきます」」」
3人は香ばしく絡みがあるファミレスのカレーをスプーンで口に含んでいく。
「あ、子グマ大使様、奢りでいいんですか?」
カレーを食べながらモアイ怪人が子グマ大使に質問する。
出撃前なのに上司からカレーをご馳走になっていいのかと。
「いいのだ。これも世界征服のためなのだ」
と、返しながら子ぐま大使はカレーを胃袋へと運んでいく。
まるで子供が好みの食べ物を無我夢中で食べるような仕草。
そこになみなみならぬ覚悟と決意を感じ取った二人は「分かりました!!」、「必ずご期待に添えてみせます!!」 と返事をした。
「覚悟を示すのはいいけどここは平日の昼のファミレスなのだ。テンションを抑えて欲しいのだ」
「「す、すみません」」
総帥のお言葉にピエロ怪人とモアイ怪人の二人は頭を下げた。
☆
=昼・I市の公園にて=
カレーを食べ終えて会計を済ませ、トイレも済ませ、念のために飲み物や弁当を持参して来た子ぐま大使とピエロ怪人にモアイ怪人の二人。
さすが世界征服を狙う侵略者だけあって準備は万端だ。
更に念を入れて近くの薬局で流行りのヒーローの子供用ばんそうこや消毒、ガーゼなども購入している。
対決の場所は近所の公園。
平日の昼間などで人払いは楽だ。
だがここで思わぬ誤算が生じた。
「なに!? ヒーローが来ないのか!?」
まさかの対決予定のヒーローが遅刻。
そこで子グマ大使は天才的な頭脳を働かせる。
「まさか!! わざと遅刻して我々にストレスを与え、そのストレスで判断力を鈍らせる作戦なのか!? 何ともヒーローらしからぬ作戦なのだ!?」
怪人二人はその推理に驚愕した。
しかしある事に気づいた。
「だが裏を返せばそれだけ我々は恐れていると言う証拠!!」
「油断しなければ勝てる!!」
そう言って二人はウォームアップを始める。
ピエロ怪人は縄跳び、モアイ怪人はシャドーボクシング。
勝利に懸ける凄まじい熱意が子グマ大使にも伝わって来る。
これは勝てる。
子グマ大使が勝利を確信した瞬間である。
☆
Side 藤崎 シノブ
学校はまだ再開しておらず、修行に避難民の支援活動などに精を出す藤崎 シノブと谷村 亮太郎。
その一環としてI市に訪れ、デビルベアー団の3人を偶然目撃してどう対応すればいいのか分からなかった。
思わず鑑定魔法を使ったが宇宙人で怪人で侵略者とのことだ。
傍には谷村 亮太郎が「気合入ってるねぇ」と他人事のように傍観していた。
「あれほっといて良いんですか?」
「I市ではよくある光景だ。もう僕は諦めた。妹の雪穂はエンジェリア――ニチアサ変身ヒロインの青担当になってるしワケが分からないよ」
「あ、うん。ごめんなさい」
亮太郎の瞳から光が失い、汗を流して顔を青くさせていた。
シノブは異世界で様々な絶望を突きつけられ、亮太郎がショックを受けた顔を見て来たが、ショックを受けすぎてある種の悟りを開いたような顔をして何を言ってあげればいいのか言葉に迷った。
「おお、亮太郎! こんなとこで何してるのだ?」
テクテクと銀色の二本角の兜に鎧、漆黒のマントを羽織った明るめの茶色い毛並みの、幼稚園児の丸っこい小熊のヌイグルミのような生命体が寄って来た。
「ああごめん。ちょっと色々とショックな事を思い出してね、ユキヒト君」
「この姿の時は子ぐま大使と呼んで欲しいのだ。それよりも大丈夫なのか? 携帯ゲーム機で遊ぼうかなのだ?」
(この子グマの子、ユキヒトって言うのか……)
シノブはどっからつっこめばいいのか分からない現実の異常事態に言葉を失っていた。
「しかし対決予定のヒーローが来ないのだ。ちょっと電話しようかなのだ?」
「電話でやり取りする仲なの!?」
「そりゃそうなのだ。世界征服するために倒すヒーローの連絡先を把握しておくのは常識なのだ」
「常識なの!?」
シノブは自分自身に置き換えて考える。
例えるなら魔王サウラスとスマホ一つでやり取りするような状況だ。
正直想像も出来ない。
「僕はデビルベアー団の総帥、子グマ大使なのだ。君の名前は?」
「あ、丁寧にどうも。藤崎 シノブです。シノブで呼び捨てでいいですよ」
「ありがとうなのだシノブ」
「話を戻すのだ。ヒーローと連絡先を交換しているのはとても大切なことなのだ。戦争でも相手国との連絡先は把握しておくのは常識なのだ」
「な、成る程? お互い戦争状態に陥っても外交チャンネルはちゃんと確保しておくようなもんか?」
「その通りなのだ」
藤崎 シノブも異世界で魔王討伐と言う名の戦争を経験し、地球の戦争史も学ぶようになった。子グマ大使の言い分は筋が通っている。
戦争に汚いもクソもないと言うが、ある一定のルールを守らないと相手を皆殺しにし、味方を大勢犠牲にするまで戦いは終わらなくなってしまう。
かと言って気軽にスマホでやり取りする間柄と言うのも何だかなぁとシノブは思う。
「お待たせ!! 遅れてごめんね!!」
赤毛のツーサイドアップヘアー。
後ろ髪は首下を覆うぐらいの流さ。
やや垢抜けた小生意気な顔立ちの女の子。
まだ十代かそこらだろうか。
鍛えているのか四肢はホッソリとしている。
胸は爆乳サイズの大きさ。
カジュアルな年頃の女の子っぽい私服に身を包んでいた。
「遅いのだ」
「ごめんなさい。ちょっと色々と手続きが掛かって—―」
「なんだ、わざと遅刻してイライラさせる作戦じゃなかったのか」
「はい――えーとお二人は?」
ピンク髪の女の子が藤崎 シノブに目をやる。
「藤崎 シノブです」
「どうも。スターレンジャーのレッド、ホノカです。見習いヒーローですが頑張ります」
「は、はあ?」
そう言ってホノカは変身。
スカートが付いた戦隊レッドっぽい衣装になる。
クラスメイトの黒川 さとみが見たら喜びそうだ。
と言うか普通に目の前で変身した。
地球外テクノロジーの産物であろうかと頭を働かせる。
「よし、これで戦闘準備は完了なのだ!」
そう言って子グマ総統は対決に熱意を燃やす。
モアイ男、ピエロ男が両腕を挙げて奇声を挙げていた。
☆
「ダル~マさんが~こ~ろ~んだ……」
対決は始まった。
何故かダルマさんが転んだである。
ルールは公平的な抽選で藤崎 シノブがやった。
そして激闘の末にホノカが勝利。
「クソっ!! この日のためにトレーニング頑張ったのに!!」
「恐るべしヒーロー!!」
ピエロとモアイの怪人はその場に蹲って本気で悔しがっていた。
ダルマさんが転んだ勝負で一体何のトレーニングを積んできたのだろうかとシノブは思う。
「今度は必ず勝つのだ!!」
「ああ、うん。頑張ってね」
リベンジに燃える子クマ大使。
シノブはもう何から言えば良いのか分からなかった。
一方で亮太郎は「危うく死人が出る激闘だったね」などと一人悪ノリしていた。
その後、スターレンジャーのスターレッド、ホノカ側に藤崎 シノブと谷村 亮太郎がチーム入りし、デビルベアー団とみんな仲良く缶蹴りして解散した。
ちなみにシノブはホノカ含めて子グマ大使と連絡先も交換した。




