表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/77

闇乃 影司のお話

 Side 藤崎 シノブ


 =夜・大阪日本橋、メイド喫茶ストレンジ店内=


 大阪日本橋はオタク街のイメージもあるが、外国人観光客も多い繁華街だ。

 夜になれば犯罪率が高くなる。

 街に散乱するゴミや落書きがその証拠だ。

 今は宇宙犯罪組織、ジャマルの件もあって警察が念入りにパトロールしているのでチンピラも寄り付かないだろう。


「で、影司……話ってなんだ」


 店が閉まり、メイド喫茶ストレンジのバー。

 人は闇乃 影司と藤崎 シノブの二人だけ。

 

 長く白いポニーテール、白い肌、何処か儚げで清楚そうな顔立ちで華奢な体つき。

 女の子が身に着けそうな、黒っぽいボーイッシュなカジュアルな背格好。

 相変わらず闇乃 影司は絶世の美少年だった。

 今はどう言うワケか緊張しているような顔をしている。

 とても辛い事を告げる前の表情だと感じ取る。


 シノブは影司の隣に座る。

 テーブルには作り置きのジュースが置かれていた。


「自分の事を話しておこうと思って。亮太郎にも許可を得た」


 話を切り出す影司。

 シノブは「いいのか? 話して?」と尋ねる。

 正直言うとシノブは闇乃 影司の過去は興味があるし、その一部に関わっている。

 フューチャーテック事件で闇乃 影司の細胞を基にした人造生物と戦ったりもしたのだ。

 この先日本で生きていくうえで、日本の闇と対峙する上ででどうしても闇乃 影司の過去は知っておかなければならないとも考えていた。


「これでも異世界でも色々あった身だ。覚悟は出来ている」


「そう……」


 そして一幕置いて影司は「何から話せばいい?」と語り掛ける。


「時間が掛かってもいいから最初から順に話して欲しい」


「分かった、じゃあ僕の家の事から話すね」


「普通の家じゃないんだな?」


「うん。退魔師の存在は知ってる?」


「ああ。フューチャーテックの事件が終わって少し経った後にやり合った」


 正確には退魔師が呼び出した鬼と呼ばれる妖怪と戦った。

 首謀者である女退魔師、織姫とは谷村 亮太郎がケリをつけた形だ。


「話が早い。僕も元々はとある退魔師の家の跡取り息子なんだ」


 気になる点は多いがそれを含めて語られるのだろう。

 「続けて」と話を促した。


「だけど僕の家は退魔師の家の中でも暗部――と言えば聞こえはいいかも知れないけど、汚れ仕事を引き受けてる家だったらしい」


「らしい?」


 疑問形の部分にシノブは疑問を抱いた。


「僕は14歳以前の記憶は無いんだ。記憶を失う前は退魔師の学校に通っていたらしいんだけど、覚えていない」


「……そうか」


 気になるが世の中は知らないままの方がいいと言う事は沢山あるので深く尋ねなかった。


「気が付いた時には地獄が始まっていた――疑問を持つ余地すらなかった。文字通りの実験動物扱いだった」


「フューチャーテックの地下の事は後で知ったけど、やっていた事はそう変わらないと思う。国益のため、人類の未来のために、そんな大義名分の為に人間を使い潰していく」


「あの核爆発が起きた場所はそう言う連中の実験場だったんだ」


 と、語る影司。


「あの核爆発は—―影司、やっぱり君がやったんだな」


 亮太郎とのこれまでのやり取りで何となく想像はついていたので特に疑問を挟まず、話を促す。


「うん。そうだよ。もっと上手いやり方があったんじゃないかとか思うけどね。だけど気が付いたら周囲は何もなくなっていた。巨大なクレーターの中で一人浮かんでいた」


 闇乃 影司の力はその当時から凄まじい物だったのだろう。

 同時に話を聞いている限り、その報復は一定の正当性を感じていた。


「心に穴が開くってのはああ言うのを言うのかな。暫くその場で茫然となって……それでその後、近くの町に身を寄せて—―」


「そこから日本政府の襲撃が始まったんだ」


 影司の雰囲気が変わる。

 涙を押し殺すようにして語り始めた。


「全ての電子機器をシャットダウン。関わった人間を皆殺しにする。凶悪なウイルス感染の拡大を防ぐためと言う大義名分でとにかく僕を殺そうとした。色んな人が殺しに来た。戦車や戦闘ヘリとかも沢山壊した。ミサイルとかも撃ち込まれた」


「その舞台となった町は地図上から念入りに消されたよ。町を一つ死の町に変えた後、僕は—―日本を滅ぼそうと思った。話し合いどうこうとか考えたくなかった」


 小説の設定とかではなく、この日本で本当に起きた事件なのだろう。

 フューチャーテック事件や宇宙犯罪組織ジャマルと日本政府の密約を聞いた後だと大いにありえるとシノブは思った。

 その当時の事を克明に覚えているのか、影司は自然に涙を流し、体を震わせて真実を話し続ける。

 

「だけど—―止めてくれる人が現れた。それが今の何でも屋の仕事をしていた大宮 優」


「必死になって止めてくれた。僕は邪魔するなら殺すつもりで排除しようとした。優は訴え続けて、三日間そうした」


「三日間も……」


「お互い疲弊し尽くして、周辺を更地に変えて、ようやく耳を傾けようと思った。だけどそのタイミングで日本政府が僕と優を殺そうとしてきた」


「その頃から日本政府は屑だったんだな」


 話を聞いている限り、日本政府は昔からどうしようもない屑だったのだろう。

 前の政府もジャマルと密約を交わしていたみたいだし。

 その辺を含めて一度亮太郎と話しをした方がいいと考えた。

 その考えを今は置いておき、一つ気になる事があった。


「その話の続きも気になるけど……それだけ強大な力をどうやって手に入れたんだ?」


 影司の強大な力は何なのだろう。

 どうやって手に入れたのだろうと思う。


「人体実験と称して体に埋め込まれた外宇宙の鉱物が体に埋め込まれた影響だって。その当時から既に政府は宇宙犯罪組織と取引してたんじゃないかな?」


 外宇宙の鉱物の存在もそうだが、あのジャマルの地下要塞も、幾ら地球よりテクノロジーが優れているからと言って誰にも兆候を察しされずに一朝一夕で建造は不可能だろう。

 年単位で取引があったと考えれば納得のいく部分も多い。


「話を戻そう。3日間に渡る戦いの後、色んな人に出会った。戦いもなるべく傷つけずに終わらせる形にシフトしていった。それでも完全に人死には消えるわけじゃなくて……大勢の人間が犠牲になった。やがて様々な勢力がぶつかり合いになって、その頃はEー00ファイルの存在なんて知らなかった」


「Eー00ファイル、何度か聞いた名だな」


 谷村 亮太郎の口から耳にした、幾度も聞いた話。

 ネットでも都市伝説扱いされているらしい。

 それは確かに存在し、大勢の人間の人生を狂わせたとも。


「Eー00ファイルは日本の非合法な実験記録とその成果が記されたファイルだよ。問題はその成果の部分」


「無限のエネルギー、環境問題、宇宙開発に必要な技術、あらゆる病気を駆逐できる医療技術などが記録されている」


「今の人類には過ぎた代物だな。ぜったいロクな事にならない」


「その意見が聞けただけでも、シノブに話したのは無駄じゃないと思えるよ」


 藤崎 シノブは人類の善性を信じているが、妄信しているわけでもない。

 例として、環境問題を解決できたとしよう。

 そうすると何が起きるだろうか?

 間違いなく環境問題を簡単に解決できるからと言って、環境破壊を際限なく行うだろう。

 素人でもこれぐらいは容易に想像できる。


「話しておくことはこれぐらいかな?」


「ありがとう。以前、退魔師と戦った時、関西の退魔師協会のトップが目の前に現れたのも理解できた」


 関西の退魔師協会のトップ、竜宮 宗介の登場は善意もあったかもしれないが、話が拗れて闇乃 影司や同等以上の実力を持つ大宮 優と言う人物までもが協会の敵に回るような事態を避けるためもあったと考えるのが自然だ。

 もしくはまだ見ぬ、このメイド喫茶の店主であるヘレン・P・レイヤーが裏で手を貸していたのかもしれないが。あるいは両方か。 


「そう考えると人脈がある谷村 亮太郎、恐るべしだな」


「言われてみれば確かに、あの人も掴みどころがないと言うか底が知れない部分がありますね」


「並行世界の自分自身とある程度知識共有出来るとか言ってたけど、実は能力も共有できるとか言っても俺は驚かんぞ」


 魔王サウラスの決戦時にシノブが身に纏っていたパワードスーツ、マジックメイルや並行世界から持ち込んだ各属性の闘気、明鏡止水スーパーモードなどの闘方も谷村 亮太郎が持ち込んだ物だ。

 つい先日、闇乃 影司と組み手したミニチュア内の世界も、谷村 亮太郎製作。

 谷村 亮太郎も大概チートだ。 


「知識共有できる人は他にもいるみたいですけど。プレラーティ博士と言って、異世界や並行世界のゲート関係の技術を任されてるみたいです。フューチャーテックの地下にあった異世界の門も恐らくはその人の研究データーが何かしらの形で漏れて悪用された感じだと思います」

 

「世の中分かんない事だらけだな……」


 疑問を解消する筈が分からないことが増えた。

 だが世の中と言う奴は分からない事の方が多いのが当たり前なのだろう。


「その後は知っての通り、こうして日本橋で何でも屋をやってるんだ。最初の頃は優の手伝いだったけど今は一人で何でも屋やってるの」


「大変だろうに、何だかんだでシッカリ頑張ってんだな」


 高校一年なのに随分シッカリとしていて偉いと思う反面、自分がまだ十六歳だったころ、異世界でそれなりの年数を過ごす前の自分と比べて恥じ入るばかりだった。

 

「と言っても自分最終学歴中卒ですよ? 頑張れば高卒認定試験とかも余裕で合格できますけど」


「……この先、日本は本当にどうなるか分からないけど、学歴はあった方がいいか」


 などと言葉を交わしつつ、夜が過ぎていった。

 藤崎 シノブは闇乃 影司の事務所にお泊りして一晩過ごすことになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ