最強VS最強
Side 藤崎 シノブ
=昼・闇乃 影司の事務所、ミニチュア内の修行場=
大阪日本橋。
闇乃 影司の事務所のテーブルデスクの上に大きなお城と庭園のミニチュアが飾られたガラス容器があった。
異世界のマジックアイテムにミニチュアワールドと言う物がある。
ガラス容器に映し出された仮想世界の中で生活できると言うとんでもアイテムだ。
内部はまるでお伽噺に出て来るお城に庭園。
緑の木々が溢れる場所。
そんな中に作られた四角い石畳のリング。
そこで黒髪の少年、藤崎 シノブは白いポニーテール、白い肌に赤い大きな瞳の可愛らしい女の子の様な男の娘、闇乃 影司と戦っていた。
藤崎 シノブは得物をアレコレと切り替えて戦い、闇乃 影司は両腕を黒く変化させ、そこから剣を伸ばして戦っている。
両者の速度は音速を軽く超え、分身、幻覚が飛び交っている。
傍目から見るとSFアニメや映画にでてくる宇宙戦闘機だのエイリアンのUFOが全速力で激しくぶつかり合っているようにも見えた。
☆
今回の戦いは藤崎 シノブが闇乃 影司に提案した物だ。
ジャマルのデスター司令や最後に現れた怪獣、デスガロイアの強さを感じて、更なるパワーアップの必要性を感じたからだ。
谷村 亮太郎もそれを感じたらしく、トレーニングに付き合う事にした。
だが谷村 亮太郎ばかりを相手にするのもモチベーションは保ちにくい。
そこで闇乃 影司と言うワケだ。
闇乃 影司は強さに上限はない。
戦い方だって剣や銃だって使うし、毒ガスや精神攻撃の類のエゲつない戦いだだって使える。それをシノブは卑怯とは言わなかった。
殺し合いの世界は何でもあり。
異界から召喚獣を呼び出したり、マジックアイテムでの身体能力強化なども当たり前に飛び交う世界にいた。
何なら巨大ロボとか宇宙船、宇宙船の艦隊、惑星要塞とかもアリだ。
殺し合いの世界とはそう言う不条理な物。
ある日、宇宙の彼方から惑星を指先一つで消せる凶悪で残忍な宇宙人が来訪するかもしれないと言う想像も洒落じゃ済まなくなってきた。
もし凶悪で残忍でとても強い侵略者が来たらどうする?
泣いて頭を下げて許しを請えば滅びは避けられるのか?
その問いにシノブは単純に強くなればいいと考えていた時期もあったが、それにNOを突きつけたのが谷村 亮太郎だ。
戦力の強化や支援体制を整えるなど、やる事は沢山あると亮太郎は言っていた。
それを分った上でシノブは強くなるために修行へ身を投じた。
どの道、リリナに修行をつける約束をしているし平凡な毎日を送るワケには行かないと言うのもあった。
それにとある漫画で強い正義は多い方がいいと言う言葉もある。
そのために自己鍛錬と人材の育成、そこへ自分達の支援者の強化や装備の強化などを並行して行う。
世界は違うがやる事は異世界の時から変わらない。
☆
Side 黒川 さとみ
藤崎 シノブと闇乃 影司の戦い。
パワーインフレが進みまくった少年バトル漫画のような光景だ。
傍には谷村 亮太郎がいて解説役を行っている。
黒川 さとみはシノブの戦っているところを一度見て見たかったと言うのもある。
同時に自分の目標、立ちたいと思ったステージを見て見たかったと言うのもあった。
結果、その自信は打ち砕かれた。
手に持っていた亮太郎特性のカメラを超スローモーションで後追い撮影してもかろうじて姿を捉えられるかどうかと言うレベルだ。
「亮太郎、まだこれでも二人は本気は出してないの?」
傍に控えてバリアを張っている亮太郎に問いかける。
亮太郎は平然とした顔だった。
「うん。まだスーパーモードは発動していないしね」
「影司も強いけど、勝てる?」
「分からない」
「え?」
「今はシノブ君は圧倒的実力と実戦の経験で押してる。けど影司君も天才だ」
「影司君は自分の事は才能が無いと言っていたけど—―確かに戦い方は何処か機械的でぎこちないところがある。漫画やゲーム、アニメで思いついた攻撃方法をそのまま再現しているからだろうね」
「だけどシノブの攻撃に合わせてどんどん戦い方を最適化している。シノブの攻撃パターンを吸収し、動きのクセも学習し始めている」
「もしかしてそれって――シノブが押されてるの?」
「ああ」
戦いが高速過ぎて二人の状態がさとみには分からない。
だが谷村 亮太郎は嘘を言っているようには見えなかった。
「でも、今のシノブはイキイキしているよ」
「え?」
「戦う事が大好きだからなのか、それとも僕意外でここまで戦える人間がいた事か、それとも両方なのか—―ひとりで世界の命運を背負い込もうとしているのかと心配したけど、アレなら心配なさそうでホッとしたよ」
「そうか……何か勝ち負けで心配している私が恥ずかしくなった」
分かっていた筈なのにとさとみは悔しがる。
藤崎 シノブはそんなスケールの小さい男ではない。
世界を救ってみせた男なのだ。
単純な目先の勝ち負けより、その向こう側の事を考えていても不思議ではない。
☆
Side 藤崎 シノブ
(やっぱり強いな……)
分かっていたが闇乃 影司は強い。
独自に鍛えていて、師匠の教えが良かったのもあるのだろう。
だけどシノブには異世界で潜り抜けた実戦経験の数々が支えていた。
(本当に異世界行く前に誘っておけばよかった!)
闇乃 影司がいたら異世界の旅路はもっと楽だったろう。
だがそれはもう済んだ事だ。
変えられないし、変えてはいけない。
(だけど今は—―影司に勝つ!!)
今はそんな事より影司に勝つ事だ。
全力を出しても勝てないかもしれない。
現在音速の何十倍、何百倍と互いの速度も上がっている。
緊張の綱渡り。
判断を少しでも誤れば負ける。
そんな領域で戦っていた。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
影司は被弾覚悟で漆黒の両腕から形成された剣で攻撃を仕掛ける。
シノブも多少の被弾覚悟で剣をぶつけた。
互いに身体能力強化魔法を、加速魔法を何度も重ね掛けしての衝突。
四角い舞台も荒野のように荒れ果てていた。
大気が、空間が振動する。
ここまでの激しい戦いは久しぶりだ。
異世界から帰る前の、仲間との手合わせ以来かもしれない。
「クッ!!」
無理矢理影司を剣で弾くように引き剥がし、距離が空く。
少しでも距離を放つとホーミングレーザーなどの光線が雨のように飛んで来る。
それを全部受け止めるようにして明鏡止水に入る。
シノブの体は金色に光り輝き始めた。
影司も一旦攻撃を止めて金色となったシノブを見つめる。
「普通の人間が到達できる極地、明鏡止水――僕も単純なパワーアップは出来るんだけど、単なるリミッター解除にしかならない」
「だからその力を物にしたい」
そう言って影司は構えた。
素手。
今はマーシャルアーツの基本的な構え。
シノブも剣を構えた。
両者ともに動かない。
この間でも両者の間では様々な心理戦、やり取りが行われている。
呼吸のタイミング、目の動き、両手両足の配置。
様々な要素が互いの頭脳で計算され、そして――
「「ッ!!」」
激突。
互いの剣激の連打。
シノブが押している。
この間にも闇乃 影司は無限にパワーを上がっていく。
だがそのパワーの上昇に体や脳が追い付かないと言う弱点も存在していた。
それでも影司はパワーアップした体の最適化を順次行い、ダメージを受けながら立て直そうとしていく。
(この僅かな時間の間に影司も成長している――次本気で戦えば勝てるかどうか分からない程に)
だからこそ本気をぶつけたい。
シノブは限界突破の魔法を上乗せする。
戦いはコンマ数秒の次元へ。
一瞬の間に百を超える攻防。
決着は—―
☆
=夕方・メイド喫茶ストレンジ=
藤崎 シノブはメイド喫茶ストレンジのテーブル席に座っていた。
現在日本橋は先日の事件で客足が遠退くかと思いきや客で賑わい、メイド喫茶も活気で溢れている。
藤崎 シノブと黒川 さとみはテーブル席で飲み物を注文していた。
ミニチュア修行場は闇乃 影司の修行場に置いてある。
谷村 亮太郎はミニチュアの整備。
闇乃 影司は何でも屋の仕事に出かけた。
「どうにか勝てた……」
藤﨑 シノブは闇乃 影司に勝利。
殆ど僅差。
あと僅かと言う所で勝てた。
勝つには勝ったが正直悔しい。ショックを受けている。
異世界の師匠達がみたら「訛ったんじゃないか」と言われるところを想像してしまう。
暫くは修行場で鍛え直しかもしれない。
「少年漫画でもレアな超人限界バトル繰り広げた後なのに元気そうね……」
さとみは顔を引きつらせていた。
「そうか? 異世界だと凄い人ばかりだったからそう言う感じあんまりしなくて。単純な戦闘能力なら俺より上の人はいるし」
「どんだけ魔境なのよ異世界――」
藤崎 シノブの言う事は誇張でもハッタリでもない。
剣術、格闘技、魔法などの分野において確実に上はいた。
魔王の称号を持つ者や天界の戦乙女などもだ。
そうした人々も激しい戦いの中で成長していった。
その中には谷村 亮太郎は含まれている。
「努力をするのは当たり前。そこからさらに創意工夫して更に前へ前へと進んで得た感じかな?」
「うん……」
「どうした? 浮かない顔して?」
「正直言うと……その……強くなって、シノブの力になろうと思ってたんだけどね……」
「うん」
「だけどその必要ないかなって思ったけど、諦めきれなれなくて」
「それは自分の命だけじゃなくて、顔も知らない他人の命も絡んだ問題だ。半端な覚悟で、安易な気持ちで決めちゃいけない」
「……うん」
さとみは大人しく頷いた。
「分かってるの。分かってるのよ。でも、何か置いてけぼりされる感じがして……悔しくて……まるで失恋したみたいで……」
「……」
「結論、待ってくれていいかな?」
さとみの考えにシノブは「いいよ」と答えた。




