そして明日は来た。
Side 黒川 さとみ
=事件発生から2日目の昼・琴乃学園内=
琴乃学園はちょっとの間休校する事になった。
未だに学園内は避難民で溢れ返っている。
ネットもテレビも情報が錯綜して何が真実なのか分からない状態。
大パニックだった。
ただ一つ分かった事がある。
藤崎 シノブや谷村 亮太郎が頑張って、この世界の危機を救ってみせた。
黒川 さとみは必死に働いた。
アイツも頑張っているんだって自分を勇気づけて頑張る。
教師やクラスメイト、親からも奇異の目で見られたが構わなかった。
ただ自分が信じている事を一生懸命に信じ抜く。
「ただいま」
「…………待たせんな、バカ」
そして藤崎 シノブは学園へと帰って来た。
谷村 亮太郎も一緒だ。
さとみは人目など気にせずシノブに胸に飛び込んで泣いた。
「実はな、日本橋で集まった避難物資を幾らか融通してもらおうかって話になって—―それの調整のために色々と手を貸してるんだ」
「本当に、正直者が馬鹿を見て……」
「ごめんね」
「許す。世界を救ったんだもんね」
「ありがとう」
そしてさとみは不意打ち気味に口づけした。
☆
時は少しだけ流れた。
内閣は総辞職。
あまりにも無責任な総辞職なので無責任解散と言われる事になる。
だが内外から事件時や事件後の対応で大規模デモが発生、厳しい追求に晒されるのであった。
多大な被害を被った自衛隊は退職者を大量に出す事になるが想定していたよりも少なかったのが幸いだった。
世界各国では軍事費を倍増して宇宙人に襲来に備える傍ら、ガーディアンズやスター・アライアンスの事も限定的だが公開された。
これは宇宙人の驚異の前に少しでもパニックを抑えようという狙いがある。
その公開されたヒーローの中に藤崎 シノブや谷村 亮太郎、闇乃 影司やリリナなど、一部のヒーローの姿はなかった。
そんな世界の動きの中で人々は復興に向けて前に進む。
=数日後、昼・大阪日本橋・イベント会場=
大阪日本橋の関係者で特別パーティーが開かれた。
主催者はメイド喫茶ストレンジの店長、ヘレン・P・レイヤー。
招待されて出席できる人間はあらかた集まっている感じだ。
メイド喫茶ストレンジの店員、毒島 リンカに殺し屋の宇藤 タツヤ。
工藤 怜治に前嶋刑事、サバゲーチーム日本橋バスターズの面々、女子プロレスラージェイミー・ゴードン、魔法少女系動画配信者リオ。
その中に藤崎 シノブや黒川 さとみの姿もあり、そこには宇宙刑事リリナの姿もあった。
「その子が例の宇宙刑事ね」
さとみは顔を赤くして不機嫌そうにする。
正直言うとリリナに嫉妬していた。
綺麗で可愛らしい女の子だ。
胸も自分と同じぐらい大きい。
性格も社交的で親しみが持てる。
「はい。そのつもりです。暫くシノブの近くで世話になります」
と可愛らしい笑顔で返すリリナ。
「シノブ? 対価にやらしい事要求するんじゃないでしょうね?」
「俺を何だと思ってるんだ……」
さとみのあんまりな発言にシノブは呆れる。
「さとみさんも護身術レベルで身に着けた方がいいのでは? シノブと一緒にいると言う事は荒事も増えると言う事ですから」
ここでリリナが思わぬ助け舟を出す。
さとみはと言うと—―
「これってあれよね。中途半端に力を持つと痛い目見るパターンになる奴よね? でもどうしようかしら?」
などと悩むさとみ。
彼女は彼女なりに力を持つことについて考えているようだった。
「今はパーティーだし、悩まずパーティーを楽しんだら?」
「それもそうね」
シノブの提案にのってさとみはパーティーを楽しむことにした。
ここからはロボットのプラモを戦わせるプラモバトル大会やビンゴ大会などが行われる予定だ。
「よぉ。アンタが藤崎って人かい?」
と、長い赤い髪で顔立ちが男らしくととのっている。
背もあり、四肢や体がアスリートのように引き締まっていて胸がさとみやリリナと名時ぐらい大きい。
衣装は黒いミニスカワンピースにリストバンド、ゴツいパンクブーツを履いている。
「一応自己紹介しとくか。火渡 レッカ。日本橋で助けてくれてありがとうな」
などと顔を赤らめて照れくさい表情を浮かべていた。
「まあ、それはそれとして弟子入りするって話だけど本気か? まあ助けられた手前、あれこれ言うのは筋違いなんだろうけどさ」
レッカが言ってるのはサティーナから洗脳状態から救ってくれたことだろう。
体の傷も殆どない万全の状態だった。
「私は本気ですよ」
リリナはニッコリする。
「変な男に引っかからなかっただけマシにするか。言っても無駄かもしんねーが、変なことするんじゃねーぞ」
何故かレッカはやらしい瞳でシノブを見る。
さとみは「言われてやんの」と呟き、シノブは「善処します」と苦笑いする。
☆
=同時刻・パーティー会場の外の廊下=
Side 谷村 亮太郎
「今回の宇宙人事件は散々だったね」
谷村 亮太郎は隣にいる長い黒髪の美女、北川 舞に呼び掛ける。
白い上着に腰回りを覆う黒のコルセット、丈の長い青いスカート、丈夫そうな茶色いブーツ、銀のアナログ時計。
落ち着いていて露出度少なめの服装。
顔は大人びていてクールで知的そうな雰囲気だ。
「ああ。肝心なところで手柄を逃したしな」
舞は今回の事件をそう評する。
最終的に藤崎 シノブや谷村 亮太郎、闇乃 影司が持って行った感があった。
そう言うやらしい視点抜きにしても3人の功績はとても大きい。
「話は変わるが、ガーディアンズで把握できていない超人、ヒーローの類は目下調査中だ。世界各国も行方を追っている」
「やっぱりそうなりますか?」
「君もその一人だ。藤崎と闇乃は新たな抑止になりえる」
「あー確かに」
異世界でもそう言う考えはあった。
核抑止、軍事力による抑止が全盛の地球で個人の武勇が政治、外交に影響を与えるなど、何を馬鹿なと思われるかもしれないが、近代兵器を蹴散らした宇宙人相手でも殴り倒せるとなれば話は別だ。
抑止の道具にしたいと考える政治家は多いだろう。
(ま、日本には無理だろうね)
ただ日本政府はその試みを闇乃 影司絡みで致命的に失敗している。さらにフューチャーテックでの暗躍やジャマルとの繋がりもあった。
国営悪の組織から地球を売り渡した屑野郎呼ばわりされても文句は言えないレベルだ。
明日にでも国連軍が派遣されて日本は無血開城の後に占拠されるなんて言う事態もありえる。
「正直今回の事件は刺激が強すぎる。世界大戦規模の軍拡か、我々がやったように超人のチームを作り上げて安く済ませるかの2択だ。必要とあらばヒーロー制度だって作り上げる」
舞の意見は決して夢物語とか誇大妄想の類ではない。
世界規模の軍拡を行った場合、その強大な軍事力を維持するのには天文学的な金が必要になるし、様々なリスクを抱え込む。
ヒーローチームもリスクはあるが、それでも費用は世界規模の軍拡よりかは抑えられるだろう。
ちなみに日本の戦車の値段は約10億円。整備は年単位で何千万円も掛かる。その辺りを細かく計算できれば世界規模の軍拡に掛かるお金も膨大な額になるのは何となく分かるかもしれない。
「辛気臭い話はここまでだ。招待されたんだし、パーティーに参加しよう」
「意外ですね」
「私だって気を抜きたい時はあるさ」
二人はパーティー会場へと足を運ぶ。
パーティー会場は大盛り上がり。
つい先日まで世界が滅びるかどうかの瀬戸際だったのが嘘のようであった。
それだけ元の生活、平和へと戻ったと言う事だろうか。
宇宙刑事編 END




