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それぞれの時間

 Side 谷村 亮太郎


 =夜・メイド喫茶ストレンジがある雑居ビル屋上=


 メイド喫茶ストレンジの屋上。

 関係者以外立ち入り禁止のその場所。

 真下の3階には谷村 亮太郎の事務所――まだ仮であるが、が稼働予定だ。

 念入りに結界を張って周囲の空間を欺き、大騒動が起きた夜の日本橋の喧騒を遮断して亮太郎はスマホに出た。 


『派手にやったものだな』


 スマホの向こう側の連絡相手。

 長い黒髪。

 クールで落ち着いた雰囲気の美女。

 体もわりかしグラマラス。

 北川 舞が谷村 亮太郎と話をした。


「たぶんこの先もっと派手になる」


『あまり冗談を言う気分でも無さそうだな。ガーディアンズの部隊を最悪強行突入させる。例の計画の候補者にも声を掛けて現地入りさせる』


 例の計画。

 ガーディアンズ主導で行う世界中から最強のヒーローを集めて世界の脅威を迎撃する計画。

 現実に存在するアメコミヒーローを集める計画だ。


「メンバーには期待しておこう。法的には大丈夫なのか?」


『そこは心配するな。X長官に任せておけ』


 X長官。

 ガーディアンズの最高司令官。

 彼が動いているのだろう。


『既にウチのエージェントは何人か現地入りしている。戦闘可能なエージェントは順次戦いに参加させる。退魔師や魔法使い側にも働きかけるつもりだ』


『それで君達はどうするつもりだ?』


「……最前線に行くつもりだよ。シノブ君も同じらしい」


『どうしてだ?』


 その問い掛けには亮太郎は苦笑した。


「少女が一人、自殺紛いの特攻をさせるのを阻止するためかな?」


「異世界の頃から分かっていたけど、やっぱり世界どうのこうのより、身近な人を助けたいと言う方がスイッチ入るみたいだね」


 などとどこか恥ずかしげに語る。

世界を救うと言う大役はらしくないと亮太郎は考えていたからだ。

 


 Side 藤崎 シノブ


 =同時刻・メイド喫茶ストレンジ内=


 藤崎 シノブは心痛みながらも家の人間には友達の家で休むと親に言い訳をした。

 日本橋でお泊りするよりかは通用しそうな言い訳だ。

 シノブが親の立場なら間違いなく怒っている。だけど親の言いつけを守っていては大勢の人間が冗談抜きで死ぬかもしれない。

 

(正義の味方って本当に貧乏くじなんだなぁ……)


 世知辛い現実にため息をついた。

 傍ではカジュアルな背格好のリリナが「どうしたんですか?」と尋ねて来た。


「いや、親への言い訳考えてた」


「親――ですか」


「うん。親の言い分も分かるんだよ? 分かるんだけどさ……親に顔を見せといた方がいいのかな?」


「あの。私の宇宙船を使えばーー」


「それはやめとくよ。ごめんね~自分の我儘に話に巻き込んで」


「は、はあ」


 リリナはどうして謝るのか今一理解できていないようだった。


「そう言えばリリナさんの両親は?」


「……ジャマルに殺されて」


「ああ、その、ごめん」

 

「いえ……でも、色々と頑張って、色んな大切な物が出来て、レッカと出会えたり、藤崎さんとも出会えたりしましたから」


 穏やかな顔で語るリリナ。

 照れながら「シノブでいいよ」と返した。


「じゃあシノブさん。どうしてそんなに強いんですか?」


照れて緊張しながらリリナは尋ねた。


「え~と、異世界に行って死ぬほど頑張ったから?」


「イセカイ?」


「あーまずそっからか」


キョトンと首を傾げる。

宇宙の人間に日本独自の文化など知るわけがない。

シノブは困った顔をしてどう説明しようか悩む。


「今地球のネットで検索しています。えーと剣の魔法の世界に転生とか召喚されて、チートなる物を授かったんですか?」


「俺の場合召喚だけど今ネット検索したの?」


リリナがPCやスマホで検索した様子はなかった。


「はい。思考とリンクして目の網膜にAIが検索した内容を表示してくれるんです」


「科学が進歩するとこんな風になるのか」


そう言えば何かの映画かドラマでもPCが音声から聞き取った情報をリアルタイムでモニターに表示するシーンがあった。

リリナは使っているのはその技術の究極発展系だろう。


「思考とリンクしたAI補助システムは便利ですけど、便利すぎて色々と弊害が起きていまして規制する星も多いみたいです」


「便利すぎるのも色々と問題が起きるんだな」


スマホやSNSでも色々と問題が起きているのだ。

思考とリンクしたAI検索システムの場合、より深刻な問題も起きているのだろう。


「話戻しますけど、異世界召喚されてどのようにして力を得たんですか?」


「元々、勇者としての素質があったらしいんだけど」


「だけど?」


「修行した環境と教えてくれる人がよかったのもある。それ以上に必死だった」


「人類の存続、国の命運を背負うとか、そんなの何も分かってなかった」


苦い経験が甦り、辛そうな顔をするシノブ。


「色々な人の死を身近で見て来た。どう言葉表現すればいいのか分からない。勇者になった事とか、勇者の素質があった事とか後悔した」


シノブの言葉は止まらない。


「生きる事を後悔する。同時に死ぬ事も出来なくなる。人のために戦う、亡くなった人の命を背負うってのは自分が死ぬ権利も卑下する資格もなくなるんじゃないかって思う時があるんだ」


少年は語り終える。


「だけど、そんなの無理に決まってます。人は泣いたり、笑ったり、感情があるから人なんです」


リリナは訴えかける。


「同じ事を谷村さんにも言われたよ。あの人は勇者は多少傲慢でもいい、我儘でもいいって言ってくれる人だから」


「まあともかく、異世界に行ったからって簡単に力が手に入ったわけじゃない。色々と苦労したんだよって分かってくれればいい」


場の雰囲気を重くしてしまったのでシノブは明るくおチャラけた調子で振る舞おうとした。



Side 闇乃 影司


=夜・日本橋高校、緊急避難所=


 緊急避難所を駆け回る闇乃 影司。

 近所の警察や救急、消防が総出で対処にあたっている。

 報道関係者が押しかけてきたり、動画配信する避難者もいた。

 だが全体的に見れば周囲はとても物々しい雰囲気だ。


「これからどうなるんだ?」


「知るもんか……」


「相手は宇宙人だっていうが本当なのか?」


「分からんよ。だがデマと言うには悪質過ぎる」


「戦争が始まったんだ……」


 今回は災害ではない。

 宇宙からの侵略者と言う未知の相手だ。

 地球上で誰もが未経験の国難。

 総理大臣が倒れ、副総理は何も決断出来ず、政権は麻痺状態。


 とりあえず現場は災害に対応する感覚で動いている感じだが何時パニックになるのか分からない状態だった。


 自衛隊も戦闘態勢を整えているらしいが、昨日巨大ロボットに駐屯地が一つ完膚なきまでに叩き潰されたばかりで実力差がハッキリしている。

 例え特殊部隊クラスを送り込んだとしてもヤラレ役か、頑張っても時間稼ぎにしかならない。

 それ程までに圧倒的なテクノロジーの差がある。


 皆それは分かっている。

 テレビやネットではその点を指摘して人類の終わりを宣伝して回っている。

 まだ世界の終わりを楽しめるだけ余裕があるのか。


 現状、この程度で済んでるのは物語のように人々へ手を差し伸べるヒーロー達がいたからだ。

 その役回りが自分になるとは世の中、いよいよ追い詰められてるなと思う。


「てかシノブに亮太郎、侵略者へカチコミ前に手伝いしに来て大丈夫なの?」


 闇乃 影司もそうだが、日本橋のよく見知った顔が避難所に集結し、機能不全気味な避難作業の手伝いをしていた。

 

「まあ、何かしてないと落ち着かないってのもあるんだけどね」


「僕も同じかな?」


 シノブ、亮太郎の順に簡単な荷物運びに従事している。

 何でもとある人物がドンと避難に必要な品を日本橋で空になるまで買い込み、その品物の持ち運び作業の手伝いをしていた。

 近所のお嬢様学園もその動きに連動して支援の動きが活発になっている。


「あの子もそんな感じだよ」


 亮太郎がリリナに目をやる。

 リリナも避難作業に加わっていた。

 外見がとても可愛らしく綺麗でいて胸が大きいため、周囲の視線を集めているのだが、周囲は美女だらけなのでずっと注目されている感じではなかった。  


「お、きたきた」


 シノブが反応する。

 避難所になっている学校の外から軍用車が乗り付けてきて、物資が降ろされていく。

 SF映画に出て来そうな超ハイテク装備に身を包んだ銃を持つ兵士達が現れる。

 警察が恐る恐る尋ねるが『国連所属、ガーディアンズの人間です』と返していた。


「ガーディアンズ? 舞も動いているの?」


 影司が亮太郎に質問する。

 ガーディアンズ。

 アメコミ映画に出て来る地球防衛組織みたいな人達。

 影司も関りがあった。


「うん。増援でヒーローも送ってくれるだってさ。どんなメンバーが来るかは聞かされてないけど—―まあそこは北川さんを信じるよ」


 亮太郎は舞を信じているらしかった。

 

「さてと、お仕事お仕事」

 

 と言って亮太郎は積み荷の運搬作業に戻る。

 シノブも「じゃあね」と言って亮太郎に続いて荷運びをした。

 

「……僕も頑張るか」


 闇乃 影司も頑張る事にした。


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