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メイド喫茶ストレンジにて

Side ジャマル


=ジャマル司令室=


『アレだけ大口を叩いておいてこのザマとはな』


 司令室。

 長い紫髪のボンテージファッションの女幹部、サティーナに叱責するようにデスター司令が言い放つ。


「申し訳ございません。邪魔者が想定外に多く、この様な結果に……」


『サティーナ。お前の言う事も分る。私とて同じ気持ちだ。同じ立場なら私も同じ轍を踏んでいただろう』


『だからお前に汚名を返上するチャンスを与えよう。何としてでも奴達を倒す手を考えろ。方法は問わん。必ず宇宙刑事とその仲間を打倒してみせろ』


『この星の侵攻作戦はキング・ジャマル様も注目されておられるからな』


「キング・ジャマル様も!?」


 キング・ジャマル。

 ジャマルの支配者。

 デスター司令が言うからには本当なのだろうとサティーナは思う。



Side 藤崎 シノブ


一通り救助作業を終え、メイド喫茶ストレンジでカジュアルな背格好のリリナと合流した。

店内は関係者以外は立ち入り禁止、貸し切り状態だ。

他には谷村 亮太郎がいる。

黒髪のボブカットに不思議そうな雰囲気、黒っぽい私服姿。

眼前には事前にメイド喫茶の店員が用意してくれたのかドリンクが置かれていた。


「本当に、本当にレッカのことありがとう!!もしかしたら私、レッカのこと殺していたかもしれない!!」


リリナは頭を下げる。

 ポタポタと床に涙が零れ落ちていた。

 

「まあ、色々と運が良かったよ」


「それでも、ありがとうございます!!」


「ははは……」


 リリナに抱き着かれる。

 彼女の心地よい香り、大きな胸の感触、暖かい肌の温もりがシノブの体に伝わって来る。   


「まあ、いい雰囲気なところ悪いけど話進めるね?」


谷村 亮太郎は話を切り出した。


「巨大ロボ襲撃した自衛隊駐屯地周辺に、完全武装した自衛隊の部隊が送り込まれている。周辺から慌てて掻き集めた感じだな。かなりの大部隊だ」


「その大部隊の目的は何なんだ?」


話の流れからして自衛隊駐屯地の救助作業とかではないのだろう。


「部隊の流れを追っていたがーーどうやら宇宙人、ジャマルの秘密基地を突き止めたらしい」


「自衛隊が? どうやって?」


自衛隊がそこまで優秀なら50m級の巨大ロボの奇襲は防げないにしても最悪の事態は間逃れたはずだ。

その点を疑問に思う。


「それで不審に思って現場指揮官の連中を問い詰めたら日本政府と繋がっていた事が判明した」


「宇宙犯罪組織と日本政府が繋がっていたって、都市伝説染みたいな話ですね」


 ネットに転がる陰謀説みたいな話だ。

 シノブも自分で言っておいて現実感がない。


「だけどジャマルならやりかねない」


 リリナが助け舟を出すように言う。

 涙を拭い、真剣な顔立ちで会話に入って来た。


「日本政府もね。あいつら自分達さえよければ自国民や自国がどうなろうが構わないからね。まあ今回は相手が悪すぎた」


 亮太郎は日本政府を貶しつつも擁護する。

 宇宙犯罪組織との交渉など、まともな政府でも舵取りが難しいだろう。 

 国民の税金で運営している悪の組織と呼ばれている日本政府には荷が重い 


「グルだったんならどうして自衛隊に攻撃を?」


 シノブはもっともな疑問を口にするが、亮太郎が「仲違いさ」とk耐える。


「そもそも田舎の辺境惑星の現住民と、宇宙最先端の技術力を持つ犯罪組織が対等に付き合えるワケないだろ」


 言われてみれば納得な説明だ。

 亮太郎は話を続ける。


「実力で排除するために自衛隊側も貴重な裏の戦力――能力者や改造人間、バトランド王国製の兵器を投入して対抗したけど、結果は全滅。メタルビーストもダメだったみたい」


亮太郎の証言はフューチャーテックのような施設が日本の何処かにまだある可能性を示唆していた。


だが話の論点はそこではない。


「逆に言うと、上の方はそれだけ戦力が投入出来るぐらいには基地の場所を掴んでるんだよ」


亮太郎の推理に成る程と思っていた。

日本政府は大なり小なりミスを犯し続けて斜陽国家へと国を導いてきたが、全員が全員馬鹿ではないのだろう。


「……」


 黙り込み、考え込むシノブ。


「うん、どうしたの?」


 亮太郎が声を掛ける。


「いや、どうして異世界じゃなくて、この国で真面目に生きようとしたのか決意が揺らぎかけて」


ハハっと苦笑するシノブ。


衆愚政治と言う言葉が頭に思い浮かぶ。

国語辞典で開けば詳しい意味は分かるが、今の日本の政治こそが衆愚政治の見本例ではないのかと思う。

総理大臣暗殺のテロは起きたが、内乱やクーデターが起きてないのが不思議なぐらいだ。

もしかすると自分達が知らないだけで、そう言う事件は起きてるかもしれない。


「言いたい事は分かる。まあ、日本が滅んだら馬鹿どもが馬鹿を選んで、選ばれた馬鹿が馬鹿な政治をやって滅んだ馬鹿な国家と思えばいいさ。そうでも思わんとやっていけんよ」


「それに君が剣を振るうのは悪徳政治家や官僚のためじゃないんだろ?」


そう言って亮太郎は軽く、シノブの胸を手の甲で軽く叩いた。

 

「ああ。そうだな」


 亮太郎の言う通りだ。

 異世界を救ったのは、最初は使命感や成り行きと言う言葉で誤魔化しながら、何となく戦っていた。

 だが途中からは自分自身の意思、自分自身の選択で戦い続けた。

 谷村 亮太郎はそんなシノブを最初の頃から支えてくれた。

 感謝しかない。


「今、起きている事件はもう他人事じゃない。誰かのためとかそう言うのじゃなく、自分の我儘で、自分の欲得で剣を振るう」


 正義だの何だの言うのはこそばゆいし柄じゃない。

 勇者としてどうなのかとも言われそうだが、勇者とて人間なのだ。

 シノブはその事を本当に理解するのに苦労した。

 

「うん、そうだね。それでこそシノブだよ」


 亮太郎は笑みで返してくれた。


「それでこっからどうするんですか? 敵本陣探し出して乗り込みます?」


「正直負ける事が許されない戦いだからね。出来れば慎重に行きたいが――戦いの流れが敵側にある以上、守勢に回ってはジリ貧になる。自衛隊の戦力もアテには出来ないし、状況次第では自衛隊とも戦わないといけなくなるぞ」


 シノブの提案に亮太郎は慎重に、そして最悪な可能性を提示する。

 自衛隊が善人であっても上の方はどうなのかは分からない。 

 最悪の事態は多いにありえた。


「孤立無援で突撃。事件後、自衛隊とも一戦を交えるか。魔王討伐の時より状況悪くない?」


 流石に苦笑するシノブ。


「仕方ないね。僕達、彼達視点からすれば得体の知れないテロリストかその予備軍だろうし」


 亮太郎も苦笑した。

 

「あの—―ジャマル相手にお二人で戦うつもりなんですか?」


 そんな二人に尋ねるリリナ。

 二人が強いのはリリナも分かっている。

 だが話を聞けば殆ど孤立無援、守るべき人々に銃口を向けられる覚悟でジャマルに戦いを挑もうとしていた。

 そんな覚悟がリリナにあるかどうかと言われればない。

 宇宙刑事は銀河連邦の後ろ盾があって活動できるのだ。

 二人はその後ろ盾が敵に回る覚悟で戦いを挑もうとしている。

 もしも、本物の正義の味方と言う言葉があるとすれば彼達のような者達を言うのではなかろうか?


 シノブは「まあ、そう言う感じになるかな?」と困ったように呟き、亮太郎も「こうして喋っている間にも態勢を整えて次なる手を打ってくるかもしれないしね」と言った後に「まあ、何とかなるでしょう」と気楽な様子だった。


「これ以上二人は戦わなくても――これは私達の――」


「おっと、そう言うのは無しだ」


 何かを言いかけようとしたリリナをシノブがストップをかける


「今回のジャマルの件で幸か不幸か分かった事がある。変にカッコつけて無関係を装うと大勢の人間が死んで、自分が本当に守りたい人まで危険に晒してしまうってことだ。それを仕方ないとか言われたらそれまでなんだが……」


 今回の事件の発端となった銀色の巨大ロボットによる破壊活動がまさにそうだった。

 そして今回日本橋まで狙われた。

 リリナのせいかもしれないが、相手はリリナを倒すためなら平然と人間狩りを行うような精神性の持ち主だ。

 気分次第で街と言う街を焼き払っていくだろう。 

 リリナだけの責任にするのは間違いだと考えていた。


「シノブの意見には色々と言いたい事はあるけど、だからと言って君一人を突撃させると言うのもどうかと思うしね。女の子一人突撃させて平和を勝ち取るぐらいなら、そんな平和に意味はないね」


 亮太郎は亮太郎なりの持論でリリナの突撃を反対する。

 ジャンヌ・ダルクによる百年戦争終結全否定だ。

 もっともジャンヌ・ダルクの場合、色々と問題があってジャンヌに非がないと言われると難しい部分もある。

 

「それはそうと、銀河連邦からの応援は来ないのかい?」


 話を切り替えて亮太郎はその点を指摘する。


「それは—―」


 言い淀むリリナ。

 それで二人は察してシノブは「応援は来ないか……」、亮太郎は「みたいだね~」とため息をついた。


「まだ決まったわけでは……」


「銀河連邦も結局は規模がデカいだけで地球の国連とそう変わらないみたいだね」


 亮太郎の指摘にリリナは「でも……」と黙り込んだ。


「少し時間を置こう。相手も打撃を受けたワケだし、時間的猶予はある筈だ」


 一旦亮太郎はこの場をお開きにする事にした。

 

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