大阪日本橋群像録
Side 工藤 怜治
=夕方・大阪日本橋某所=
背の高い、茶髪の髪の毛の野性味溢れるお兄さん、工藤 怜治。
カジュアルな背格好で大阪日本橋を練り歩く。
正直、近くのアメ村なりもっと違う場所をうろついた方が絵になりそうな男であるが、基本大阪日本橋を練り歩いている。
最初はジャマルの手下達を何かの撮影かと思ったが手当たり次第に暴力行為や破壊活動を行いはじめ、状況を掴めずにいたが(何かの間違いだったら後で謝ればいいか)と思い直してジャマル兵を殴り倒す。
どっから現れているのか敵の数が多い。
タフな上にそこらの素人どもとは違って強い。
(正直これぐらいでしか普段役に立てねえんだ。こう言う時ぐらい気合いれねえとな!!)
工藤 怜治は殴り倒す。
傍には警官隊を率いて茶色い帽子にトレンチコート、白いシャツに黒いネクタイ、痕のズボン、昭和の刑事ドラマに出て来そうなおじさんが避難誘導したり、ジャマルの兵士と戦っていた。
拳銃は持っていない。
柔道技で投げ飛ばしている。
彼の事は怜治もよく知っている。
前嶋刑事。
大阪日本橋の名物刑事だ。
フューチャーテック事件の際、黒川 さとみが誘拐されそうになってそれを藤崎 シノブが阻止した際に見逃した刑事がこの前嶋 刑事だ。
ちゃっかりメイド喫茶で開かれた事件の打ち上げ会にも参加していた。
「前嶋さん、大丈夫ですか?」
「そっちこそな。ナイフとか光線銃とか持ち出しおってからに――」
「念のため聞きますけど何かの撮影ですか?」
「それはない。もしもこんな大規模な撮影するなら末端の俺の耳にも届くはずだからな」
それもそうかと怜治は思う。
眼前には倒したら倒しただけ何処からともなく補充されるジャマル兵がやってくる。
怜治もかれこれ五十人以上は暫く病院送りコースで殴り倒している。
未だ確かめた事がない、殺すレベルでやらないとダメかもしれない。
『地球にも威勢の良い奴がいたなぁ……遊び相手ぐらいにはなりそうだ』
「ゴリラが喋ってる」
「アレだ、怜治。これやっぱり何かの特撮物の撮影じゃないのかね?」
銀色のアーマーを来た二足歩行で歩くゴリラ、ゴリラジャマルが工藤 怜治と前嶋刑事の前に立ちはだかる。
怜治はやる気だ。
前嶋刑事は(本当にアレとやり合うの自分?)などと思いつつも構える。
応援で駆けつけていた警官達も流石に士気が下がった。
『ふん!!』
おもむろにアスファルトの地面に拳を振り下ろす。
アスファルトの地面が割れてクレーターが出来上がった。
これには前嶋刑事も警官達も退いてしまう。
前嶋刑事は銃を取り出す。
「とまれ!! 止まらんと撃つぞ!!」
『地球の銃とやらか? そんな原始的な銃で俺様を止められると思っているのか』
丁寧にワザと地面に外して威嚇射撃をする。
前嶋刑事も正直この時点でもう銃で止まるような相手ではないとは何となく分かっていた。
それでも彼は具っ直に日本の警察官としてするべき事をした。
だが、ゴリラジャマルはそこまで待つほど優しくはなかった。
『お前から死ね!!』
ゴリラジャマルは前嶋刑事に剛腕を振り下ろそうとして—―
『なっ!?』
怜治に片手で止められた。
ありえない。
目の前の人間はただの人間だ。
特殊なスーツを纏っているわけでも何かしらの能力を持っているわけでもない。
実は地球に隠れ潜んでいる、戦闘に秀でた宇宙人だろうか?
だがそれでも宇宙刑事のコンバットスーツでも止められない自分の剛腕を生身の生命体が止められるワケがない。
その筈なのだ。
「ケンカの相手が違うだろ、ゴリラ野郎。ケンカの相手は俺だ!!」
思いっきり怜治はゴリラジャマルの顔面を殴り飛ばす。
倒れはしなかったが数歩よろめいた。
更にもう一発殴る。
さっきよりも拳の威力が上がっていた。
血反吐を吐き、またも後退りする。
『調子に乗るな!!』
そしてゴリラは口から炎を吐く。
咄嗟に怜治は避ける。
「ゴリラなのに火を吐くのか――」
『遊びは終わりだ!! 本気で殺してやる!!』
ゴリラジャマルは続けて炎を吐き、工藤 怜治を寄せ付けない。
その火をどうにか掻い潜り、ゴリラジャマルへと近寄ろうとするが火が邪魔だった。
辺り一面、ゴリラジャマルを遮る形で火の海となっていた。
熱気で近づけば火傷しそうに感じる。
それを近くの店から拾ったのか前嶋刑事が消火器で鎮火作業をした。
『その程度で俺様の炎が止められるか!?』
構わずゴリラジャマルは火を吐き出す。
消火器で消し止めようとするが止まらず、泡てて前嶋刑事は消火器を捨ててその場から離れた。
その一連の行動によって生じた隙を工藤は逃さなかった。
『しまっ!?』
工藤 怜治の手加減抜き、全力の一撃がゴリラジャマルの顔面を捉えた。
☆
Side ジェイミー・ゴードン
=同時刻・大阪日本橋=
長い金髪、白肌で青い瞳の陽気なアメリカンガール。
180cmの長身で神話に存在するアマゾネスが存在したらきっとこんな体付きなんだろうなと思われるような体の筋肉の発達具合。腹は見事に割れたシックスパック。首回りも太い。胸も大きい。
彼女の名はジェイミー・ゴードン。
大阪日本橋を中心に活躍する学生限定の女子プロレスリング、学生女子プロレスのトップ選手であり、様々な団体から引き抜き合戦が行われているエース級の女子プロレスラー。
リングの上ではほぼほぼ敵なし。
何なら大人に混じってプロのリングにも上がる程の才能。
アメリカの星、リング界の黒船。
そんなレベルの存在だがそれはあくまでリングの上でのこと。
スポーツマンであり、異種格闘技戦通り越して何でもありの路上のケンカ、それも宇宙犯罪組織のジャマル相手など普通は太刀打ちできない。
彼女もジャマルの前には成す術がないように思われたが……
「レッツ、ショータイム!!」
その掛け声と共に、ジャマル兵をプロレス感覚で薙ぎ倒す。
プロレスのリングの上ではないのでパンチも解禁している。(プロレスでは基本パンチは反則。だが場を盛り上げるためにあえて反則のパンチをしたりもする)
時折ジャイアントスイングでジャマル兵をぶん投げたり、まるでアメリカンフットボール選手のような軽やかなフットワークでジャマル兵の後頭部を掴んでアスファルトの固い地面に叩き付ける、普通の人間相手なら即死級のフェイスクラッシャーなども披露する。
状況は状況なので関節技は披露していない。
他にも女のケンカ屋(たこ焼き屋経営)がいて、頑張ってジャマル兵を殴り飛ばしたり、赤髪で後頭部にシニヨン(お団子)ヘアをした女性がスーツ姿で避難誘導に回っている。
『状況開始!!』
『初の実戦だ!! 民間人に当てるなよルーキー!!』
『何でこんな事に――』
『ボサッとするなルーキー!! 万が一誤射でもしてみろ!! 今度こそ泣いたり笑ったり出来なくなるファッキン・キリングマシーンに改造してやるからな!?』
『さ、サー、イエッサー!!』
そんな彼達を援護するように特殊部隊の背格好をした銃器を持つ隊員がいた。
メイド喫茶ストレンジが結成したサバゲーマーチーム、大阪日本橋バスターズ。
メンバーは本職クラスで固められている。
具体的には元自衛官とかの集まりだ。
最近はニートの自立支援と称して軍事訓練を施している。
身に纏っている装備は魔法テクノロジーでバリバリ強化された民生品であり、特殊部隊よりも性能が良い装備を身に纏っている。
空中で空撮している飛行型ドローンから得られた情報を元に魔法付与で破壊力が上昇した銃でジャマル兵を射殺していく。
『ダメだ!! パワーレンジャー(日本の戦隊の海外輸入盤。)に出て来そうなヴィラン(コミックの悪役の意味)に銃が通用しない!!』
『自衛隊は何をしている!?』
『自衛隊には期待するな!! どの道法的なアレコレで銃も撃てん!!』
しかしジャマルの前線指揮官、上級ジャマル兵やジャマル怪人には彼達の銃は牽制にしかならなかった。
そんなジャマル怪人――ティラノサウルス、ティーレックスを思わせる明るいブラウンで銀色の鎧を着たレックスジャマルに後頭部からラリアットをかますジェイミー・ゴードン。
人間が打撃音で響かせてはならない轟音。
とても痛そうにその場を転げまわる恐竜怪人。
今度は背中から腹部を後方へと持ち上げるようにして投げるバックドロップを決めた。
『おいおい、あの子何者だ?』
『実は宇宙人とか、地球の神々の血を引いてるとかじゃないよな?』
『もしくは凄い力を得られる薬とか、遺伝子構造を変えるレベルの科学実験とか、蜘蛛に噛まれたとかだな』
日本橋バスターズの面々は呆れながらジェイミー・ゴードンをそう評する。
彼達が挙げた予想はどれもスーパーヒーローが能力を得る有名例だ。
本人に自覚は無いのか、隠しているつもりなのか超パワーを得るキッカケのような物があったのかもしれない。
現在進行系でジャマル怪人を殴り倒している工藤 怜治もその例なのか。
『気持ちは分かるが、今は戦闘中だ。戦闘に集中しろ』
魔法の力が付与された玩具の銃で大阪日本橋バスターズの面々は戦いに意識を戻す。
その間にもジェイミーは相手の反撃を掴んで受け止め、ドラゴンスクリューを決めていた。




