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黒川 さとみの後悔

 長い黒髪。

 クールに整った顔立ち。

 背丈はある方。

 四肢もホッソリとしている。

 胸だけは規格外にデカい115cmであり、色々と苦労がある。

 服のサイズがあわない、サイズがあっても綺麗に見せるには工夫が必要、周囲や男の視線が気になるなど、他にも沢山ある。


 学園ではクールな感じの女の子を演じているが、日本橋のメイド喫茶でアルバイトをしている。

 非日常的なアレコレに憧れており、ニチアサの特撮変身ヒーローに憧れている。


 フューチャーテック事件で藤崎 シノブと親密な仲になり、学校でもクラス公認の仲になりつつある。


 今回はそんな彼女の物語。


 Side 黒川 さとみ


 =午前中・琴乃学園、藤崎 シノブたちのクラスの教室=


 琴乃学園の一軍の頂点、白王寺と織姫。

 

 そしてあまり評判がよくなかった教師、鎌田。


 先のフューチャーテック事件で中妻とそのグループが学校を去り、更にこの三名が学園を去って琴乃学園の生徒達の勢力図は一気に変わった。

 同時に恋愛不信、人間不信に陥っている感がある。


 白王寺はただ気に入らないと言う理由だけで谷村 亮太郎を破滅させようとしただけでなく、日本橋で不良達をけしかけ、家族である妹にも鎌田と一緒に手を出そうとし、谷村 亮太郎と最終的に呼び出しかましたが何かしらの経緯で返り討ちにあったと言うのが白王寺の周囲の評価だ。


 これに関してはもう自業自得である。

 

 次に鎌田。

 ガソリンスタンドに車で突っ込んで爆発炎上。

 ハリウッド映画の悪役みたいな最期を向かえたかと思ったがどうにか生きていた。

 しかし事件の後遺症で精神が不安定になり、学園から去った。

 教師や生徒のプライバシーや個人情報を集めるのが趣味だと言う弁護の余地がない人間であり、正直さとみは居なくなって清々した。 


 最後に織姫だが、学園からいなくなった直後に黒い噂が出回りはじめたが、シノブや亮太郎から教えてもらった事実の方がエグかった。

 と言うか一連の事件の黒幕だったとは誰も思いだにしていない。


 先の事件の中妻達に続いて白王寺達までもが学園を去る結果になり、藤崎 シノブと谷村 亮太郎の二人はイヤが上でも注目の的となる。


 良い意味でも悪い意味でも。


(まあそれが普通の人間って奴よね)


 普通の人間は他人にとても無関心だ。

 面白いことは起きないかな? とか言いつつ本音では安全圏で美味しいところを総取りしたい。

 口では勉強しないと、頑張らないとと言いつつ、修行とか頑張るとか出来るだけしたくない。楽してレベルMAXになって人生イージーモードを送りたい。

 そう言う人間が大半を締めるのが普通の人間なのだ。

 

(そう言う人間にとってシノブと亮太郎は付き合い辛い存在かもね)

 

 真剣に頑張っている奴はカッコ悪い、ダサいと自分にも他人にも嘘をついている連中にとっては目障りな存在だ。

 だからと言っていじめに片足突っ込んだ行為で二人を黙らせられない。

 逆に返り討ちに遭う。

 白王寺がそうだったではないか。

 

 そうして二人は敵に回してはいけない人、安易に関わってはいけない人になった。

 黒川 さとみも「二人に関わって怖くないの?」、「大丈夫なの?」と言われるが、さとみは大丈夫だった。

 そもそもにして藤崎 シノブには一生掛けても返しきれないぐらいの恩がある。

 裏切るなんて出来なかった。

 

 琴乃学園で須藤 勇也の部下に連れ去られそうになって、シノブに助けられたあの時からだ。

 須藤 勇也とその父親、須藤 正嗣は一般人がどう足掻いてもどうにも出来ない程の巨大な権力を持つ絶対的な悪であり、大地震と同じく災害のようなものだ。

 シノブがいなければ今頃、さとみは十八禁のエロゲーやエロ同人みたいな末路、もしくはそれよりもエグいこの世に生を受けたことを後悔するような目に遭ったのだろう。


 シノブや亮太郎に救われてめでたしめでたし。

 ハッピーエンドを迎えた。


 だが人生はハッピーエンドを迎えても続く。

 時が少し経ち、気がつけばさとみは後悔や自責の念が生まれた。


(私、我が身かわいさでとんでもない事をシノブにさせちゃった!!)


 確かに助けてほしかったし、危険を承知の上で助けたのは藤崎 シノブと谷村 亮太郎だ。

 黒川 さとみは思う。 


 同時に考えるようになった。

 二人が勇者として異世界に過ごしと言う言葉の重味を。

 

(どんな旅だったのかな?)


 WEB小説とかでは最近そう言う旅の事は省かれる事が多い。

 読者は本格的な異世界の楽あり苦ありな物語よりも流行りのジャンルやなろう系の物語を求める傾向が強いのもあるのだが、書き手の人間が当たるがどうかの博打に出るよりも一定の評価が出る、いわゆるなろう系の物語を書いた方が書籍化を狙えるだけでなく、モチベーションを維持しやすいと言うのもあるのかもしれない。

 そもそもにして、誰も彼もが本格的な小説は書けない。でなければ今頃世界中は小説家だらけだ。

 

 思考を戻し、二人の異世界の旅路についてさとみは想いを馳せる。

 

 あれこれ悩むよりも本人に聞いた方が早い。

 だが本人にあれこれ聞くのは気が引けた。

 フューチャーテック事件で返しきれない負い目がある手前、辛い話の可能性があるその話を尋ねるのは今の関係が変わりそうで、ある種の博打に近かった。

 

 だが気になることは気になってしまう。

 休み時間、藤崎 シノブに思いきって尋ねてみた。


「時間がある時にでもいいかな? 正直誰かに話したい気持ちとかあるかもしれない」


 見た目はごく普通の黒髪の高校生、藤崎 シノブは苦笑い。

 誤魔化してはいるが、さとみはなんとなく辛い話なんだろうなと思った。


「イヤならイヤで無理に話さなくてもいいわよ?」


「ありがとう。時間がある時にね?」


 微笑みながらシノブは言ってくれた。



 別の休憩時間。

 教室にて。


 現実の学校社会と言うのはエグい。

 変わり者に関わっている人間は一纏めにして変わり者扱いされる。

 黒川 さとみもその例であり、心配した女子の一人が「大丈夫? あの二人に何か脅されてない?」と話しかけられる。


「大丈夫よ。あの二人、そこらの顔や口先だけの男とは違うから」


 さとみは学園の男子を敵に回すような物言いで二人を称賛した。 

 クラスの聞く耳立てていた、口先だけで腕っぷしもない、度胸もない男子はさとみから目を逸らした。

 女子は女子で琴乃学園の生徒の頂点に立っていた白王寺の悪魔のような素顔を見破れず、アイドルだか王子様扱いしていたので言い返し辛いところもあった。

 もっとも、一般人に人を見る目を養えと言うのは酷である。そうであれば面接で苦労はしないだろうし、政治の世界も変な人間が政治をやったりはしない。


「本当に藤崎にホの字だなさとみんは」


クラスの女子の一人に感心したように言われる。

さとみんは親しいクラスの女子につけられたさとみのあだ名である


「うん。だけど片想いだし、両想いになれるかはこれから次第かな?」


照れくさく言うさとみ。

もしかしてこの恋は既に終わっているのかもしれない。

 異世界で想い人がいたとしても不思議でも何でもないからだ。

 と言うか間違いなくいる。そう言う前提で考えるべきだ。


(ハーレムエンドならワンチャン……でも、シノブってそう言うのどうなのかな……)


 シノブの恋愛観は分からない。

 ハーレム派なのか、クソ真面目に一人の愛した女性を愛し抜く恋愛観なのかもしれない。

 それを尋ねるつもりはない。

 それを尋ねたが最後、自分の恋愛は終わる。

 今後二度と巡り合えないぐらいの異性と別れる事になる。

 意気地なしとか言われても構わない。

 

(……頑張ってみるか)


 自分はメインヒロインではない。

 サブヒロインでもないかもしれない。 

 でも諦められない。

 

(この決断は正しいのかどうか分からないけど、シノブの傍に居たい)

 

 多くの修羅場を共にしたそう言う異性がいたりするのかもしれない。

 その時はその時に考えよう。

 さとみは心の中でそう決意した。

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