メイド喫茶にて
正直読者からの反応がよろしくなくてちょっと参ってます。
Side 藤崎 シノブ
=昼・メイド喫茶ストレンジ・事務所内=
一旦、メイド喫茶ストレンジに戻った。
テレビもネットもシノブと亮太郎がしでかした一連の行いで凄い騒ぎになっている。
呑気にもシノブは「何だか凄い事になってきたな~」などと考えた。
谷村 亮太郎は闇乃 影司に会いに足を運ぶ。
学園で新たに入手した情報を纏める、その手伝いを影司に求めたのだ。
自分も手伝おうかとシノブは提案したが、亮太郎に気を遣われたのか休んでくれと言われた。
そこでシノブは僅かな時間だが黒川 さとみが気になったので様子を見に行く事になった。
メイド喫茶の事務所にいた黒川 さとみ。
何があったのかと尋ねて来たので正直に答えることにした。
「アナタたちそんな事したの?」
「まあ、うん。そうだね」
「サカキ高校の奴達相手に乱闘して、殺し屋捕まえて尋問して、挙句に預金口座や裏金口座も叩いて、挙句に学園に乗り込んで爆破騒ぎまで起こして―—こうして言葉にして並べてみると十分にイカれてるわね。頭のネジ何本か外れてるんじゃないの?」
「いや、まあなるべくしてなったと言うか」
「普通は出来てもやらないわよ……もうここまで来ると笑えて来るわ」
「はあ……」
さとみは実際笑っていた。
そんな様子の彼女にシノブは意外に思う。
シノブは怖がられるなり、怒鳴られると思っていた。
異世界での旅路は大体賞賛されるが中には化け物よりも化け物だと思われる時もあったからだ。
どれだけ善意で命を張って人を助けたとしても感謝されないときは感謝されない。
そんな事もあってか、そういうケースをシノブは想定したのだがさとみは違うようだった。
「なに? 難しい顔をして」
「いや、怖がられると思ったから――」
キョトンとなってさとみはシノブを見つめ、そして噴き出した。
「まあ確かに何処まで行くのか怖く感じる時もあるけどさ――それに今の世の中って正直者がバカを見る世の中だし、たまにはこう言う事が起きてもいいんじゃないって思うの」
あっけらかんと言い放つさとみはシノブは首を捻りながら「そんなもんかなぁ?」と口にする。
日本の政治情勢は熱心に勉強していないのでどうとも言えないシノブだった。
こういうのに詳しい相方の谷村 亮太郎なら納得するのだろうかとシノブは思う。
「……異世界行った話って、本当だったみたいね」
などと態度を改めてさとみは言った。
「正直信じてくれるかどうか半信半疑だったんだけど」
「だけどそれぐらいじゃなきゃ正直納得できないわよ。やっぱり魔法か何か使えるの?」
「簡単な奴ならこんな感じで」
そう言って手から軽く水を出す。
「凄いけどどうして水?」
「いや、火を出すと火災探知機に引っかかるし、電撃だとこの事務所に置いてある精密機器に影響でそうだし――」
「なんなら私に回復魔法か何かかけてよ?」
「え、じゃあ……」
そう言われて軽く回復魔法をかける。
ちょっと強め。
手から緑色の発光がする。
「おお、おおお.......す、すごーい!? 体が!? ええ!? えええ!? 体の疲れとかそう言うの全部とれたんですけど!? 何か凄く絶好調って感じ!?」
そう言って元気よくピョンピョンとはねる。
シノブは「ははは......」とリアクションに困っていた。
「異世界云々の話、本当だったんだね?」
「うん。一応言うけどSNSとかの書き込みは—―」
「やんないわよ。私何だと思ってるの?」
なにを失礼なと言わん態度をするさとみ。
「……本当にありがとう」
急に態度を改めて、表情を朱に染め、照れくさそうに話し掛ける。
「急にどうしたんですか?」
「あ、うん、その――本当に、本当に色々と頑張ってくれたでしょ? だからその、どうお礼を返していいのか分からないけど、ありがとう」
「どういたしまして」
シノブは笑みで返した。
☆
Side 黒川 さとみ
恋に落ちると言うのは今の自分みたいなのを言うのだろうか。
自分でも困惑してしまう。
シノブは今迄に出会ったことがないタイプの人であり、そして今後現れる事もないであろう人間だ。
自分をいじめや半グレから救い出しただけでなく、その後始末までもしようとしている。
正直体を差し出したとしても、この恩を返しきれるだろうかと思ってしまう。
(ああ、そうか私――藤崎君のこと――)
そこまで考えて自分は藤崎 シノブをとんでもなく好きになってるんだなと気づいてしまった。
「あら、お邪魔だった?」
そして谷村 亮太郎がスタッフルームに入って来た。
「ううん、何でもない!! 何でもないから!!」
顔を真っ赤にして慌てて全否定するさとみ。
亮太郎は「あ、うん」とだけ返事してシノブに近寄る。
「さて、戦いは最終局面だ――今回の事件、須藤家を徹底的に潰すまで終わらない」
「須藤家を潰す――」
その言葉に反応したさとみだった。
もはや子供のケンカでは済まない。
そんな次元の戦いに二人はいるのだと改めて思い知らされる。
「サカキ高校に殺し屋から得られた情報を統合するとフューチャーテックって言う会社が怪しいと思われる」
皆に再確認の意味を含めて、亮太郎はフューチャーテックと言う会社の名を出す。
「毒島さんからも聞きましたが、今まで聞いた事がない会社ですね」
「私も聞いた事がない。」
シノブ、さとみの順で口を開く。
今日メイド喫茶で毒島 リンカからその名を聞いた名前。
今迄耳にしなかった事を二人は疑問にする。
「ある程度の事は毒島さんから聞いてると思うけど—―警察、官僚の天下り先だけでなく、殺し屋の資料ではその会社で人には言えないような何かをしていると睨んでいるようだ。サカキ高校の校長も一枚噛んでいて、その会社で行われているらしい実験の被験者リストにはサカキ高校の卒業生や退学者が絡んでいる」
「そんな繋がりが――」
シノブは興味深そうに返す。
さとみは黙る。
普通の人間でも分かるぐらいにヤバイ事に足をつっこんでいた。
絶対ヤバイ事に決まっている。
でもさとみは好奇心が勝り、聞いてしまう。
「被験者リストの、サカキ高校の卒業生や退学者は全員どうなったの?」
亮太郎は正直に答えを返した。
「全員行方不明、失踪している。警察からすれば犯罪者予備軍がどっかで死んだ程度の認識だろうね。この事も然るべきタイミングで公表するよ」
との事だった。
つまり須藤 正嗣とフューチャーテックは素人でも分かるぐらい危険な悪事に手を染めている。
そして二人はそれを承知の上で乗り込んでこの事件を終わらせようとしているのだとさとみは予感した。
「アナタ達――これから危ない事するのよね?」
シノブは「そうなるな」、亮太郎は「まあそうだね」と返す。
「怖くないの?」
続けて少女は問い掛ける。
「自分は正直どうにでもなる。誰かが傷つく事が怖い」
「自分も同じかな。もう他人のフリをして見過ごす段階じゃないと思っている」
シノブ、亮太郎の順に返事する。
それを聞いてさとみは「そう――」とだけ思った。
「私手伝えないけど、頑張ってね」
「ああ。そっちも気をつけてな」
さとみを気遣うシノブ。
少女は黙ってコクリと頷いた。
「じゃあ行きますか」
「ああ、夕飯までには帰れそうにないね」
「心配するのそこですか谷村さん。まあらしいっちゃらしいですけど」
シノブ、亮太郎の順に軽口をたたく。
とても命のやり取りに行くように、少女には見えなかった。
彼達には自覚はないかも知れないが、一般人からすればとんでもないことを、それも世間をひっくり返してしまう様なことをするのだろうと思った。
そんな二人がとても眩しく見えた。
(二人が無事に帰ってきますように)
と、祈るさとみだった。
本当にご意見、ご感想お待ちしております。




