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乱闘

 Side 藤崎 シノブ


 =朝・大阪日本橋・メイド喫茶ストレンジ内=


 谷村 亮太郎。

 彼も学校を抜け出して来たのだろう。

 このメイド喫茶に朝早くから足を運んでくれていた。

 まずシノブは殺し屋に襲われた事を話す。


「殺し屋にね。で、これが拳銃か」


 そう言ってシノブが殺し屋から奪い取った拳銃を手に取る。

 

「レーザーサイトにサプレッサー付きの奴か――しかも不法コピー品じゃなくて正規モデルの密輸品。スモークガラスの車を使っていたことといい、仲間がいることといい、金のある殺し屋なんだね」


「ええ、俺の頭を狙ってました。射撃の腕も自信があるかと。殺し屋って言うよりボディガードみたいなガタイのいい男でした」


 付け加えるように殺し屋の特徴をシノブは谷村に告げる。


「拳銃をみると慎重で用心深い。ピカピカな感じをみると念入りに射撃テストとか整備点検とかしてた感じだね。ここまで用心するとリボルバーとか使った方がいい気もするけどね」


 亮太郎は「まあ、それはさておき」と言ってこう続ける。


「暗殺を失敗して即座に逃走を選択したり、スモークガラス付きの車を用意したりした連中だ。車のナンバーも偽造で、既に乗り捨て処分してるかもしれない――毒島さん? 大阪の殺し屋界隈には詳しい方で?」


 亮太郎は殺し屋について毒島 リンカに尋ねる。

 カウンターに立ったまま相変わらず不愛想な感じの表情で口を開いた。


「須藤 勇也が雇った殺し屋ですが、資金力や政治的影響力、そして引き際の良さから感じられる手口から恐らく殺し屋派遣会社の人間でしょう」


「こ、殺し屋派遣会社? そんなの実在するの?」


 物凄く物騒な単語がでて黒川 さとみは引いた態度を取る。

 だがシノブが殺し屋に狙われた後の話だと現実味があった。


「名前はアサシンズギルド。須藤 勇也のお得意様で、父親の須藤 正嗣も懇意しております。元傭兵や元自衛官、海外のPMCなどで鍛えられている人間なども所属しております」


「まるで漫画だかドラマだかみたいな話ね……」


 黒川 さとみの言葉にシノブは「そうだね」と同意する。


「アサシンズギルドは一度引き受けた依頼は原則、達成するまで退く事がないでしょう。それにただの高校生の一般人に負けたとなれば猶更です。警察に駆け込むのもお勧めしません。警察官に化けた殺し屋が襲い掛かって来るだけです」


 毒島 リンカが丁寧かつ親切に教えてくれた。

 つまり自力で解決した方がいいと言っているのだ。


「つまり須藤家と殺し屋とサカキ高校交えて全面戦争になるんだね」


 要約して谷村 亮太郎は現実を突きつけた。


「付け加えて言うなら須藤 正嗣はフューチャーテック株式会社とも繋がりがあります。会社の詳細は分かりませんが正嗣の私兵部隊はそこに集められています」


「付け加えて言うならそこは西日本の警察、官僚の天下り先であり、法的にも手出し出しにくい場所です」


 リンカから更なる敵の存在を教えられて藤崎 シノブ「何か、大阪の悪全てを敵に回した気分だ」と苦笑した。

 正直相手を皆殺しにするだけならシノブだけでも大丈夫だ。

 だけどここは日本。

 人の命よりも人を襲う熊の命が優先される変な国だが、法治国家であり、人殺しは基本NGな国。

 言葉の暴力とか精神的暴力はOKで物理的な暴力はNGな国だ。

 

「どうする? サクッと暗殺する?」   


「うーん?」


 亮太郎の提案にシノブは悩む。

 谷村 亮太郎は何を考えたか、対魔王と言うより対人ビルド構成の勇者。

 暗殺勇者とか殺し屋勇者とか言われている人間だ。

 シノブよりも確実に完全犯罪を成し遂げられるだろう。


 だが須藤親子を殺して解決する問題なのかと思う。


「今更殺しが悪だとは言わないけど、せっかく物騒な異世界から現実に帰って来たんだし、それに何か悪の独裁者か何かになったみたいで嫌だな~って言うのが本音かな? ここはアメコミヒーローみたいに刑務所にぶち込む感じで」


「アメコミヒーロー路線か。んじゃあその方向性で須藤親子を破滅させよう」


 シノブの意見に賛同する亮太郎。

 さとみは「あんたらどちらかと言うとヴィラン寄りだと思うの」と溢す。

 リンカも両目を瞑りながら「一体どれだけの人間が犠牲になるのやら」と相手の心配をしていた。


「さてと――とりあえず店の外のお客さんに退場願いましょうか」


 谷村 亮太郎は店の窓に近づく。

 雑居ビル2階から見下ろす形で外を見るとガラの悪いチンピラが何人も集まっていた。

 平日のメイド喫茶の前で集会などしないだろう。

 たぶんも何も須藤の手の物だ。


「どうする? 僕が片付けようか? それともシノブ君がいく?」


「んじゃあ俺が行きます。谷村さんはさとみさんをお願いします」


「任された」


 シノブは亮太郎にさとみを任せる。


「余程の限りは我々の力で揉み消せますんで派手に暴れて下さい」


 シノブに援護射撃するようにリンカが一礼する。


「ちょっと? 大丈夫なの? あの人数に勝てるの?」


 黒川 さとみは心配そうにするが長い事異世界でシノブの相棒を務めていた亮太郎は「まあ余裕でしょ」と言う態度だった。

 リンカは大きな近未来的デザインのアサルトライフルを手にする。

 人間の少女が使う物と言うより、海外のゲームに出て来る厳ついパワードスーツを身に纏った兵士が使いそうな銃だ。

 メイド服姿と対照的な感じで、深夜アニメに出て来るヒロイン感が出ている。


「あの、それって本物?」


「XMー29。非殺傷弾を装備しています。輸入して取り寄せた物をカスタムしたものです」


「は、はあ」


 さとみは何から突っ込んで良いのやらと言う感じだった。

 谷村 亮太郎は「ネタ装備だね」などとリンカが持っている銃について心当たりがあるようであった。 



 Side サカキ高校のチンピラ

 

 =朝・大阪日本橋、メイド喫茶ストレンジ前の道路=


 サカキ高校のチンピラ総数50名。

 手にはバットやパイプなどの凶器を持ち、中にはナイフなどを持っている人間もいる。

 須藤 勇也の命令で藤崎 シノブを拉致するためにきた。

 昨日の黒川 さとみの誘拐を妨害してくれたことの報復(逆恨み)も兼ねている。

 

 そしてノコノコと現れた藤崎 シノブをメイド喫茶前の道路で取り囲む。


「生きたまま連れて来いって命令だが、腕の一本は折ってもかまわねえんだってよ」


「まあ、俺達を敵に回した報復って奴だ。せいぜい可愛がってやんよ」


「警察にはこないぜ。須藤さんはコネがあるからな」


 などとと言って襲い掛かるタイミングを図っている。

 とうのシノブはと言うとファイティングポーズをとって「御託はいいから死にたい奴から掛かって来い」と強気に言い放つ。



 Side 殺し屋


 スキンヘッドに大柄の巨体、サングラス、スーツ姿の出で立ちは大阪日本橋では浮いてしまう。

 それに今は平日。

 浮いてしまう。

 せめてスーツぐらいは着替えておいた方が良かったかななどと思いつつ、遠目からメイド喫茶ストレンジの前の騒動を眺めている。


 自分が殺し損ねた高校生、藤崎 シノブ相手に五十人ものチンピラが群がっている。

 ヤンキー漫画みたいな展開だ。

 藤崎 シノブはと言うと、「これどっちが加害者側なの?」と言いたくなるぐらいのパワーで相手を殴り飛ばし、後ろに目でもついているのかと言うぐらいの勘の鋭さで攻撃を回避しカウンターを狙う。

 

 一撃だ。

 一撃でチンピラたちが沈んでいく。

 酷い奴だと自分達が乗って来た車に衝突して気を失っていた。

 

「な、ナイフを握り潰して!?」


「なんなんだこいつ!?」


「お、おい待て!! に、逃げるな!?」

 

 まるでハリウッド映画のアクションヒーローのような大立ち回りだ。

 殺し屋は(俺はアレで殴られて気を失っていたのか)と、顔を青くする。

 ただ力任せに殴っているのではなく、相手を最短で無力化する武術だ。

 それをアメコミヒーロー級のパワーで行っている。

 控えめに見てもヘビー級ボクサー以上のパンチ力だ。

 普通の人間は殴った相手を空中きりもみ回転させることなで出来ない。殴られた方死んでるんじゃないのか。


(ば、化け物……)


 殺し屋にとってターゲットの評価を間違えることは命取りになる。

 その評価を致命的に間違えていたことに恐怖した。

 

(どうする!? あらよくば実行しようかと思ったがあんな怪物にやれとか聞いてないぞ!?)


 日本橋に同じような所業を出来る男はいるが身体能力が特別に優れているだけ、ケンカ慣れしている素人でしかない。

 だが目の前で暴れているのは正真正銘の化け物だ。

 今は撤退するしかない。

 殺すには正攻法ではダメだ。

 遠距離からライフルで狙撃するとかじゃないと無理だ。


「ちょっと様子見しに来たけど、君がシノブ君を狙った殺し屋かな?」


「ッ!?」(何時の間に背後に!?)


 殺し屋の背後に黒髪のおかっぱ頭の少年がいた。

 

「名前は宇藤 タツヤ。殺し屋派遣会社、アサシンズギルドの人間だね」


「ちぃ!!」


 外見で判断するべき相手ではないと悟った。

 そもそも普通の人間は気配を完全に殺して殺し屋の背後を取れない。

 海外のクレジットカード型サイズの折り畳み拳銃を引き抜く。

 弾のサイズは22口径。

 メーカ側が考える本来の用途は護身用だが暗殺用としても向いている。

 威力は不安だが、頭に、脳に銃弾を射ち込めば人間は死ぬ。

 問題は相手との距離。

 早撃ちの速度は達人と言われる人間でも0・4秒かかるらしい。

 精度を求めるなら発射に1秒は超過するだろう。

 と言うかこの状況なら、相手との距離を考えたらナイフの方が良かったかもしれない。 


(ガッ!?)


 結局、抜き終わる前にスタンガンを押し当てられる形になり殺し屋――宇藤 タツヤは気を失ってしまう。

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