大阪日本橋・再び
=朝・大阪日本橋・メイド喫茶ストレンジ内=
朝の大阪日本橋。
それも平日。
まだ朝方と言うので何処の店もやっていない。
ホームレスの姿が目につくぐらいだ。
メイド喫茶ストレンジにいったが――
「どうも。空いています」
紫色のツインテール。
整ってはいるが、近寄り難そうな顔立ちで鋭い目つき。
細身で出ると子は出たモデル体型。
露出度高めのアニメ的ミニスカメイド服。
自然体で隙のない立ち振る舞い
左の太もものホルスターには銃が差し込まれている。
メイド喫茶ストレンジに初めて訪れた時に接客してくれたメイドさんだ。
「一時的にアナタ達の貸し切りにします。用がありましたらまた申し付け下さい。異世界ユグドの勇者様」
そう言ってツインテールのメイドは一礼して店内に案内する。
「異世界ユグドってなに? 勇者様って? 電車で行ってた設定で実はこの店に通ってたの?」
藤崎 シノブは茫然としていた。
異世界ユグド。
勇者の肩書き。
それを知るメイド。
一体このメイド喫茶は何なのだろうかと思う。
「あ……あ~ともかく、待ち合わせここにしてるから」
気を取り直してシノブは店内へと入った。
さとみは「何だか釈然としないわね」と言って後に続く。
☆
=朝・メイド喫茶ストレンジ店内=
人がおらず、ただツインテールのメイドがいるだけだった。
「空いてる席にどうぞ」
ツインテールのメイドがそう促す。
二人はカウンター席へと座った。
「改めて紹介します。私は毒島リンカ、このメイド喫茶の店長代理をしています」
そう言って一礼をする。
「この店の店主、ヘレン・P・レイヤー様は藤崎 シノブ様、谷村 亮太郎様の事は把握しています」
と、説明される。
さとみは「何で谷村君まで?」と首を捻ったがシノブは無視して尋ねた。
「――で? 店主からはなんて?」
「この店をご贔屓にしてくださるなら、今回の面倒事を手助けする用意があるとの事です」
「その店主は留守なんですか?」
「はい。また、ささやかながら報酬も用意しています」
「報酬? この店のフリーパス券とか?」
「その辺りの話は谷村様が起こしになられてからしましょう」
との事だった。
「なになに? 何かこう、裏社会っぽい会話をしてたけど二人は何なの?」
その問いにリンカは「メイドです」、シノブは「勇者です」と返した。
☆
谷村 亮太郎が来るまでの待ち時間、唐突に黒川 さとみは「異世界での話聞かせてよ」とか言ってきた。
物静かな態度だが毒島 リンカも興味深そうに聞き耳を立てている。
「信じてないだろ」
「いーじゃない。私にばっか秘密が多くてずるいわよ」
と笑みを浮かべながら言った。
この様子だと何を言っても馬鹿にされるだろう。
「なになに? 可愛い女の子とハーレムつくった? それともチート能力でドラゴンとか倒したりした?」
「女の子と接点はあったし、ドラゴンは――まあ、種類にもよるな」
「ほうほう女の子はいたと。それでドラゴンに種類とかあるんだ?」
「地球の昆虫でも色々と種類がいるようにドラゴンも種類が豊富なんだ。人間の家畜になったり、飼育されて軍事兵器扱いされたりしている。なんなら移動手段としても使われてる種類もいる」
異世界の事を思い出しながら言う。
どうせ信じてはくれないと思ったのでシノブは少しやけっぱち気味に言った。
「そんな風になってるんだ。あと魔王とかいた?」
「いた。魔王と言っても一体だけじゃなくて、複数人いた」
「え? 複数人いんの?」
「うん。戦ったし、何だかんだで一緒に戦ってもくれた」
「魔王と一緒に……じゃあ何しに異世界に行ったの?」
「異世界を救うために召喚された――いや、違うな。魔王を討伐するために呼び出されたのかな」
「あ、やっぱりそこは魔王なんだ」
「魔王サウラス。特殊な魔王で、魔王と言うカテゴリーに入れて良いのかどうかすら悩むところがあるけどな」
ふと思い立ったように「そもそも魔王ってなんだ?」と尋ねる。
「そりゃ……あらためて考えてみると何なのかしらね?」
魔王とは何か。
玉座にふんぞり返る強くて悪い奴的なイメージしかさとみは想像できなかった。
「大体はモンスターを支配下にして人類を滅ぼそうとする絶対的な悪って言うのが世間一般のイメージだと思う。この辺りあの国民的RPGの影響だろな」
続けてシノブは言う。
「魔王サウラスは最初、WEB小説に出て来るような、テンプレ魔王かと思ってたんだ」
「だけど実際は違ったと?」
「悩んでいた。苦しんでいた。そして問いかけてきた。お前たちは正しいのかと」
「え?」
「私も大勢の人間を殺した。だがお前達、地球の人間とどう違うのだと」
「その魔王、地球の事も知ってるの?」
「ああ」
「ふーん、結構凝った設定なのね」
などと言ってさとみは茶化す。
「この話辞めようか」
「いや、面白いから続けて」
さとみはシノブにおねだりする。
シノブはやれやれと言った感じで話を続けた。
☆
Side 黒川 さとみ
最初は話半分に聞いていた。
だけどあれこれと聞いているウチに何故だか信じたくなっていた。
口では「よく練られた設定ね」と誤魔化してはいるが、興奮してきていた。
黒川 さとみ。
学校では普通の女子を演じているが、わざわざ日本橋まできて、メイド喫茶でアルバイトしている女子である。
そもそもにしてニチアサヒーローをメインにサブカル的なアレコレとか大好きだった。
(え、もしかして本当に異世界帰り? ありえるの? いや、まさかそんな―――)
興奮を抑えつつ内心、藤崎 シノブが異世界帰りの勇者説が現実味を帯びて来た。
話を聞けば谷村 亮太郎もそうだと言う。
そしてメイド喫茶も不可思議な事が色々と起きていて、雇い主の毒島 リンカも二人の素性と異世界の存在を認知している。
(落ち着くのよ私! 今現実恐怖体験の真っ最中なのよ!? でも、私こう言うのに憧れてて……でもなんか不謹慎だし……あーもう、何なのこの気持ち!?)
色々と恐ろしい目に遭って忘れていたが自分は何しにこの街にきた?
この街のメイド喫茶で働いているのはなぜだ?
今絶賛経験しているような非日常体験を求めてではなかったか?
「どうした? 考え事か?」
「いや、うん、なんでもない。なんでもないの!!」
心配そうにシノブに尋ねられてさとみは慌てて誤魔化す。
相手の事を厨2病呼ばわりして自分も厨2病の痛い女だと思われたくなかった。
などと思ってはいるが、日本橋のメイド喫茶でバイトしているのバレてる辺りで手遅れなのでは? などと正常な思考にさとみは至れなかった。
「おや~何だか楽しそうに会話してるね」
そこで谷村 亮太郎がやって来た。




