【号外】有栖川魔法学園公式新聞
【号外】:有栖川魔法学園公式新聞
◇白熱! 第一学年最終実技試験
目ても覚めても頭から離れない。
観る人すべてを興奮の渦に巻き込んだ三送会より明けた翌々日。
まさしく伝説と呼称するにふさわしいかの一戦が記憶に新しい中、イベントは止まることなく執り行われることとなった。
――通称【鬼ごっこ】
第一学年の生徒、全百名を【鬼】と【子】の二役に振り分け、その名の通り【鬼ごっこ】をすることで得点を出そうという特別試験。
一見すればただのお遊びにも見えるが、実際に体験したものからすればその内容がいかに熾烈であるかが分かることだろう。
校舎という限定された建物で徐々に徐々に追い詰められていく【子】にしても、追い詰めたとて捕まえられなければ得点を得ることが出来ない【鬼】にしても、いずれにせよ高い戦略性を要求される試験に他ならない。
中でも最も過酷だったといえるのは【二つ名】を関する七名の生徒たち。
全員が【子】であり、それぞれに高得点の懸賞が掛けられていたことからより高いプレッシャーを掛けられていたことは容易に想像がで可能だ。
特に先日の一戦より回復していない【魔法使い】――西園寺優介氏と、【鬼】を討伐するたびに魔力制限という罰則が与えられる【狂犬】――佐倉朱音氏の二名はどう窮地を乗り切るかが注目されていたが、意外や意外な動向を見せることとなった。
では、それを踏まえた上で今回の優秀成績者たちを数名ほど以下にて紹介しよう。
■【魔女】カルナ・メルティ:【子】
・戦績:逃げ切り成功 / 撃退数 0
・獲得ポイント:五十点
【子】において最も優秀な成績を収めた生徒こそ彼女、 【魔女】の名を関する生徒――カルナ・メルティ氏である。
彼女の武器といえば天才的な発想と技術により生み出された多彩なマジックアイテム。
開始序盤では同じ二つ名を冠する生徒【一星】【嘘言】【魔弾】らと行動を共にしながら戦場に持ち込んだマジックアイテムで彼らを支援し、また終盤では【生命を吹き込む魔法】により【魔法使い】と【占猫】の二名を窮地から救い出すなど大活躍を披露する。
学園生において抜きん出た素質を有すると称されるに相応しい、まさしく見事な大立ち回りを見せることとなった。
だがそれ以上に驚くべきは、それだけの戦果を挙げながらも魔力残量の減少がほぼ見られなかったことにある。
【魔女】の活躍こそ大半はマジックアイテムによるものだが、それを差し引いたとしても試験前後での魔力消費量の結果は驚愕の一言。
全魔力量対比、消費量三パーセントの成果は全生徒中第二位の結果を誇る。
効果的かつ最大の戦果を挙げた彼女こそ、本試験の最優秀生徒と呼んでも差し支えないはずである。
以下感想コメント
「メルティさんまじメルティさん」
「うぉぉぉぉ結婚してくれー!」
「西園寺○す」
■一般生徒:天野河リノ:【鬼】
・戦績:生徒捕獲数 5
・獲得ポイント:八十点
天野河リノ。
魔法使いでありながら一般社会ではアイドルとして活躍する学園一の有名人。
そんな彼女こそ、【鬼】における最優秀成績者かつ最高得点記録者である。
見敵必殺。
限られた六十分の制限時間の中で彼女と鉢合わせた【子】はおよそ全員が捕獲されることとなった。
例外として確保できなかった生徒に関しても居合わせた別の生徒が先に捉えたため戦果に加えることが出来なかっただけであり、そう考えれば天野河氏の活躍がどれほどのものかはもはや説明するまでもない。
決して武闘派の魔法使いとは言えない天野河氏だが、今年一年を振り返ってみても来年の活躍に期待したいところである。
以下感想コメント
「うぉぉぉぉおお! リノちゃぁぁぁぁんっ!」
「さいこうだぜぇぇぇ! おめでとぉぉぉぉぉおお!」
「今生に悔いなし」
■【狂犬】佐倉 朱音
・戦績:逃げ切り成功 / 撃退数 23(【鬼】:15 / 【子】:8)
・獲得ポイント:三十一点
続いては本試験一番の問題児を紹介しよう。
言わずと知れたこの人、【狂犬】こと佐倉朱音氏である。
さて彼女について語る前に、まずは本試験のルールを一つ振り返ろう。
制限時間終了まで生存できなかった生徒:
【鬼】もしくは【子】を問わず一律ポイントをゼロとする。
このルール、皆さんの中で知らない人などはいないはずだ。
言うまでもない。試験の得点が「0」となる最悪の結末を示すルールだからである。
では次に佐倉氏の戦果を見返してみよう。
・戦績:逃げ切り成功 / 撃退数 23(【鬼】:15 / 【子】:8)
お気づきであろうか。
そう。【子】である佐倉氏だが、同じ【子】も含めて二十三名もの生徒をその手で葬り去ったのである。
だがそもそもの話そんな狂気的な展開を避けるべく、【子】が【鬼】を撃退した場合魔力に制限が掛けられるといった罰則ルールが設けられていた。
魔力とはすなわち生命力。
魔力が制限されれば生命力も比例して減少し、やがては軽い衝撃一つで退場してしまうほどに危うい状態に陥ってしまうこととなる。
例えるならRPGゲームで残りHPが1になるようなものである。
本人の意思とは関係なく、魔力の消失に伴う自然退場。
すなわち試験終了を意味するこの状況で――さて佐倉氏がとった行動とはただひたすらの蹂躙であった。
撃退数が五名を超えた段階でほとんど魔力の恩恵を受けられなくなったはずなのに、佐倉氏は止まることなく狩りを続けた。
もはや誰が【鬼】なのか分からなくなるその状況は、間違いなくこの試験の結果に大きな影響を与えたはずである。
ともすれば、彼女の存在がなければ生存者と脱落者の顔ぶれは大きく変わっていたに違いない。
以下感想コメント
「目が合った数秒後に退場してたんだけどどういうこと?」
「私が何をしたと言うんですかね」
「どうか西園寺だけを標的にしてほしい」
■【占猫】松永 音子
・戦績:逃げ切り成功 / 撃退数 0
最後はもう一人のMVPと評される【占猫】こと松永音子氏。
彼女の代名詞とも呼べる魔法「占い」はもはや未来予知と表現しても過言ではないのかもしれない。
その精度は教師陣からも一目置かれるほどであり、ここぞというときの場面では松永氏の存在が戦局を左右することを疑うものはいない。
さてそんな彼女だが、今試験では【魔法使い(または鬼畜眼鏡)】とのコンビネーションが光っていた。
彼女は戦闘能力こそ皆無なためほぼほぼ【魔法使い(または鬼畜眼鏡)】が主だって戦場を駆け回っていたが、奇跡にも思える危機回避行動を多数見せていたことから【占猫】の本領を発揮したいたことだろう。
【魔法使い(むしろ鬼畜眼鏡)】とたった二人だけで最後まで生存した結果には素直に賛辞を送りたい。
以下感想コメント
「ただひたすらに可愛い」
「可愛い」
「西園寺まじで○す」
■総評
多少の問題もあったが、大変厳しい試験において結果を出した生徒一同には拍手を送りたい。
この一年間で培ってきた知恵や行動力、さらには技術といったあらゆる要素が今回の結果に結びついたことだろう。
学園が始まって以来、稀に見る優秀な世代と評される彼らの次年度にも大きく期待したい。
◇新聞部取材班は見た! 体育館乱闘事件の一部始終!
定期試験が終わった後、試験を乗り越えた優秀者たち数名が集められた体育館である事件が発生した。
無事難問を乗り越えた彼らに一体何が起こったのか。これはその一部始終を捉えた音声データである。
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――バタン!(勢いよく扉が開かれる音)
『ユーくーん! お姉ちゃんが迎えに来たよー! 大丈夫? 怪我してない? というかどこにいるのー?』
『おいやべえの来たぞ。どうする』
『もう体力なんて残ってませんわよ。なるようになりますわ』
『ねぇねぇここにユーくんがいると思うんだけ……(ここからよく聞き取れない)』
『くぅー』
『すぅすぅ』
――ヒュン(何かが駆ける音)
『えーなんかよく寝てるねー。可愛いー』
『おや、誰かと思えば会長さんかえ。こんなところまで何か用事でもあるのかのう』
『うーん、ユーくんが疲れてるだろうなー大丈夫かなーって飛んできたんだけど。どーして女の子三人に寄りかかられながら寝てるのカナ?』
『おやそれは気づかなんだ。年頃の女子は危機感が足りないのう』
『えー? そのうち一人はあなたなんだけどなー? そ・れ・にぃ』
――ダン!(何かの衝撃音)
『もう一人狸寝入りしている子がいるゾ♡』
『……いきなり蹴り付けるなんて穏やかじゃありませんね』
『やだなー! こんなの挨拶にもならないでしょ? で、アリスちゃん。何か弁明があれば聞いてあげるゾ』
――ぎゅ(何かにしがみつく音)
――ダン!(再び何かの衝撃音)
『……へぇ』
『メルティさん。力を貸してください。この人は今日ここで仕留めておいた方が良いかと判断します』
『かっかっか。さすがのワシも骨が折れる相手じゃが……まぁそれも面白そうだのう』
『えー、あなたたち二人だけで勝てると思ってるのー? どうしてもっていうなら相手してあげるケド、怪我しても知らないゾ♡』
『そこのあなたたち! 手を貸しなさい!』
『『えぇ……』』
『かっかっか。じゃがまずは……ほれ、そこの二人をよそに移さねばな』
『あー逃げればよかったー。え、参加しないって選択肢は?』
『もう遅いですわよ。はぁ……これは先生たちが戻るまで留まりそうにありませんわね。それに多分――』
――ダン!(勢いよく何かが飛び込んでくる音)
『なんだか面白そうな予感がしますね』
『ほら、キルリーダーまで登場しましたわよ。もうダメですわね』
『あー』
(ここから先は音声が途切れているため再生不可能)
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残念ながらテープレコーダーが壊れていたためこれ以上の音声をお届けすることは出来ないが、ここから十数分に渡り大乱闘が発生したことは皆知っていることだろう。
あとは実際に何は起こっていたのか。
我々はなぜか入院を余儀なくされた取材担当者の回復を待ち、事件の全貌を明かしたいとここに宣言する。
※取材担当者が泣きながら勘弁してくださいとうわ言のように繰り返しているため、追求出来ない可能性ここに記す。
◇先取り! 第二学年生の四月行事予定!
■第二学年生クラス分け
クラス分けは初登校日当日発表いたします。
新第二学年生の生徒たちは学園に登校後、所属するクラスを確認した後に教室まで移動し席に座って担当教師の指示をお待ちください。
■定期魔力診断
年に四回予定されている魔力診断が始業式より数日後に予定されております。
これから冬休みに入りますが、各生徒は休暇中も指輪を装着し魔力を浸透させるようにしておいてください。
■四月度定期試験
四月に開催される定期試験の内容は「かくれんぼ」です。
詳細なルールは追って説明しますが、各クラスともに良い成績が残せるように準備を進めておいてください。
■その他
・破損した第一体育館ですが修理が四月いっぱいまで時間を要すると見込まれます。それまでの間は第二体育館を利用するようにしてください。
・新入生とのパートナー決めは例年通り四月度定期試験を終えた後に実施いたします。
・金の指輪を持つ生徒は次年度もそのまま同じ指輪を使用してください。
以上です。
◇掲示板
・今月も落とし物が届いております。心当たりのある方は事務員にお尋ねください。
※三月の落とし物:眼鏡、ペンケース、小さい水晶玉、ほか
・図書館館長からのお知らせですが、要望のあった新書を取り揃えました。興味がある方は図書館までお越しください。
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※今月の『突撃料理研究会!』のコーナーは取材班体長不良のためお休みさせていただきます。