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魔法使いの花嫁たち  作者: 春夏 冬
3月:魔法使いたちの進級試験
3/10

第2話:【占猫】は空を飛ぶ

 分類:学年最終実技試験(第一学年)

 

 種目名:鬼ごっこ


 ルール:

 本試験では生徒を二つの役のうちいずれかに区分けることとする。

 一つは【鬼】、もう一つは【子】。


 本試験は、【鬼】が【子】を捕まえるか、もしくは【子】が【鬼】から逃げ切るか、いずれかの結果で勝敗を競う個人単位での実技試験である。

 

 制限時間は六十分。

 フィールドは校舎全域(校庭や体育館などを含む)。


 なお「捕まえる」とは、魔法攻撃による退場を指すものとする。

 

 勝利条件:

 以下いずれかの勝利条件を満たすこと。


 1:制限時間内に【鬼】が【子】を捕まえる。

 2:制限時間まで【子】が【鬼】に捕まらず逃げ切る。


 敗北条件:


 1:【鬼】もしくは【子】のいずれでも退場した場合、敗北したものとする。

 

 特別ルール:

 【子】は【鬼】を攻撃してもよい。

 ただし、【子】が【鬼】を退場させた場合、その【子】には試験終了時まで魔力の制限が課せられるものとする。

 ※目安として三名を退場させた時点でほぼ魔法は使用不可となる。


 ポイント:

 【鬼】もしくは【子】が制限時間終了時まで生き残った場合、以下の取り決めに則り試験のポイントを得られる。


 【鬼】の場合:

 制限時間終了時まで生き残った段階で、生存者は三十ポイントを取得する。

 

 さらに捕まえた生徒一人に対して十ポイントを取得。(複数名のチームとして行動した場合でも、捕まえた生徒のみがポイントを取得するものとする。)

 また、捕まえた生徒が【二つ名】であった場合、生徒一人に対して百ポイントを取得する。


 【子】の場合:

 制限時間終了時まで生き残った場合、三十ポイントを取得する。


 さらに試験終了時点での魔力残量により最大で二十ポイントを追加で取得する。

 

 制限時間終了まで生存できなかった生徒:

 【鬼】もしくは【子】を問わず一律ポイントをゼロとする。

 

 

 ******


 一言:

 好きなクラスに進級したかったらしっかりと成果を上げてね☆

 

 ******

 


 ふぅっと一息で呼吸のリズムを整えつつ、駆ける速度を落とさぬままに渡り廊下へと身体を乗り出す。

 後方から迫る追手の気配をそれとなく再確認しつつ、左折した先で視界に飛び込むのは一切の障害物を排したまっすぐな一直線。

 視界良好オールグリーン。くっきりと見える敵影は男子三名、女二名。


「おい! 来たぞ!」

「ターゲット【鬼畜眼鏡】、それと【占い猫】だっ!」

「最後のチャンスだぁっ! ここで魔力を使い切るつもりで全力をだせぇぇぇ!」


 あちらさんもすぐに状況を飲み込んだようで、今まさに迎え撃たんとそれぞれが魔法行使のモーションへと移る。

 両手を前に掲げるもの、頭上に手を掲げ魔力を集めるもの。

 それぞれの個性とでも呼びべきか、己が()()()()()()()を形にせんと挙動を見せる。

 

「やばいのは?」

「真ん中の女子。カチューシャの子」

 

 首元から聞こえる【占い猫】の声に合わせて標的へと視線を合わせる。

 

「カチューシャ、って――あぁ、なるほど」


 あまり話したことはないが、まぁそれでも幸か不幸か見知った顔。

 どうせなら全然知らない他人だと嬉しかったんだけど、まぁこれは仕方ない。


「ユー。来る」

 

 強襲。

 五人のうち二名による魔法の同時射撃。

 早さ、威力申し分ない。

 サッカーボールほどの大きさの球体を模した魔力の塊は、術者の手元から離れて数秒も立たない速度で眼前へ到達する。


「うん。見えてるよ」


 右手に必要分の魔力を込めると、そのままコースを逸らすように魔力の塊を下からそっと跳ね上げる。

 後に迫る二発目も、これまた同様に今度は体の右側へと逸らすように柔らかく触れて押しのける。


「ユー。ナイス」

「ども」

 

 後方で魔力の破裂音を耳にしつつ、相手の次のアクションを見極めためその動作を視認する。


「三秒後、バリアよろしく。()()()()

「ユー。鬼畜」

 

 相変わらず覇気のない返事だが了承は得られた。となれば、あとは型にはめるだけだ。

 本命はカチューシャの彼女の魔法のみ。

 となれば――。


「――っ! あいつ魔法をよけやがったぞっ!」

「想定通りだっ! それより次弾っ! 撃てえぇぇっ!」


 ほんのわずかな瞬間、先に両サイドを固める生徒たちの魔法がこちらへと放たれる。

 その軌道は左右ともに身体に触れるか否かの絶妙なコースをなぞり、一直線に迫りくる。

 最も安全な回避策は一直線に進むことで駆けることで魔法の軌道から強引に身体を逸らすこと。

 そう判断させるための手段としては、実に優秀な一撃だったといえるだろう。

 

 ――ゆえに、その策に乗る。


「かかったっ! 頼むっ!」


 一つ、コースを限定すること。

 二つ、思考を縛ること。

 三つ、それらを修正不可とする距離を確保すること。


 これらが示すことすなわち、最大の一撃。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 カチューシャをつけた女子生徒は腕を前に掲げると、一瞬のうちに膨大と呼べる魔力を収束し、放つ。

 先ほどまでの魔力の塊とは比にならないレーザービームを思わせるその一撃は、一直線に前へと進む選択を取った僕には回避不可能である。

 残り十メートルの距離かつ逸らすことをイメージできない一直線の光の槍は、彼女たちにとってまぎれもない必殺の一撃だった。


「いくよ。音子」

「ばっちこーい」

 

 だから、切る。


「せぇぇぇのっとぉぉぉ!」

 

 首に回していた両手を掴み上げ、小柄な少女の身体を眼前に迫るレーザー当てると同時に押し返さんと振り上げる。

 気分はさながら野球のバッター。

 ピッチャー振りかぶった球を西園寺選手――。


「大きく打ったあぁぁぁぁぁぁっ!」


 ――ズドォォォン。


「「……え?」」

 

 武器(・・)で魔法を叩き切る。

 いざ土壇場で実行するにはなかなか難しいがどうやら無事に成功したらしい。

 見事に切り伏したレーザービームの先、ぽかんとした五人の表情が目に映る。


「……おい見たか、あいつ女の子を武器みたいに」

「噂に違わぬ鬼畜じゃねぇか」

「ヤベェな【鬼畜眼鏡】」

 

 大変に好評を頂いているようで結構。

 けど、それで目的を見失っちゃダメだよ。

 彼女のこと、忘れてないかな。


「綺麗に着地。花丸百点」

 

 振り抜いた勢いのままに渡り廊下の向かい側までぶん投げた彼女は、緩やかな放物線を描きながら生徒たちの頭上を飛び越えた先でスタッと綺麗に着地する。

 高らかに自己評価を宣言し、両手をY字にビシッと伸ばす。

 残念ながら背中越しのため表情は見えないがさぞ満足げにしていることだろう。


「え? あ、しまったっ!」

 

 気がつく頃にはもう遅い。油断大敵。

 【占猫】に気を取られている隙に、速度を上げることで懐へと潜り込むことに成功。

 距離ゼロ。敵五名射程圏内。


「くっそ、山本!」

「分かってるっ!」


 すぐさまに二人がタックルを仕掛けてくる。

 こういった事態も事前に打ち合わせしていたのかもしれない。

 その間に残りの三人が一斉に距離を取ろうと後ずさるあたりよく連携している。

 だけど残念。その動きを彼女は知っている。


「きゃっ! ……え?」


 距離を取ろうとしたうち一人、カチューシャをつけた女子生徒が何かにぶつかったようで動きを止められる。

 驚いた表情で背後を振り向くと、そこには気怠げな女子生徒が手を突き出している姿があった。


「あなたは危ない。だから駄目」


 そう一言告げると、【占猫】は女性生徒の身体に当てた右腕でついと彼女を押し出す。

 思わずバランスを崩す女子生徒に対し、追撃を交わしつつ立ち上がる前にと距離を詰めて手刀をたたきこむ。


「あぁ! そんなぁ――」

 

 残り魔力を消耗させるのに十分な一撃。

 驚きの表情のままに存在を維持できなくなった彼女の身体が光に包まれて消えていく。

 想定外の動きに戸惑いを見せる彼らを傍目に映しつつ、そのまま【占猫】の回収に向かう。


「そいつを行かせるなぁぁぁ!」


 一足早く状況を認識した男子生徒が声を上げる。

 その声に反応した生徒が残りの魔力を振り絞るように全身に淡い光を纏わせながら突撃を試みる。

 だけどあと一歩及ばない。


「ユー。誉めていいよ」

「ご苦労様でした」


 再び彼女の腕が首に回されるのを確認し、すぐ様に走り出す。

 魔力が風前の灯である彼らでは、もはや身体能力を強化しても追いつくことは叶わないだろう。

 

「次の階段を上に上がって屋上に行く。【魔女】が待ってる」

「あいよ」


 廊下を駆ける中、過ぎ去る教室に掛けられた時計を確認する。

 制限時間まで残り五分。

 背後から迫り来る気配と距離が離れる様子を感じつつ、僕は彼女と共に屋上を目指し階段を駆け上がる。

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