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俺が妹を守るまで  作者: のらねこ
13/13

エピローグ

あの後、奏一郎の傷口は完全に塞がったが……またも寝たきりになってしまったのである。

領主の城の一室にて彩花とペロと一緒に居た奏一郎は今眠っている状態だ。

あの戦いから三日……気を失った奏一郎をジェフリーの指示によりゴドルフィンが担ぎ上げ、とある一室に運び込んで寝かせているのである……何故そんなことが出来たか? それはジェフリーがルートヴィヒの首を掲げて宣告したことにより、兵士たちも大人しく従ってくれたことによりスムーズに占拠できたのである。

ジェフリーもよく首なんて掲げたものである……この世界の常識ではわからないが、首を掲げるなんて正直サイコパスのやることでしかない。

まあ、お陰でこうやって安心してベッドで眠っていることが出来るのだが……なんだか感謝するべきなのだろうが、感謝しづらい。

ところでエルゼはというと地下の牢獄に投獄されたようで、生きているし投獄されたことで狙われる危険も随分減った。脱獄でもしない限りはジェフリーの監視下にあるんだし、ひとまず安心していいだろう。これはお互いにとって一番いい結果になったのではないだろうか?

ジェフリーとリスト以外のメンバーはギルドに行って仕事の依頼をこなしているようだ。巨大モンスターに追われたり、古代遺跡の調査に行ったり楽しんでいるようだ。

当のジェフリーとリストはというと、ジェフリーが領主として急激な改革のために尽力しているのだが、リストはそれの秘書のように仕事に追われている。

目下として始めていることは税の引き下げと、炊き出しの実施、それから雇用の創出だ。具体的には農業の再生を目的とした雇用の創出案だ。それプラスの三ヶ月の炊き出しがあるので、そこそこお金に余裕ができるはずだろうという事で早速実施に向けて動き出しているようだ。

秘書のリストもスケジュール管理や書類作成に躍起になっている。

風の涼しい午後の事、奏一郎は目を覚ました。

ベッドに寄り掛かって彩花は眠っている……それに寄り掛かるようにしてペロも眠っていた。眠っている彩花の頭をポンポンと撫でてやると。

「う……ん……?」

目が覚めた彩花は寝惚けていた。

「ごめん……起こしちゃったかな?」

頭をなでなでしながら話しかけると、彩花は驚いて声を上げる。

「お兄ちゃん! 目が覚めたんだね⁉」

驚きのあまりペロが一瞬浮いたように見えたが、今は回復したことを報告しなくては。

「お兄ちゃん三日も眠ってたんだよ⁉ 大丈夫? もう痛くない⁇」

カーテンが風に揺れてそよそよとしている。痛みは…………どうやらもう大丈夫なようだ。

「大丈夫。痛くもなんともないよ」

にっこり微笑みながら彩花に優しく答える。

「……そうだ!ジェフリーを呼んで来なきゃ」

そう言って駆け足でジェフリーを呼びに部屋を出て行くペロも一緒について行く……二人はいつも通り仲良しなようだ。

そういえばペロも少し大きくなったなぁ。ウルフの子供だから大型犬よりも大きくなるのかぁ……なんだか小さいのも今のうちだけなんだなと感慨深くなる。

しばらくして彩花が戻って来た。もちろんペロも一緒だ。

「ジェフリーがもう少ししたら来るって、あやか……お兄ちゃんがずっと寝てるから心配したよ……」

そんなに心配になるほど大変な状態だったのか、と……思い返す。

「うん……ごめんな。こんなに心配かけるなんて思ってなかったんだ。お兄ちゃんだからさ、彩花を守ることで精一杯だったんだよ」

正直な気持ちを話すと彩花も「お兄ちゃんが無事ならいいの」と言ってくれた……彩花もペロのように凄い速度で成長しているようだ。こちらの世界に来たばかりのときは、甘えん坊で可愛げに溢れていたのに……今では甘えん坊なのは変わらないけど、しっかり者で話し方なんかも大人びてきたように感じる。

そんな成長を感じている時にジェフリーがリストと共に部屋に入って来た。

「おおっ! 目覚めたと聞いていたが、元気そうじゃないか? これなら心配するまでもなかったな!」

ニコニコ顔のジェフリーが言うと、リストがこう続ける。

「フフッ! あなたさっきまでまだ目覚めないのか? まだ目覚めないのか? って、うるさかったじゃない」

そう言われるとジェフリーが恥ずかしそうに頭を掻く。

「そうだったか? 忙しすぎて忘れてしまったな……」

惚けるのが下手くそなジェフリー……なんだか以前より二人の仲が良くなったように感じる。気のせいだろうか?

「忙しいのはあなたが選んだ道でしょ。ぼやかないの」

そう言ってジェフリーの腕を引く……やはりこの二人以前よりも仲良くなってる……?

「ねえ、なんか二人とも前より仲良くなってない? 気のせいなら気にしなくても良いんだけど……」

奏一郎の問いに二人は照れ臭そうにしながらこう言った。

「いやぁ、実は俺たち結婚することにしたんだ……領主にもなったし、そろそろ身を固めて家庭でも築こうかなって。領民もその方が安心して暮らせるかと思ってな。……それで、結婚って訳だ」

気恥ずかしそうに話すジェフリーは幸せそうにしていた。

「そうなのよ……アタシみたいなエルフを嫁にしようなんて、珍しい奴よね。アタシの方が絶対に長生きするっていうのに……」

先の事を考えるとエルフであるリストの方が長生きするのは当然。老いていくジェフリーをリストに見届けさせるというのは……なんだかちょっと酷な気がする。が、それをわかってて結婚すると決めたのだ……祝ってあげるのが一番いい答えだろう。

「そうなんだね! 二人ともおめでとう。じゃあ、リストは冒険者引退するのかな?」

ふとした疑問にリストはこう言った。

「まあ、長い人生じゃない? 結婚の一度や二度しても良いと思ったのよね……。ジェフリーの短い人生のために時間を使うのも悪くないかもって思ったのよ。だから冒険者は一旦引退ね。まあ、訓練は継続するつもりだけどね」

勘が鈍らないようにするためだろう……まあ先の見えていることだから今後の事を考えるのは当然か。

「さっ! 奏一郎の無事も確認できたんだから、仕事に戻るわよ!」

そう言ってジェフリーの腕をつかんで引っ張っていく。

「ま、まあ……そういうことだから式には出てくれよー!」

引き摺られながら声が遠くなっていく、結局二人は仲が良いなぁ。と、感じた奏一郎だった。

「二人は結婚かぁ、彩花も一緒に式に出ようね。でも、いつ結婚式するんだろうなぁ? 近いうちならいいけど……ボクらもいつまでもここには居られないからねぇ」

そう言って彩花を見つめる……そうなのだ。ボクらは帰る方法を見つけないといけないのだ。たぶんきっとゴドルフィンたちは協力してくれるんだろうけど、ジェフリーとリストはここでサヨナラしなくてはいけない。

「リストのお嫁さん姿、きっとキレイだよね! たのしみだなぁ」

リストのドレス姿かぁ……確かに奇麗だろうなぁ。しかしジェフリーのタキシードとか想像するとちょっと笑えるかも。

「二人とも幸せそうだったね……」

そう笑い合うと穏やかな午後の時間が過ぎていく。この世界に来てこんなに穏やかだったことがあるだろうか? たぶん初めての事じゃなかろうか?

穏やかな時間はあっという間に過ぎていく、奏一郎が寝たきりから回復するのに三日掛かった……そこから二日後についにジェフリーとリストの結婚式の日がやって来た。

パーティーメンバーに祝福され白いドレスを着たリストは本当に美しかった。エスタルトは涙を流しながらフラワーガールとして花びらを巻き上げていた。ゴドルフィンとパトリック、ガレフの三人は食べることに夢中で結婚式など関係なしに食べて回っていた……彩花はリングガールを務めみんなといつも通りに接していた。

奏一郎は感動のあまり目に涙を浮かべたが、他の招待客の目に入らないように涙を拭った。

パーティーメンバー以外にも貴族たちが来客として招待されている。子供から大人まで総勢二十名ほどだろうか? タキシードやドレスを着た気品のありそうな人々が集まっている中、ゴドルフィンたちの行動は上品とは言えない行動だ。しかしジェフリー達は何も言わずいつも通りだなぁ……と、思っているようだ。

「今日は皆さんお忙しいところ披露宴にお越しいただきありがとう。食事と酒を存分に楽しんでいってくれたまえ」

ジェフリーの気の利いた挨拶を終えると、挨拶回りで忙しそうにしていた。

キレイに挨拶を済ませると最後に俺たちのパーティーメンバーの下にやってくる……神妙な面持ちでやってくるジェフリー、奏一郎と目が合うとお互いにハグし合った。リストはくすくすと笑いながらこちらを見つめている。

力強くハグを交わすとメンバー全員とハグをする。相変わらず熱い男だな……これからは一緒に旅ができないのか。

それもジェフリーが決めたこと……誰にも反対はできない。

「みんな…………今までありがとうな! 簡単に死ぬんじゃないぞ? 特に奏一郎、お前は努力家だが一番弱いのを自覚しろ」

そうやって言うとみんな笑って返した。奏一郎は「え? ボクですか⁉」と驚きを隠せない。

「でも、ジェフリーが稽古つけてくれたんだからきっと大丈夫」

奏一郎は自信満々に答えると、ゴドルフィンが返す。

「だからって天狗になるんじゃねえぞ!」

またも笑いが起き、彩花が「お兄ちゃんは天狗なの?」と疑問に思ったことを口にするとまたも笑いが起きた。

「彩花……これは天狗になるってことは、調子に乗るっていう意味なんだよ?」

彩花に意味を教えてあげると「へえーっ! お兄ちゃんは天狗なんだ⁉」と言われ立つ瀬も無くなる奏一郎……彩花にまで言われるとは。

「だから違うってば⁉ ボクちょっと自信ついただけだから……決して調子に乗ってるわけじゃないから⁉」

「あはは!」とみんなで笑い合い結婚式は滞りなく終わった。

その後、ジェフリーの城を出て宿屋での生活に戻った。ジェフリーはもっと長居してもいいのにと言ってくれていたが、新婚ホヤホヤの二人の邪魔をするのも野暮なのでみんなが泊まっている宿に落ち着いた。

そしてパーティーメンバーみんなと話し合いをした……これからの事だ。大事な話なので全員で話し合うことにしたのだ。

「さて、みんなも自分たちの身の振り方を考えてると思ってるんだけど……ボクと彩花は召喚魔法を探す旅に出ることになるんだけど?」

そう話す奏一郎の目には輝きがあった。これからどんな冒険になるのか、どんな人と出会いどんな事が起きるのか……ギルドの仕事を受けるのも良い。沢山の希望に満ち溢れているのだ。彩花もまたワクワクが止まらないようで、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。

そんな彩花に落ち着くようにと諫めるとベッドの上でジッと正座をしていた。

「俺たちは召喚士のコイツも居るし奏一郎の役には立てると思うから、文句なく奏一郎についていくぜ? いいだろ? 奏一郎」

一番最初に発言したのがガレフだったことにビックリしたが、ついてきてくれるようなので喜んで歓迎した。

「ガレフとエスタルトがついてきてくれるのは嬉しいんだけど、元々違うパーティーが一つになってたのに良いのかい?」

ガレフにそう問うと。

「俺たちも実はあの時『黒曜の灰塵』のメンバーを募集してたんだよ! あの時はコイツの発言のせいで街から出なきゃいけなくなっただろう? 申し訳なさからだけど……今はもう長い事一緒に居るんだから、過去は過去……今は今って訳だ」

エスタルトはコイツ呼ばわりされて「コイツってなによう?」と引っかかってくる。ガレフはそれに対して「なんだよう?」と、二人によるバチバチの言い争いが始まった。

「俺は奏一郎を任されてるからな。ついて行くぜ‼」

ゴドルフィンはジェフリーの言いつけ通り奏一郎を守ることを決めていたようだ……そうなるとパトリックがどうするか。そこはきっと彩花の師匠としてついてきてくれるものだと思い込んでいた。

しかしパトリックの口から出た言葉は意外なものだった。

「ワシはもう結構な歳じゃしのう……冒険者生活から農家にでもなろうかと思ってのう。引退も考えておるんじゃよ」

それは突然の事だった……引退の文字が出るなんて誰も思っていなかった。

「お師匠様冒険者やめちゃうの?」

彩花の一言が静かだった部屋に響く。

「そうじゃのう……ワシはこの街で農家になるとするよ。ジェフリーが悪さをしないよう見守っておくかの」

そっかぁ……ジェフリーとリストに続いてパトリックまで…………こうなると『フェンリルの牙』のメンバーはゴドルフィン一人になってしまった……。

「そっかぁ、仕方ないね。パトリックの意思を尊重するよ」

奏一郎はパトリックの考えを受け入れたようだ。

「じゃあ、爺さんはリタイアするんだな?」

ゴドルフィンの問いにコクリと頷く。

「じゃあこのメンバーが新しいパーティーだ! 改めてよろしくな‼ 頼んだぜリーダー‼」

そう言ってゴドルフィンは奏一郎を見つめる。

「えっ‼」

ビックリする奏一郎にゴドルフィンは言った。

「だってそうだろ? ジェフリーの意思を受け継いでいくんだろ?」

それはそうだが……だけどリーダーはゴドルフィンになると思ってたのに。

「それはそうだけど……ボクなんかがリーダーって……」

クラスでも出来るだけ目立ちたくなかった奏一郎は今岐路に立たされている。

「奏一郎なら問題ないだろ? ボクらとも関係性があって、ゴドルフィンの面子も保てる……これ以上ない存在だと思うんだけど?」

ガレフの提案に、うーん……と、悩む奏一郎。

「わかったよ。引き受けよう……不本意だけど!」

不服そうにしながらも引き受ける奏一郎。ここが成長したところだろうか?

「じゃあ最後にぃ、パーティー名をぉ決めなくちゃねぇ」

エスタルトの申し出に再びビックリする奏一郎。

「え⁉ それは今まで通りで良いんじゃないの? ジェフリーの想いも込めてさぁ!」

焦りながら奏一郎は口にすると。

「これだけメンバーが変わったんだ! パーティー名も変えなきゃだろ?」

ゴドルフィンも賛同する。

「ええーい、わかったよ! わかったから‼」

そう言って納得はしてないが仕方ないといった感じで対応する。

「じゃあ、みんな候補出してよ! その中から決めるからさ」

奏一郎も半ばやけくそで丸投げしてやると。

「そりゃ、リーダーが考えるもんだろ? 俺たちに任せるなよ……真面目な話すると、俺たちにそんなセンスあると思うか?」

そんなこと言われたって奏一郎だってそんなセンスがあるかと言われると……正直自信なんてない……。

「なんでボクばっかり決めなきゃいけないの⁉」

理不尽な対応に奏一郎が愚痴を漏らすとゴドルフィンは言った。

「だってリーダーだからなあ。責任ある立場だしパーティー名くらいすんなり決めてくれないとなぁ……」

ゴドルフィンが悪びれる様子もなくそう話すと。

「じゃあ決めればいいんだね……。そうだなぁ…………聖痕……スティグマ……、中二っぽいけど『魔眼のスティグマ』とかどうかな?」

すると周囲から「おおおおぉぉぉっ!」という声が聞こえてくる。

「カッコイイ‼」

エスタルトが真っ先に言う。

「良い響きだな!」

ガレフも続く。

「さすがお兄ちゃん! 意味は分からないけど凄いよ‼」

彩花……それは褒めているのかい? 貶しているのかい?

「でもよう、魔なのに聖痕なのか?」

やはりゴドルフィンが突っ掛かる……何が不満だというのか⁉ 奏一郎に任せると言っていたのはゴドルフィンなのに否定するなんてひどい‼

「じゃあ、ゴドルフィンが決めてよ……ボクはセンスがないみたいだから‼」

さすがの奏一郎もイラっとしたのか、投げ槍になってゴドルフィンに任せる。

「俺か? うーん……ゴライアスの一撃とかどうだ」

見事なまでにセンスがない……こんなにもセンスがないとは思わなかった。

「ごめん……却下……。ゴライアスって何? 強いの? ボクが知ってる限りではゴライアスってカエルの名前なんだけど…………。逆に聞くけどカエルの一撃で良いの? みんなそれでいい?」

真面目な顔で聞くとみんな「カエルかぁ・・・」とか、「カエル嫌い‼」と彩花とエスタルトが言ったり酷い事になった。

「あのなぁ、ゴライアスってのは聖典に出てくる巨人の兵士の事なんだぞ‼ 俺がネーミングセンスがないみたいじゃねえか‼ まあ、ねえんだけどよ!」

みんなスンとした顔でカエルでしょ? カエルだよね? と言って回った。

「聖典の話でもカエルはダメ! 代替え案ある人? 無ければ『明けの明星』とかはどう? 星空に関係していて明け方に光を放つ星の事を指すんだ」

奏一郎の案に皆今度は納得いったように。

「おお! おお! 良いねえ⁉ 光を放つ星とかロマンがあるじゃないか」

ガレフが言う続いてエスタルトも言った。

「ロマンチック! カエルよりも全然いいよぉ‼」

当のカエル発言のゴドルフィンはというと。

「ま……まあ、なかなかいいじゃねえか。さすが新リーダーだな‼」

そうして俺たちの新しいギルド名が決まった。新しい門出として第一歩と言ったところだろうか……その夜からいつ出発するのか、どこに向かい、何をするのか。それを沢山話し合ったそれは夜通し掛けての事だった。

翌日は昼過ぎまで寝ていた……のんびり行こうじゃないかという方針が固まったので、ゆっくり寝ていても誰も文句は言わない。

出発は明後日の昼にした……暇を見て皆装備品や必要な回復アイテムなど調達に出掛けたりして過ごした。

夜になれば宿屋の食堂で楽しく過ごした……これも話し合いの結果楽しい旅をしよう! そして気楽にギルドの依頼を受け強くなっていこうということも決まったからだ。

そして出発当日……ジェフリーとリストが見送りに来てくれた。

「まあ、色々大変だろうが頑張ってな。間違っても無理はするんじゃないぞ。奏一郎は自分を犠牲にしやすい……だから自分のことを第一に考えるようにしろ⁉ それが長生きするための……生き残るための方法だ!」

ジェフリーは相変わらず熱い男だなぁ……そして心配性だ。そんな男が生き残れと言ってくれているのだ。これはもう生き残るしかないだろう。うんうん。

「この中の誰一人として欠けることのないように、頑張ってくるよ‼ みんながみんなを守り合っていけるようなパーティーにするんだ!」

足りないところはみんなで補い合う、お互いにそれをやっていければ必ずいいパーティーになるはずだ。理想を目指すことは悪い事ではない……目標が高すぎるとさすがに下方修正しなきゃだけど、いつまでも諦めなければそこに辿り着けるものだと思っている。そうじゃなきゃ、やってられない。

「この街に戻ってきたら必ず顔見せに来てよね。待ってるから!」

リストもそう言ってくれたし、必ず生きて戻らなきゃな……そしてできる事なら強くなって再会したいものである。

「リスト……お兄ちゃんがね、言い出したんだよ? どんなパーティーにしたいかとか……どんな旅をするのかって真面目なお兄ちゃんは嫌いじゃないけど、わたし笑っちゃった……ふふっ」

「そうなの? 奏一郎がそんなこと語っていたなんて……簡単に想像できちゃうわね⁉ 彩花ちゃんも元気でね。お兄ちゃんが泣き言言ったら彩花ちゃんがリードしてあげるのよ」

そう言ってクスクス笑い合う二人、女子同士のコミュニティというやつだろうか? 年齢の割には大人びた会話をする彩花。これもここまでリストやエスタルトと一緒に旅をしてきたからこその成長だろう。大人の女性と関わることで精神的にも成長できたのではなかろうか?

奏一郎もみんなと出会ってから精神的に成長していると思う……こちらの世界に来る前ならばリーダーなんて頼み込まれてもやらなかったと思う。そう考えるとこの世界は二人を大きく成長させてくれた世界だ……今や愛すべき世界と言っても過言ではない。

「うん! リスト、子供が出来たら教えてね⁉ 手紙は定期的に送るから‼ 子供が産まれたらまた会いに来るね。」

子供かぁ……ジェフリーって親バカになりそうだなぁ……と思ったが黙っておくことにする奏一郎。

「子供はどうかな? 簡単にできる人も居るし、そう簡単にはいかない人も居るのよ。特にアタシはエルフだしね。子供を身籠りにくい一族なのよ……」

せっかくのお別れムードに水を差してしまったがリストもそれほど気にしていないようだし、まあ俺たちの仲だこのくらいは許されるだろう。

「そうなんだぁ……種族によってそういうのがあるんだねえ」

感心するように彩花が言う。

「まあ、あれだ。そういうのは授かりものってやつだから、気長に待つさ……それで子供が出来なければそれまでってことだよ。相性が悪いってことなのか、どちらかに原因があるのかわからんが……原因を特定しても良いことは無いだろうからな」

ジェフリーらしい相手の事を考えた発言だ。

「俺たちの事はパトリックも残るから気にせずに旅立ってくれ」

そうやって言うジェフリーの顔には寂しさはなかった。すっかりもう覚悟はできていますよという感じだ。結構サバサバしたものである。

「じゃあそろそろ出発しようか?」

新リーダーの奏一郎が声を掛けると皆頷く。

これから新しいパーティーでの一ページが描かれていくんだと思うと、心がワクワクした。どんな物語になるのか、この世界を楽しもうという気持ちになれたのが大きかった。

元の世界に戻ろうという気持ちが無くなった訳ではない……決して帰ることを忘れてしまったわけではない。

もう少しだけこの世界を満喫してもいいのではないか? そう思えたのだ。それが全てを物語っている……確かに苦しい想いも痛い想いもしたが、得たものはそれ以上に大きいのだ。

こうして『明けの明星』としての旅が始まる。

どんな旅路になるのか、どんなことが起こったのかは。

それはまたいつか別のお話で。


~FIN~


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