番犬、願い。
ペペルの街にある枯れた温泉を戻しに行くことになった私とラトさん。
本当だったら腰を据えて、ラトさんの呪いを解呪する為に歌いたかったんだけど‥。呪いに効く温泉もあるっていうし、そっちのが確実かな?と思った私は悪くない‥と、思う。
早速明日には来て欲しいとのことで、私とラトさんは大慌てで準備をした。
引き受けたからには頑張らないと‥、そう思うけど不安がずっしりと頭に乗っかってくる。
と、お風呂から上がってきたであろうラトさんが、髪を拭きつつワクワクした顔で寝室に入ってきた。
‥うん、今更ながらにラトさんとよく私は寝室が一緒で平気だったな。
不意に冷静になってスンとした顔をしていると、ラトさんはどうしたのかな?って顔をしつつ、私のすぐ隣のベッドに腰掛けると、手を差し出すので手を握る。
「お守りを作った」
「お守り?」
「これを‥」
ラトさんは私に紐のネックレスを渡すけれど、その先には小さな白い巾着がついていて、よく見るとほのかに光っている?
「これ‥もしかして中に光る小石が入ってます?」
「ああ、以前拾った石だ。願いを掛けた」
「願い?」
そういえば願いを一つだけ叶えられるって言ってことを思い出して、巾着をもう一度見つめると、ラトさんは照れ臭そうにはにかんで、
「俺の願いでは少し心配だが、スズの願いが叶うようにと願っておいた」
「へ?」
「奇跡は起きると思ってるから、それならスズの願いが叶うようにと願った方がいいかな?と‥」
自分の呪いが解ける‥とかを願わなかったの?
じわりとラトさんの優しさに胸の中が暖かくなる。‥本当になんでこの番犬はこんなに優しいのだ。自分の為に願いを叶えればいいのに。
思わずほろっと涙が出ると、ラトさんが慌てて私の手をギュッと握る。
「だ、ダメだったか?」
「違います‥、ラトさんが優しいからです」
「優しいと、泣く‥?」
「嬉しいのと、なんでそこまでしてくれるのかなって‥」
「‥スズが、‥‥‥優しいから、だ」
「それ、絶対ラトさんだと思いますよ」
涙を拭いてラトさんに笑いかけると、ラトさんは笑い返してくれたけど、その笑みはどこか寂しそうで‥。思わずラトさんの頭に手を伸ばして、そっと撫でた。
「ありがとうございます。ラトさん」
「あ、ああ‥」
不意に口から「好きですよ」って出てきそうになって、慌てて口を噤む。
でも、言っちゃったらこの関係が終わってしまいそうで怖い。このどこかポカポカとした暖かい関係をずっと続けていきたいと思ってしまう私は完全に守りに入ってるのかもしれない。
ラトさんから手を離して、プレゼントされたネックレスを早速首に下げると、ラトさんは嬉しそうにふにゃっと笑う。ああもぉ!!この番犬の可愛さよ!!胸がぎゅうぎゅうに苦しくなる。なにか!何かラトさんにお返したいけど、明日出発しちゃうし、何ができるかな?
ラトさんを見て、ふと閃いた。
「ラトさん、ちょっと目を瞑って下さい」
「目?」
「絶対開けちゃダメですよ?いいって言うまで目を開けちゃダメですよ?」
「わ、わかった」
私の言葉に何をするんだろうと、ちょっと戸惑いつつも言われるままに目を瞑るラトさんに小さく笑う。こういう所も可愛いなぁ。ちょっとラトさんの方へ体を寄せ、目を瞑っているラトさんの顔をまじまじと見つめる。
ええい!この間の仕返しだ!
そう心の中で言って、ラトさんのおでこにキスをすると、ラトさんの体がビクッと跳ねた。あ、これはなかなか面白いぞ?もう一回、おまけでキスをしたけれど、ラトさんは「目を開けてはいけない」という言いつけを守ってくれているのか、目を開けていない。けど、もう明らかに動揺しているのか、
「わ、ワウ!?」
「まだ、ダメですよ」
サッと離れてベッドに潜ってから、
「ラトさん、もう目を開けていいですよ」
ラトさんはぱちっと目を開けたかと思うと、私に何かを訴えて「わ、ワウ!ワウ??!」と鳴いて手を差し出すけれど‥、いつも私を嬉しくさせたり、驚かせたり、ドキドキさせられるんだもん。たまにはいいでしょ、こんな仕返しも。
布団の中から顔を出して、
「一応、お守りのお礼なんですけど‥、ダメでしたかね?」
まぁおでこにキスする相手が私では、粗品レベルだろうけど。
あと不快に感じてたら、それはそれで申し訳ないな‥と、今更ながらに気付いてそうラトさんに聞くと、ちょっと赤い顔で勢いよく首を横に振った。そうして、私を見て「キュウ‥」って鳴いたんだけど、それは一体どんな感情?
小さく吹き出して、そっと手を差し出すとラトさんがすかさず私の手を握って、
「‥もう一回」
「いえ、あのそのサービスは終了でして?」
「‥そんな。じゃあ、手を繋いで寝たい」
「さらっと代替え案を入れましたね」
キスじゃなければいいや。
そう思って、手を握り返すとラトさんは嬉しそうに、でもどこかやっぱり切なそうに微笑んで私の手を握り返した。