番犬、呪いの理由。
ラトさんと夕飯を食べて、買ってきたお菓子でお茶をした。
あっという間にここは暗くなってしまうから、魔石を使って灯りをつけるけど‥なにせ貧しい我が家。キャンドルを灯して誤魔化した。
「いや〜、あんまりお金もなくて夜になるとこんな感じですみません」
「ワウ‥」
まるで気にするなとばかりにラトさんが首を横に振る。
うん、大分わかってきたぞ。
「あ、ラトさん。お菓子はこれがオススメです!いろいろなフレーバーがあるんです!神殿ではこんなお菓子食べられなかったから、嬉しくて!こっちへ来てからこういうお菓子を買うのが楽しくて仕方ないんですよね〜」
ふふっと笑って、前世でよく見た色とりどりのグミのようなお菓子を指差すと、ラトさんは目を丸くする。
「ワウ?」
「あ、食べてなかったの?って顔してますね。そうなんです。果物は頂いてもお菓子なんかは神官さん達に「俗世にまみれては困るから」って言われてお菓子を食べさせて貰えなかったんです。たまーーーーーーに他の神殿に歌いに行った時にちょこっとお菓子を頂くけど、それも本当にちょっとで‥。いやぁ〜あの時は泣きましたね‥」
なまじ前世の記憶があるからお菓子が恋しくて‥。
果物を仲間と食べながら「今、チョコ食べてるー!」「私プリンー!」なんて言ってたなぁ‥。うん、今は貧乏だけど好きなお菓子を食べられるし幸せだ。そう思いながらグミをもぐもぐと食べると、ラトさんは私の方へずいっとお菓子を差し出す。
「ラトさん?こっちはラトさんに‥」
「ワウ」
「いやいや、今はちゃんと食べてますから心配しないで下さいって」
「ワウ‥」
ラトさんはそれなら‥と、自分のお皿から私の方へ少し多めに分けてくれた。‥お、大型犬!!優しいなぁ‥と思うけど、そもそも守護騎士は人の為、神殿の為に働く精神の人だもんね。そりゃ優しいか。
「ありがとうございます‥。じゃあ、私からはこっちをプレゼントします」
「ワウ‥」
私のお皿から違うお菓子をラトさんに差し出すと、「それでは意味がない」って顔をするけど、言ったじゃん‥歓迎会的なお茶だって。少しは歓迎されてくれ。ラトさんは納得してない顔をしつつも、差し出したお菓子を食べてくれた。
「ふふ、一人よりやっぱり二人で食べるとまた美味しいですね」
今までずっと乙女仲間と一緒に過ごしていたから、やっぱり寂しかった。それに一人の生活は色々無我夢中で生きていく為に必死だったけれど、ようやくここに来てホッと一息入れられた気がする。感慨深い思いでお菓子を口に入れて、もぐもぐと噛み締めていると、ラトさんが私をジッと見つめる。
「ラトさん?」
板切れにチョークでササッと書いて私に見せてくれる。
『俺も美味しい』
その一言が目に入った途端、じんわりと胸が暖かくなる。
うん‥、番犬を募集したはずがまさかの人間だったけど、こんな風に言葉にしてくれるとやっぱり嬉しい。大型犬だと思い込むことにしているけれど、こういう時は人間‥でいいよね?
ラトさんを見上げると、ちょっと照れ臭そうに板切れと私を交互に見ている。
「‥ラトさん、来てくれて嬉しいです。これからよろしくお願いしますね」
私もちょっと照れくさいけど、ラトさんと一緒の生活ならなんとかなりそうだと思って、そう話すとラトさんはグッと口をひき結んでコクコクと頷いてくれた。へへ、なんか可愛いなぁ。
「犬の呪いかぁ‥。しかし不思議な呪いをかけられましたね」
「ワウ?」
「だって王族を狙ったんですよね?呪いってもっと怖いの沢山あるじゃないですか」
ラトさんはちょっと考え込むと、板切れにチョークでまた何か書いてみせてくれた。
『呪いは神殿で弾かれる』
「え?そうだったんですか?あれ、でもなんで神殿に?」
コクッとラトさんは頷いて、また板切れに続きを書く。
『そこは調査中だ』
「そうなんですね‥。でもなんで犬になる呪いなんだろ?」
『姫君は獣人の国に輿入れが決まっていたが、そこの王は狐の獣人だ』
「あ、だから犬!??」
『恐らく』
確か獣人族でも狐と犬は仲良くないっていうもんね‥。
なんという嫌な呪いだ‥。私がうんざりした顔をするとラトさんが小さく笑う。
『俺で良かった』
と、板切れに書くけれど‥、そんな身代わりになるなんて誰だって嫌だ。
私はむすっとして、
「ラトさんでも嫌ですよ‥。全く呪った人達め‥」
「ワウ‥」
ちょっと嬉しそうに微笑むラトさん。
あの、私は怒ってるんですよ?もしかして怒ってくれる人もいなかったの?そう思ったらますます腹立たしくなってきて、ラトさんのお皿にお菓子をまた盛ってやった。とりあえず食べて、少しはスッキリしよう!あ、でもそれって私だけか?