番犬、依頼が飛び込む。
ラトさんとの星拾いで、額にキスされたのをガッツリ村の人に見られていたそうで‥。
あれから2週間。
どうしても買い物に行かなければいけない時にササッと隠れるように買い物に行ったけど、皆なにも言わないけど生暖かい瞳で見つめてくるので、地面にダイブしてのたうち回りたくなったのはいうまでもない。
「う、うう、どんどん恥ずかしい思い出ばかりが更新されていく‥」
今朝も早くから、祠の歌の神様を綺麗に磨き上げるけれど‥。
歌の神様、ポンコツという表現だけでは済まなくなっている私をどうぞお許しを!!そう思いつつ、磨く手に力が入る。と、ふんわりとどこかから暖かい風が吹いてくる。
ふっと後ろを向くと、最近まで茶色の葉っぱも付いてなかった枝の先に、ほんのりと白い蕾と薄緑の葉が見える。
「そっか‥。もうそろそろ春かあ」
春もすぐそこ‥と、いう事は春の祭りももうすぐそこだ。
嗚呼、気が重い。なんて思ってしまう罪深い私を神様、どうぞお許しください。
幸い、まだお姫様の輿入れの話は聞いてないけど、どうなったのかな‥。
ラトさんの呪いを解く方法もまだ見つかってないのか、忙しいのかマキアさんも来ないし‥。って、そうだ歌!!!パトの神殿から帰ったら歌うって言ってたのに!私ってば、バタバタ続きですっかり頭から抜けている!!!
「こうしちゃいられない!!ラトさんの為に歌って歌いまくらないと!!」
慌てて早朝の見回りに行っているであろうラトさんを探そうと後ろを振り返ると、家の向こうの道からガラガラと馬車が一台こちらへ向かってくる。
‥なんだろう。
すごく嫌な予感がする。
とてつもなく嫌な予感がするぞ?
思わず握りしめていた雑巾をますますギュッと握りしめると、馬車からニーナさんがひょっこりとものすごいいい笑顔で顔を出した。絶対これはまずい。核心に変わったけれどニーナさんは相変わらずいい笑顔のまま、馬車から降りてくる。
本日は春を感じさせる薄い桃色のワンピースを着ているけれど、胸元がっつり開いてる。毎回それをどこで買ってくるんだろ‥。
「やっほー!スズ、いい仕事持ってきたよ〜!!」
「それ、多分絶対頼んでないやつだと思います!!」
「え、そうなの?温泉に入れて、楽しい仕事だよ?」
「温泉?!」
思わず前世は日本人、温泉のワードに食いつくとニーナさんはニンマリ笑って、
「うちの村から片道30分くらいの所にペペルの街ってあるでしょ?あそこさ、温泉の街なんだよね。なのにそこの温泉が急に止まっちゃったんだって。しかも源泉まで調査しに行こうとすると濃霧になって入れない上に、その周辺を魔物もうろついてるらしくてねぇ」
「は、はぁ‥」
「正式にポワノ村の村長さんにスズへの依頼が届くらしいけど」
「ちょっと待って??!それって実質決定してません?!」
「うん!だから早めに連絡しに来た!」
な、なんで??!
しかもそんな私の歌でどうにかなるって問題じゃないぞ!?
と、ハタッと気が付いた。
「待って下さい。ペペルっていえば、ちょっと奥に神殿がありませんでした?」
「あ、そこにも依頼したんだけど、素気無く断られちゃったんだって」
「そんな事ってある??!」
普通は、近隣の神殿が対応するのになんで?
そう思っていると、馬に乗った村長さんが慌ててこちらへやってくると、ニーナさんを見て眉を下げる。
「‥もしかして、もう聞いちゃいました?」
「あ、はい。たった今‥」
「すみません、あんまり安請け合いをしたらスズさんの負担が増えると思ってお断りしようと思ったんですけど、ほら、パトの帰りにニーナさんお酒を飲んで帰った時に、ペペルの村長さんの馬車に派手にぶつかったらしくて、断りづらくて‥」
はぁあああああ!??
ニーナさんを勢いよく見ると、「てへっ!」って笑うけど誤魔化せてない。ちっとも誤魔化せてない。
「でもさ、ペペルの温泉に「呪い」に効くって効能もあるし、いい話だと思うんだよね」
「そうなんですか!?」
呪いに効く‥。
どの温泉か行ってみないとわからないけど、私の歌よりは確実かもしれない。と、見回りから戻ったラトさんが村長さんとニーナさんに囲まれている私を見て、こちらへ何事かと慌てて駆け寄ってくる。
ラトさんのさっと手を握ると、ニーナさんはニンマリ笑って、
「喜べ番犬ちゃん、仕事の依頼だ」
そういうとラトさんは驚いて目を丸くするけれど、えーとまずお茶でも飲みながらゆっくり聞こうか。




