番犬、星の下で甘える。
それからラトさんと二人で交互に石を拾い、籠いっぱい!と言われた量を取って、ちょっと休憩である。
木の下に行くと、風も吹いてこないし、なんだか暖かい。
二人で木の根元に座って、水筒に入れてきた暖かいお茶を飲むと、思いのほか冷えていた体に染み渡る。
「美味しい〜〜」
「そうだな、スズのお茶は美味しい」
「いやいやラトさん、ただのお茶。お茶ですからね?」
「そうか?」
そう言いつつ、ラトさんは嬉しそうに私の手を握りつつ微笑んでくれる。
くわ〜〜〜!!誰か〜〜、このイケメンの微笑みの強さをどうにかしてくれ!私の心臓が絶対、間違いなく破れる3秒前!慌てて目を逸らして、バケツに入った光る石を見つめる。
「‥この光る石、うちにもいくつか持って帰りましょうか」
「そうだな。今日の記念に持って帰ろう」
「記念、まぁ確かに‥。こんな機会、ラトさんがいなければ取れなかったろうし」
なにせこんな夜に一人で外へ行って、池から拾ってくるなどちょっと無理である。そもそも怖いし。ラトさんは私の言葉に嬉しそうに微笑むと、
「次の祭りは春だな」
「う、うう、なぜ思い出させるんですかぁ!!」
「春祭りは、街や村に花を飾ってお祝いするだろう?きっと綺麗だ」
「確かにちょっとワクワクするお祭りですね‥」
「花に包まれたスズもきっと綺麗だ」
ニコッと微笑むラトさんに、私は一瞬何を言われたか理解できず、体が固まり‥、次の瞬間「綺麗だ」と言われた事に気が付いて、真っ赤になった。この番犬、罪深き生き物では?
「な、な、な‥」
「冬祭りの時も綺麗だった。髪飾りをまた作ろう」
「ちょーーい!!!!!!何サラッとまた作ろうとしてるんですか!あんな素晴らしい物は、一つだけで十分ですよ!?」
「だが、ドレスは贈れないから‥」
「大丈夫!ラトさんの髪飾り、終生大事にするから!!」
だから大事にして、現金!!
力強くラトさんの手を握って、そう話すとラトさんはちょっと目を見開いてから、可笑しそうに笑う。
「‥スズは、控えめなんだな」
「控えめっていうか、十分過ぎるくらいの物を頂いておいて、あれもこれもなんて言えませんよ」
「言っていいぞ?」
「ラトさん?骨やボールじゃないんですよ?」
「‥犬ではないぞ?」
「番犬ちゃん、言うことを聞いて下さい」
私の言葉にラトさんが吹き出す。
あ、なんだよ、自分で番犬って言うくせに私が言うとなんで笑うかな?
ラトさんがそっと空いている手で私の頬に触れて、あれ?と思って顔を上げる。何か顔に付いてた?ラトさんの瞳を見ると、星のように光る小石に照らされて、青灰色の瞳が不思議な色彩に変わっている。
「ラトさん?」
ラトさんが、私の言葉にまるで誘われるように、
顔を近づける。
え、
なに??
驚いて目を見開いてしまう私にラトさんが小さく笑って、頰を撫でる。
「‥ご主人、甘えたいんだが?」
「あ、あ、甘え???」
「犬は、甘えたい時は舐めるけれど‥」
「待って!?人間!人間だから!!」
「‥じゃあ、キス、か?」
「きっ!???」
な、何を言ってるの??
甘えたいのはわかったのけど、なんでそれでキスになる!??
ダメでしょ?好きでもない間で、そういうのはどうかと思うよ??目をウロウロさせてどう言えばいいか悩んでいると、
「額には?」
「お、おでこ??そ、それなら?」
いや、ちょっと待て。
おでこもどうかと?
そう思ったのに、ラトさんは言質を取ったばかりに顔を寄せると、チュッと音を立ててキスをして、私はあまりの衝撃に目を見開いた。
き、キスされた。
額だけど‥。
甘えたいって、言われて‥。
目を見開いたままラトさんをまじまじと見つめると、ちょっと眉を下げて、
「‥嫌、だったか?」
「‥その聞き方はだからずるいですって!び、びっくりしただけです」
「そうか」
ラトさんは嬉しそうに笑って、私を見つめた。
だけどもね??それ絶対誤解するからやめてくれ!これって、好意からくるものなの?それとも犬の特性が強いから?どっちにしろ、私にはわからない。だって、何もその辺言ってくれないし。
こんな男性にまったく耐性のない乙女の心を豪快に乱してくれて、どうしてくれよう。
「本当にもう‥、とんでもない番犬です」
思わず呟いた私に、ラトさんが可笑しそうにクスクス笑って、
「ご主人、もう一度」
と、囁くので「絶対ダメ!!!」と宣告した。
だって私の心臓、もうこれ以上保てる自信がないんだもん。




