番犬、伝えたい。
大変小っ恥ずかしいやり取りをしたけれど、家に帰るといつものラトさんだったのでホッと安心したのはここだけの話だ。ちなみに私の心臓がなんとか破けなかった事を歌の神様に感謝したのはいうまでもない。
早速帰ってから、ラトさんは網の手直しと、
私は頼まれた薬作り、畑の手入れに、掃除やら家事や祠の掃除と‥、うん、忙しい。普通に忙しい日常に戻ってきたな。なんだかあのパトの神殿での出来事が夢のよう‥っていうか、そう思いたい。
なにせリアナ姫が、今回の事件が解決したら輿入れ‥、そして祝福の歌。
ああああああああ!!!やめ、やめ!!考えない!考えないぞ!!
そんな恐ろしい事、絶対考えないぞ!私は首をブンブンと横に振って、作った薬を袋詰めして籠に仕舞った。
「ワン」
「あ、ラトさん、網完成しました?」
後ろを振り返ると、ラトさんが柄を長くした網を持ってやってくる。
おお、流石。これなら深い場所にある石でも取れそうだな。
網を感心したように見ると、ラトさんが私の方へちょっと体を傾けてくる。
「ラトさん?」
「キュウ‥」
「‥もしかして、頭を撫でられたいなぁ〜とか思ってます?」
「ワン!」
嬉しそうに微笑むラトさん。
歌の神様、申し訳ありません。神殿を守る守護騎士にこんな事をさせてしまって‥。どこか遠くを見つめつつ、好きな人にこんな事をさせていいのだろうか?と、思いつつ私はそっとラトさんの濃い茶色の髪に手をそっと伸ばして撫でた。
柔らかい髪だなぁ。
どこか検討外れな感想を心の中で呟きつつ、何度か優しく髪を撫でると、ラトさんが視線だけ私に向けると、ふにゃっと笑うから息が止まるかと思った。本当にこの番犬め、その笑顔に弱いのわかってない?慌てて手を離し、
「お、おしまいです!私の仕事も終わったんで、これで明日は心置きなく石拾い三昧です!」
寿司じゃないんだから。
そう思うけど、恥ずかしくてラトさんのそばにいるのが大変なので、慌ててキッチンへ向かうと、当然のようにラトさんも後ろからついてくる。守護騎士、番犬めっちゃ上手だな‥。
ちょっと後ろを振り返って、
「ラトさん、椅子にお座りしてて下さい」
そういうと、ラトさんは目を丸くして私を見る。
「ずーっと働いているのも良くないんですよ?明日は夜出かけるんだから、ちゃんと休むのも大事です!っていうか、ご主人の言う事を聞いて、今日はそこで夕飯ができるまで休んで下さい」
「‥ワウ」
「ちゃんとここにいますから‥」
そんなどっかに行っちゃわない?みたいな目をされても。
この小さな家のどこに私が隠れる場所があるんだ。ラトさん、手を離してたら犬の特性が強いんでしょ?すぐ見つけられるじゃないか。でも、確かに犬って甘えん坊なイメージあるなぁ。常にどこ行くの?って目でじっと見てる‥、まんまラトさんだな。
小さく吹き出すと、ラトさんが不思議そうな顔をするので、
「上手に休めたら、頭を撫でますよ」
ラトさんは目を見開くと、ささっと椅子に座ってそわそわした目で私を見るので、ついに本格的に吹き出してしまった。
「ま、まだですよ?あはは、ラトさん気が早い!」
クスクスと笑うと、ラトさんは私の顔をじっと見つめている。
え、何かおかしいとこあった?
「ワン」
「いや、何か言いたい事があるなら、手を‥」
「ワウ‥」
「ラトさーん?」
手をそっと差し出すけれど、ラトさんはその手を握らない。
でも、私をじっと見上げて、
「ワン」
って、どこか切なそうに鳴くから、思わず撫でてしまった。
‥しまった。早速ご褒美を与えてしまった?
ラトさんは嬉しそうに微笑んでくれたけど、あーあ、これで好きって言っても断られたら、私は絶対犬を飼おう。そうして、ラトさんって名付けよう。そんな事を考えつつ、夕飯を作り始めるのだった。




