番犬、手を絡める。
ニーナさんに頼まれた星拾い。
昔はロウソクを買うのもお金がなかった時代、なぜか冬の一定の時期になると水底に沈んでいる石が光るのを発見して、それを日光に当てて、夜は灯りがわりに使っていた時代があったそうな。
早速石を取りに行こう!という話をすると、ニーナさんに村の側の池で、光る石があると教えられ、早速村から帰る途中寄ってみた。以前は魔物が出た池も、今や寒さの為か息を潜めるように静かだ。まだ昼間だし、流石に池の底を見ても光っているのを確認できない。
「やっぱり夜じゃないとわからないですね」
「明日の夕方頃にまた来てみよう」
「それにしても、「星拾い」なんて素敵な呼び方ですね」
「昔は、「冬の恵み」と呼んでいたそうだ」
「確かにただでさえ寒いうえに、すぐ日が陰っちゃう中、光る石があれば有り難いですもんね」
池の底を見ながらそう話すと、ラトさんが小さく微笑みつつ頷く。
「明日、楽しみだ」
「そうですね!私、初めて見るのでちょっとワクワクしてます!どんな風に光るのかなぁ〜。あ、網!網を用意しておいた方がいいですよね?」
「家にあった網だと長さが足りないから、帰ったら柄の部分を長くしておこう」
「流石、ラトさん頼りになる!」
ぱっぱとそういう発想がでるのすごいなぁ。
ラトさんは私の言葉に嬉しそうに目尻を下げる。
「‥そうか?」
「そうですよ、私だと現地に行ってから、「あ、これがなかった」「これも足りなかった!」ってなっちゃいます。確実に」
それでなんとかしようと思って、棒とか池に突っ込んで、つまづいて落っこちちゃうまでの流れが自分で見えるんだわ〜。神殿でもよくドジをやらかしてたからね?だからポンコツって思ってるんですけど。
と、ラトさんが私の手をギュッと握って、
「大丈夫、一緒なら助け合える」
「‥確かに、ラトさんと一緒なら大丈夫だと思います」
「!そうか‥」
私の言葉にラトさんはちょっと驚いて、でもますます嬉しそうに笑うから、私の心臓がドコドコと鳴って大変なことになっている。ちょっと待って?そのイケメンスマイルどうにかして!!
慌てて目を逸らして、
「あ、明日は、早めに夕飯作りましょう」
「手伝う」
「それは助かります。あ、そうだ薬も注文受けたし、それも作っておかないと」
「それも手伝う」
「‥ラトさん、先日ご活躍したのを忘れたんですか?少しは休むとか‥」
「ご主人に褒められたいからな」
ご主人?!
ものすごいワードに目を丸くして、ラトさんを見上げると、口元に手を当てておかしそうに笑っている。
「スズの「番犬」なんだろう?なら、一緒にいないとな」
「なっ!!!!な、な‥」
瞬間、顔が真っ赤になる。
いや、言っちゃったよ?確かにお姫様に「私の番犬」って言っちゃったけどさ!
それをラトさんに言われると、私の中の羞恥心とか、恥じらいとか、恋心みたいなのが暴れちゃうからやめて!!口をパクパクさせつつ、何を言い返せない自分に、「あの時もっと他に言いようがあったろう!!」って突っ込むけど、時間は巻き戻せない。ガッデム。
赤い顔のまま、ジロッとラトさんを睨んで、
「‥そりゃ、そう、ですけど。あまりそう強調しないで頂けると‥」
「何故?」
「恥ずかしいからですよ!!」
「俺が番犬だと嫌か?」
「‥そういう言い方はずるいですよ。嫌な訳ないじゃないですか。‥いて欲しいと思ったから、言っちゃったわけで‥」
っだぁああああああ!!!!
なんかこれ、もう「好き」って同義語になってない??
大丈夫??バレてないかな?
最後の方の言葉は尻すぼみになってたはず!ラトさん聞いてませんように!
そう願いつつ、私は家までの道のりを真っ直ぐ見つめて歩いていく。だって、横を見てもしラトさんと目が合ったら、きっと真っ赤になってしまう。聡いラトさんの事だから「好き」って伝わってしまう。
でもそれは、「呪い」が解けるまで封印!って決めたから。
私は真っ直ぐ前を見つめて、ラトさんと手を繋いで歩いていく。
‥と、ラトさんの手がちょっと離れたかと思うと、私の指にラトさんの指が絡むように繋がれて、結局顔が真っ赤になった。だけど、見ないぞ、ラトさんの方を見ないぞ!そう思いつつ、そっとその手を握り返した。




