番犬、村に戻る
ラトさんと村にようやく帰った。
家の前まで送ってくれたマキアさんにお礼を言うと、申し訳なさそうに私とラトさんを見つめ、
「ヴェラートの呪いだけはどうにもできなくて‥」
「マキアさん、本当にいい人ですねぇ」
「あと乙女達から、顔の良い守護騎士を紹介しろって言われたんですけど‥どうすればいいですかね?」
「あ、それは無視していいです」
乙女達よ。人のいいマキアさんに何を頼んでいるんだ。何を。
私は乙女を代表して謝るけれど、神官長に手紙を一筆書くべきかもしれない。
「マキアさん、お茶でも飲んで行きません?」
「有り難いお申し出なんですけど、団長にもヴェラートのことを報告しないといけないのと、今後どうするかを相談しないといけないので‥」
あ、そうか。
事件は一応解決したけれど、ラトさんのはまだ未解決だ。
仕事のこともあるし、いくら歌の神様が番犬のラトさんは私のって言っても、課題は山積みだもんね。しかし、そんなラトさんは清々しい顔をして、
「有給を消化するから大丈夫だ」
「ヴェラート!!??そういう事じゃないからな??!」
「‥そうですよ、ラトさん。呪いについては問題大有りです」
「心配してくれるのか?」
「逆にいつ犬になっちゃうかわからない人をなんで心配しないんですか?」
ラトさんは私の答えに嬉しそうに微笑むけれど、ラトさん、気が付いて。まだまだ自分が危うい立場だってことを。マキアさんはしみじみとため息を吐き、私を見つめ、
「‥本当に、こんな奴ですけどよろしくお願いします‥」
「あ、いえいえ。こちらこそ?」
どんな返事をするのかベストかわからないけれど、そう答えるとマキアさんは心配そうな顔をして、馬車に乗り込むと今度はベタルへ向かっていった‥。
そうして、ようやく辺りが静かになると、ラトさんが私の手をギュッと握る。
「帰ってきたな」
「そうですね。お帰りなさい?」
「‥ただいま。スズもお帰り」
「えーと、ただいま‥です」
どこか甘い顔をして私を見つめるラトさんに、帰りがけに頬にキスをされたのを思い出して、思わず顔が赤くなる。ま、まったく、あれから馬車での時間が恥ずかしくて大変だったんだぞ?
しかしそんなこと全く気にしない守護騎士ラトさん。
ニコニコと嬉しそうに私に微笑みかける。ある意味心臓強いな。
「こちらの神にも帰った報告をするべきか?」
「あ、そうですね!無事に戻ってこれたし‥。流石神殿の守護騎士さんですね」
私の言葉にラトさんは目を輝かせ、キラキラとした瞳で私を見つめるけれど‥、この大型犬ときたら‥、人の心の柔らかい場所をすぐに締め付けてくるな。
つい撫でてしまいたくなる衝動を堪えて、荷物を家の中に置いてから歌の神様のある祠にパンと音を立てて手を合わせる。
「歌の神様、無事に村へと帰ることができまして、ありがとうございます!事件も解決して良かったんですが、ラトさん!ラトさんの呪いだけはまだ未解決なので、そこの所早急になんとかして下さい!‥あと祝福の歌はとてもとても無理だと思うので、どうか他に良い人材がおりましたら、ぜひそちらで‥」
後半は切なる願いになったけど、まぁ感謝もしたしオールオッケーかな?
そんな感じで感謝を終えて顔をあげると、ラトさんがちょっと俯いて肩を震わせている。あ、ちょっと?こっちは祝福の歌をリアナ姫に頼まれて、切実に悩んでるんですよ?
じとっとラトさんを睨むと、可笑しそうに笑いつつ私を見るので、翻訳アプリは手を差し出すと、ラトさんがギュッと私の手を握った。
「スズの歌ならきっと大丈夫だ」
「いや、無理ですって!!祝福の歌なんて‥うう、胃が!!」
「大丈夫、そばにいる」
だから、そんな勘違いしちゃうような発言やめてくれ。
じとっと赤い顔でラトさんを睨むと、ラトさんも何故か赤い顔になる。
‥ん?なんでラトさんも赤くなるの?もしかして熱とかあるのかな?空いた手を伸ばして、ラトさんの額に触れようとすると、
「あー!!スズ!前に捨てた男とまたいる!??」
「二股?二股だったのか??」
「スズ、節度ある交際って大事だぞ」
「っへ?」
後ろを振り返ると、ルノさんとルノさん家の子供達が目を丸くして私達を見てる。
そうでしたーー!ここを出る時はラトさんはリトさんでした!!
「い、いや、これは違くて‥」
慌ててルノさん達にそう話すと、ルノさんは私とラトさんを見て、
「もしかして‥ただの喧嘩別れだったのか?」
「っへ?え、いや、まぁ、喧嘩はしてないというか‥」
「スズ、お前素直に謝っておけ」
「なんで私が悪い事になってるんですか!!」
歌の神様の前で叫んだけど、結局私が謝らなかったせいで出てったって展開になって、ラトさんは無事村に迎え入れられたけど‥。乙女、複雑すぎる‥。
ルノさんなんだかんだ言ってますけど、留守中はスズの家を
見回りしてくれたり、手直ししてくれてます。
結構いいやつです。




