表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/164

番犬、期待する。


私が乙女達と寝ている部屋にいなかったので、慌てて探しにきてくれたラトさん。ものすごい勢いで私の側へくると、電光石火のように手を繋ぎ、ディオ様から隠すようにラトさんは自分の背中に隠した。番犬、動きが早い‥。



「‥ラトさん、おはようございます」

「‥‥おはよう」

「えーと、大丈夫ですよ?」

「‥‥そうか」



全く納得してない顔で私をちょっと拗ねた目で見つめるラトさん。

ごめんよ、やっぱり待ってあげれば良かったな。

と、そんな私とラトさんをディオ様が可笑しそうに笑うと、


「丁度歌の神にお祈りに行く所だったんです。ヴェラート様もご一緒しますか?」

「当然だ」


きっぱりと言い切ると、私の方を見つめてキリッとした顔をする。

‥なんだこの可愛い大型犬は。

って、違う違う。守護騎士だし好きな人‥なんだけど、どうも私はラトさんを前にすると頭の中がバグってしまうようだ。



「じゃあ、一緒に行きましょう」

「ああ!」



嬉しそうに微笑まれて、朝から心の中が大変むず痒くなったけれど、尻尾をブンブンと振って喜んでいる大型犬にしか見えない。おっかしいなぁ。


気を取り直して歌の神様の所へ一緒に向かおうとすると、後ろからザワザワと声がして、振り返ると乙女達がマキアさんと腕を組んでやってきた。



っていうかマキアさん顔真っ赤だし、神官の爺ちゃんが遠くを見つめてる‥。

‥おいおい、朝から何をしてるんだ。



「ヴェラート様、ディオ様おはようございます!」

「スズ起こしてよねー!」

「マキアさん、ヴェラート様がどこかへ走って行くから慌ててたよ」

「全くこのイケメンホイホイが」


「なんだそのホイホイって‥」



そんな呼び名があるか。

しかしヴェラートさんは私の番犬なんて言ってしまった手前、反論もできず‥。私は遠くを見つめるほかなかった。ディオ様はクスクスと笑いながら私達を見回す。


「‥ベタルの神殿の乙女達は、やはり明るくて楽しいですね」

「そ、そう言って頂けると??」

「今度は春の祭りの時に、ぜひまた皆さんいらして下さい」

「っへ?」


春の祭り?

私達はディオ様を見上げると、ちょっと照れ臭そうに微笑む。



「その時には、必ず歌の神に恥じないような神殿として皆さんをお迎えしたいので」



皆、その言葉を聞いて思わず言葉が詰まる。


今回の事件で、私を利用してでもどうにかしようと思っていたディオ様。

多分、神殿の中も色々あったろうし、それをまた元通りにする為大変な道のりになるだろう‥。それでも私達はその言葉が嬉しくて‥。と、神官の爺ちゃんが咳払いして、ディオ様に柔らかく微笑む。



「ベタルの歌の乙女の名に恥じぬよう、素晴らしい歌を聴かせましょう」



今まで静かにしていた神官の爺ちゃんに、わっと乙女達が抱きついて、


「爺ちゃんかっこいい〜!」

「やっぱ年寄りは重みが違うなぁ!」

「スズ、また一緒に歌おうね!」

「今度は面白い奇跡だといいね!」


って口々に言うけど、神官の爺ちゃん離してあげて。

真っ赤な顔で照れているから‥。

と、ラトさんが私をチラチラと見て、なんていうか「抱きついて欲しいなぁ〜〜」みたいな顔をしてるけど、なんでやねん。恥ずかしいし、そもそもしませんって。


「ラトさん、その時はまたお願いしますね」

「‥ああ!」


ラトさんは私の言葉に目を輝かせたが、まだそわそわしてるので、手をぎゅっと握っておいた。よしよし、ちょっと落ち着こうね。



そうして、せっかくだからと皆でお祈りをして‥、

それからはあっという間だった。



それぞれ身支度をして、神殿の前に送ってくれる馬車へ乗り込む‥んだけど、乙女達は私を順番に抱きしめると、


「また今度ね!」

「祝福の歌、めっちゃ難しいから!」

「音程と歌詞、要チェックね!」

「とにかく練習に励め!!」


「う、うううううううう!!!!胃が痛い!!!!」


やめてぇえええ!!

胃がキリキリするからぁああ!!!

ぶすっと涙目で皆を睨むと、乙女達はニンマリ笑ってラトさんを見上げる。



「ヴェラート様、ちょっとかがんで下さる?」

「は、はい?」



私と手を繋いでいるものの、ちょっと乙女達に戸惑っているラトさん。

そっと腰を屈めると、乙女達が次々に頬にキスをした!!



ちょ、ちょっとーーーーー!!!???

私もラトさんも目を丸くすると、乙女達はニヤニヤ笑って、



「助けてもらったらお礼をしなきゃだしね!!」

「今は守護騎士じゃないしねぇ〜」

「これくらい役得がないとねぇ」

「あ、マキアさん!マキアさんも!」

「じゃ、スズまたね〜!」



神官の爺ちゃんが目を白黒させて、「こ、こら!!!」って怒ると、すかさず乙女達が「あとでキスしたげるね〜!」って爺ちゃんに言うので、爺ちゃんはもう肩を落とすしかなくて‥。神官の爺ちゃんはチラッと私を見ると、



「‥躾はしっかりな」

「違う、違う、そうじゃない」



力なく反論した私はラトさんを見上げると、期待したようにこっちを見つめているけどしないから。‥今は、絶対しないからな。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ