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番犬、騎士と矜持。


ラトさんと家に帰ってから、洗濯物を取り込んでハンモックをラトさんの寝る部屋に吊るした。


「これでとりあえず寝られるかな?」

「ワウ」


ハンモックの紐を手早く縛ってくれたラトさんはちょっとワクワクした顔で頷いてくれた。うんうん、犬のようにしか鳴けないけれど、結構意思疎通できるではないか。いい調子である。



「さて、もうちょっとしたら夕飯を食べて、その後はお菓子パーティーでもしましょうか!せっかくラトさんが来てくれたのに、ささやかで申し訳ないけど‥」



私の言葉にラトさんは目を丸くすると、すぐ次の瞬間嬉しそうに微笑む。

うう、可愛い。しかしこれは大型犬である。誰がなんと言っても大型犬である。嬉しそうなラトさんに照れてしまって、ちょっとギクシャクした足取りで、キッチンに向かうとラトさんも私の後ろについてくる。そうでした‥大型犬でした。



「ええと、ラトさん。今日は来たばっかりですし、一旦休んでて下さい」

「ワウ‥」

「心配しなくても私は目の前にいますし、からかってくる人もいません」

「ワン」



ラトさんはちょっとしょんぼりしたような顔をして、すごすごとテーブルの方へ歩いていくと椅子に座って私をじっと見つめる。‥あの、かえって気になるんですけど‥。


私は朝摘んでおいた野菜の籠を持って、ラトさんのいるテーブルに歩いていく。


「えーと、じゃあ、もしよければお手伝いをお願いしても?」

「ワン!」

「大変良い返事をありがとうございます。ええと、この豆のスジを取って頂きたいんですけど、いいですか?」

「ワン」


豆を手に取って、スジを指で引っ張ると綺麗に取れた。

それをラトさんに見せると、ウンウンと頷いて真似してスジを取ってくれて‥、上手に取れるとちょっと誇らしげに私に見せてくれた。なにこの可愛い大型犬。



ちょっと頭を撫でたくなったけど、相手は成人男性。

いや、大型犬だしいいのかも?そう思ったけど、まだ再会して間もないし控えておくに留めた。しかしまさか乙女の中で格好いい!と言われていたラトさんと一緒に暮らす事になるなんて、不思議だなぁ‥。


真面目な顔をして豆のスジを取るラトさんをついジッと見てしまう。


神殿にいた時は、守護騎士は私達の近くには寄らないけれど、いつだってしっかり守っていてくれたのは覚えている。たまーに神殿に変な人が入り込むと、どこからか駆けつけて速攻で押さえつけて連行してたもんなぁ‥。



もうその神殿から離れて1ヶ月か。

みんなどうしているかな〜なんて思っていると、あっという間にスジ取りが終わっていた。



「あ、あれ?もう終わった?」

「ワン」

「ええ〜、ラトさん仕事が早いですね」



そういうと、ラトさんはまたも得意げに笑う。

うう、可愛い。しかしこんなに可愛いなんて、呪われてなければ知る事もなかった。まぁ、本人にとっては大変不本意だろうけど。


「じゃあ、ささっとこれを使って夕飯作っちゃいますね。あ、でもお菓子の分はお腹を空けておいて下さいね」

「ワン!」

「いい返事ですねぇ〜。本当に大型犬みたい」


つい笑ってそう話すと、ラトさんは目を丸くして私をジッと見る。



「ワフ‥」

「ん?あ、犬みたいって失礼でしたよね。す、すみません!」

「ワウ‥」



ラトさんが私の言葉に首を横に振る。

え、違うの?

テーブルにあった板切れにラトさんは何やら書いて、私に見せた。



『番犬なので問題ない』



いや、問題大有りである。

私はちょっと虚空を見つめて、それからラトさんを見上げると、キリッとした顔で私を見つめている。



「‥ラトさん、人間である事は忘れないで下さいね」

「ワウ!?」

「そんな「なぜだ?」みたいな顔をしてもダメですよ‥」



うん、本当にここで話していなかったら、こんなに面白い人だとは思わなかっただろうな。確かに私は大型犬‥と思って心を穏やかに保とうとしている。だが、なんで本人まで番犬でいようとするのだ。花形でもある守護騎士としての矜持は大事にしてくれ。


私はひとまずスジを綺麗に取った豆を調理して、今は心を落ち着ける事に決めたのだった‥。




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