番犬は誰のもの?
事件が解決した‥と、思ったらまさかのお姫様の登場。
お姫様がなんでここに??頭を下げつつ、ちらっとラトさんを見ると、ラトさんは複雑な顔をしていて‥、なんだか嫌な予感が胸に広がる。
「ああ、皆さん面を上げて下さい」
綺麗な声に、私達はそっと顔を上げるとさっきはチラッと見ただけだけど、それは綺麗な銀色の髪に青い瞳の女性が一目で王族だろうなぁってくらい豪華なドレスを着て立っている。えーとリアナ姫‥だっけ?本当に綺麗だな。
リアナ姫はディオ様にチラリと視線を送る。
「それで?狐の魔物をわざわざ呼んだ男はどこに?」
「すでに牢に」
「‥まったく。私の夫になる者の姿を連想させる魔物を呼ぶなんてね‥」
狐‥。
あ、もしかしてこのお姫様ってラトさんが庇ったお姫様ってこと?
確か狐の獣人さんと結婚するって言ってたもんね。でもって大神官様が狐の魔物を呼んだのを疑問にも思わなかったけど、そうか‥獣人の国の人に大していい感情を持たないように印象操作までしようとしてたのか。
今更ながらに大神官様のした事の大きさを知って、私は唇を噛む。地位を求めた果てがこの結果‥。やるせない気持ちに胸が痛む。
と、リアナ姫はラトさんへ視線を送る。
「それで?ヴェラート、反王族派は?」
「騎士達が昨夜のうちに捕らえております」
「よろしい。それで、貴方の呪いはどうなったの?」
捕らえた?しかも呪いの解呪方法何かわかったの?!
目を見開いてラトさんを見つめると、ラトさんは小さく首を横に振ると、ニーナさんが一歩前に出る。
「エルフのニーナと申します。今回、ディオ様やヴェラートさんに協力を要請され、捕らえた反王族派の資料を読み解かせて頂きましたが、獣人の呪術は複雑で‥。なおかつ今回呪術を掛けた者がすでに消されておりまして、解呪は難しいと判断しました」
ニーナさんまでいつの間に調べてくれたの?
驚いてニーナさんを見ると、眉を下げて「ごめんねぇ」と言うけれど‥。いや、それよりも私はニーナさんがディオ様やラトさんを調べてた事実にびっくりしてましてね?
ニーナさんの言葉に、リアナ姫は小さく頷き、
「そうですか‥、ではヴェラート。貴方、私と一緒に獣人の国へ来なさい」
獣人の国??!
お姫様の言葉にラトさんは首を横に振るけれど、リアナ姫は優雅に微笑む。
「大丈夫。獣人の国の者のせいだからと、王が獣人の国で責任を持って解呪の方法を探すと約束してくれたの。ここにいるより、ずっと治る方法も手立てもあると思うわ」
リアナ姫の言葉に私は呆然と立ち尽くす。
ラトさんが獣人の国へ?この国から離れちゃうの?
でも、いつ治るかわからない、いつ犬になってしまうかわからないラトさんにとっては、有り難い申し出だ‥。
そんなの答えは決まってる。
獣人の国へ行った方がラトさんにとっては‥、ずっといい。
良いはずなのに‥、私はラトさんが繋いでいる手を見つめて、胸が苦しくなる。
いつか帰ってくるかもしれないけれど‥。
その時には確実に私の所へは帰って来ない。そのまま守護騎士として‥あるいは、獣人の国で騎士として私の知らない誰かと暮らすのかもしれない‥。
ズキズキと胸が痛む。
ああ、ダメだ。わかってしまったぞ‥。今、自分の気持ちにはっきりと気付いたのに‥別れる事になってしまうなんて、私って本当に間が悪いなぁ。ラトさんを見上げると、ラトさんは苦しそうな顔をして私を見つめる。その顔を見て、言葉が口から溢れてしまった。
「‥ラトさんは、私の番犬です」
シンと静まり返ったステージに私の言葉が響いて、リアナ姫もディオ様も、ラトさんも周囲の騎士さん達を目を丸くした。後ろで乙女達が息を飲む音がして、私は言ってしまった!!と、思わず体が強張る。リアナ姫は私を見て、ニコリと微笑む。
「番犬?」
「‥‥私の、大事な番犬なんです」
い、言ってしまった〜〜!!!!
守護騎士を番犬なんて大変失礼な上に、王族相手に意見なんて不敬中の不敬!切って捨てられてもおかしくないのに!しかもラトさんにとっては、絶対獣人の国に行った方がいいのに!!いて欲しいって‥思った瞬間に言葉が口から出てしまった!!
汗が噴き出た私の上に羽の音が聞こえて、
皆が一斉に空を見ると、白い鳥が一羽飛んで来たかと思うと、ラトさんの肩に止まった。
と、鳥?!
なんで?私は何も歌ってないよ?
奇跡も起こせないのに、なんで鳥が?よく見ると白い鳥はくちばしに一輪の白い花を咥えていて、白い鳥はラトさんの肩から私をジッと見つめるので、受け取った方がいいのかな?と思って、そっと手を出すと白い鳥は私にその花を渡すと、鳥は満足したのかまた空を飛んで行ってしまった。
「え、あの?」
ど、どういうこと?
目を丸くしていると、ディオ様がにっこり微笑む、
「ヴェラートさんは、スズさんの番犬だと歌の神からのメッセージですね」
メッセージ?‥ほ、本当に!?目を丸くして、私はまじまじと受け取った白い花を見つめた。




