番犬、囁く。
どうやら私はなぜか神官の爺ちゃん達に可愛がられてたらしい‥。
「だって、あんたひっどい親から売られて神殿に来た時、相当ボロボロだったじゃない。あれで神官の爺ちゃん達の父性と母性が芽生えちゃったんだろうね〜」
「え?!そんなに酷かった?」
「‥自覚がないくらいで良かったよ」
そんなに酷かったのか‥。
まぁ、前世の記憶もあって「こういうご家庭もあるって聞いてたけどすごいな〜」とか思ってたけど、そうだったのか‥酷かったのか。そんな話をしながら、あっという間にメイクを終えた乙女達は私に顔の確認をさせず、鏡をさっさとしまってしまった。あ、あの、私にもチェックを?
ニンマリ笑って乙女達は顔を見合わせる。
「やばいね〜、いい出来過ぎ!」
「あーあ、この世界にカメラ欲しいよね?」
「私、乙女じゃなくてメイクアップアーティストになりたい!」
「あ、それなら私美容師〜〜」
おいおい、これから歌の乙女として歌うんですけど?
と、部屋の外から「そろそろお時間です」と声が掛かる。乙女達はさっと自分達の使う楽器の最終チェックをすると、私を見る。
「よし!神官の爺ちゃんの腰を抜かしに行くか!」
「おいおい」
「あとあのイケメンも外せないよね!」
「あのねぇ‥」
「私はディオ様派〜」
「仕事、仕事だからね?」
「はーいでは、出発〜!」
パッと乙女の一人が扉を開いてくれて、目の前にはラトさんとマキアさんが神殿の青い騎士服に身を包んでいるのが目に入った。あれ?!衣装、貸してもらったのかな?
「ら、リトさん、その衣装‥」
そう言いかけた途端、ラトさんが目を丸くして顔を赤くした。
ん?何??何かおかしい所あった?
キョロキョロと自分の体を見るけれど、何もおかしいところない、よね?乙女達を見ると、皆ニヤニヤ笑って、
「これはいい仕事したわ〜!」
「爺ちゃん、あそこで顎外れそうな顔してる!」
「こりゃあ楽しくなってきたね!」
おいおい、そこで楽しみを見出すでない。
と、ラトさんがちょっとまだ赤い顔で私の方へやってきて、手を差し出すので、翻訳アプリは素直に手を差し出したさ。
すると、ラトさんが私の手の平に文字を書く。
『綺麗』
「っへ?」
綺麗??誰が?ああ、皆がってことかな?
「あ、ええと、はい?皆、綺麗ですよね」
そういうと、ラトさんは眉を下げて笑って、私の手の平に
『スズ』
『スズが、綺麗』
と、書くものだから今度は私の顔が赤くなる。
そ、そういうの、今、書かなくても!??そう思うのに、嬉しくて苦しい。
「お、お世辞でも嬉しいです‥」
って、ああ!!なんつー可愛くない返しだよ!
ラトさんが驚いた顔をするけれど、耐性がなさ過ぎて返しもへっぽこですみませんー!!と、神官の爺ちゃんが顎をさすりながら私達に声を掛ける。
「さ、それでは会場に行くぞ」
皆はその声に会場の方へ目を向けたその時、ラトさんは私の手をそっと握って、耳元でそっと囁いた。
「‥本当に綺麗だ」
「っ!!」
さっとラトさんは手を離してにっこりと微笑むと、前へ進むよう促してくれたけど‥。そ、それは完全に不意打です!!
真っ赤になったであろう自分の顔を乙女達がニヤニヤ笑いながら突くけど、ちょっとやめてくれませんかね。一歩一歩会場へ近付くと、ディオ様の声が聞こえてきた。もうすでにお話が始まっている。出番は、もうすぐだ。
チラッと後ろを見ると、ラトさんが小さく微笑んでくれて、私も微笑む。
うん、ラトさんもすぐそばにいるし大丈夫!
ギュッと手を握って、深呼吸する。
人数も、会場の大きさも関係ない。
歌の神様に、皆に、幸せがあるようにって歌う。
「あと音程も外さないのと」
「奇跡はこの際目を瞑って」
「歌詞は間違えない」
「あ、笑顔、笑顔忘れずに」
‥乙女達が私の両脇に来て、心の中の続きを言うけど‥、なにそうやって人の心の声を言わないでよ。じとっと両脇に立っている乙女達を見ると、ニヤッと笑って、
「ベタルの乙女の歌、聞かせてやりましょ!」
「うん!!」
ベタル出身歌の乙女頑張るぞ。
神殿の壇上の上でディオ様の呼びかけが聞こえる。
「それでは、歌の乙女達。お願いいたします」
よし!!行くぞ〜〜!!!
皆で頷き、わっと大きな歓声が上がる中、一斉に大きな会場へと前を向いて進んだ。




