番犬、睨む。
ディオ様が案内してくれた部屋は、それはそれは広い部屋だった。
3階の建物だったと覚えているけれど、まさにその階。しかもこれってお客様用‥ええと貴族様用のお部屋ではないの??シンプルな作りだけど、テラスへ出られる大きな窓からは街が広がっているのが見えて、恐縮しきりだ。
「今晩はこちらへお泊まり下さい」
「こ、こんないい部屋でなくても‥あ、いや、嬉しいんですけど?!」
思わず心の声が出て、慌てて訂正するとディオ様は小さく笑う。
「確かに歌の乙女は清貧であれと言われますが、貴方は明日冬の祭りで歌を歌いますからね。しっかり体を休めて頂きたいのです」
「あ、ありがとうございます」
「それにたまにはこんな日もあってもいいでしょう?」
ディオ様はちょっと可笑しそうに笑って、私の手を引くので驚いてしまうけれど、振り払うこともできず一緒に部屋へ足を踏み入れる。
大きな紺色のソファーに座らせると、いつの間にか用意されているお茶のポットからお茶を入れて渡してくれて‥。なんだかもう目を丸くしっぱなしである。し、小神官様といえどかなり偉い部類の人にお茶を入れてもらっちゃったけど‥、これって歌の乙女としていいのか?!前世だったらアウトだよね??
内心焦りまくっている私の横のソファーにディオ様が座る。
あ、これ、一緒にお茶を飲むって流れですね。はい。緊張しつつ、お茶を一口飲むと、ふんわりと甘くてスッキリしてる。
「美味しい‥」
「それは良かったです!このお茶はパトの周辺のお茶農家の方がいつも神殿にと捧げて下さっているんです」
「そうなんですか!素敵ですね」
お茶を捧げるか〜〜!
流石大きな神殿は違うなぁと思いつつ、甘いお茶を飲むとホッとして体の力が抜ける。やっぱりまだ緊張が抜けてなかったんだなぁ。
「お茶はよろしければ、帰りにお渡しします。歌の乙女が美味しいと言ってたと伝えればお茶農家の方も喜ぶでしょう」
「な、何から何までありがとうございます」
う、うう!!プレッシャー積み上げるやん!!!
思わず遠くを見てしまう私に、ディオ様がにっこり微笑む。
「いつもはこうしてゆっくり話す事もできないので、なんだか不思議な感じですね」
「そうですね。うちの神官達がディオ様に失礼を働いてなかったかと、今更ながらに心配で‥」
「それはないですよ。とても真剣に仕事をなさっていて、私の方が学ぶ事がとても多かったです」
「そう言って頂けると‥」
め、めちゃくちゃ好青年じゃないか!!
こりゃ確かに神官長様が「なかなか良い」と言ってたのも頷ける。
と、ドアがノックされ、ディオ様が返事をすると、神官の爺ちゃんとマキアさん、そして乙女達に囲まれているラトさんが顔を出す。
‥ほほーう‥。
またも囲まれてると。
今度はイラッとしてしまって‥、私と会えて嬉しそうなラトさんをジロッと睨んでしまう。いや、別に?なんも怒ってないですけどね。
「ふふ、では私は会場の準備の方へ移りますね。皆さんには夕食の時にまたお声がけしますので、どうぞごゆっくり」
「あ、ありがとうございます」
「いいえ、少しですがお話できて嬉しかったです」
そう言って、ディオ様は私の手をスイッと取ると、手の甲にキスをした。
っへ?
キス??
途端、きゃあ!!と叫ぶ乙女達と、自分の手の甲にキスをしているディオ様に目を見開く私。
き、キス〜〜〜!!!??
なんでキス〜〜〜〜!!??
驚いて、口をパクパクさせる私にディオ様がいたずらが成功したように笑って、
「冬祭りが滞りなくできるよう、おまじないです」
ふふっと笑って、手を離してくれたけど‥、
男性に耐性がゼロの私‥。瞬間、真っ赤になって固まってしまって‥。
ディオ様が部屋を出る際、ラトさんが思い切りディオ様を睨みつける姿に気付くことなく固まったままであった‥。




