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番犬、いつだって控えてる。


ディオ様やラトさん、乙女の皆に気遣ってもらって、私はなんとか明日の祭りの流れを聞いて、ようやくひと心地ついたところにディオ様がニコッと微笑む。



「では、一度歌ってみましょうか」

「えっ!!!」



思わずディオ様の言葉に驚いてしまうと乙女達がニヤニヤして、


「大丈夫よ、まだ本番じゃないし」

「奇跡は起こせなくても問題ないし」

「若い子達が言ってたけど音程外さなくなったって?」

「なら、一度は聞いておきたいしね〜」


「う、うううううう、容赦ない‥」

「「「「あんた明日本番なのよ?」」」」


わかってるよ〜〜!!

わかってるけど、やっぱり緊張しちゃうんだよ〜!!

結局あれからずっとラトさんと手を繋いでいた私は、前に出て歌う為にラトさんから手をそっと離す。


と、グイッと手を引っ張られ、ラトさんが私の手の平に



『ここにいる』



そう書いて、微笑んでくれた。

う、うちの大型犬が優しすぎる件について〜〜〜!!!

思わず抱きしめたくなってしまうけれど、いかんいかん、後ろで乙女達がニヤニヤしながらこっちを見ている気配をビシビシと感じて私は静かに頷くに留めた。


そうして、カツンとよく響くステージに一歩足を踏み出す。

後ろから乙女達がちょっと体を動かしつつ、私の隣に並ぶ。



「えっと、じゃあ、一緒のところから歌う?」

「そうね。そこから歌って、ソロの部分を歌ってどれくらい響くかチェックしておきましょ」



皆、あっという間に「歌の乙女」の顔に変わり、空気が一変する。

そういうところ、本当にすごいよね。私なんて緊張し通しでラトさんに手を繋いでもらってやっとなのに‥。と、乙女の一人が私の背中をバシッと叩く。


「気楽にいこ」

「ありがとう」

「終わったらあのイケメンとディオ様の話聞かせてね」

「台無しだ‥。見直したのに、台無しだ」


クスクスと乙女達は笑ってから、「数えるよ」と言うと広い会場を一斉に前に向いて、息を吸う。



乙女達でいつも歌っている歌を歌い出す。

今日は晴れている青空だけど、不思議なことに歌いだすと、光が会場いっぱいに射し込む。それを会場の準備をしていた神官さん達が驚いた顔をして、息を飲む姿が見える。



ちょっと横にいる神官の爺ちゃんは満足げに笑うし、ラトさんやマキアさんはその光景をぽかんとして見ていて、歌いつつ笑いそうになってしまう。って、いかん、いかん。集中だ、集中。



乙女達は久々の歌合わせなのに、長年一緒にやってただけあって息もぴったり。音程が怪しいところはカバーして、高音のところは得意な子がより一層声を出す。ああ、やっぱり一緒に歌うって楽しいなぁ。そんなことを思いつつ、ソロのパートだ。


一歩前に出て、ソロの箇所を歌い始める。


音に、言葉に、気持ちを込めて、いつでも歌の神様に捧げる気持ちで‥。

震えそうな足を叱咤して、歌っていると‥、どこからか白い鳥がこちらへ飛んできた。



鳥?

この間の白い鳥になんか似てる‥?



そう思っていると、その鳥が空を旋回し、皆はその鳥の動きに目を奪われる。

そうして、すぐ近くでその鳥を見ていた紺色のローブを着たおじさんの上に、気持ちよくフンを落とした。



「ろ、ローブに!!!」



怒声と共に思わず歌が止まってしまった。



‥だって、その人パトの神殿の大神官様。

つまりは、この神殿のトップでして‥。



えーと、これは、その奇跡‥じゃなくて、ただの偶然だよね???

思わず青い顔をして、乙女達をそろりと見ると皆、今にも吹き出しそうな顔をして堪えている。ちょ、ちょっと!!??これ、どっちなの?偶然?奇跡??


ディオ様は、ちょっと笑いを堪えた顔をして、



「‥どうやら偶然の、出来事だったようですね」

「そ、そそそそ、そうですよね!??」

「大神官様、すぐにローブを‥」

「わかっている!!着替えてくる」



ヒゲの結構ごつい顔をした大神官様は私をジロリと睨むと、若い神官さんを伴って、大きくドアを開けたかと思うと勢いよく閉めた。


その瞬間、乙女達が大爆笑した。


「流石!!!今でも変わらない!!」

「よっ!天才!!」

「タイミングも素晴らしかった!!」

「音程も外さなくなったしねぇ〜!」


「‥ちっとも嬉しくない‥」


ねぇねぇ、それにしたってあのタイミングはないんじゃない?

白い鳥は気持ちよく会場を旋回すると、どこかへ飛び去ってしまったけれど‥、あれ本当に偶然なんだろうか。いや、今日だけは偶然であってくれ。



後ろでゲラゲラ笑われつつ、私は明日もまた白い鳥がフンを落としたらどうしよう‥と、気が遠くなりそうになった。




鳥によく肩に止まられる私です。

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