番犬、もちろん守ります。
私の住んでいるポワノという可愛い名前の村は本当に平和である。
小さな山の麓に私の家と祠があり、道を下っていくと小さな村が見える。といっても、ギルドもあるし、お店もあるし、お医者さんもいるし、規模でいえばそこそこ大きい村なんだろう。
丘を下っていくと、沢山のとんがっている茶色の屋根。
屋根の上にちょこっと突き出た煙突から煙があちこち出ている。うん、前世でやってたゲームのような村だなぁ。と、子供達が家から飛び出して、私と目が合うと笑顔で手を振る。うん、のどか〜。そして可愛いなぁ。
「おいスズ!なんで男連れなんだ!?」
「スズに恋人?お前いいのか?半人前なのに??」
いきなりの発言にラトさんは驚いた顔をする。
なんつー可愛くない発言だ‥。
「ちょっと!!出会い頭に失礼過ぎるんだけど!この人はちょっと訳あって面倒を見ることになったの!お話できないから、何かあれば筆談してね」
そう話すと、子供達はじっとラトさんを見上げる。
「話せないのか?病気かなんか?」
「まぁ‥。そんな所です。だから優しくしてあげて下さいね」
「わかった!スズの恋人じゃないのはちゃんと説明しておく!」
「そこじゃない!!!!そうじゃない!!!」
思い切り叫んだけど、子供達は向こうの通りに駆けていった‥。
うん、もうこれは絶対今日の夕飯の話題になるな。田舎の噂が広がる速度は音速なのだ。全てを諦めて私は未だ驚いた顔をするラトさんの手を繋いだままギルドまで歩いていく。
赤茶色のレンガで出来たギルドのドアを開けると、ギルドの中は野菜や雑貨、薬など色々並べてあって、ラトさんがそれを見てまた驚いた顔をする。‥うん、言いたいことはわかるよ。普通のギルドはこんな雑貨屋さんじゃないもんね。
「ラトさん、ここはねお店が持てない人のをギルドが取り扱ってくれるんです」
私がそう説明すると、ラトさんはなるほど‥とばかりに静かに頷く。
と、奥のカウンターからゴソゴソと音がしたかと思うと、金髪の綺麗な長い髪を片方に流し、耳の先がちょっと尖っているエルフのニーナさんが顔を出す。
どこで探してきたの?っていうオフショルダーのニットのワンピースを着ニーナさんは、私とラトさんを交互に見て、
「スズの噂の彼氏ってその人?!」
「いや噂の速度!!!」
「アッハッハ、田舎だもん〜〜!すぐよすぐ!子供達があちこちで言いふらしてたわよ」
あいつら〜〜〜!!
私は痛む頭を押さえて、ニーナさんにラトさんを紹介する。
「えーと、ヴェラートさんです。こちらにはちょっと病気の療養の為にうちに来まして‥。話ができないので何かの際には筆談でお願いします」
「へぇ〜〜、なんか面白いわね!!」
「‥本当、ニーナさん面白いこと大好きですよね‥」
長寿でもあるエルフのニーナさん。退屈は大嫌いだとエルフの村を飛び出て、あちこち放浪していたらしいが、なんの因果かただただ平和なこの村のギルドマスターをしている。
なのでいつも退屈を紛らわせてくれる出来事が大好きらしく、この仕事はほどほどに楽しいらしい。
「スズが来て以来、この村にしては面白いことが起こるようになったわ!」
「まだ1ヶ月とちょっとですけど‥」
「そうね〜。私にしてみれば瞬きみたいなもんよ!」
エルフのニーナさんにしてみればそうなんだろうな。
私は作ってきた薬をニーナさんに渡すと、ニーナさんはそれを受け取ってお金と領収書を渡してくれた。
「それにしても、本当に面白い事になってるわね」
「いや、それどころじゃないんですけど‥」
「試しにスズ、歌ってみればいいじゃない?何か起こるかもよ」
「‥‥せいぜいそこの鉢植えの芽が出るくらいですよ」
「そんなにいじけないの!いいじゃない、奇跡の大きさが小さくても!」
「う、うわあぁあん!!気にしているのに思いっきりえぐってくる!!」
「アッハッハ!!スズって面白いわね〜〜」
ニーナさんに豪快に笑い飛ばされる私を、ラトさんが突然私の両脇に手を入れたかと思うと、サッと持ち上げて自分の背の後ろに隠した。
「ら、ラトさん?」
驚いてラトさんを見上げると、心配そうに私を見つめている。
‥もしかして私がからかわれているのを気にしてくれたのか?どうしたものかと思っていると、横で見ていたニーナさんがニヤニヤ笑って、
「いいわ〜〜、最高に面白くなりそう!!」
と、いうや否やラトさんが私の姿をニーナさんから完全に隠した。
なるほど、心配してくれているんだな。
そのやり方はどうかと思うけれど、心遣いは嬉しい。私はラトさんの背中をぽんぽんと叩いて、
「大丈夫ですよ、ラトさん。でもありがとうございます」
そういうと、ラトさんが「わ‥」と言いかけて口を閉じた。
うん、うっかりワンって言いそうになっちゃったね。一応話せない設定だし気をつけようね。
田舎の噂の伝達速度は音速です。