番犬、不満と不安。
パトの神殿は、私のいた世界でいえばコロシアムのような円形の神殿だ。
奥が神様を祀る場所で、その両脇が神殿を守る神官さん達が住む場所。
そして、その手前の広場になっている場所が歌ったり、神事を行う場所だ。
私達は馬車で大きな門を潜って、その広場の中まで行くと、明日冬祭りだからかすでに人がお参りに来ている。うーん、首都に次ぐ大きさの神殿だけあって流石に人が沢山いるなぁ〜〜。小窓からその様子を見ていると、ラトさんが微笑む。
「これだけの人がスズの歌を聞くのか‥」
「ううっ!まだ言わないで下さい!!」
「大丈夫だ。そばにいる」
「うううう、そこはハイ‥。でも、今は守護騎士でないし‥」
「番犬なのだ。問題ないだろう」
いや、問題大有りである。
私はどこか遠くを見つめてしまうけれど、ラトさんはちっとも問題なさそうだ。
と、馬車のスピードが落ちていく。
「あ、もう降りるのかな?」
「荷物は俺が持とう。スズ、気をつけて降りてくれ」
「はい、ありがとうございます」
紳士だなぁ〜と、感心しつつ馬車が止まると、マキアさんが扉を開け、ラトさんが私の手を握って神殿の入り口までエスコートしてくれたけど、これかなり小っ恥ずかしい。
白い大理石でできている天井の高い神殿の中へ、ラトさんは手を離すことなく真っ直ぐに進むけれど‥。参拝をしている人がこちらをチラチラと見てくる。
どうやらラトさん変装してても目を引くらしい‥。一応乙女だし、手を繋いだままご挨拶もまずいと思って、
「あ、あの、ラトさん、手を‥」
小声でラトさんにそう伝えると、カツカツと神殿の奥から誰かが歩いてくる。
それと共に参拝していた人のざわめきが聞こえて、そちらへ顔を向けると、真っ青な長いローブを身にまとったディオ様がこちらへお供の騎士さん達と歩いて来るのが見えた。
「これはスズさん。遠くからようこそおいで下さいました」
「こ、この度は馬車や衣装まで‥、ありがとうございます!あの、どうぞよろしくお願い致します」
「ええ、明日は楽しみにしておりますね。移動で疲れたでしょう。お部屋に案内しますので、まずはそちらで一旦休憩なさって下さい」
ディオ様が柔らかく笑ってくれるけれど、私は一気に緊張感が増す。
うう〜〜、明日、明日が本番!が、頑張れ自分〜〜!!
ギュッと手を握ると、隣のラトさんが手を握り返してくれて、ハタッと気付く。
私ってば、ディオ様と挨拶している時までラトさんと手を繋いでいたではないか!!慌てて手を離して、ラトさんに「すみません!!」って謝るけれど、ラトさんは小さく微笑むだけだ。‥大人だなぁ‥。
ディオ様は私とラトさんを見て、
「スズさん、そちらの方は?」
「あ、彼は私の警護を買って出てくれまして‥、お話はできないのですがとても強くて‥えっと「リトさん」と申します」
ラトさんを見て、そう紹介すると変装メガネをバッチリ掛けてあるラトさんがディオ様に微笑む。
「そうですか‥。マキアさんがお迎えに行って下さいましたがお一人で大丈夫かと心配していたのですが、お二人でスズさんをこちらまで連れて来て下さったんですね。それは心強かったですね」
「はい!とても!」
そう言って、隣にいるラトさんとちょっと後ろに控えていたマキアさんに笑いかけると、二人は嬉しそうに笑ってくれた。ディオ様はそれをうんうんと頷いて、
「それではここからは我が神殿の騎士達に警護を任せて頂きましょう。お二人はうちの神官にお部屋を案内させますね」
ラトさんはその言葉にサッと私を見つめる。
大丈夫、ちょっとの間だから‥と、思うんだけどラトさんは別らしい。そっと私の側に立つと、小さく首を横に振った。
「えっと、リトさんちょっとだから‥」
そう言いかけた途端、神殿の奥の扉がバターーン!と大きく開き、
「スズー!!元気だったー!??」
「スズ!!ちょっといい男見つけた?!」
「え、私はこっ酷く振られたって聞いたけど?」
「うっそ!もう男見つけてたの!!?」
「これ、騒がしくするでない!!」
なんと同じ年頃の歌の乙女達と神官さんが現れて私は目を丸くした。
え、な、なんで皆がここに!??
驚いていると、乙女達がディオ様と、私と寄り添うようにくっ付いているラトさんを見て、動きをピタッと止め‥、
「あ、あら失礼しました」
「私達ったら久しぶりの再会が嬉しくて‥」
「スズ、お元気だったかしら?」
「うふふ、ディオ様本日はお招き頂きありがとうございます」
うん‥。
温度差すっご!!!
私はいつも通りの乙女達にちょっと気が遠くなったけど、うん、まぁ、元気そうだし良かった‥のか?




